ビオチンって何よ?

食品標準成分表2010が発表という記事を先日書きました。
その中で注目すべき点は、新たに5種類の栄養素の成分値が収載されるようになったことだと思います。とらねこ日誌ではこの新しく収載される栄養素を簡単(難しい事は注釈につめこんでおきます)に紹介してみようと思います。今回はその中からビオチンを採り上げます。

■ビタミンです
ビオチンは水溶性ビタミンの一種で、ビタミンB群に分類されます。ビタミンB7とも呼ばれたりします。ビタミンは自分の体では合成することの出来ない、あるいは十分量をまかなう事ができないので食物から補う事が必要になります。ビオチンも当然、食物からの摂取が必要なのですが、腸内細菌が合成してくれる事と、普通に食事をしていれば十分量*1を確保できる事から滅多に不足することがありません。なので、成分表への記載も後回しになっちゃったのでしょうね。
さて、このビオチンはアミノ酸代謝脂肪酸の合成、糖の代謝などに関わる酵素とくっついて(補酵素)きちんと作用させる働きを持つ重要なビタミンなのですね。これが足りなくなってしまうと免疫機能が低下したり、肌に大切なコラーゲンの合成が不十分になり皮膚のトラブルなどがおこるおそれがあるのです。
日本人の食事摂取基準では、あまり不足の例が見られないため、成人一日当たり50μgという値を推奨量ではなく目安量として示しております。

■どんな食べ物に含まれているの
今回公表された成分表からちょっと抜き出してみました。

動物性食品や種実類に多く含まれている傾向があるようです。他にもサツマイモやそばなどにも含まれており、摂取量を考えれば重要な供給源になりそうです。

■気をつけたいこと
さて、一般に不足する事はほとんど無いと書きましたが、では全く気にする必要なんて無いのでしょうか。特殊な例ですが、不足する危険性もありますので、頭の片隅に残しておいてほしいなぁ、とは思います。ちょこっと触れておきましょう。
実は、このビオチンというものは卵黄に多く含まれているのですけど、卵白に含まれる成分*2がビオチンとくっついて体で利用できない状態にしてしまうのですね。だから、生卵を毎日続けて食べるとビオチン欠乏になってしまうおそれがあるのです。えー、たまごは危険なの?と誤解しないでも下さいね。この成分は加熱するとビオチンと結びつく能力が弱まるので、加熱調理した卵を食べるのは何の問題もないのですよ。でも健康法と称して、生卵を混ぜたドリンクを毎日飲むようなのは危険かもしれませんね。

■もう一つ気をつけたいこと
最初の説明で、腸内細菌も合成してくれると書きましたが、食事と併せて十分量が摂れると考えた方が良いのだそうです。有名な先生*3も仰ってました。だから、普通の食事をしていても、腸内細菌の元気が無いとビオチン欠乏症になってしまう可能性がありそうですね。例えば、抗菌薬を長い間使う場合にはちょっと気にした方が良いかも知れません。

■乳児の発育に大切
ところで、前段で腸内細菌の事をかきましたが、乳児のうちは十分に腸内細菌がビオチンを合成できていない可能性が高いと考えられます。でも流石にヒトの体は良くできていまして、母乳には十分なビオチンが含まれているようです。ですが、事情があって人工栄養を必要とする方も大勢いらっしゃいます。実は、このビオチンという栄養素は栄養強化の目的で一般食品に添加することができない事になっております。人工栄養(いわゆるミルクね)に含まれるビオチン量は少ないので、離乳食の導入が遅れた場合などにはビオチンが不足*4してしまう可能性が高くなりますのでくれぐれも注意して欲しいところです。
また、アレルギーなどのある子ではペプチドミルクという特殊な人工栄養を用いる事がありますが、この場合にもビオチンが添加されておりませんし、ビオチンが豊富な卵黄はアレルギーを誘発する危険性が高い食品なので、補食として用いることも困難でしょう。成分表にも収載されたことですし、このような事が起こらないよう早くビオチン添加を認めて欲しいモノとどらねこは思っております。





■おまけ
ビオチンは酵母の増殖因子(BiosⅡb)として発見された為、ビオチンと命名されたみたい。1936年の事ですので、まだ80年もたっておりませんね。
動物では、ビオチン欠乏により胎児の発育障害や先天異常も誘発されるという知見があるので、石橋タタキかもしれないけど、妊娠中はあんまし生卵をたくさん食べない方が良いかも知れませんね。

*1:成分表に収載されていない成分については、トータルダイエット調査(TDS)などの成人が一日に食べるであろう食品を直接分析し含有量を調べるという方法が精度が高いと考えられる。齋藤由紀,牛尾房雄:トータルダイエット調査による東京都民のビオチン、ビタミンB6、ナイアシンの一日摂取量の推定.栄養学雑誌 62:165-169 (2004).によれば一日あたり45.1μg摂取であり、平成18 年度厚生労働科学研究費補助金(循環器疾患等生活習慣病対策総合研究事業):日本人の食事摂取基準(栄養所要量)の策定に関する研究:トータルダイエット調査による水溶性ビタミンの摂取量についての検討では、1日あたり52.6μgであった。この摂取量であれば欠乏症は現れないだろうという根拠の1つとされている。

*2:avidin(アビジン):卵白に含まれる糖タンパクでビオチンと強固な結合体を形成する。この結合は極めて安定で、ビオチンの利用を阻害する。

*3:ビオチンと謂えば渡邊先生というぐらいの兵庫県立大学の渡邊敏明教授がそのように述べてましたのでそうなのでしょう。(オイオイ

*4:この時期母乳では鉄も不足します完全離乳しなくても母乳だけで無く補食を与えるなどして欲しいところです