ナッツをたくさん食べると健康になるの?

先日健康関連ニュース*1を眺めていたところ、「ナッツを毎日食べる人(1日28g以上)は20%の総死亡リスク低下」という面白い話題を目にしました。
これは医療従事者10万人以上を対象に最大30年以上追跡した大規模な研究です。食習慣については聴き取り調査でもあり、その精度は微妙ですが、その他の健康に大きく影響を与える因子も補正していますし、ナッツ類を採り入れた食生活には何か良い影響がありそうだぐらいはいえるんじゃないでしょうか。面白いですね。

記事の元となった論文
http://www.nejm.org/doi/full/10.1056/NEJMoa1307352

ナッツは脂肪分が多いので食べ過ぎは・・・という印象が強いですが、健康への良い影響が度々報告されている地中海食も脂肪エネルギー比率が高いことが知られておりますから、脂肪の量よりもその内容が大事であるというのは栄養疫学ではコンセンサスとなっております。
なので、ナッツが良いよというだけでは驚くことは特にないのですが、死亡率の減少割合がとても大きい事がびっくり要因であったりします。
この結果を額面通りに受け取ったとして、ではナッツに含まれている栄養成分の何が良いのでしょうか、なんとなく考えてみようと思います。


■栄養成分の特徴
ナッツも種類により栄養成分に違いがありますが、「脂質」マグネシウム「鉄」「ビタミンE」「食物繊維」を豊富に含まれるという大まかな特徴があります。
こうした特徴のうち、死亡率にも影響を与えそうな要因としては「脂質」や「マグネシウム」が思い浮かびます。おそらくは有用な微量成分が豊富にあることの総和だとは思うのですが、今回はそのなかから「脂質」の質について考察してみたいと思います。


■脂質の質
LDL−Cとは、いわゆる悪玉コレステロールと呼ばれるものです。これが高くなると循環器に様々な問題を引き起こすという話はよく知られております。
血中のコレステロールは遺伝の影響も大きく、食生活に問題のない人でも高くなってしまう事がよくありますが、そうでない場合にも肥満や食事内容、運動習慣などにより大きく変動します。なんとなくコレステロールを食べると血中のコレステロールが上がってしまうような印象が持たれがちですが、体内で合成される割合の方が大きく、食事由来のコレステロールを気にするよりもLDL−Cを上昇させやすい食品成分を控える方が効果が大きいと考えられます。
その栄養成分とは脂質の中でも摂取量の多い中性脂肪であり、その中でも飽和脂肪酸に分類されるものの摂取量がLDL−C上昇に影響を与える事が研究により明らかに*2なっております。


■ナッツの脂肪酸
中性脂肪脂肪酸とグリセロールという物質から構成されているのですが、脂肪酸飽和脂肪酸一価不飽和脂肪酸多価不飽和脂肪酸に分けることができ、脂肪酸の種類により体内での働き方が異なります。これら3種類の脂肪酸は本来どれが良くてどれが悪いというものではないのですが、望ましい摂取バランスから外れてしまうと健康に悪影響を及ぼす事があるので注意が必要です。肉類の摂取量が多いと飽和脂肪酸を摂りすぎになり、その結果血中コレステロール値に悪影響を与える事がよくあります。
では、ナッツに含まれる脂質の特徴はどのようになっているのでしょうか。食品標準成分表2010をひいて調べてみました。

飽和脂肪酸が比較的少なく、一価不飽和脂肪酸量が多いという共通の特徴があり、多価不飽和脂肪酸はナッツにより違いが大きいという事がグラフから読み取ることができるでしょう。

次に脂肪酸の細かい内訳も見ていこうと思います。飽和脂肪酸不飽和脂肪酸はさらに炭素数の違いや二重結合の数など構造の違いで細かく分類することができます。

グラフが細かいので見づらいですが、リノール酸およびα-リノレン酸含量にはナッツによって違いがあることがわかります。この2つは多価不飽和脂肪酸に分類されるものですね。


■ナッツによる違いを考える
飽和脂肪酸はLDL−C上昇に影響を与えると説明しましたが、その中でもミリスチン酸とパルミチン酸の影響が大きく、ステアリン酸はさほどでもないと考えられております。ナッツは比較的飽和脂肪酸の割合が少なく一価不飽和脂肪酸の割合が高いので、脂質の量が多い食品の割に体に悪影響を与えにくいのかも知れません。この特徴はオリーブオイルの組成と似ているところがあります。
とはいえ、ナッツによって成分に違いがあることがグラフからも明らかであり、この中ではマカダミアナッツ飽和脂肪酸がやや多めで、その分多価不飽和脂肪酸が少ないという特徴があるため、このナッツの食べ過ぎはもしかすると他のナッツよりも問題があるかも知れません。
反対に、くるみの脂肪酸組成は多価不飽和脂肪酸が豊富で、その中でもα-リノレン酸という血中のコレステロールを改善する傾向が見られる成分の割合が高いという特徴があり、ナッツを勧めるとしたらくるみを選ぶ根拠になるかも知れません。
勿論、脂質だけが健康に影響を与えるわけではありませんがナッツを選ぶ参考の1つにはなりそうです。


■おわりに
ナッツは血中脂質に悪影響を与える飽和脂肪酸はあまり含まず、普段不足しがちなマグネシウムや鉄、食物繊維を効率的に摂ることができる有用な食品です。
総エネルギー摂取量が増えすぎない程度に生活に採り入れる価値のある食品といえるでしょう。美味しく楽しく毎日食べて、健康もついてくるのでしたらそれは素晴らしいことですね。

*1:ニュース詳細はこちらhttp://www.nhs.uk/news/2013/November/Pages/Nut-eaters-may-have-a-longer-life-expectancy.aspx

*2:Mensink RP, Katan MB. Effect of dietary fatty acids on serum lipids and lipoproteins. A meta-analysis of 27 trials. Arterioscler Thromb. 1992 Aug;12(8):911-9.ともう一つ、Christiansen E, Schnider S, Palmvig B, Tauber-Lassen E, Pedersen O. Intake of a diet high in trans monounsaturated fatty acids or saturated fatty acids. Effects on postprandial insulinemia and glycemia in obese patients with NIDDM. Diabetes Care. 1997 May;20(5):881-7.