血縁関係だけが親子じゃない

(この記事はどらねこ日誌2009年10月06日掲載分に加筆・修正したものです)

河北新報、東北のニュース記事(2009年10月6日付)より
http://www.kahoku.co.jp/news/2009/10/20091006t43016.htm (現在リンク先削除されております)
比内地鶏親子丼 実はちょっぴり他人丼 3割別の卵混ぜる
秋田県の東京アンテナショップ「あきた美彩館」(東京都港区)に併設されている飲食店「ダイニングはな小町」が、メニューの「比内地鶏親子丼」に、地鶏ではない卵を3割混ぜていたことが5日、分かった。同店は9月、親子丼による食中毒を起こしたため営業停止処分を受け、現在も自主休業している。
県議会9月定例会などでの県の説明によると、比内地鶏親子丼は今年2月にメニューに加わった。当初は比内地鶏の卵だけを使用していたが、客から「味が濃厚すぎる」などと指摘されたため、味の改善を図り、地鶏以外の鶏卵を3割混ぜていた。肉は比内地鶏のみを使っていたという。

<中略>
同店では9月、親子丼を食べた客が相次いで食中毒の症状を訴え、31人の食中毒が確認された(今月5日現在)。今回の問題は、食中毒の調査の過程で発覚した。


ありがちなニュースかなぁと思ったのだけど、タイトルにちょっと違和感があったので鶏揚げ採り上げてみました。


■真の親子丼とは
実際に「真の親子丼」を食べたことのある人はほんの一握りくらいではないでしょうか。庭に鶏を飼っている人でないと、本当に親子関係があるのかを確認できる卵と鶏肉を確保することは容易でないからです。しかも有精卵でなければ、鶏卵というものはあくまでも母親由来の卵細胞とそれを保護する構造を持った物質*1にすぎません。さらにハードルは高くなります。
真の親子丼・・・それは「親子丼を食べる!!」という明確な意思を以て準備を行わなければ食べることの出来る代物では無いのです。
とはいえ、こんなにギチギチの定義を振りかざして、「此は親子丼に非ず」なんて騒いだとしても多くの人の賛同はいただけないことでしょう。「親子丼と云われる食べ物は親に相当する鶏食材と子に相当する鶏食材を組み合わせてどんぶり料理にしたもの」という、穏当な解釈が妥当であろうと思います。人類皆兄弟という言葉もあるぐらいですし。
では何故、しつこくこんな言い掛かりをつけたのかと謂いますと、その解釈では記事のタイトルが不適切であると考えたからです。


■食用種と卵用種
市販の鶏卵の大半は『白色レグホーン』種やその他の卵を採るために改良を加えられた鶏から生まれたものです。そして、市販の食用鶏肉の大部分を占めるのは『ブロイラー』と呼ばれる成長の早くなるよう改良された、大量飼育用の雑種鶏です。これは店先では若鶏という名前で売られているものですね。
穏当な解釈であれば、両者を用いたどんぶり料理を「親子丼」と呼ぶにいささかの問題もありません。では、問題の比内地鶏の親子丼に当てはめてみるとどうなるのでしょうか。
この件については、実はどこにも問題はないだろうというのがどらねこの結論です。
比内地鶏のお肉に白色レグホーンの卵が使用されていても、両者は共に「鶏」であり穏当な解釈では親子丼の用件を十分に満たしているからです。新聞タイトルは言い掛かり(?)以外の何者でもないのです*2。当該商品はメニューの名前から比内地鶏が産んだ鶏卵100%であるという誤認を消費者に抱かせるような表示をしていた事に問題があったと謂うことでしょう。
どらねこも大喜利脳と呼ばれるようなグループの端っこに属しているので、うまいことを謂いたくなる気持ちは本当によく分かるのですが、マスメディアという立場にある人はもう少し慎重になって貰いたいな、とあげ足をとってみた次第です。


■卵からサルモネラ菌が検出?
このままだとタダのイヤミなねこになってしまうので、ちょっとまともなことも書いてみます。
別のソースでは、検査によりサルモネラ菌が検出(以下はどらねこの推測ですこの件がこの機序で起きたといっているわけではありません)されたとありました。サルモネラ菌による食中毒は卵料理を扱う料理店では十分な予防対策を講じる必要があります。基本的には熱に弱い菌ですので、十分な加熱で死滅させることが出来るのですが、親子丼って、卵がとろ〜りしているのが美味しいじゃあないですか。そういう面から考えると危険性のある調理法とはいえるでしょう。

安全を求めれば味は落ちるし、味を求めれば危険がやってくる・・・う〜ん、ジレンマ?

さて、O157ノロウイルスなどは少ない病原体数でも食中毒を起こす危険性があるので余計に怖いのですが、サルモネラの場合は大抵、食材の中にあるていどの数の菌が存在していないと食中毒を発症することはありません。ですので、菌を増やさない事も重要な予防対策なんです。
忙しい時間でも素早くお客さんに美味しい料理を提供することもお店には求められるのですが、そのためには仕込みも大切になってくるのですよね。注文を受けてから卵をわってかき混ぜる余裕を与えてくれるような環境なら良いのですが、モタモタしているとお客さんからクレームを頂いてしまうことになりかねません。だから、事前に卵を大量に割っておき、冷蔵庫などに保管しておくなどするのです。で、コレが危険だったりするのです。


■危険なのはカラだけじゃない
サルモネラ菌は卵の殻に付着している事があります。ですので、食品を取り扱う人は保存にも十分気をつけているんです。卵を保存する場合、パックから出して保存するかパックのまま保存するのかと聞かれたらどうしますか? どらねこならパックから出さないで保存をします。パックから出して保存する事には次の様な不利益が考えられるからです。



1:ドアポケットに入れた場合、開閉の振動によりヒビが入る危険性がある。そこから雑菌が侵入する事も予想される。


2:パックから出すときに卵表面のサルモネラ菌が手に付着し、冷蔵庫内の別の食品に広がる危険性が予測できる。


3:仕込みの都合でボールに移したりする場合、汚染されている卵だけでなく、他の卵にもひろがってしまう危険性がある。


ところが、こうして気をつけていてもサルモネラ汚染を防ぐことは難しいのです。実は殻だけではなく、卵の内部にまで侵入していることもあるからです。忙しい調理場では、作業を前倒しにして当日の忙しい時間を乗り切りたい為、卵などは事前に割ってかき混ぜておき、冷蔵庫に保管して置きたいというのが本音でしょう。ところが、運悪く一つの卵がサルモネラ汚染されていたらどうなるでしょう。
一つの卵からその他の汚染されていない卵にも広がり、一晩おくことで菌が増殖してしまい、不十分な加熱であれば食中毒が発生してしまうことが考えられるのです。サルモネラは比較的低温にも強い細菌ですから冷蔵庫内といえども油断はしてはいけません。(調理過程で卵の温度が上昇していれば、冷蔵庫に戻したからといって直ぐに冷えるわけではないですからね)

食の安全には十分に気をつけているつもりでも落ちてしまうような落とし穴は結構あるものです。
外食は一度事故が起これば一度に大勢のひとに被害が及びますが、延べ人数を考えれば食中毒最大の発生場所は家庭なのです。楽しい食生活を送れるよう、お店の人だけでなく、皆様も十分に気をつけて調理をして下さいね。

*1:有精卵であったとしても、各器官の形成が進む前のソレを子と定義して良いのかは議論が分かれるところでしょう、ならばいっそのことヒ○コ・・・

*2:どらねこがやっている事は言い掛かりに言い掛かりをつけたに過ぎないのともいえますね