大量調理施設衛生管理マニュアルに学ぶ?


厚生労働省、大量調理施設衛生管理マニュアル
http://www.mhlw.go.jp/topics/syokuchu/kanren/yobou/dl/manual.pdf

焼き肉屋で提供された生肉料理による腸管出血性大腸菌食中毒事件発生からしばらく経ちましたが、その後もヨーロッパでの大規模食中毒が話題になりました。この菌による食中毒の発生頻度はサルモネラ腸炎ビブリオなどに比べると少ないものの、重篤な症状をきたす危険性が高く、発生を予防する為の対策はとても重要と考えられるでしょう。
このようなタイプの食中毒に特に気をつけなければならないのは大量調理施設*1であると思います。特定の食材が汚染されていた場合に、同じ献立で多人数に提供する給食の形態では事件が大規模化しやすいからです。集団給食で提供した食べ物が腸管出血性大腸菌に汚染されたとすれば、多くの方を命の危険に晒すことになります。なので、大量調理施設*2に於いてはHACCPと謂う管理手法を採り入れた衛生管理マニュアルに従い調理が行われます。

上の図にあるように最近の食中毒発生の動向などを見ても分かると思いますが、食の外部化にともない飲食店など外食部門で増えている一方、学校や病院など給食を行う施設での発生はよく抑えられております*3。これも衛生管理マニュアルやその趣旨を理解して調理が行われている事による成果と謂えそうです。では、腸管出血性大腸菌による食中毒を起こさない為には、今後は食事を提供する施設や家庭でもこのマニュアルを使用して衛生管理の徹底に努めれば良いのでしょうか?勿論、それは違いますね。大量調理施設と飲食店や家庭などでは求められるレベルが違うのは当然です。また食事を提供する目的も違います。
しかし、どちらの場合でも、安全な食事を提供することが求められるのは同じです。家庭においてもなるべく危険な食中毒を起こさないですむようにしたいところです。そこで大量調理施設衛生管理マニュアルの中でも、家庭や飲食店でも気をつけたい大切と考えられる衛生管理手法*4を採り上げてみたいと思います。

O157を意識してつくられてる
大量調理施設衛生管理マニュアルは平成9年の3月に発表されておりますが、これはその前年にO157による食中毒が多発し、死者8名を出した事が切っ掛けになった*5ものです。その為、O157は勿論、先日世間を賑わせたO111O104に対しても有効な対処法が示されております。

■大量調理施設にならう食中毒予防法
平成8年のO157事件の前と後とでは食中毒予防に対する考え方が大きくかわりました。しかし、世間一般(?)の食中毒に対する認識はそれ以前から大きく変わっていないかもしれません。従来、食中毒予防の3原則と謂えば・・・

(細菌を)つけない
増やさない
殺す

でしたが、原則のうち『増やさない』では対処困難な少量の菌やウイルスが付着しただけでおこる食中毒が知られるようになってきました。そして、現在ではそのような微生物が原因の食中毒割合も増えております。
このような食中毒を予防する為には、調理施設内に病原性微生物を持ち込まないこと、元々付着している事を想定して、十分な加熱や殺菌操作が重要視されます。

■取り除く・殺す
平成8年のO157事件の後しばらくは給食施設で生野菜の提供を自粛した時期がありました。学校給食ではボイル野菜のサラダが提供されました。
しかし、食事を提供すると謂う事はただ単に安全でありさえすれば良いものではありません。生野菜を食べたいと謂う要望に応えるために、必要な手順をしっかり守って給食として提供されます。

野菜及び果物を加熱せずに供する場合には、流水で十分洗浄し、必要に応じて200 mg/Lの溶液に5分間(100 mg/Lの溶液に10分間)又はこれと同等の効果を有するもの(食品添加物として使用できる有機酸等)で殺菌を行った後、十分な流水ですすぎ洗いを行うこと。

塩素消毒を行えばより確実ですが、野菜表面に菌が付着している場合には流水で十分に洗浄することも大事になってくるでしょう。例えば、もやしやカイワレ大根アルファルファなどの新芽野菜などは土が使用されていない為に、一見清潔に感じてしまい、十分な洗浄を行わないまま食卓にあがる事も考えられます。生で食べる野菜は例外なく同じ手順で処理をする事で安全が確保されるわけです。

大量調理施設マニュアルでは、生で食べる場合だけでなく加熱調理を行う場合でも万が一菌が内部にまで侵入している事を想定した十分な加熱が行われます。

中心部温度計を用いるなどにより、中心部が75℃で1分間以上(二枚貝等のノロウイルス汚染のある食品の場合は85℃で1分間以上)又はこれと同等以上まで加熱されていることを確認するとともに、温度と時間の記録を行うこと。

家庭では全部が全部その通りではやってられませんので、重要管理事項を考えてみます。塊肉の場合、内部にまでO157のような病原性大腸菌が侵入している事は考慮しなくて良いので、挽肉を固めた料理については中心部までしっかり火を通すことを心がければ良いでしょう。また、カキなどノロウイルス汚染の可能性が高い食品の場合は、内部にある中腸腺にウイルスが蓄積されている事が予想されますので、内部まで高温になるよう、加熱時間を延ばすと良いでしょう。

■つけない
食材については気を配る人でも、調理器具にまで目が行き届かない事が結構あります。大量調理施設では、肉用・魚用・野菜用・調理後食品用など用途にわけたまな板や調理器具をそれぞれ用意するのですが、家庭や小料理屋などではそうも行かないものです。

器具、容器等の使用後は、前面を流水で洗浄し、さらに80℃、5分間以上又はこれと同等の効果を有する方法で十分殺菌した後、乾燥させ、清潔な保管庫に用いるなどして衛生的に保管すること。

肉や魚を取り扱った後に別の食品を触れさせる場合には、流水で洗った後に沸騰したお湯をかけて、水気を切った後、アルコールスプレーを噴霧するなどしてから使用すると良いでしょう。

まな板、ざる、木製の器具は汚染が残存する可能性が高いので、特に十分な殺菌に留意すること。なお、木製の器具は極力使用を控えることが望ましい。

木のまな板がカビなどで黒くなっていたりしませんか?木製の器具は隙間が多いので、細菌など食中毒の原因となる生物が残りやすい事が指摘されてます。食中毒予防を考えるのなら、購入時に考慮しても良いかも知れません。

■広めない
少ない病原体数で発症するこれらの食中毒は、食べ物だけからではなく人から人へと広まる事もあります。例えば、ノロウイルス食中毒になった人が嘔吐をした場合、吐瀉物に存在するウイルスが散らばることで周囲の人間にも感染してしまいます。子どもや高齢者では脱水症状などによりキケンな状態になる事が予想されますが、食べることを控えている方々にまで広めてしまう可能性がある事を、高リスク食品を食べる人は忘れてはならないと思います。

施設において利用者等が嘔吐した場合には、200 mg/L以上の次亜塩素酸ナトリウム等を用いて迅速かつ適切な嘔吐物の処理を行うことにより、利用者及び調理従事者等へのノロウイルス感染及び施設の汚染防止に努めること。

吐いたらハイターノロウイルスと覚えましょう

そんなワケで、小さい子がいるような家庭では、同居家族であっても、流行期にはカキを食べる事を控えるなどの配慮が必要なんじゃないかと思います。
また、調理担当者の健康状態も大事な項目です。

調理従事者は下痢、嘔吐、発熱などの症状があったとき、手指等に化膿創があった時は調理作業に従事しないこと。

そうですね、丁度良い機会だと思って普段調理をしない人がかわって料理をしても良いと思うのです。料理は楽しいですよ。飲食店であれば従業員にはお休みを渋らずに提供する事がお店を守る事につながるんじゃないかと思います。

以上、大量調理施設衛生管理マニュアルに学ぶ衛生管理手法を終わります。読んでもらった後でなんですが、どうぞこの機会にマニュアルを読んでもらえたらなぁと思います。どらねこのこの記事よりもタメになる筈ですので・・・
食の安全を担保するための努力にはアタマが下がります。

*1:同一献立を1回300食以上または1日750食以上を提供する施設

*2:その他の食事を提供する中規模施設は無視して良いかと謂うとそんな事はなくて、マニュアルの趣旨を踏まえて適正な運営を行う事とする通知中小規模調理施設における衛生管理の徹底について(H9.6.30衛食第201号厚生省生活衛生局食品保健課長通知)がでております

*3:原因特定が難しい家庭は別にすれば、検査用の検食を保管するなど原因究明しやすい集団調理施設ですのでこの数字はスバラシイと思います

*4:以下の引用はマニュアル本文からのものです

*5:現在は平成20年に改訂されたものが示されておりますが、ノロウイルス食中毒を防ぐための手法が採り入れてあります