講習会でこんなはなし聞いてきたのだけど(前編)

(この記事は以前運営していたブログどらねこ日誌に2009年07月21日掲載したものに修正や図表の更新をしたものです)


■どらねこ式Q&A
どらねこは息子達をマクロビや自然療法などを推奨する保育園に通わせておりました。そんなマクロビ保育園からはいろいろな情報が飛び込んできます。
「人工のものは危ない」「和食が一番」「肉を食べるな」「予防接種は危険だ」という、当ブログを読んでくださっている方にはお馴染みのモノです。
今では妻も面従腹背なさってくれているのですが、先生方があまりに真剣なご様子でしたので、その主張にちょこっと影響を受けてしまったなんて事もございました。善意でやっていることが分かるので、なおのこと難しいのですよね。デタラメ健康法は論外ですが、子育てに有用な情報も沢山提供してくださるので、その取捨選択が難しいのです。
さて、こういった保育園をご利用のご父兄にはとても熱心な方がいらっしゃいます。料理教室を企画されたり、講演会をセッティングしたり・・・。つきあいで出なければならないことも・・・。こういった保育園を利用されない場合でも、健康問題に熱心な方から誘われる事があるかも知れません。


■講演会
トンデモ健康法や自然食推奨に限らず、講演会に慣れている講師の方は語りにとっても説得力があったりします。そして、皆が漠然と不安に感じている事を話題にするわけで、余程用心していないとトンデモない内容であっても「もしかしたら・・・」となってしまいがちなのです。「あれっ」と感じることがあっても、話題は次へと進んでしまい一つ一つを検証する余裕はありません。会場の空気にも影響され、講演中に感じた疑問も吹き飛んでしまうかも知れません。


【自然健康法ビリーバーである食養さん(仮名)とその友人Aさんという設定のフィクション】


食養さん「良かったでしょう。素晴らしい先生なのよ、貴方もそう思うでしょう」

Aさん「あ、そうですね」

食養さん「でしょう、今度は料理教室があるのよ。貴方も参加するわよね。そうそう、こんな良い本があるのよ、貸してあげるわ」

Aさん「あ、ありがとうございます」

食養さん「あなたのところの○○ちゃん、アトピーっ気があったでしょう。この本に書いてある通りに生活すれば良くなるからちゃんと読んでね。ウチもそれで治ったんだから」

Aさん「そうなんですか」

食養さん「食べ物を選ぶ親の責任は大きいのよ・・・」

講演会と健康冊子そして、子供に対する責任感。このお母(父)さんが信じてしまって誰が責めることが出来るでしょう。少しでも引き留めることのできるよう、情報をキーワード検索された場合にヒットして、なんらかの参考になればいいなというキモチで書いてみました。また、子供の事で悩んでいる方から相談される事もあるかもしれませんので、そんな人にも参考となるようにQ&A形式でお送りしたいとおもいます。




【マクロビや自然流育児にありがちな言説Q&A】


■天然信仰

Q:最近の日本の農業は農薬ばかりをばらまいた危険な農産物が店頭に並んでいると聞きました。本当の有機農法で作った野菜やお米は食物本来の味がして健康に良く美味しいそうです。スーパーに並んでいる普通の野菜は食べない方が良いのでしょうか。

A:農薬には厳しい基準が設けられ、みなさんの口に入る状態では毒性が残らないように調整されております。例えば農薬自体も虫についたらその毒性自体で殺してしまうというものばかりではなく、気門という呼吸をする器官を塞ぐことで殺虫効果を発揮するものや、昆虫が脱皮することを阻害するもの、産卵数を抑制する事により防除する薬などさまざまです。虫が死ぬからと言ってそれが人間にとって毒というのはちょっと乱暴ですね。たとえば、虫を捕まえてきて油をかけてみるとどうなるかご存じでしょうか? すぐに虫は死んでしまいます。虫を殺す物質がそれだけで人体に有害であるとはいえないのですね。
また、農業者が自分達の食べる野菜などには農薬をまかないというお話しも良く聞かれますが、農業を本職にしていない家庭菜園の方が農薬を使わない人が多い印象があります。知人の一人は自家用野菜でも農薬を使用しておりますが、売り物にするわけではないのである程度虫食いでもかまわないので使用頻度は少ないそうです。別の一人は、家庭菜園や庭が害虫の発生源にならないために行っているという意味もあると聞いてなるほどと思いました。そして、農薬のかけ方についても、残留に配慮して、回数や時期や分量などキチンと守って行っているんですね。

また、農薬は散布するときの方が危険なので、農業を行っている人が問題なく暮らしているのをみれば食品として食べることに心配はいらないと思います。農薬を使わない栽培でも、植物は自分自身を守るために昆虫などに有害な化学物質を作ることが知られております。人間がコントロールしている農薬よりも場合によっては危険があるかも知れませんね。
有機野菜は美味しいというのは一般にイメージ先行の様な気がします。海外における調査では有機野菜と普通農法の野菜の間に味の違いは見いだせなかったという報告もありますから、美味しそうな野菜であれば、慣行栽培か有機栽培であるかに拘らずに手にとって欲しいな、と思っております。


Q:化学合成された食べものや精製された食品は危険だとききました。マーガリンは常温で放っておいても腐らないそうです。腐らないような食べ物は自然なものではなく、そのようなものばかりを食べていると生活習慣病やガンになりやすいそうです。人間は自然に採れたものを食べるのが一番で、それが健康を守る秘訣だとお話しされていましたが。

A:いろいろなものが含まれているから安心という事はありませんし、天然だから安心と言うこともありません。天然物は素性が確かでないことも多いので危険が多いのですよ。栽培植物は人間にとって毒になりにくいものを中心に品種改良されてきました。例えばジャガイモも毒性の強いものから選択や品種改良して現在の姿になったとされております。トマトも同様と考えられます。
また、腐らないものは危険というのはおかしな考えです。例えば人類が昔から利用してきた重要な食品である食塩を考えてみてください。これは腐りませんよね。塩は人間にとって欠かすことの出来ない食べ物です。また、昔から利用されている防腐効果の高い飲み物にアルコール飲料がありますよね。発酵と腐るは同じ微生物による分解反応で人間に有用かそうでないかで腐敗と発酵に分けられております。マーガリンは腐らないから危険なのではなく、過剰摂取で健康に影響があると考えられる飽和脂肪酸トランス脂肪酸を比較的多く含むことが心配されております。とはいえ、日本人の食生活を考えると、トランス脂肪酸のとりすぎが心配されるひとはあまりいないので、バターでもマーガリンでも好みにあったものを選べば良いと思います。



■人間の食性、食の欧米化


Q:地球上の動物は生まれた土地で生涯を過ごすそうです。本来はヒトが住める場所でない北の国で過ごす人々はヒトにふさわしく無いものを食べる事を余儀なくされたそうです。そのうち遺伝子が変化し、その人達は肉や牛乳を飲めるようになったそうです。それが欧米の食事で、本来穀物と野菜や海藻中心の生活をしていた民族に急激に広まったから生活習慣病が蔓延したのだとおっしゃっておりました。それは本当なのでしょうか。

A:人類の歴史を考えると、農耕を行い定住するようになった時代は狩猟採集の時代よりも短いと考えられます。人類は昔から雑食性だったと考えられます。
ところで、本当に動物はみんな生まれた土地で生涯を過ごすのでしょうか?ちょっと想像してみてください、思いつきませんか。例えば渡り鳥は生まれた土地と遠く離れた土地へ海を越えて飛んでいきます。ウミガメ、鯨もそうですね。空や海の生物だけでも在りません。例えば、アフリカゾウフタコブラクダ、アダックスやオリックスという草食動物は移動性の生活をしておりますよ。このように動物にとって生まれた土地の食物だけが適した食物では無いことは簡単に分かりますね。



Q:牛乳は人間にとって有害な食品だと聞きました。例えば、牛乳のカルシウムは体に利用されないと聞きます。牛乳摂取量が世界一のノルウェーでは、骨粗鬆症の発生率が日本の約5倍なんだそうです。海藻にはカルシウムが豊富なのでそれを毎日食べればよいそうです。


A:これについて筆者はいつも同じ反論をさせていただいております。ノルウェーは世界で一番牛乳を飲んでいる国ではありません。国債酪農連盟の統計を見れば、エストニアアイルランドフィンランド、アイスラン、オーストラリアといった国が上位であり、ノルウェーの消費量はこれよりも少し下の順位です。
次に、骨粗鬆症5倍の件ですが、このようなデータは見つけられません。大腿骨頸部骨折の発症率は確かに高いのですがそうであったとしても、生活スタイルや生活環境が全く違う国で起きている現象に対し、牛乳摂取量という一つの要素に問題の原因をもとめるすること自体がナンセンスです。背が高い高齢者の方が転んだときに骨折しやすいだろうと予測がつくと思います。

ちなみに、骨粗鬆症予防と治療ガイドライン2006年度版では、1100万人の日本人が骨粗鬆症であると推定されております。これは、実に人口の9%です。この説が正しいとすれば、これを5倍した45%のノルウェー人が骨粗鬆症だということになります。この数字は現実的ではありませんよね。
では、海藻でカルシウムというのはどうなのでしょうか。確かに海藻を毎日たっぷり食べていれば、カルシウム補給は出来るかも知れません。しかし、心配なことがあるのです。それはヨウ素ヒ素などミネラルの過剰摂取ですね。ヨウ素の過剰摂取では甲状腺腫や甲状腺機能低下症を発症するおそれがあります。また、ヒジキにはヒ素が多く、イギリスではなるべく食べないように呼びかけられております。様々な食品から色々な栄養素を採ることが有害成分摂取のリスクを低くすると考えてよいでしょう。



Q:戦後の食生活の乱れでこれからの若い人の寿命は短くなるのだそうです。昭和20年以降生まれの人では寿命が短くなっていき、親より先に亡くなる『逆さ仏』の例を沢山みるようになってきたそうです。


A:親より先に亡くなる例を多く見るようになってきた・・・これはもしかするとこの人にとっては本当なのかも知れません。自分の身の回りでそうした事例が多く見られたとしても、日本全体ではどうなのでしょう? こうした事を裏付けるためには、統計などを調べて見ると良いでしょう。個人の印象に基づく体験は証拠にはならないのですね。普通に考えれば、乳幼児死亡率の高かった昔の方が逆さ仏が多かったはずです。
さて、昭和20年以降生まれの人の寿命が短くなったという証拠は存在するのでしょうか? 昭和21年生まれの人は現在65歳を越えております。逆さ仏が増えてきたのなら、その傾向があらわれていてもおかしくありませんよね。以下の表をご覧下さい。これは厚生労働省が発表しているデータから抜き出したものです。


平均余命はそれぞれの年代で伸びている事が一目瞭然ですね。寿命が延びているのは赤ちゃんが死ななくなったからだけではないことがわかります。いわゆる常識を覆すようなお話しをするのであれば、信用に足るデータを例示すべきです。そうでない言説には眉にツバをつけた方がよいでしょう。


後編につづく→http://d.hatena.ne.jp/doramao/20130417/1366182959