トンデモ化学方程式の謎【桜沢如一の世界その1】

このシリーズではマクロビオティック創始者桜沢如一の著作を参考に、彼の思想やその考え方の問題点を指摘していこうと思っております。ゆっくりペースで進めていく予定ですが最後(までたどり着けるかも不明だけど)までお付き合いして頂ければ嬉しいです。
今回は初回と謂う事でまずはさらりと、氏の代表的著作『無双原理・易』*1より、ちょっぴり面白いお話しを紹介しようと思います。

■無双原理は無敵の原理?
桜沢如一は師である石塚左玄の食養に心酔し、食養の考え方を広めようと思い立ったのが無双原理とマクロビオティックのはじまりです。ところが桜沢は、師の考えをそのまま伝える事ではなく、彼独自の『易』の思想を用いて食養を説明することを思いついたようです。おそらく、石塚の提唱した夫婦アルカリ論((簡単すぎる説明をするとナトリウムとカリウムの拮抗こそが食と健康の根本原理))と易の陰陽という考え方が似ていた為でしょう。
そうして、彼独自定義の易を用いた無双原理を提唱することになったようだ。
無双原理は世の中の全ての事象を説明可能である、と彼は述べる。本書では、化学をはじめ、静物学、医学、政治経済など様々な学問を無双原理により独自解釈を行い説明を試みています。

■無双原理と化学の世界
桜沢は化学の杜撰さを指摘する。

p100-101
白燐と赤燐−劇毒な白燐と無害なる赤燐を何れもP一文字で表している程化学の感覚は鈍いのである。前者から後者を得る間には立派に次の如き操作が必要で、決して白燐が自然に赤燐になったり、赤燐が白燐に代わつたりするのではないのである。
 P白燐(極陰)+熱>230(陽)=P赤燐(陽)。
化学方程式は斯の如き陰陽方程式に書き換えられねばならない。白燐と赤燐が単に色を除いては化学的にも物理的にもその重大な性質の相違を認示する事が出来ないと云うのは非常に悲惨な事である   

ええとさ、白リンのP4分子が開裂していっぱいくっついた状態になってるから性質が違うんだけどね・・・。極陰が陽になったから性質が代わったと有りもしない概念で認示をすると云うのは非常に悲惨な事ですねぇ。
こんな化学方程式を読んでなるほどなるほど、なんて納得しちゃうと、謎の物質・化学方程式(C6H12O5)2を砂糖と間違えてしまうのかも知れないですね。

■生体内元素転換
まあ、先ほどの例などはマシな方でして、まだまだ面白いアイディアが盛りだくさんなのが本書です。なんと、生物は体内で新たに元素を合成していると謂うのです。
ルイ・ケルブランという生化学者をご存じでしょうか?生体内元素転換に成功したと報告した人物です。桜沢如一はケルブランの報告を完全に信用し、彼の著作を日本語に翻訳し、この発見を実用化すべく資金を提供するほどのめり込みました。ではこの生体内元素転換とはどのようなモノなのでしょうか。

p199-200
海のカニは時々脱皮し、固いその甲羅をぬぎすてる。するとカニは他の小さい魚介類にでもくわれるような軟体動物になり、生命の危険にさらされるので、岩の穴に隠れる。しかし二十四時間後には立派な甲羅をつけて出てくる。カニもまた、Caの少ない海水からナトリューム(Na原子量23)をとり、水素(H原子量1)を融合してマグネシユーム(Mg原子量24)を作り、(或いは海水から直接Mgをとつて)、更に酸素(O原子量16)をとり、融合してカルシユーム(Ca原子量40)をつくり出すのである。
(23Na+1H+16O→40Ca)
ところがNaとK、塩気とアク気は生化学的には、善と悪、黒と白ほどの相剋性をもつている。つまり悪を善にしたり、禍を福にしたりすることが血液でできるのである。これはわざわいを転じてしあわせにする東洋精神の優越の生化学的な実例である。西洋化学療法で不治とされるガンやいろいろな心臓病、ことに腎臓病、精神病等が東洋の無焼く、無手術の精神医学で簡単に治るのもこの反応である。

なんというか、文章全てが突っ込み処と謂う素晴らしい有様ですね。
要するに生物は体の中で常温核融合を行っていると主張をしているのですね。なるほど、マクロビオティックの偏った食事でも健康が保てると豪語するのにはこのような背景があったからなのですね。
一応簡単に突っ込んでおくと、カニの場合は脱皮前にカルシウム分を殻より回収し、脱ぎ捨てた後しばらくは柔らかいままだが、回収したカルシウムを利用し少しずつ硬化していく事になる。勿論、足りない分は海水中などから供給されるのだろう。このように、生体内元素転換などがなければ不可能な現象でも何でもありません。

■生き残る元素転換説
何をバカな事を・・・こんなの今時こんなヨタ話信じるヒトなんてもう居ないでしょ?これをお読みになった方はそう考えると思います。ところが、このオハナシしぶとく生き残っているのですねぇ。実は貴方の身の回りにも潜んでいるかも知れません。
どらねこの知り合いに農家の方がいらっしゃいまして、とても面白くて参考になるブログを運営しております。実はその記事の中にこんなエピソードがありました。

農業で見かけたトンデモ
水晶を水に溶かして撒くという話もありました。水に溶かす???溶けるんだよと力説されても・・・バイオダイナミクス?かと思いきやもっとすごくて、水晶(珪素)が土中の炭素と反応してカルシウムになるのです。つまり14Si+6C=20Ca。足し算です。おおすごい。こんな計算式を恭しく見せられたときは頭抱えました。

これって完全にケルブランの生体内元素転換だよね?
マクロビオティックは、身土不二とか有機無農薬野菜とか自然派農業に結構浸透していて、農業の現場にトンデモ化学理論をまき散らしている模様です。注意深く観察するとこの例の他にも色々と見つける事が出来ますよ。『スギナ』、『カルシウム』検索してみると面白いモノをみることが出来ると思います。
では、最期にヒトコト・・・
マクロビは健康長寿食なんかじゃないんです!子供や体のよわい方の健康を害する虞があります。くれぐれも注意して下さい。

*1:無双原理・易−実用弁証法桜沢如一著 日本CI協会刊行1983版