へそとヨウ素

子供の健康と代替医療の問題点について色々(?)と書いてきたが、通常の医療機関でも問題があると考えられる医療行為が行われることもあるみたいだ。その一つが傷口の消毒問題だ。消毒薬は細胞障害性があるので、傷口に直接塗布する事は傷の治りを遅くしてしまう。若手医師の間では常識になりつつ有るそうだが、長年消毒の効果を謳い続けてきたヒトの場合はその習慣を改めるのが難しいようだ。ゼンメルワイスの物語を思い出す。
実はこの問題は赤ちゃんの健康にも関わってくる話だったりする。それは臍の消毒である。
どらねこの長男が生まれた産院では、産まれたばかりの息子にたっぷりとポビドンヨードイソジンの事ね)を塗りたくってくれちゃった事を覚えている。しかし、次男の産まれた病院では清潔にして自然乾燥すべしという方針であった。実は施設によって対応がまちまちで有るというのが現状らしいのだ。
臍の消毒については、衛生状態に懸念のある国に於いて、感染症の発生率を低下させるという研究が幾つか存在し、その有効性の論拠とされてきたようだが(たぶん)、この結果は衛生状態に問題の無い国についてはそのまま適用できるものではないと考えられる。
先日、赤ちゃんはヨウ素の過不足に敏感であるという話をしたけど、この消毒のヨウ素も赤ちゃんに影響を与える事が知られている。ポビドンヨードの使用を続けることで乳児の甲状腺機能低下を招くことが懸念されている。『新生児マススクリーニング』、『ヨウ素』、『消毒』のキーワードで検索すると、臍消毒にポビドンヨードを使用する病院で産まれた子どもに先天性甲状腺機能低下症スクリーニング検査で陽性を示す割合が高いという調査結果がいくつかヒットする。
【本当に意味があるの?】
通常の医療行為にもメリット、デメリットが存在する。ヨウ素入り消毒剤を使用することで、感染のリスクを明確に低下させるというのであれば、ある程度の副作用はやむを得ないという結論をだしてもおかしくない。問題は期待する効果が本当に存在するのか、ということだ。
で、此を調べるのは結構やっかいであんまり事例がないのですよね。

トルコのアンカラにある大学病院で、新生児を対象に、ポビドンヨードで消毒消毒せずに自然乾燥母乳を塗りつけるの3群に分け、行った研究*1では、臍の感染症発症に有意差は認められず臍の緒が外れるまでの時間はポビドンヨード群が有意に長いという結果となった。
N=150の研究なので、これだけで判断するのはちょっと難しいかも。でも、ヨウ素が有効という証拠も無いと云うことは謂えそうだ。

じゃあ、ヨウ素じゃなくて他の消毒液で消毒すれば良いんじゃないの?という話も出てきそうだ。

カナダの大学病院や都市近郊の市中病院を対象に行われた調査*2。これはN=1811だ。70%イソプロパノール消毒群と自然乾燥群を比較したもの。
この研究では、2群とも臍の感染症の発生を認めなかった自然乾燥の群で臍の緒の離脱が早かったという結果と成った。

Cord separation time was statistically significantly different (alcohol group, 9.8 days; natural drying group, 8.16 days; t = 8.9, p = < .001).


早く外れる事をメリットと考えるなら、消毒しない方が良いんじゃないの?清潔環境が整っている条件であれば、消毒のメリットはなさそうである。
妊娠出産、育児については根拠はないけど慣習的に行われている儀式がまだまだ多いのかもしれない。そんな事を思ったどらねこでした。

【おまけ】
創部に消毒薬が繰り返し接触する場合、潰瘍を形成することがあるので、もしかしたら、でべそへそのふくらみのあるヒトの中には消毒薬による影響で・・・というケースもあるかもしれない、なんて思ってみたりして。まぁ、根拠無い妄言なので信じないように。

*1:Umbilical cord care: a pilot study comparing topical human milk, povidone-iodine, and dry care.Vural G, Kisa S.J Obstet Gynecol Neonatal Nurs. 2006 Jan-Feb;35(1):123-8.

*2:Alcohol versus natural drying for newborn cord care.Dore S, Buchan D, Coulas S, Hamber L, Stewart M, Cowan D, Jamieson L.J Obstet Gynecol Neonatal Nurs. 1998 Nov-Dec;27(6):621-7.