米飯至上主義の食育アドバイザーを信頼する新市長に心配すること

先日の香川県丸亀市長選の結果、梶正治という方が新市長に当選なさったそうです。この方自身については詳しく存じ上げないのですが、この方が考える教育論には、大塚貢さんという方の影響が大きいようなのでちょこっと気になりまして旧ブログどらねこ日誌の記事からピックアップしてみました。
大塚貢さんというのは、長野県内で教育委員長をなさった方で、現在は食育アドバイザーとして活動を行っている人物です。ざっと調べたところ、新市長は大塚さんの著作に影響を受けている様子がうかがえました。

さぬき市議会議員多田雄平さんのブログに3月3日に丸亀市民会館で行われた「丸亀の子どもの未来を考える集い」において、新市長となった梶さんと大塚貢さんによるパネルディスカッションが行われたと書かれております。


さらに、梶正治さんのブログ前・香川県議会議員(丸亀市)梶正治の活動日記でも、大塚さんの名前を見る事ができます。

ブログ記事より引用
長野県で中学の校長をされ、その後真田町の教育長さんを10年間つとめられた大塚貢先生の実践が紹介された本を読みました。
校長として赴任された中学校は生徒数1200名ほどで、廊下をバイクで走り抜ける生徒やバケツ一杯になるほどの吸い殻が毎日校内で集められ、毎日のように誰かしらが犯罪行為を起こしていたそうです。大塚先生が取り組んだことは3つです。先生の授業を面白くすること。給食の材料から添加物をなくし、ご飯と魚と野菜中心の給食に変えたこと。学校内に子どもたちが世話する花壇を作ったこと。この3つです。これで、非行やいじめがなくなり、結果不登校もほぼゼロになったそうです。もちろん成績も上がりました。
この3つは思いつきでやったわけでなく、子どもたちの意見を聞いたり、コンビニの前で調査したり、親に働きかけたりする中で、試行錯誤の末たどり着いた成果であります。
 こうした努力、工夫こそ必要です。学校で日頃から子どもたちに要求している努力や工夫を、果たしてわれわれ大人はやっていると、胸を張れるのかどうか、反省する必要があります。

大塚さんの活動を評価*1していることがうかがえますね。



■大塚貢さんの米飯給食活動とは

大塚さんは以前長野県上田市教育委員会委員長をなさっていた方で、自身が教育の現場に携わっていたときに完全米飯給食を実施し、その成功体験を著書や講演会などで発信していらっしゃいます。検索エンジンで「米飯給食、大塚貢」で検索すればその活動の様子がわかるでしょう。

どらねこは大塚さんの主張がよく分かる文献を引用し、適宜コメントしながら紹介しようと思います。引用文中の強調や体裁の変更はどらねこによるものです。


子どもたちをよみがえらせる 「長野県上田市・前教育委員長の実践 」
対談:大塚貢 (上田市前教育委員長)櫻井よしこ 致知 2008年5月号 より引用

大塚:先ほど櫻井先生がおっしやったように、朝礼で子どもたちが貧血でバタバタ倒れたり、遅刻したり、登校しても保健室にいるので、これはもしかしたら食と関係があるのではないかと思いました。平成4年の頃で、まだ「食育」などという言葉もなかった時代です。


櫻井:私が先生のお話で感動したのは、子どもたちの食の実態を把握するために、朝早くからコンビニエンスストアで“張り込み”をされたと。


大塚: はい。陸上競技大会などの朝は、5時から会場の近くのコンビニエンスストアに車を止めて様子を見てみました。すると母親が車に子どもを乗せてきて、お金を渡して好きなものを買わせているのです。
そういう子どもの日常生活を調べてみると、やはり非行・犯罪を繰り返す、キレる、無気力など、指導に手を焼いたんですね。
たとえ親を呼んで「お宅のお子さんはこういう状況だから指導してもらいたい」と言ったところで、そういう子どもは親の言うことなんて聞きませんよね。大会の日ですらお弁当をつくってくれないのですから、親と子の心の絆は完全に切れてしまって、親はお金をくれる人としか思っていません。


どらねこであれば、食に関係があると疑う前に、家庭での育児放棄や暴力などの虐待、交友関係など別の背景を先に調べてみようと思うところなのですが、大塚さんは違うようです。おそらくなのですが、大塚さんが参考にしている図書に、砂糖や食生活の乱れがキレる子供の原因である、という大沢博さんの著書がある事が関係しているのだと思います。大沢博さんの主張については、科学的根拠に乏しいことを此方の記事で指摘しております。→http://d.hatena.ne.jp/doramao/20121212/1355308178
また、農薬が子供の成長に悪影響を及ぼすという主張*2を信用し、講演会などでもお話しをしていることがよく知られております。さて、続きを見ていきましょう。


櫻井: 母親の愛情弁当を持たせるという概念がないわけですね。


大塚: ないですねえ。また、並行して全校生徒の食の調査もやりましたが、朝食を食べてこない子どもが38%。その子たちもやはり非行や犯罪まがいのことをしたり、いじめなどに加担していたりする。あるいは無気力な生徒が多かったです。


櫻井: 朝食を食べてこないということは、前日の夕食以降、給食までのおそらく16〜18時間はまともな食事を摂れないわけですね。それでは授業に集中できないばかりか、精神的にも不安定になるでしょう。


大塚: ただ、朝食を食べていると答えた生徒にしても、実態はほとんどがパンとハムやウインナ、それと合成保存料や着色料、合成甘味料の入ったジュースです。
そして夜はカレーや焼肉が多かったですね。こういう食事ばかりではカルシウムやミネラル、亜鉛マグネシウムといった血管を柔らかくしたり、血をきれいにする栄養素はまったく摂取できません。
だから子どもたちの血液がドロドロで、自己コントロールができない体になって、普段は無気力でありながら、突如自分の感情が抑えきれなくなってしまう。いくら「非行を起こすな、いじめるな、勉強を本気でやれ」と言ったところで、体がついていかないのです。


パンとハムとウインナー、カレーや焼き肉・・・、なぜか洋風な料理ばかりがやり玉に挙げられておりますが、どうして問題なのでしょうか? カレーなどは様々な野菜と一緒に煮込む料理ですし、カレーと謂えば定番の牛乳を足せば、かなりバランスの良い食事になるはずです。
また、確かに偏った食事やソフトドリンクの飲み過ぎは問題ですが、それが非行と直接結びつけてしまうのはオカシナ話だといえるでしょう。



【米飯給食の驚くべき効果】
大塚: はい。なるべくお腹にたまる米飯に切り替え、野菜や魚を中心にしたバランスのよい献立の給食にしようと考えました。しかし、先生方からも親からも反対の嵐でしたね。


櫻井: 先生たちはなぜ反対なのでしょうか。
大塚: 結局、先生たちも揚げパンとかレーズンパンのような菓子パン、あるいはソフト麺とか中華麺が好きなんですね。そういうものは一つひとつが袋に入っていて、配膳も楽なのです。米飯は一人ひとりのお弁当箱によそわなければいけないから、手間がかかるんですよ。「国際化社会の時代に米飯に偏るのはおかしい。国際食にすべきだ」とか、いろいろな理由をつけて反対されました。


大塚: はい。鰯の甘露煮とか秋刀魚の蒲焼きとか、非常においしくつくってくれましてね。根気強く試食会を重ねながら、「青魚には血液をきれいにするEPAやDHAが含まれています」と、いかに栄養的に優れているかを教え、まずは先生方を説得し、保護者を説得し、特別授業を設けて生徒たちにも教えていきました。
そうして、赴任した翌年の平成5年からは、週6日のうち5日間を米飯給食に切り替えました。米飯もただの白米ではなく、血液をきれいにし、血管を柔らかくしてくれるGABAが含まれる発芽玄米を10%以上加えたのです。


櫻井: 生徒に変化が表れたのは、切り替えてどのくらいたってからでしたか。


大塚: 7か月後あたりから学校全体が落ち着いてきましたね。
いまでもよく覚えているのが、4月のPTA総会の前に私が1時間ばかり校舎のタバコの吸殻を拾って歩いたところ、スーパーの大きなビニール袋かいっぱいになったのです。それを総会で見せたところ、保護者たちから、「大塚校長が来てから風紀が乱れたんじゃないのか」と言われましたがね。米飯給食を始めてから7か月後には、吸殻が1本もなくなりました。


櫻井: それはすごいことですね。


GABAは血管をきれいに柔らかくしてくれるそうです。ミネラルでも同じ事を仰っておりました。
因みに、GABAこと、γアミノ酪酸にはそのような効果は認められておりません。また、米飯給食に変えて7か月で行動面で効果があらわれたと、両者に因果関係があるように述べておりますが、パン給食群を対象としたデータを示しておりませんので、実際に効果があったのか検証できておりません。どらねこには食以外の他の取り組みが功を奏したように見えるのですが、大塚さんには違って見えるようです。


櫻井: やはり青少年の犯罪と食生活というのは関係があるのでしょうか。


大塚: と思います。私は少年犯罪でも、特に凶悪な犯罪を起こした子どもの学校や町に行って話を聞いているのですが、例えば平成9年の酒鬼薔薇聖斗事件がありましたね。近所の皆さんの話では、お父さんは一流企業に勤めている穏やかな方で、お母さんは非常に教育熱心だったと。肉を食べさせれば元気が出て頑張って勉強するということで、肉を多く与えていたようです、とおっしやっていました。
それから一昨年の6月に奈良の名門・東大寺学園の男の子が母親と弟妹を焼き殺しましたね。成績が下がって、翌日の懇談会に母親に来てほしくないという単純な発想からの凶行でした。両親とも医師で、お母さんは継母だったのです。近所の方の話では、お母さんは子どもとの関係もあり、子どもの好きな肉も多かったようです。それからもう一つ、昨年の5月に会津若松で母親の首を切って、ショルダーバッグに入れてインターネットカフェで遊んでいた高校生がいましたね。彼の地元はコンビニが1軒もない人口2800人の町で、出身中学は全校生徒で25人です。
それで近所の人たちは、「お父さんは穏やかな方で、お母さんは教育熱心だ」と、これは誰もが言いました。私は父方のお祖父さんに会いましたが、「確かに肉が好きで、母親は多く与えていましたね」と言いました。


櫻井: 少年犯罪と食生活の関係を考えさせられますね。


基本的に凶悪事件を起こした犯人について、事件を識っている人に人物像を尋ねれば、大抵は「犯人」という色眼鏡で見た事による偏った評価が返ってくる事を懸念*3しなくてはなりません。
特に最初の二つの事例については近所の人伝聞にすぎません。実際の食生活はどうだったのかを近所の人が詳しく知っていたとは考えにくいですね。
それ以前に、肉の多い食生活であったとしても、青少年の犯罪との因果関係の説明にならない事も申し添えておきます。

これだけ学校を挙げての大きな取り組みであるわけですが、その根拠が単なる本人の確信であるというのは問題であるといえるでしょう。教育委員会というのはいったいどういうところなのでしょうか。周りの人から反対意見は出なかったのでしょうか。


■市長に期待すること
新市長は個人的に大塚貢さんを信用していらっしゃるようですが、上記は厭くまで、大塚貢さんの主張であり、梶市長がそのまま同じような取り組みをなさるとは考えておりませんが、部分的にではあっても、根拠の無い言説が子供の教育や給食などに直接反映しないことをどらねこは願います。信用する大塚さんの意見であっても、それをキチンと各部署の専門家と議論をすすめ、是は是、否は否で対応して頂きたいと思います。
市政に根拠の無い食育や農薬有害論が広まらないことを願いながら記事を終わりにしたいと思います。

*1:というか、かなり懇意にしているかもhttp://www.facebook.com/events/208163209326450/permalink/213160145493423/

*2:http://www.ruralnet.or.jp/ouen/meibo/421.htmlなどを参照

*3:犯罪者であるというステロタイプイメージや属性からの推定の割合が大きいことにより生じる対応バイアスなど認知に関係することや、質問者が自身の求める答えを用意して質問してしまうようなワーディングの問題などが心配されます。例えば、「よく食べていた食べものを知りたいと考えているのですが、もしかして肉が好きでありませんでしたか?」という質問であれば、「どんな食べものを食べているのか知っていましたか」という質問に比べて肉が好きであったと答える人の割合は大きいことでしょう。肉類は若い人に比較的人気のある食材であるわけですからね。