米飯給食とお米の消費

来年の米の生産数量目標について報道されているのを耳にしました。それによると23年産の数量目標は795万トンで、前年度比約2.2%で過去最低なのだそうです。
ちょっと調べたところ*122年産の予測収穫量824万トンを元に消費量と在庫量を勘案し目標量が示されたようです。
どうやら、日本におけるお米の消費量が減っていることが原因みたいです。政府や自治体は企業とタイアップし食料自給率アップや早寝早起き朝ご飯運動など熱心に行っているようですが、結果に結びついていないようですね。中には完全米飯給食が日本を救う!みたいな極端な主張*2を持つ人々も紛れ込んでいたりするようです。今回は米飯給食とお米の消費量アップについて考えてみたいと思います。

■米飯給食
どらねこは学校給食でご飯を提供する事自体には反対ではないのですが、それは2〜3回程度で十分でありご飯でなければならない必然性は無いという立場です。伝統文化云々を述べるにしてもそばやうどんは無視できないのですし・・・。特に完全米飯給食については、子どもの嗜好を配慮した給食という観点からも全く頷けるものではありません。
そもそも、学校で米飯給食を実現すれば生産目標量を減らさないほどお米の消費量をアップさせる事ができるのでしょうか?その背景も絡めてちょっと調べてみました。

■米飯給食の推進
まず、米飯給食の推進については文部科学省スポーツ・青少年局長通知(平成21年3月31日)により次のように示されております。

米飯給食の推進については、週3回以上を目標として推進するものとする。
 この場合、地場産物の活用推進の観点から、地場産の米や小麦を活用したパン給食など、地域の特性を踏まえた取組にも配慮する。
 また、地域や学校の事情等により実施回数が異なっている現状にかんがみ、以下のように、地域や学校の事情等に応じた段階的、斬新的な実施回数の増加を促すこととする。

(1)大都市等実施回数が週3回未満の地域や学校については、週3回程度への実施回数の増加を図る。
(2)既に過半を占める週3回以上の地域や学校については、週4回程度などの新たな目標を設定し、実施回数の増加を図る。

なるほど。では当時の政府はどのように考えていたのでしょう。昨年の春はまだ自民党政権で、塩谷立議員が文部科学大臣を務めていたようです。彼の考えは文部科学大臣会見http://www.mext.go.jp/b_menu/daijin/detail/1260420.htmで確認することができました。

大臣会見概要(4月3日) 平成21年4月3日(金曜日)
9時04分〜9時20分
記者)

 先日、米飯給食の話で報告書がまとまりまして、週3回が達成されたので、4回になるかという議論をして、結局週3回以上という言葉が付いて、例示の形で週4回というのがありました。河村官房長官も熱く語ったりして、米飯給食の問題については色々な考えがあるようなのですけれども、大臣御自身はどのように思っていらっしゃいますか。

大臣)

 この問題については、まずは目的が何かということで、米飯給食を通じて、日本の伝統の食文化ということをしっかりと子どもたちに定着させるとか、米の消費量を向上させるとか、色々な考え方があったと思うのですが、そのために、かつて平均実施回数が週0.何回かだったのを、国の目標を週3回にして、そして一昨年度に目標が達成されたということです。週3回というのは60%でしょうから、その目的は大体達成されたのだろうと思っています。さらに4回、5回ということについては、何か特別な目標というか理由というのが、私にはあまり聞こえてこなかった。多分、消費量アップということだと思いますが、それについては、米飯給食が週0.何回から3回まで、ずっと上昇していったにもかかわらず、米の消費量が減っているということで、給食の責任ではまったくないわけで、それを給食に何か押しつけるようなことは、少しおかしいだろうと。地場産業の地場産品を使うということにおいては、3回米飯をとって、あとはパン、あるいは蕎麦やうどんだってあるわけですから、学校給食においては最低週3回ということで良いだろうと、敢えて4回にする必要はないだろうというのが私の考えです。4回と明記するかどうかということは、3回達成したところは4回などに向けてと明記しましたし、まだ3回を達成されていないところは、とりあえず3回にということで明記しました。これまでも何回かこの議論があったようですが、やはり4回、あるいはそれ以上にする目的が何なのかということは、私には理解できなかったので、私の意見として申し上げて、そのような形でまとまったと思います。消費量を増やすという点では、もっと国民全体でやらないといけないと思っていまして、学校給食だけに課せられても、普段の生活の中で、朝はパンを食べて、昼は学校でお米を食べてというようなことで、もっとお米を増やせというのは、少し違うのかなという気がして、もっと国民全体で運動するような形の方が、消費量アップについては必要ではないかなと期待します。

※強調はどらねこによる。

なんと、当時の文部科学大臣はそれ以上を目指す必要性は感じていないという見解を持っていたようです。どらねこにはちょっと意外でした。そのあたり文部科学省農林水産省には温度差があるのかも知れませんね。

■米飯給食でお米消費量アップは期待できるか
そもそも、学校給食ではどの程度のお米が消費されているのでしょう、まずそこから確認しなければなりません。どらねこの確認できる範囲で使用量のデータを探してみましたが、残念ながら見つけることは出来ませんでした。もっと探せばあるのかも知れませんが、今回は得られたデータの範囲内で消費量を計算してみます。
学校給食でのお米消費量を概算のため、全国の児童生徒数*3、一人一回あたりの精白米量*4、小中学校の給食実施割合((平成20年度学校給食実施状況等調査より))、給食実施回数*5と週間米飯給食日数*6から米飯給食提供日数をもとめたものを表に入れ込んで計算してみました。ある程度の誤差はあると思いますが、それなりに妥当な数値になっていると思います。

米飯給食を週に3.1回実施で計算したところ、消費されるお米の量は精白米で9.5万トンほどであると推測されます。完全米飯給食を実施した場合をこの計算方式で求めると、15.4万トンとなりますが、それでも平成23年産米の生産目標量を平成22年産米の目標量813万トンを維持するレベルに引き上げることも出来ない程度の消費量です。
完全米飯給食をお米消費の切り札と考えるのはちょっと無理があるようです。
まぁ、学校給食でごはん食文化を涵養し、私生活でも・・・と考えているのかも知れませんが本当に効果はあるんでしょうかねぇ。どらねこは給食で提供されるご飯をそれなりに食べた経験がありますが、人気銘柄のお米を家庭で炊いたモノと比べて食味はやっぱり劣りますから毎回ご飯給食が逆効果になる可能性も・・・なんて思ってしまいます。

ところで、完全米飯給食推進派の主張を見るとパンを目の敵にしたモノをよく見かけるのですが、お米消費の減少にそれほどパンが影響を与えているのでしょうか?

上の図は総務省の家計調査(二人以上の世帯)の一世帯当たりの支出金額の推移より抜粋したものですが、確かにパンへの支出は微増にありますが、お米への支出が大幅に減少している分全てが流れているワケではなさそうです。食の多様化が進んでいることが原因と考えた方がしっくりくるようにどらねこには思えます。

国民のニーズを考えれば、米作だけを偏重するという農業政策は現実的でないのかも知れません。お米の需要が減っているという事実に向き合う時が来たのではないでしょうか。

*1:農林水産省:米穀の需給及び価格の安定に関する基本指針:平成22年11月29日公表

*2:パンを使用する給食が日本人をダメにしているというような主張や玄米を採り入れろみたいなもの

*3:平成22年学校基本調査より

*4:小学校、中学校のそれぞれ平均的な値

*5:学校給食実施状況等調査で給食費調査で採用されている回数を採用

*6:文部科学省:平成20年度米飯給食実施状況調査より