転ばぬ先の杖をアナタは必要としますか?

栄養成分表示検討会というものがあります。日本における望ましい栄養成分表示のあり方を検討するために消費者庁が招集したものです。元々はトランス脂肪酸の表示の是非を検討するコトが切っ掛けとなって始まったもののようですが、議事録を見る限りもっと広い視点での議論が進んでいるようです。

こちらのページは畝山さん個人が栄養成分表示についての論点を提出したり多くの方から意見をもらいたいと作成されたモノです。有り難いことに私も参加というか勉強をさせて頂いております。栄養成分表示検討会自体は6回目まで進み、あとは報告書をまとめる段階に入るというコトです。

畝山さんの栄養成分表示のブログに先日書かせて頂いた記事があるのですが、栄養成分表示検討会での議論を追っていて私個人が感じた事を率直に述べたモノです。→http://d.hatena.ne.jp/uneyama+hyouji/20110608/1307532316
この記事を書いているうちに、栄養成分表示を行う事そのものに対し考えてしまう部分がありました。そうして原稿も段々とヒートアップしてしまいました。流石に人様のブログに書くのにはちょっと乱暴でありましたので、ページの趣旨を損なわない内容に抑えてアップを致しました。
今回は、その削った部分を中心に、話を広げて見たいと思います。まぁ、腹黒な私が思ってしまったことを書き殴る感じですので、どうぞご容赦(?)下さい。この話題に興味が無い方はどうぞスルーで宜しくお願いします。

■栄養成分表示を活用するには?
大手メーカーの加工食品をみれば殆どの食品に栄養成分表示を見つけられると思います。しかし、売り場で積極的に表示を見て尚かつ、その持つ意味をキチンと理解して購買行動に移す人はどれだけいるでしょうか?なので、単に栄養成分表示の充実を図るだけではダメで、消費者教育が不可欠であると謂う議論になっております。
ただ、ここで考えてしまうのは栄養成分表示にかけるコストに見合った活用がなされる為に必要なレベルの消費者理解と謂うのは果たして達成できるモノなのか?と謂う疑問です。
例えば、同じ食品表示でもアレルギーを持つヒトの場合はまた違うと思います。へたをすれば命にかかわる程の問題ですので、切実度が違います。また、『アレルゲン摂取→反応』と謂う形で現れますので、理解もしやすいかと思います。なので、特定の方にとって極めて重要で且つ実際に活用される食品表示の例と謂えるでしょう。

■栄養成分と栄養バランス
それに比べると、栄養成分の表示は色々と難しい処があると感じます。まず、自分にとって望ましい栄養摂取量を把握していないと始まりません。ところが、今行われている食事バランスガイドの内容を見れば、実際の料理、食品(主食、副菜、主菜、牛乳・乳製品、果物)を各区分をどれぐらいたべれば良いですよ、組み合わせはこんな感じですよ、と示しております。そうして選んだ結果それなりに妥当な栄養摂取量となるように設定されております。コレには想定するエネルギー量は出ておりますが、個別の栄養素量は一般には示されません
では、この食事バランスガイドが理解され、定着し、実際に活用されているのでしょうか?現場の栄養士さんに話を聞いたことがあるのですが、色々と教えても「難しい」と返って来ることが多いそうです。具体的栄養量が示されない食事バランスガイドの理解が不十分な状況で、多くの方が栄養成分表示を有効に活用できるとは私には思えないんです。これが私の一番気になる部分なんですね。

■教育するといっても難しい部分だよ
どうして悲観的なのか、それは先ほども書きましたが、切実な問題では無い事が多いからです。例えば、発端となったらしいトランス脂肪酸のコトを考えてみましょう。
トランス脂肪酸は脂肪摂取量のうち、ある程度の割合を超えると将来的に健康を損ねる可能性が示唆されている程度の危険性を持つ食品成分であると考えられております。日本人が通常或いは少々の逸脱した食事をしていても、コレの影響による健康被害は果たして現れるのか否かよく分からない程度のキケンであると考えられそうです(私はそう思う)。
もう一つ、危険性がある程度はっきりしている食塩摂取量の問題を考えてみます。健康な若い人が1日10g以上の食塩摂取をしばらく続けても多くの方は何ともないと思います。影響が現れるのはある程度年齢を重ねてからでしょうし、10g以上を食べ続けた人であっても何ら影響が見られないヒトも結構いらっしゃるわけです。
食塩は美味しいですよね。お酒を飲んだ後には無性にからだが欲します。で、食べたからと謂って目に見えるような悪い影響はすぐに顕れる事はまず有りません。健康に悪いから減らしましょう、なんて謂われて、ハイ!とすぐにやめられるでしょうか?難しくないですか。

■転ばぬ先の
※ここから急に性格が悪くなります要注意※
転ばぬ先の杖と謂うコトバがあります。
失敗をしないように、先回りしてキケンを回避しようと謂う考え方なのですが、どうも私はダメ人間らしくて、転ぶリスクを理解しながらも階段を急いで降りたりして痛い目に遭うコトしばしばです。このコトバと似たような意味合いの行動をツイッター上で募集したのですが、沢山の面白いアイディアを皆様から頂くことが出来ました。この場にて御礼を申し上げます。早速その中から使わせて頂きます。

ki_mu_chi キムチ
晴れた日に雨傘を持ち歩く

皆様の中に晴れの日にも傘を常備されている方はいらっしゃいますか?それほどいないような気がします。

hiroo Hiroo Ono
まさかの時のバックアップ

後で悔やむんですよ。

@DrPooh08
ユッケを焼いて食べる,みたいな感じでいいでしょうか。

皆が気にするのなら、そもそもユッケを出す店がなくなっちゃいますし、焼くぐらいなら頼まないでしょう。

いつ起こるか分からない程の低い確率に毎日備えると謂うのは重労働なのだと思います。そんな重労働を強いられてハイ、やりますと謂いますか?自分達の為だと相手は謂うんだけどね。まぁ、食と健康の問題は転ばぬ先の杖をアナタは持てますか?と問いかけられているようなものだと思うんですよね。
なので、杖の形はなるべく日常持ち運べるモノでなければならない。それでもやっぱりハードルが高くてみんなが持つようになるものでは無いと思うのです。そして杖を持った人だけが更に事故に遭うことを防げるグッズを使えますよ、そんな政策を実施するのなら、まず多くの方が杖を持ち歩く状況が出来てからだと思うんです。そうでなければ次のグッズの開発に多くの費用をかけてもみんなが活用できないからコスト的に無駄になると思うんですよ。
滅多に転ばないのに、転ばないように杖を渡され、転ばないような歩き方を教わる・・・どらねこ的には余計なお世話と思っちゃうかも知れないよね。

■石橋を
似たようなコトバに石橋を叩いて渡ると謂うものがあります。
此方は更に何事に対しても慎重に行動するコトの喩えとして使われるようです。なんで石橋すら叩いて渡るようになってしまったんだろうとか考えると色々と面白いですね。もしかしたら過去に痛い目に遭ったコトがあるのかも知れません。

ebi_j9 エビ
羹に懲りて膾を吹く

これはまさしく痛い目に遭った後ですね。
食生活にあてはめてみると、脂質異常症になりトランス脂肪酸を控えると謂った感じでしょうか。病気になる前にやっておけば良かったのに・・・でも、ムリみたいなコトは多いと思います。そうなっても懲りないヒトも居れば、必要以上に気になる方もいるようです。

kumikokatase 片瀬久美子@モフモフはいいよね
用心し過ぎて『石橋を叩いて壊す』(違っ

食品添加物は恐ろしいみたいな根拠の無い不安情報を過剰に受け止めてしまって、所謂自然食品だとか、添加物が含まれていない食品かどうか、食品表示を片っ端から調べるような状況がソレかも知れません。日常の食事に対し色々なコトを気にしすぎるのもなんとなく不健康な気がします。それが根拠の無い情報であれば尚更ですね。
別の話ですが、肉食が体に害があると思い込み、小さい子に野菜や海藻ばかりの食事を与えて貧血を誘発させた、なんて事例もあります。

■求める人に届ける表示を
石橋を叩いて渡るほどに栄養バランスを気にした食生活をしなくてはならないモノなのでしょうか?多くの日本人がそうなる必要があるのでしょうか?ころばぬ先の杖はどの程度の大きさが良いのでしょうか?そんな合意を得るまでになっているのでしょうか?
まだまだですよね、どらねこはそう思います。
教育が必要だ・・・それはそうなのですが、有るのか無いのか分からないような問題を教育で行動変容させるのはもの凄く難しいことだと思います。へたを打てば、不安を煽るばかりの結果になりかねません。健康的な食生活をしないと病気になりますよ、が一人歩きして、変に規則正しい給食のような食事を続けるような人がでてしまうのも避けたいところです。
栄養成分表示も切実な人が多い部分に絞って、しっかり周知徹底し十分な活用が為されるように進めて欲しいと思います。
だから、糖尿病を持つヒトに大事な糖質含量やどんな糖質であるのか、と謂う情報や腎臓病の方が適切な食品を選べるようなたんぱく質含量がなるべく多くの食品に示されるように進んで欲しいな、なんて思うわけです。
成分表示が充実した事で惑わされる人が有効活用する人よりも多いという事態は絶対に避けたいところだと思うのです。
本当に私たちは様々な栄養素の成分表示を必要としているのですか?もう一度考えてしまうのです。