カット野菜は便利だけどダメなの?と葛藤しなくてよいワケ

※8月15日16:15追記。栄養素が残る事を客観的に示していないと、ツイッターなどで意見がみられましたので、気になる方は追加したこの脚注*1を参照して下さい。





「It Mama」というウェブサイトに掲載されている
野菜不足を感じても「カット野菜」だけはやめた方がいい理由
という記事を読んだ。

記事より
フードプロデューサーの南清貴さんは、著書『じつは体に悪い19の食習慣』で「カット野菜は、もはや野菜にあらず!(中略)たとえ野菜不足のときでも、私は食べない方がいいと断言します」と主張しています。

南さんのプロフィールはご自身のウェブサイトに掲載されております。
最新の栄養学を徹底的に学んだそうですが、どこでどのように学んだのかは気になるところではあります。



■どうして食べない方が良いの?
南さんがカット野菜は食べない方が良いとする理由はどのようなものなのでしょうか。

記事より
南さんが「カット野菜は野菜不足のときでも食べない方がマシ」と言う理由。それは、“薬品漬けで栄養がちゃんと摂れないから”だそうです。

「カット野菜は、野菜を切った後、次亜鉛素酸ナトリウムという消毒液やプールの消毒液に使う塩素水に何度も繰り返し漬けて殺菌しますにおいを嗅いだだけで、食べたら危ないとわかるはずですが、そのにおいを消すために、何度も水で洗浄します。

野菜に含まれている栄養素は水溶性のものが多いですから、殺菌剤液に浸けたり洗浄したりする間に流れ出てしまい、ほとんど何も残っていません。あえて言えば食物繊維くらいでしょうか。そんな野菜を、お金を払ってまで食べる意味があるでしょうか?」

なるほど、栄養素が殺菌やすすぎの間に流れ出てしまって、野菜からの栄養摂取を期待して食べてもそれは無意味だよ、という主張のようです。
まず気になるのは「薬品漬け」という表現ですが、この作業は生で食べる野菜による食中毒(特に腸管出血性大腸菌によるもの)を予防するために必要な操作です。そして、その方法は安全性にも配慮され基準がつくられているものであり、身体への影響を消費者が心配する必要はありません。寧ろ、採れたて野菜の汚れをはたいてそのまま食べる方が明らかに危険な行為と謂えるでしょう。それに対して「薬品漬け」という食品に対する言葉としては負のイメージを与えるような表現は、印象操作と謂われても仕方が無いでしょう。
また、食中毒の原因となる微生物が付着している食べものは大抵の場合、臭いも味にも影響を与えないため、外観からその安全性を判断することはできません。臭いを嗅ぐだけで危険という文言については、実際は逆の事もある事は知っておいて良いでしょう。


■本当に栄養素はほとんど残っていないの?
このような主張をするためには根拠を示して・・・となるのですが、記事中にはそれがありません。引用元にはあるのかもしれませんが、その根拠の提示を待つまでも無く、そんな事はありませんと謂ってしまって良いでしょう。
今回は簡単にその理由を説明しましょう。

【野菜の栄養素は水溶性のものばかりではない】


ビタミンAやビタミンKなどは野菜から補給が期待できる重要なビタミンですが、これらは脂溶性成分です。

【ある程度は栄養素が残っている】


カット野菜を食べてみれば分かるのですが、確かに水っぽさは感じてしまいます。つぶれた切り口から細胞内の栄養が流れ出ますし、浸しておいた水が細胞内に入り込みます。これにより、それぞれの栄養素は損耗してそのままの野菜よりは少なくなると謂うのはその通りです。
ですが、ほとんど流れてしまうかというとそんな事はありません。その証拠に、カット野菜であっても噛みしめればちゃんと味がするはずです。味がすると謂う事は、味の元となる栄養素(食品成分)が味覚で感じられるほどちゃんと残っているという証拠なのです。

カット野菜がぱりぱりしていると謂う事は、野菜の細胞がちゃんと生きている証拠です。生きている細胞を水に浸しても、細胞が崩れていなければ栄養素がほとんど流出してしまうなんて事はほとんどありえないんですね。


■あくまで代用品として
カット野菜でもある程度は野菜としての栄養摂取を期待できます。安心して食べて下さいね。
とはいえ、厭くまで仕事が忙しくて調理時間を確保できない人や、出先でも生野菜を食べたいという場合の代替的なものである、そうした認識はもっていただきたいと思います。
時間のとれるときは、美味しそうな野菜を選んで、新鮮なウチに調理して楽しんでもらえればと思います。

*1:この記事は化学的に考えて、あ〜そりゃそうだ、と納得していただけるように簡潔に反論するというテーマにして書いたものですが、思った以上に注目されましたので、一つだけソースを示す事にします。女子栄養大学出版部刊調理のためのベーシックデータ第4版p90および91より。生で5分間水さらししたときの人参(千切り)ビタミンC残存率70%、千切りキャベツを冷蔵保存した場合(5℃)のビタミンC残存率、2日後89%。条件は違うものの、流出しやすい水溶性ビタミンですら簡単には抜けきらないことが分かります。コチラの本は市販されてますので別の調理による損耗なども参照できると思います。また論文については、ブックマークコメントで示していただいたhttp://ci.nii.ac.jp/naid/110001171858/を参照すると良いと思います。