食料自給率や輸入食料にヲモツタコト:その1

最近、『食料自給率アップを目指そう!』という標語を良く目にするようになりました。つい先日も、おいしい国産農産物を食べて食料自給率アップ、とか地産地消・食育の推進で農業に活力を、という広報紙を読みました。このような自給率向上を目指した活動はどこまで有効なのでしょうか?
当ブログでは、過度に和食に拘る食育や身土不二と混同される地産地消を批判してきましたが、今回はそこから離れた視点で国産農産物の消費について考えてみました。とは謂っても、自分の専門分野外ですので、おかしなところや勘違いなどがあるかも知れません、あやしんで読んでいただければ幸いです。

■安全と安心
さぁ、今晩は何を作ろうかしら、スーパーで買い物しよう。野菜を買おうかな・・・と思ったときどんな基準で選ぶでしょうか?、スーパーでもどこでも大抵のお店に並んでいる食材は国産だろうが外国産だろうが安全性に心配のあるモノはほとんど無いと思います。
ここで白状しちゃいますが、どらねこは生鮮野菜はだいたい国産を選んで買うことが多いです。いや、外国産の野菜が危険だと思っている訳じゃないのですが、なんとなく国産選んじゃうんです。その理由をちょっと考えてみたのですが、合理的な理由とそうでない理由が混ざり合っているようです。

どらねこが国産農産物を選ぶ理由
1.農業が盛んな地域なので鮮度や品質の良い国産野菜が並ぶ
2.農業が盛んな地域なので野菜の店頭価格がそれほど高くない
3.なんとなく、国産のほうが安心する

3はオイオイ、という内容ですが、そう思っちゃうんだからしょうがないです。どらねこの知り合いには、コレに有機無農薬、減農薬が加わるヒトも居ますし、外国産はなんらかの汚染の危険性があると思っているような方もいらっしゃいます。
店頭での表示の仕方を見ても、国産は国産地産地消だポップには自給率アップだ、安全・安心などと大いにアピールしておりますので、それらの要素が消費行動に影響を与えているのは間違いないでしょう。国産生鮮食品は輸入生鮮食品に比べて、品質差以上に評価されているように思います。
それなら、国産生鮮食品のイメージアップ策やナショナリズムに訴えかける宣伝手法は有効なんじゃないの?という結論になりそうです。でも、日本の食料自給率は低迷を続けて、エネルギーベースの自給率についてはここ数年、ずっと40%前後で推移しているのでした。う〜ん、どうなんだろう?そこで、品目別自給率*1に目を転じてみると、野菜類のエネルギーベースの自給率は83%で10年以上低下していない事がわかります。平均的に見て特に高い関税を課しているわけではないと思いますので、健闘していると謂えそうです。

国民感情的には追い風とも謂える状況に見えるのですが、食料自給率は上昇しない・・・それは何故なのでしょう。様々な理由*2が考えられるのですが、どらねこは家計の収支に着目してみました。

■買いたくてもかえない食べたくても食べられない
どらねこは貧乏ですが、少しくらいの値段差なら国産を選ぶと思います。お金にもっと余裕があれば、値段差が大きくても国産食材を選びそうです。これは、自分や自分の周りの人たちだけでなく、日本人の多くが気持ちの上ではそう考えているのではないでしょうか?ちょっとしつこいですが、国産食品を購入したいという気持ちは結構高まっていると思うのです。それでも、自給率は上昇しない・・・もしかしたら国産生鮮食品で賄う事が現実的に困難な層が多くなっているからかも知れません。
では、家計の収入と消費支出に占める食費の関係はどうなっているのでしょうか。平成16年全国消費実態調査の統計表を参考にどらねこなりに考えてみました。表*3を例に意見を述べてみようと思います。

この表は支出に占める食費の割合を見るために作成しました。
皆さんもおなじみ(?)のエンゲル係数は『家計の消費支出に占める飲食費の割合を示したもの』で、生活水準の指標としても用いられます。表を見ると世帯収入200万未満では27.2%で、収入が上がるほど低くなり、収入2000万以上の世帯では19.1%になっております。一見あまり大きな差は見られないように思えますが、どうなのでしょう?そこで、どらねこは消費支出ではなく、世帯収入に占める飲食費の割合を計算してみました。それが、表中の【食費の収入に占める割合】です。
世帯収入200万円未満の群では、収入に対する飲食費の割合が約40%であることが分かります。これ以上に食費をかける事が極めて困難・・・というか、食べることは絶対に必要なので落としようにも落とせない水準なのかも知れません。このような収入状況にある方々は、国産食品を選びたくても選べない状況なのではないでしょうか?
この調査は平成16年のものですが、最近の不況の影響で世帯収入の少ない層が増えていることが予測されます。いくら地産地消・国産食材の素晴らしさを訴えたところで、購入する余裕がなければ、自給率を増やすことは難しいでしょう。値段の安い輸入食品を購入せざるを得ないのです。買いたくても買えないと考えられる層が増えているのに、お気楽に国産食品の素晴らしさを訴える自給率向上運動を行っていて良いのでしょうか?どらねこは疑問に思うのです。
食料自給率向上には貧困対策が重要だと思います。

■外食と輸入食材

この表は食料支出に占める各食品項目及び外食費の割合を抜粋したものです。世帯収入の違いが外食費の占める割合に大きく表れている事がわかります。
これはどらねこの憶測ですが、収入の少ない方の外食と高収入の方の外食はその性質は大きく違うと思うのですよね。最近外食産業の価格低下圧力が高まっている事がニュースで採り上げられたりしておりますが、これは比較的収入の少ない層を取り込む為だと思うのです。このような低価格をウリにした外食産業では積極的に輸入食材を使用してコスト削減に努めると思います。食料自給率の低迷はこの影響もあるとどらねこは考えます。外食は誰だってしたいですから、低価格で提供すること自体*4は非難される類のモノではないと思います。

■意欲は高まっている
国民の国産志向は既に高まっているとどらねこは思います。食料自給率が向上しないのは、食育や地産地消運動などの広報が足りないからじゃないと思います。
やっぱり貧困撲滅、それが1つの解決策じゃないかな、そう思います。

*1:農林水産省平成21年食糧需給表(概算)より

*2:自給率に与える影響がより大きな要素があるかと思いますが、今回は言及していないという事ですので、誤解の無いよう

*3:この記事に掲載する表は全て、平成16年全国消費実態調査 家計収支編[二人以上の世帯]第一表年間収入階級別1世帯当たり1ヵ月の収入と収支を元にどらねこが作成・改変したものです。ご了承下さい。

*4:労働の搾取により達成されるものではないと考える