食料自給率や輸入食料にヲモツタコトその2

前回は、自給率向上には貧困対策が大切なのでは?という主張をしました。選びたくても国産を選ぶ余裕がないという事も食料自給率を抑えてしまう理由なのじゃあないかと思ったわけですね。
ところで、食料自給率は上げなければいけないモノなのでしょうか?農林水産省は食育と結びつけた食料自給率向上を目指した活動を行っていますが、それに対して反対する意見も一部に見られます。その中では農業関連出版業務に携わる浅川芳裕氏の主張が著書である講談社刊『日本は世界5位の農業大国-大嘘だらけの食料自給率-』がベストセラー(らしい)となった事により一般に良く知られているようです。
■浅川氏の主張
浅川氏は日本の農業はそんなに弱くない、自給率40%というのは、弱い日本農業を演出したいと考える農林水産省のまやかしだ、と訴えます。主張の根拠の1つとして『供給エネルギーではなく、実際に日本人が摂取しているエネルギーで国産供給量を割れば良いではないか、そうすると自給率は40%よりも高くなる』という趣旨の発言があります。
この計算方法は、『日本の自給率は本当はもっと高い』、『食品の廃棄が多すぎる』という主張の方々によく利用されているようです。

実際の計算について、農業経営者2008年10月号p25の記述から引用します。

自給率厚労省が定める健康に適正な「食事摂取カロリー」を基準に編集部で試算しなおしてみた。年齢別性別の適正基準に対しその人口分布を厳密に当てはめてみると、国民一人一日当たり1805kcal(男性2012kcal,女性1599kcal)となる。国産供給の1013kcalをそれで割ると、自給率は55%にもなる。
実際の「摂取カロリー」(最新05年版の国民健康・栄養調査)をベースにしても同様の結果が出る。摂取1904kcalに対し、自給カロリーは54%を占める。
<中略>
これがいたずらに食料不安を抱かせず、常識的な理解に即した自給率の数字と言えるだろう。

どらねこは、カロリーベースの食料自給率が低すぎるのかそうでないのかについて明確な答えを持っておりませんし、どこまで有用なモノかという判断もつきません(しょせんそのレベルです)。浅川氏の謂うように50%を超えていたとしても低いような気はありますがそれは個人的な印象ですね。まぁ、自給率の数字自体にも確かに関心はありますが、それよりも前回述べたように国産野菜を選びたくても選べない層が増えてきているだろう事の方が問題だと考える立場なんですね。
そんなわけで、高いか低いかには意見を出せないどらねこですが、その根拠となる数字の出し方についておかしなところがあれば、意見を表明したいと考えます。

では何がおかしいのでしょうか?実は、これと似たような内容の食料自給率批判について問題点を指摘したことがありました。数少ないどらねこファンの方は覚えていらっしゃるかも知れませんが、それがこちらの記事です。
食料自給率は低いのか?
この記事では、国民健康・栄養調査のデータをそのまま国民一人当たりのエネルギー摂取量とするのは適切ではない、と指摘をいたしました。実は国民健康・栄養調査の食品摂取量は過小申告があり、実際の摂取量より明らかに少ないのです。これは栄養疫学の知識がある人には知られているモノですが、一般の方にはそんなのしったこっちゃないですよね。
これは浅川氏の記事でも54%の計算根拠として示されております。専門分野外のデータの扱い方は難しいのは分かりますが、農林水産省自給率の公表に文句をつける記事でコレでは説得力に疑問も感じてしまうものです。(コレ詭弁)

■ここから本題
浅川氏の記事では国民健康・栄養調査の結果をベースにした場合、摂取が1904kcalとされてました。国民健康・栄養調査の結果は過小申告があり、実際の摂取量よりも少ない値が出てしまうのでしたね。でも、この栄養調査の結果から出した1904kcalはその前に示した編集部で試算した『適正で、厳密な基準に当てはめて求めたはずの国民一人一日当たりのエネルギー量1805kcal』を上回っているんです。これは何を意味するのでしょうか。

どらねこは、編集部の試算がおかしいのではないかと考えます。『厚労省が定める健康に適正な食事摂取カロリー』を基準に・・・と述べておりますが、その計算根拠の出典が示されておりません。これでは計算結果に疑問を持ったとしても検証することができませんね。
試しにどらねこも浅川氏と同じような手法で計算をしてみることにしました。それには元となるデータが必要です。用意したデータは以下の通りです。

●人口推計:平成22年10月報 (平成22年5月確定値,平成22年10月概算値)「全国:年齢(5歳階級),男女別人口」総務省調査
●エネルギー・栄養素の食事摂取基準(2010年版)厚生労働省日本人の食事摂取基準2010

どらねこが計算した結果*1は次のようになりました。

一人一日当たりエネルギー量 2105kcal

21年度の食糧需給表によると、国産供給熱量は964kcal なので・・・

国産供給熱量 964kcal と一人一日当たりエネルギー量 2105kcal から自給率を計算してみると・・・45.8%

と、なります。これは身体を維持するのに必要量を求めたわけで、太り気味が気になる日本人の実際の摂取量はもう少し多いかも知れません。どちらにしても試算した自給率はどちらも妥当な計算方法ではないという事*2を分かっていただけたかと思います。

■食品ロスとの関係
これらの国民一人一日当たりの供給熱量と栄養摂取量の関係は、食品ロスの話題に結びつけられて説明される事があるようです。
つまり、低く見積もられた必要栄養量(1800kcal程度)と供給熱量(2500kcal程度)の差をしめし、なんと日本人は一日に1食分も食べ物を残しているではないですか。

必要の無い輸入をして自給率を低くしているのだっ!!

とか

日本人は食べきれない程の大量の食材を輸入し大量に廃棄している。

と主張されるのです。これは妥当な主張なのでしょうか?

でも、実際はその半分程度のロスであると考える方が現実的なようです。それでも食品ロスがあることは間違いないんじゃないの?もっと減らせるんじゃないの?という意見もありそうです。
次回は食品ロスについてちょっと考えてみたいと思います。

*1:この表に入れ込んで計算したよhttp://f.hatena.ne.jp/doramao/20101118164850ある程度の誤差はやむを得ないけどそれなりに妥当でしょ?

*2:ここでは計算結果の意味は論じてません