産地直売所の活況と不安

どらねこは東北のちょっと田舎(?)に住んでいるのですが、東京に居た時と違って買い物に出るときに車をつかう事がとても多くなりました。車なので荷物が重くなっても大丈夫なため、一回の買い物で買い込む量も多くなったように思います。こちらに来て面白いな、と思ったのは農産物の直売所や直売コーナーが多いことでしょうか。引っ越してきて8年以上たつのですが、その間にもそう謂ったコーナーは増えており、取り扱う商品もたいへん幅広くなっております。


■おねうちものをさがせ
直売所コーナーの魅力にはそこでしか手に入らない商品があることや鮮度の良い農産物が並ぶことなど色々あると思いますが、お手頃な価格が惹きつけているように思います。最近の活況は、経済状況の悪化により食料品への支出を抑えたい家計事情に拠るところが大きいのではないでしょうか。かく謂うどらねこ家がそんな状態なものですので、よその事情もだいたいそんなもんじゃないかな?と思ったのです。実際全国的にもそう謂った直売所は非常に増えている事がデータ*1にも現れております。
農産物の直売所で買い物には宝探し的な楽しさ*2があるように思います。スーパーや八百屋にはあまり並ばないようなB級品が格安で売っていたり、この値札間違っているんじゃないの?と思うような値段がついている野菜があったり、その時期だけのレアな山菜が無造作に置かれていたりします。思いがけずお値打ちものを見かけたときには思わずニヤリとしてしまいます。
このように人気の直売所ですが、盛況で販売所も増えてお客さんは喜んで・・・と良いことばかりなのでしょうか?どらねこは自分でも心配性*3だと思うのですが、今回も例によってこの状況を心配してしまうのです。さて、どらねこは何を心配しているのでしょうか?


■しんぱいなこと
さ〜て、何を買おうかなとウロウロしていると、生産者の方が商品の補充にくることがあるのですが、やっぱりと謂うか大抵は高齢な方なんですね。農業の高齢化を実感するのですが、それだけじゃなくて直売所へ商品を置くような方は、お小遣い稼ぎ程度の年金収入で生計を立てているような高齢の方が特に多いのかな、と思いました。これについてはデータが無いのでなんともいえませんが。
生活の心配の無い高齢の方が趣味的に小遣い稼ぎ程度にこうした農産物の販売をしてくれる事はどらねこ家にとってとてもありがたいことなのですけれど、前項に書いたような規格外品を廉価で販売する事やちょっと安すぎる値段設定で野菜を販売するのって、野菜の価格破壊につながりかねないように思うんですね。
農業地域に住んでいると、ある時期に特定の野菜を外で買わないなんて事が良くあります。例えば、夏なんかはトマトがこれでもかと熟すので、ちょっとした家庭菜園でも家族では食べきれないほど実ります。外に仕事を持っていない高齢者の居る家庭では、それなりの規模の家庭菜園があったりしますので、それ以上の収穫となり、出来た野菜は近所に配られまくります。こうした菜園主は自分のつくった野菜を食べて貰うと謂う事が楽しみであり、目的であるので、利益など考えません。そして、貰った家庭では相手のウチでつくっていない野菜などをお返しをするのです。


■ひろがる
こうした家庭菜園レベルであれば規模が小さく、農産物の販売価格に与える影響はさほど大きく無いのかも知れません。直売所はただで売られると謂う事はありませんが、市場価格から比べるとおかしいほどに廉価で販売される事もあります。そして採れすぎてしまい価格調整の為に廃棄するような状況にあっても、沢山採れた野菜を捨てずに、そうした販売所でバカみたいに安い値段でも売りに出したりするのです。
産地直売所の拡大ペースが緩まなければ、農産物の価格低下圧力となり、農業収入を主たる生計としている農家の生計を圧迫するのでは無いかと心配してしまうのです。農業従事者の高齢化が進み、ますますその傾向が強くなれば、若者の新規就農を更に圧迫するのでは無いでしょうか?杞憂なら良いのですが。


■国産であること
そうした直売所が人気の背景は国産かつ生産者の姿がみえて安心できて、鮮度が良いなどと謂った付加価値があると思うのですが、そうした国産であることみたいな付加価値は値段の安い外国産の野菜に対して大きなアドバンテージだと思うんです。こうした付加価値のおかげで価格では明らかに不利な国産野菜がなんとか検討しているのですが、それを直売所で安価で販売することで価格低下圧力となったらどうでしょう?付加価値を高めるためにニセ科学やオカルトに頼る農家がいたとしても、そんな状況に追い込んでしまっているからかも知れません。そんな事を考えてしまうんですよね。


■はしご
農業に未来を!その為には・・・と、大規模集積化とか補助金とかいろいろな話はあるように思いますが、一生農業でと考える若い方では、補助金みたいないつ無くなるか分からないものを当てにはできないし、将来農産物の価格が更に安くなるのが見えているのなら、大規模化をするための資材や機器の購入などを今の価格をベースに将来への投資をすることなんて怖くてできません。そこにかけられたはしごはすぐに誰かが持って行ってしまうようなものなのですから。


■おわりに
今回のエントリは色々心配な事を書いただけで特に結論はありません。美味しい農産物を食べる事が贅沢で皆が憧れるような文化とならないと成り立たないのかも知れません。少なくとも、「農業は大切だから、従事者の方に感謝し敬意を払いましょう」みたいな感謝でごまかすのでは無く、大切なものだったらしっかりとお金を出すことが必要なんだと思います。でなきゃ、安易に礎とか大切とか美しい日本の文化とかの言葉でごまかしてほしくないと思います。

*1:2010年の農業センサスでは、産地直売所数は約1万7千施設であり、5年間で約3千施設増加したとある

*2:キノコ採りなども同様の楽しさがありますね

*3:市場に出回る食品の放射性物質汚染については全く心配していないアンタは安全厨だろみたいに思われる方もいるかもしれませんが