そんな葉酸摂取で大丈夫か?


【登場人物】
ポニョ子:自称南千住研究所Z所長。謎の拳法、モフモフ拳を習い始めたらしい。
どらねこ:自称モフモフ療法の世界的権威、南千住研究所Zの末端研究員。
暗雲師範:自称モフモフ拳の最高指導者。夢想の離論により万物を解するとされる。
みつどん:自称体重1デシトンらしい。今回は会話にのみ登場。

ポニョ子:ガラガラガラっ!どらねこいる〜っ?
どらねこ:どうしんだい、ポニョ子さん?血相を変えて・・・
ポニョ子:△×※&$○!!
どらねこ:まぁ、まぁ落ち着いて。

【ポニョ子のはなし要約】
最近通いはじめたモフモフ拳道場の師範は変わったヒトで、彼の提唱する夢想の離論によれば、世の中の仕組みを全て解き明かす事も出来るらしい。
ある日、道場にて他の門下生とポニョ子が結婚と子どもの人数について理想を語っていたところ、ある人の妹が最近妊娠したという話しになった。そして、コーヒーやアルコールを飲めないのが辛い、子どもの健康のために栄養摂取にも気を遣っているという話しになり、サプリメントも使っているよというところまで進んだところで、突然師範が話しに混ざってきたらしい。
『赤ちゃんの神経管閉鎖障害を予防するために妊娠初期に葉酸サプリメントをとるよう国が進めているが、そんなのはサプリメント業者を儲けさせるための陰謀だ!自然の食べ物を十分食べれば不足する心配があるわけ無い!』
と一刀両断したそうだ。
その話し本当なの?どらねこ、葉酸について教えろ調べろっ!というものだった。

■答えてどらねこ
以下、ポニョ子が質問、どらねこが回答というスタイルで進めたいと思います。

ポニョ Q1:
葉酸ってへんな名前よねー。

どら A1:
葉もの野菜に含まれている事が多い事から folic acid と謂う名前になったみたい。その直訳なので御免。

ポニョ Q2:
葉酸って何の役に立つの?妊娠初期に必要というけど、貯めておけないの?

どら A2:
ポニョ子さんはDNAって知ってるかい?葉酸はそのDNAを合成するために必要な材料を作り出すために役に立って居るんだよ。葉酸が十分にないと正常な細胞分裂が阻害されちゃって、貧血が起こる事がしられているんだ。妊娠期に必要と謂われるのは、先天性の神経管閉鎖障害発症と関わりがあることが明らかになったからなの。妊娠初期の胎児をみると、胎児の血液中には母胎の五倍程度の濃度で葉酸が含まれていて、これは胎児の成長に葉酸が必要な事のあらわれなんだね。
ところで神経管というのは脳や脊髄の元となるもので、細胞分裂が盛んな妊娠初期につくられるんだね。神経管が閉鎖する受胎後28日以前に十分な葉酸が供給されないと二分脊椎症などの神経管閉鎖障害を発症する危険性が高くなると指摘されて居るんだ。貯めておければ良いのだけど、残念ながら貯蔵できる葉酸量には限りがあるし、日常的な摂取量もそれほど多くないんだ。

ポニョ Q3:
だっていつ妊娠するか分からないじゃないの!

どら A3:
それは鋭い指摘だよね。予想できる場合には補うというのが求められると思う。子どもが欲しいと思って行動している時には欠乏しないように栄養補助食品などで補うと良いんじゃないかなぁ。ただ、神経管閉鎖障害の予防に重要な時期をすぎても胎児の発育分を確保しておかないとね。妊娠中は母親にも巨赤芽球性貧血という葉酸欠乏によりあらわれる貧血のリスクが高くなることが知られているんだよ。

ポニョ Q4:
食品に入っている葉酸の吸収率は50%ほどに対して、サプリメントから摂取された葉酸は85%ほどの吸収率とされているのはおかしい、それはサプリメント業者が儲けるためにデータを改ざんしたに違いない!!と、師範がいってたワヨ

どら A4:
それ、何の陰謀論?その前に誤解もあるかも知れないね。難しい話を省いて説明するのはどらねこの実力ではたいへんなのだけど・・・うん、頑張ってみるね。
一般に葉酸というのは、1つの物質じゃなくて体内で葉酸として働く物質の総称だったりするんだ。狭い意味での葉酸プテロイルモノグルタミン酸の事で、食品中に含まれている葉酸の多くはこれとは違うモノなのね。で、食品に多く含まれるタイプの葉酸は調理作業によって壊れやすいことが知られているんだ。
食品中の葉酸がどれぐらい体内で利用されるのか調べた研究は複数あるんだけど実は、結構バラツキがあるみたい。でも、狭い意味での葉酸そのものを食べる場合よりも低い利用率になるというのはどの研究でも一致しているし、モノが違うのだから利用率が低くなってもおかしくない話しだというのは分かってくれるかな。50%という数字自体は暫定的なモノで、今後研究が進めば変わる事もあるとおもうよ。だから50%の利用率です(キリッ!)みたいなヒトがいたとしたら誤解の基だから気をつけても欲しいな、と思うよ。でも、このようにデータが不十分だというのは日本人の食事摂取基準にはちゃんと書いてあるんだよ。騙そうとするヒトは元の論文を示して、分からない事もあるなんて書かないよね。陰謀だなんて陰謀だよね?

ポニョ Q5:
でも、国と製薬会社が結託していたのなら分からないワヨ。

どら A5:
国の基本姿勢は、ビタミン類の補給は食事からで十分で、サプリメントからの補給は推奨しないというものだよ。だから、そんな方針の国が受胎の前後にはサプリメントで補いましょうという態度を示したと謂うことはとてもよっぽどの事じゃない?国ってメンツを大切にする気がするから逆に凄く信頼できるな。

ポニョ Q6:
赤ちゃんの神経管閉鎖障害を約80%防止するなんて喧伝する医師がいたがあんなのは製薬会社の回し者だ。証拠がない、と怒っていたのヨ。

どら A6:
まず、80%の話しだけど、この数字について説明するのはどらねこには難しいです。これは幾つかの疫学研究の結果から導き出されたもので、介入研究、ケースコントロール研究が行われているみたい。神経管閉鎖障害の発生率が高い国では80%ほどリスクを低減できた研究*1があるのも事実だよ。でも、日本はそれほど高い発生率の国ではないと思うのでその通りの予防効果では無いかもしれないね。ただ、幾つかの介入研究では完全に予防ができたとされるデータもあるんだよ。詳しいことはコレ*2を読めばイイヨ。

ポニョ Q7:
最初からそんなに良い資料があるなら紹介しなさいヨ。

どら A7:
ページ数が多いからより詳しく知りたいヒト向けだと思って・・・。どらねこの話しで興味を持ったヒトがいれば是非読んでもらいたいです。



■おまけ
(以下はどらねこの個人的な感想や推測、憶測などが含まれております。読み物として信用しすぎないでよんでくださいね)
ポニョ子:思った通りね、あの師範なんか胡散くさかったのよね。師範のブログちょっとのぞいたことがあるんだけど、プロフィール写真に若い頃の写真載せてて、なんかみつどんの昔のパスポート写真と似ているし。
どらねこ:ソレ関係有るの?

ポニョ子:サプリメントで予防できるのなら、めんどいから毎日ジャンジャン飲んじゃえば良いのよね、そしたらいつ妊娠しても心配いらないモノね。
どらねこ:(また極端な・・・)実は、サプリメントに含まれているプテロイルモノグルタミン酸の形で葉酸を大量に摂った場合、体内での葉酸代謝がうまくいかなくなる事が報告されているんだ。だから食べ過ぎると害があることも覚えておいてね。でも、サプリメントの推奨量である、400μg程度の補助では害が現れたという報告はないからその心配はないので安心してね。
これは特殊な例だと思うのだけど、サプリメントで定期的に多量の葉酸補給をしていると、ビタミンB12欠乏の初期に現れる血液検査データを見逃す危険性も指摘されていたりするから注意ね。必要性が不明なヒトがサプリメントを摂って悪いことがあるというのは面白くないよね。

ポニョ子:また回りくどいわね、アンタ。ところで、どれぐらいのキケンがあるの?神経管閉鎖障害って?
どらねこ:さっき紹介した【神経管閉鎖障害の発症リスク低減のための妊娠可能な年齢の女性等に対する葉酸の摂取に係る適切な情報提供の推進について】にこんなデータがあったよ。

これを見ると、日本での発症リスクは高くなっているみたい。最近のデータは手に入らなかったのだけど、ネット上には年間500〜600件という情報もあるね。なぜ最近増えているのか・・・はっきりしたことは分からないみたい。これはどらねこの完全な憶測なんだけど、国民健康栄養調査の結果をみると20〜40代女性の葉酸摂取量をみるとだいたい250mg/日なのに対し、60代女性を見るとそれより100mg以上も多いんだ。葉酸摂取量を調査するようになったのは平成13年以降だから、この方達が昔どれぐらい葉酸を摂っていたか分からないんだけど、もしかしたら若い女性の葉酸摂取量は昔に比べて減っていて、それが発症リスクを高めている可能性があるのかも知れない・・・な〜んてどらねこの憶測!それと、ダイエットという名の無理な減量の最中に受胎した場合なんてのも危険性を高めているかも。

ポニョ子:ふ〜ん、まぁどらちゃんの憶測でしょそれ。でも、1万人に5〜6人というのはイマイチ実感ないわよネ。(ダイエットってキケンなのよね、みんな太ればいいのに)
どらねこ:これを大変なリスクと考えるかどうかは分からないけど、大きな負担の無い方法で深刻な病気を回避する手段があるのなら、教えて貰いたいと思うし、できるのなら実行したいとどらねこは思うなぁ。

ポニョ子:うん、大切な情報が周知されない方が問題ヨネ。

*1:Berry RJ, Erickson Jd, Li S, et al. Prevention of neural-tube defects with folic acid in China. New England Journal of Medicine 1999;341:1485-90.

*2:神経管閉鎖障害の発症リスク低減のための妊娠可能な年齢の女性等に対する葉酸の摂取に係る適切な情報提供の推進についてhttp://www1.mhlw.go.jp/houdou/1212/h1228-1_18.html