妊娠前に読んでいいもの・わるいもの
【妊娠中に食べていいもの・わるいもの】
これは、 ツイッターでToteknonさんから紹介された、有名どころのポータルサイトが提供している妊産婦への情報紹介ページです。
さて、どんなものかな・・・と開いてびっくり!厚生労働省が平成18年に策定した『妊産婦のための食生活指針』*1を否定しているとも捉えられても仕方がないような内容が書かれておりました。
さて、何が問題なのでしょう。内容を適宜引用しながらどらねこの見解を示そうと思います。
■人気があるらしい
どうやらこの記事は人気があって、妊娠・出産のカテゴリでは一番読まれているらしいです。gooベビーの読者数は如何ほどかは存じ上げませんが、とらねこ日誌とは比べものにならないというのは間違いないでしょう。
過疎ブログで個人の勝手を述べるのとはワケが違うと思います。そこんとこヨロシクメカキャット*2!
■タイトルが困る
「これは絶対ダメ!」というものは基本的にありませんが
と謳いつつ、『食べていいもの・わるいものというタイトル』により、ネガティブな書き方をされた食べ物は避けるべしという印象を与えかねない虞があります。ネガティブに扱われている食材や栄養素にはどらねこが妊娠中の摂取を推奨するものが含まれておりました。
また、本文中にはダイエットという文字が肯定的に扱われておりますが、日本に於いては『ダイエット』と謂うコトバは本来の意味『食事療法』ではなく、『減量』を意味する単語として用いられており、読者もそう認識するでしょう。しかし、妊娠中の体重増加を気にしすぎる方が増えた影響からか、妊娠中に必要と考えられるエネルギーを確保できていないヒトが増えてきていると指摘されています。このような体重増加に悪い印象を与える書き方は全く望ましいモノでないとどらねこは考えます。
■十分な栄養摂取で望ましい体重増加を
まず、基本的なことをちょっと書いておきます。妊娠中は子どもの成長分や自身の体の変化などの影響から普段食べる栄養摂取量よりも多くの食べ物を体に入れることが絶対に必要になります。その増加分は栄養素によっても、妊娠の初期〜末期までそれぞれ異なる事が知られております。大事なことなので二度謂いますが、『妊娠中は普段よりも多くの栄養素が必要になるのです』。それを踏まえた上で、記事を読み進めて参ります。
積極的に食べたいもの
栄養バランスに気をつけ、より低カロリーな食材選びを
妊娠中はふだんの1〜2割増しの栄養素が必要だといわれていますが、むやみに食べる量を増やすのはNG。大事なのは「量」ではなく「質」。同じ栄養をとるなら「いかに低カロリーのものを選ぶか」がコツになります。ただし、低カロリーだからといって以下に紹介した食物だけを偏って食べ過ぎることは、 妊娠中の体に良い影響を与えません。さまざまな素材を組み合わせてバランスの良い食生活をこころがけましょう。
※強調はどらねこによる
食べる量をふやさず、低カロリーの食材を選んで食べたらどうなるよ?必然的にエネルギー摂取量はへりますよね?
日本人の食事摂取基準では妊娠初期には+50kcal 中期+250kcal 末期+450kcal と、それぞれ普段の必要量に付加する事を推奨しています。低カロリーの食材ばかりを偏って食べる事は妊娠中の母子に良い影響を与えません。
■脂肪を目の敵にするな
低カロリーに拘るあまり、脂肪摂取についてしつこいぐらい控えるように煽ります。
■脂肪分の少ないタンパク質
同じ種類でも、選び方でカロリーに大きな差が出るのが肉や魚。肉なら赤身やささ身など、脂肪の少ない部位を選んで。魚もトロより赤身のほうが低カロリー、高タンパク。いかや貝類は、低脂肪でおすすめです。
さらに・・・
■お菓子
洋菓子は脂肪分・糖分たっぷり。スナック菓子は高カロリーなので、避けたほうが無難です。「どうしても甘味を」という場合は油分の少ない和菓子、果物や甘みのある野菜のほうがおすすめ。といっても、食べすぎは禁物です。
脂肪というものは母子の栄養状態を維持するために重要なエネルギー源であるばかりか、健やかに生活するためには必須の栄養素である必須脂肪酸の含まれ、十分な摂取が望まれる栄養素です。さらに、出産後に子どもに与える母乳は授乳期以前の妊娠期に蓄えた脂肪が原料になることが知られております。母乳中の脂肪量は赤ちゃんの成長に重要なのです。
記事では、『トロよりも赤身』と謂ってますが、妊娠中には魚をあまり食べ過ぎないように・・・という注意点がありますので、必須脂肪酸の補給源として重要な魚については是非、脂肪のある程度ついたものを選んでもらいたいとどらねこは考えております。
■根拠無く不安を煽る
妊娠中は嗜好が変わったり、バランスよく食べるよう気をつけなければならないことがある程度増えてしまうことでしょう。そんな状況では必要のない食事制限や配慮など面倒なばかりか必要な栄養摂取の妨げや余計なストレスをため込むことにも繋がりかねません。
■インスタント・レトルト食品
味つき缶詰
手軽に食べられるので、料理が苦手、仕事などで忙しい人はつい使ってしまいがち。でもインスタント食品は一般的にカロリーや塩分が高めで、使われている食品添加物も気になります。妊娠中は、できるだけ避ける努力を。
確かに過剰な塩分は妊娠期には問題となりますが、妊娠期だからといって、控えなければならない特別な食品添加物が使われているという事はありません。この記述は余計な不安を煽ることになりかねません。逆に天然由来の食品でも、ミネラルや食物繊維補給を考えてヒジキをたっぷり食べるようなことは胎児にも影響を与えかねない量の無機ヒ素が体に入る危険性があります。健康に心配のないレベルの食品添加物を控えるように訴えるヒマがあれば、ヒジキについて注意喚起を行うべきだとどらねこは考えます。
食品添加物に悪い印象を与えるような書き方+脂肪を控えめ+玄米などの穀食を推奨というのはバランスが悪いことこの上ないです。もしかしたらこの記事、助産院の食事から影響を受けているのかしら・・・ちょっと勘ぐりすぎのどらねこでした。
おまけ
■太り過ぎちゃいけないといわれタヨ
妊娠中に太り過ぎちゃうと、『妊娠糖尿病や高血圧、子どもも大きくなり過ぎちゃって大変なことになりかねないよ。だから太りすぎには注意しようよ!』そんな風にアドバイスをもらった方もいらっしゃると思います。確かにこの話しはその通りで、太り過ぎちゃうと悪い影響がでる危険性が高くなりますし、元々太り気味の方では体重増加は普通の人よりも抑えめにした方が良い事が分かっております。
ほ〜れみろ、やっぱりその通りじゃんか!なんて謂う前にちょっとお待ちを。逆に妊娠前に痩せすぎで、妊娠中の体重増加がイマイチだと低出生体重児が生まれる可能性が高くなることが分かっているのですよ。低出生体重児では生まれた時だけでなく、成人後に糖尿病や高血圧症を発症する危険性が高くなるという報告*3 *4 *5 *6 *7が存在します。
■でも太るヒトの方が多いんでしょ?
イエイエ、それは昔のお話しです。最近は女性の痩せ願望がどんどん進んでいるんですよ。平成20年国民健康・栄養調査の結果からみてみましょう。(特に指定の無い図表はこちらから転載したものです)
まずは、肥満者の割合*8からどうぞ。
主に出産される年齢の方にはそんなにいらっしゃらないようですね。
う〜ん、出産を控えている層には痩せているヒトの割合が多いようです。では、この表を踏まえて次のデータを見てください。
若い人の肥満者の割合から考えると自分の考える太りすぎの基準はとても低いであろう事が想像できます。
では、彼女たちが理想と考えるBMIはどの程度なのでしょう?
20代の女性では平均ですら痩せの基準ギリギリの数値であることが分かります。
■こんな集団がぐうべびいを読んだら?
痩せに近い体型を理想と考える集団が、今回紹介したgooベビーの記事を読んだらどんな風に受け取るでしょうか?太りすぎでないのに太りすぎと考えて、妊娠中の体重増加をどんどん抑える方向に進んでしまう危険性を高くしてしまうでしょう。
厚生労働省は低出生体重児の割合について2010年の目標で「減少傾向へ」と掲げておりますが、2009年の傾向では減少よりも増加に傾いている状況です。
若い女性の痩せ願望、徒に煽るマスメディアに対し、そろそろ大きなアクションをおこした方がよいのではないでしょうか?厚生労働省様。
*1:このエントリは此方を参考にさせていただいております
*2:あらゆる突っ込みを拒絶する
*3:Barker DJ, Winter PD, Osmond C, Margetts B, Simmond SJ. Weight in infancy and death fromischaemic heart disease. Lancet. 1982; 2 (8663): 577-580.
*4:Phipps K, Barker DJ, Hales CN, Fall CH, Osmond C, Clark PM. Fetal growth and impaired glucose tolerance in men and women. Diabetologia. 1993; 36:225-228.
*5:Fowden AL, Giussani DA, Forhead AJ. Endocrine and metabolic programming during intrauter Ine development. Early Hum Dev. 2005;81:723-734.
*6:Stocker CJ, Arch JR, Cawthorne MA. Fetal origins of insulin resistance and obesity. Proc Nutr Soc. 2005 ;64:143-151.
*7:Bertram C, Trowern AR, Copin N, Jackson AA, Whorwood CB.The maternal diet during pregnancy programs altered expression of the glucocorticoid receptor and type 2 11beta-hydroxysteroid dehydrogenase:potential molecular mechanisms underlying the programming of hypertension in utero. Endocrinology. 2001 ;142:2841-2853.
*8:BMI25をちょっとぐらい超えたぐらいで肥満者カテゴリというのはどらねこはイヤだなぁ