温める食べ物と冷やす食べ物

『夏野菜や果物は体を冷やすから食べ過ぎに注意しましょう!』そんな話を聞いたことありませんか?
どらねこは、マクロビトンデモ保育園に息子を通わせているので、そんなレベルじゃないお話を沢山聞き過ぎてう〜ん、ざりざり状態です。
さて、「秋なすは嫁に食わすな」という有名な格言ぽいものがありますよね。この解釈のひとつに大切な嫁に体を冷やす茄子を食べさせちゃいけないよ、という気遣い説がありますが、夏野菜は体を冷やすという考え方に基づくお話ではないでしょうか。茄子などの夏野菜とは反対に、一般的に生姜や唐辛子は体を温める食品とされているみたいです。これは直感的には分かるような気がしますよね。

ええと、こういった『体を冷やす食べ物・温める食べ物』ばなしの起源はどちらにあるのでしょう。ちょっと調べた範囲(ちゃんと調べろよ!)では、やっぱり中国発みたいで、『神農本草経』という中国の昔の本が元ネタっぽいですね。

【神農本草経】
wikipediaによると、中国で後漢代より三国頃に成立した本草書らしくて、そうなると2000年近く前のお話なのかな。この中で四気・五味による食べ物の分類法が書かれていた、とされているみたいです。みたいというのは、原本を参照できないからなのですが・・・。
漢方の考え方なので、『薬食同源』のという事なのでしょう、この四気も『体を冷やす食べ物は熱性の病気に』、『温める食べ物は、寒涼性の病気に』という処方となるようです。

『四気』というのは、『寒』『熱』『温』『涼』に分けているみたいです。ネットで検索してみたのを纏めてみると・・・

■寒性>涼性
主に夏野菜、あと、根菜類と貝類、果物、とうふ、白砂糖、塩、そば等々

■温性>熱性
主に冬野菜、たまねぎ、にんにく、しょうが、長ネギ、ニラ、かぼちゃ、かぶ、肉や魚、桃、栗、お酒、黒砂糖


概ねこんな感じです。黒砂糖と白砂糖を分けている時点でなんだかなぁ、ですがまあいいでしょう。

漢方起源というところは確からしいようです。四気の他にも『陰』と『陽』に分けて判断するというやり方も有るみたいです。日本で広まっているのは主に此方の陰・陽ですね。どらねこがウンザリしているマクロビオティックが主張するのも食の『陰』・『陽』です。彼らの主張をちょっと見てみましょう。

■『陰性食品』
暑い地域・季節に育つ食べ物が主に含まれる。基本的に身体を冷やして緩める(発散?)するもの。
主に夏野菜と果物、砂糖、コーヒー、お酒類、香辛料。トマト、なす、ピーマンなどの夏野菜、じゃがいも、ニンニク、もやし、モモ、山葵などなど

■『陽性食品』
寒い地域・季節に育つ食べ物が主に含まれる、基本的に身体を温めて引き締める(求心?)するもの。
肉類、魚類、根菜類など冬野菜、そば、塩や味噌、醤油などの調味料、梅干、ごぼう、人参、たまねぎなどなど

『四気』と『陰陽』で正反対に分類されている食材がある(お酒とか塩、ニンニクなど)ところが興味深いですね。

※以下どらねこの憶測に基づく記述※
●体の熱を調節する食べ物の妥当性を探る●


■漢方の考えの妥当性
神農本草経は2000年近くも前の本であり、当時の知識では食材の持つ薬効成分自体を特定できておらず、この理論体系は経験則に基づいていたと考えて良さそうだ。体を冷やす、温めるについては、食べた後の感覚や皮膚に発赤など観察可能な事象により評価されたのでは無かろうか。因果ではなく相関、しかも直感的なものが多く採り入れられたと推測される。経験則なのだから、直感的には昔も現代でもそんなに大差はなさそうだから、「ふ〜ん、なるほど」と、思えるものが多くとも不思議はないかな。しかしながら、2000年近くも前の考え方に過ぎず、その後のアップデートは有ったとしても、解釈レベルで弄んでいるワケだからコレを科学的に妥当な主張と考えるのには相当な無理があると思うのですよ。極端な例だけど、病気になったヒトがヒポクラテスの四体液説やガレノスの体液学による診断を受けて治療を施される様子を想像してみて欲しい。怖くないかしら?
実際は食べ物の事だからそんなに怖くはないけど、結構妥当な考えだと鵜呑みにされている方が多い気がするんだよねー。『完全否定!』な意見を見た記憶がない。まぁ、完全否定なんて無理なんだけど、そんな感じのを、という意味ね。だから、どらねこは鵜呑みにはしないで、自分のできる範囲で検証してみよう、というわけ。

■体を温める・冷やすの定義
この話を考える上で大切なのは『体を温める(冷やす)』の定義だと思うんですよね。
例えばある人は、食べた後からだがほっかり暖まる感覚をもたらす食べ物が『体を温める食べ物だ!』と、考えているかも知れないし、又あるヒトは、血管拡張作用によって手足を温めるたべものを『体を温める食べ物だ!』と考えるかも知れないからだ。この辺りをしっかり定義して話しがなされないとおかしな事になってしまう。『体を冷やす』であれば、利尿効果で説明されるかも知れないし、冷たい野菜を食べることに拠る下痢で説明するかも知れないよね。
これじゃあ、実生活に活用することも困難じゃない?(活用しないけど)検討に値するような考え方であるのなら尚更定義は大切なんだ。

■食べ物は体を温めるのか冷やすのか
まず、食べたり飲んだりしたものが体を冷やすことは有るのだろうか、其処から考えてみたい。
ヒトは通常、36〜37℃前後の体温を維持しているのだけど、口から入れた食べ物は元々持っていた温度から体温の温度にまで変化し、体外へ排出される事になる(基本的には)。だから、冷たい水を飲んで、体温と同じ温度の水分を排出したとすれば、その温度差分の熱量を奪われた→『体を冷やした』事になるといっても良いだろう。

11kcalって、意外にたいしたこと無いんじゃない?そんな印象。
次は、体を冷やす食べ物といわれる(よね?)代表格であるトマトを考えてみよう。先ほどの水にならって500g食べたとして、90%以上が水分だから、水以外の比熱を考えないでも大丈夫かな。15℃のトマトであれば先ほどのお水と同じくらい熱量を奪うはず。でも、トマトの場合はお水と違って、体で利用できるエネルギー源である糖質やたんぱく質などを持っているのだ。だから、トマトを500gも食べれば、95kcalのエネルギーを得る事になるのね。

95−11=84 

差し引きするとおおよそ84kcal分の熱量がプラスになるはず。
そういえば、野菜や果物にはカリウムを豊富に含んでいるものが多かったりするけど、カリウムは水分排出を促すと一般に認識されている(Na過多による水分の貯留時だろうけどね)から、利尿作用の影響があるんじゃね?という反論もありそうだねー。
でも、たとえトマト自体に利尿作用があったとしても、エネルギー収支をマイナスに持っていくぐらいの利尿作用って死んじゃうぐらいの脱水作用になりそうだよ。
・・・と、ここまで考えてきて少し悩む。

■体温維持はプラマイ0じゃだめじゃん
ヒトは体温を維持できないと死んでしまうから常に熱産生を行っているんだよね。何も熱産生が行われないと、外気温にまで温度は下がっちゃうわけだ。食べ物はほぼ全て体を温める作用を持つといってもよさそうだけど、熱産生効率が悪い食べ物ばかり食べていれば、体を十分に温めるエネルギーを確保できない可能性もありそうだ。
だから、効率の悪い食べ物の事を体を冷やす食べ物と定義づけるのならアリかもしれないよね。

じゃあ、『四気』や『陰性・陽性食品』の主張する体を温める食べ物、冷やす食べ物は正しいんじゃない?
ううん、そんな事にはならないよね。
初めに例示した食べ物をみれば、漢方の四気とマクロビの陰陽で真逆に扱われている食品があったり、体を冷やすの食べ物に砂糖がある事に合理的な説明を見いだせない。他にも、マクロビではバナナを冷やす食品に分類しているが、同じく温める食品に分類しているかぼちゃとほぼ同じエネルギー量、水分量、カリウム量であり、納得できるような理由は見出せない。
一部当てはまる事例があったとしても、例外だらけじゃ理論としては成り立たないよね?

■生姜や唐辛子は体を温める?
あともう一つ疑問があるのですね。それは、『唐辛子や生姜は体を温める食べ物』なのだろうか。
唐辛子や生姜は通常、たくさん食べる事のない食品だと思う。10gの乾燥唐辛子を食べたらショックを起こしてしまうかも知れないよね。だから、食品自体が持つ熱量というのはたいしたことが無いし、水分量もほんの僅かだ。だから、それだけ考えれば、体を冷やしも温めもしない食べ物と謂う事になりそうだ。
ところが、唐辛子にはカプサイシンが含まれていて、脂質代謝を促進するとか、血管を拡張させ体を温める作用を持つと説明される。実際問題唐辛子のきいた食べ物を食べまくれば舌はヒリヒリ、汗ダクダクまさしくアツアツの状況に陥るわけなのね。
この状態は体を温めたと謂えるのだろうか?

→何が疑問なのか
1)これは体に蓄えたエネルギー源を余計に燃やすことで一時的に温めており、体の持つ熱量のポテンシャルを低下させているのでは?
2)血管の拡張作用および発汗は体温を逃がす方向に働くので、その後体は冷える事が予想される。

1)はともかく、2)については意外と悩ましい。ほら、あつ〜いお風呂に入った後そのままで居ると湯冷めするとか謂うでしょう?それを防止する為に、お風呂から出る前に水を掛けて体を冷やすというテクニック(?)が存在する。広がった血管を収縮させる事による保温効果を期待してのものですね。だから、唐辛子みたいなホットな食べ物は体を逆にクールダウンさせると考えられるわけ。ほら、夏にカレー食べたくなるのってこれなのよ。ショウガもショウガオールだのの作用でおんなじような感じね。どの時点での状態を評価するか決めておかないとこれも正反対の結論になっちゃうよ。

■まとめ
体を温めたり冷やしたりする食べ物は定義によってはあり得る。でも、従来謂われている分類はあんまり根拠が無いと考えるし、矛盾もいっぱいある。
水分の多くて冷たい食品を沢山たべるのは夏野菜冬野菜とか関係なく消化管の温度を冷やしたりするので、消化機能に影響を与える可能性があるから気をつけた方がよい。
いい加減な分類を信じて、美味しい食べ物を忌避するのは、生活の質を低下させる事にもなりかねない。
秋ナスは家族みんなで食べ過ぎにならないように楽しく食べる*1と良いと思います。

*1:どらねこは遠慮します