塩分とりすぎで何が悪いの?−塩のあれこれQ&A−

高血圧予防のために減塩をしましょう。これは食事指導の現場では良く聞かれるお話です。でも、薄味の食事って味気なかったりするんですよね。健康には気をつけたいけれど、どこまで注意したら良いモノなのでしょうか。それとは反対に汗がしたたり落ちるような猛暑では、熱中症予防のために塩分と水の補給が推奨されていたりします。
塩は減らせ、いや夏は補給するべき、いや、伝統的な調味料の塩分は体に悪影響は無い!など様々な情報が飛び交っており、一体どうしたらよいの?と悩んでしまうヒトもいらっしゃるかも知れません。
今回はそんな疑問にどらねこがQ&A方式で回答するエントリです。(回答内容は個々人の身体状況等により、当てはまらない場合がありますので、どうぞご注意下さい)



■基本的(?)質問

Q1:食塩とナトリウムは同じものなの?

A1:ちがうものです
食塩は食用に精製された塩化ナトリウムの事をいいます。大部分を塩化ナトリウムが占めますが、商品によってその割合は若干異なります。ナトリウムは塩化ナトリウムのうち、約39.34%の重さを占めます。
食塩の重量からナトリウムの重量を求めるとき:食塩重量(g)÷2.54×1000=ナトリウム(mg)
ナトリウムの重量から食塩の重量を求めるとき:ナトリウム(mg)×2.54÷1000=食塩換算重量(g)

たいてい健康上問題になるのは、塩化ナトリウムのうち、ナトリウム部分です。



Q2:ナトリウムは体にとって悪いモノなの?

A2:そんなことありません
とんでもないです。体にとって大切なミネラルで、体液の浸透圧維持などに重要な役割を果たしております。細胞外液に多く、細胞内液に少なく、内外の濃度差は常に一定に保たれるよう調節されております。大切ではあるのですが、普段の食事には必要量を大きく上回るナトリウムが含まれております。大事なのですが、過剰の問題が大きいため、悪者扱いされてしまう事もあるようです。



Q3:食塩は1日にどれぐらい必要なの?あと、どれぐらい食べると摂りすぎになるの?

A3:意外(?)と少ないです
汗をかかないような環境で穏やかに生活していれば、1日に食塩として1.5gも補給すれば十分まかなえると考えられています。高血圧予防を考えれば、1日あたり6g未満に抑えたいところですが、日本人の平均的食塩摂取量はここ数年で11g前後という調査結果があり、現実を考慮して男性で1日9g以下、女性で7.5g以下となるよう厚生労働省は目標値をしめしております。



Q4:私の友達はしょっぱいモノばかり食べているんだけど、血圧が低いです。減塩に意味なんてあるんですか?

A4:ひとそれぞれなのです
国民全体で考えれば高血圧予防に意味はあります。ただし、個人では降圧効果が期待できない人がいるのもまた事実です。
ある人は減塩の効果がしっかり確認できるのに、別のある人はどんなに頑張っても一向に血圧が下がらない、なんて事も実際によくあるのです。高塩分の食事で血圧が上昇する人は多めに見積もっても全体の半分にも満たないと考えられております。



Q5:Q4の者です。じゃあ、食塩を食べると血圧が上がるひとにだけ減塩を奨めれば良いのでは?食べるたびに後ろめたいんだけど。

A5:他にも問題があります
自分がどんな体質なのか、事前にわかれば良いのですが、健康な人ひとりひとりにそのようなテストをするのは現実的ではありませんよね?将来の高血圧を予防するためには、若い頃からの減塩習慣はとても大切です。どうも自分は高塩分の食事で血圧が上昇するタイプだぞ、とわかった時点で生活習慣を変えるのは容易なことではありません。若い頃からの減塩習慣の大切さはここにあると思います。また、自分は大丈夫だから塩分摂取は気にしない・・・。それが個人の範囲でとどめる事ができるのなら良いのですが、家族がいる場合には考えて欲しいところかも知れません。食に対する嗜好は親や食事提供者、文化などに影響を受けるからです。特に子どもがいる家庭では、高血圧を気にしなくて良い人達も同じように低塩分を心がける事が大切だと思います。



Q6:食塩の食べすぎで問題になるのは高血圧だけですか?

A6:がんにも注意しましょう
高血圧からくる循環器疾患も懸念されますが、それ以外に喉頭がん、胃がんなどの上部消化管がんの発生と関係していると考えられます。自分の周囲に高血圧の人がいなくても、高塩分の食品は控えることも大事だと思います。



Q7:そうはいうけれど、減塩は難しいです。減塩に努めましょうなんていってるアナタはできているのですか?

A7:ゴメン
カップ麺好きなんですよねぇ。あ、白飯食べるとしょっぱいおかずが欲しくなってしまうので、あまりごはんは食べないようにしてますけど・・・。あ、そうそう、血圧を意識する場合だったら、カリウム摂取量を増やすのが減塩よりも効果がある場合も多いので、生野菜やクダモノをモシャモシャしてますです・・・ハイ。






■ちょっとつっこんだ質問

Q8:高齢者住宅で食事を担当してます。体の事を考えて、薄味の食事になるよう努めているのですが、味がしないと、評判が悪く、残食も多くなりがちです。どうしたら良いでしょうか?

A8:食事量低下のほうが高齢者には大きな問題です
塩分量が多くなると健康を大きく崩してしまう様な持病はありますか?特に無いようでしたら、塩分量はそんなに控えないのも一つの手だと思います。高齢者では低栄養から歩けなくなったり、傷が治りにくくなったりと、深刻な影響を受けてしまうことが知られております。食べ物を美味しく十分量食べてもらう事の方が、減塩よりも大事であることが多いのです。
どうしても必要があるのならば、減塩用の特殊調味料を使用するなど、単なる薄味にならない工夫が大切だと思います。



Q9:自然な食塩は血圧を上げないと聞いたんですが。

A9:天然と人工の違いよりも大事なことはあります
自然や天然というと体に悪いことは無いみたいな印象を持たれることがあるかも知れませんが、体への影響は人工か天然かよりも、その成分が問題になります。確かに精製度の低い塩であれば、同じ重量なら精製塩に比べ、ナトリウム量は少ないかも知れませんが、果たして料理に使うときにナトリウム量が少なくすんでいるのでしょうか?マイルドな塩味だからと追加してしまえば意味はありませんよね。


Q10:胃がんの原因はヘリコバクター・ピロリ菌だと聞きました。塩分は単なる相関で因果は無いのでは?

A10:どちらも粘膜を傷害するところがにてますね
確かに、ヘリコバクター・ピロリ胃がんの発生に大きく関与していると考えられます。ところが、同じヘリコバクター・ピロリが胃に常在しているヒトであっても、1日の塩分摂取量が多いグループの方が胃がんができやすいという疫学データが存在します。ピロリ菌の検査をしていないのであれば、胃がん予防の為に塩分を控えるのは有用ではあると思います。


Q11:では、1日の塩分量を減らせば問題ないということなんですか?

A11:減らすことは大事ですが、食べ方も大きく影響をあたえます
1日の総塩分を減らすのは大事な事ですが、それだけではなく、どうやって食べるのかという事も重要かも知れません。胃がんのリスクで考えると、1日の塩分量よりも高塩分の漬物や魚介類の干物、塩蔵魚卵や、山菜の漬物などを食べる頻度が高いヒトの方が心配だと考えられます。他の質問でも述べましたが、同じ塩分量ならば、カリウムの摂取量が多い方が高血圧の危険性は少なくなると考えられます。健康を総合的に考えるのであれば、ただ単に塩分を控えるのではない工夫も大事になってくると思います。


Q12:昨年は記録的猛暑でしたが、今年も暑くなりそうなうえ節電で冷房がつかえず熱中症が心配です。水分補給だけじゃなくて塩分も同時に補給した方が良いとどこかで聞いたのですが、減塩的には大丈夫なのですか?塩分とりすぎの日本人は気にしなくても良さそうですが。

A12:ナトリウムは蓄えておけません
今年も積極的に熱中症対策を行う必要がありそうですね。急激に発汗量が増える場合、水分と一緒にナトリウムも体から失われてしまいます。水だけを沢山外にだしてしまうと、体液のナトリウムバランスが崩れて大変な事になってしまうからです。大量の汗をかいたあと、水だけを補給してしまうと、体液が薄まって低ナトリウム状態(低調性脱水)になってしまいます。その場合の水分補給には0.3%程度の食塩を含むものを選ぶと良いでしょう。
塩分を摂りすぎのヒトは?という質問についてですが、これについても基本は同じと考えて良いでしょう。ナトリウムを余計に摂取していても尿として速やかに排出されているからです。塩分を控えるようにと指示されていても、大量の汗をかく事が予想される場合にはしっかりと水分と一緒に塩分を補う事が大切です。











■オマケ
水分補給については、過去記事でこんなものを書いております。興味のある方はどうぞ。

水はガブガブ飲めば良い?(前編)
http://d.hatena.ne.jp/doramao/20100304/1267684616
水はガブガブ飲めば良い?(後編)
http://d.hatena.ne.jp/doramao/20100305/1267761502
水はガブガブ飲めばよい?(余談編)
http://d.hatena.ne.jp/doramao/20100308/1268020417

最近は、大量発汗時の水分補給に経口補水液が奨められる事が多いのですが、どちらかと謂うと、具合が悪くなったあと用なのですよね。普段の水分補給にはどんなものが良いのでしょうか。
ありがちなのが、麦茶を飲んだ後に塩をペロリというものでしょうか。スポーツ飲料も勧められているようですが、吸収しやすい糖分が多いので毎日数リットルも飲んだりすると、糖尿病リスクが高くなるような気もするんですよね。高血圧の話では、カリウムの摂取も大事ですよ、と書きましたので、水分と塩分を補給するときにしっかりとカリウムを補給する習慣をつけるのも良いんじゃないかな、なんて思いました。カリウムが多い食材は野菜や果物です。葉物野菜にはカリウムが多いのですが、それだけだと十分な水分補給にはなりそうもありません。
そこで、スイカやキュウリなどウリ科の食べ物は如何でしょう?嫌がるヒトはいるかもしれませんが、ささっと、塩を振って食べるスイカは塩分、水分、カリウムを同時に補給できそうです。新鮮なキュウリに味噌をつけて食べるのも良さそうですね。他にはトマトに少々ドレッシングをつけて食べるのも良いかもしれません。昔から夏に好まれていた野菜や果物の食べ方じゃあないかって?どらねこは天然とか昔ながらが嫌いだったんじゃないの?と謂う声が聞こえてきそうです。いえいえ、ちゃんと根拠が伴っていれば今だろうが昔だろうが良いモノは良いというのがどらねこ流です。節操ないねこなんですよ・・・