食餌療法綱要を眺めてみた

今回はちょっと面白い本が手元にあるので簡単に紹介してみたいと思います。

これは昭和7年2月に陸軍軍医団から発行された食事療法の基本が書かれた本ですが、当時の栄養学の知識や献立例などが豊富にしめされとても興味深いモノでした。


■どんな本?
序文には、病気と謂えば薬物療法に偏重の風潮であるが、顧みられる事の少ない食事療法であるが、その重要性を理解し陸軍に於いても活用されることで多大な貢献が期待できる、と謂うような事が書かれております。

目次を眺めてみると、様々な疾患名がずらりと並んでおります。それぞれに食事・調理法に際する注意点や献立例などが示されており食事療法に対する期待の大きさが想像出来ます。実際には食事療法にも限界はあり、彼らの夢見たようなどんな病気にも有効な万能なものではなく、有効な病気とそうで無い病気があることが明らかになってきました。治療の為の食事と日常の健康維持の為の食事、楽しみの為の食事など食事に対する視点が変わってきたのですね。食事療法は万能ではないのです。


■カガク的
古い本ではあるものの、本書はとても科学的な視点を持って書かれているように思います。例えば、食品成分が体内でどのように利用されるのか等、代謝についてもページを割いて説明しております。クエン酸サイクルがまだ完成していない時代ではあるので、現代からみれば誤っている記述があるのはしょうがありませんが、この本より後に刊行された桜澤如一氏の著書*1よりも断然カガク的であると謂えるでしょう。

クロトンアルデヒドは生体内での脂質の代謝に関係していないと思いますけどそれはご愛敬でしょうか。脂肪酸のβ酸化についても言及がありますね。脂肪酸の事を当時は脂酸と謂ったのでしょうか、当時の用語も興味深いです。


■糖尿病の食事療法
食事療法の一例として糖尿病の項目を眺めてみます。

注目点は、精神過労と書かれているところでしょうか?ストレスが糖尿病の一因であるとこの時代に指摘されていたのですね。

もう一つの注目点は、この含水炭素に対する認識でしょうか?含水炭素は現代の言葉だと炭水化物(糖質)にあたるものですね。糖尿病の食事療法のキモは、この炭水化物量を調整することであると書かれております。
実は、糖尿病の食事療法ではエネルギー制限重視であまり糖質量に無頓着な栄養指導が主流となっていた時代が長く続いておりましたが、最近はエネルギー制限だけでなく、同時に糖質の量や質についても着目されるようになってきました。

よく使われる食品にどの程度炭水化物が含まれているのかを一覧にして示しております。それがいつの間にか、糖質量を示さない食品交換表*2になってしまったのは残念な事であると思います。


■洋食の扱い
昔の本ですから、日本食ばかりが偏重されているのかと思いきや、西洋風の調理法が思いのほか採り入れられており、とてもおしゃれな感じの料理も紹介されていたりします。所謂洋モノが有り難がられるような時代であったのかも知れませんね。



ビタミンAが過剰になりそうですが、なかなか濃厚なメニューです。
昭和初期の日本軍の食事療法は意外とやりますねぇ、どらねこはぐぬぬとうなったのでありました。





■おまけ
この本に挟まっていた大阪府病院の患者食が面白かったのでおまけとして掲載します。

ステーキは当時はステッキな食べ物であったようですが、それよりも入院患者の病状じゃなくて、等級で献立が違うところが興味深いです。5等では野菜がほとんど提供されてませんね。これで病気が良くなるのかちょっと心配になってしまいます。今後日本がこのような時代に戻ってしまわないようにしないといけませんね。

*1:独自の陰陽方程式を展開している著書をこちらの記事で指摘してます→http://d.hatena.ne.jp/doramao/20110203/1296735588

*2:今後は食品交換表もカーボカウントに対応する事になるでしょう。