糖質に着目した糖尿病療養食についての個人的見解:おまけの雑感



今回の記事は色々背景のあるはなしなので、そういうところが分かっている人向けの記事です。ごめんね。

過去のいきさつ
その1:http://d.hatena.ne.jp/doramao/20120731/1343725208
その2:http://d.hatena.ne.jp/doramao/20120801/1343814599
その3:http://d.hatena.ne.jp/doramao/20120808/1344412205


糖尿病とか糖腎関係のセミナーやなんちゃら勉強会などに参加していると、最近は糖質制限食にクギを刺す人が多くなってきたなぁと感じます。そうした人の話を聞くと、「ああそれはあるよねぇ」と思う事もありますが、「いやそれは別にソレ特有の問題じゃあないでしょ」なんて思う事もあります。
専門分野についてはとても素晴らしいセンセイが、日本人に糖尿病が増えたのは「伝統的な日本食を食べなくなったからだ!」と、100%ではないにせよ、それが主犯だ間違いないみたいな謂い方をしていたりするとなんだかなぁ・・・ってね。
「○○は良いモノだからあまり批判的に検討をする必要はないが、△△は良くないモノだから、その主張のおかしいところを探して批判する必要がある」

こういう思考のパターンになってしまってるんじゃないかな、と内心心配になるのです。


■こうした事もあるだろうね
とはいえ、主流の食事療法を支持する方々が強い糖質制限を批判する理由はよく分かるのです。中には貴方それが意味するところを分からないまま批判*1しているでしょ、みたいなのもありますが。
例えば、療養食に限らず、栄養疫学で示されてきたような一般的な栄養と健康の話にあてはめて考えてみますと、飽和脂肪酸摂取割合の話がすぐに思い浮かびます。
糖質エネルギー比を下げるとなれば、同じエネルギーを摂取する場合にはたんぱく質と脂肪のエネルギー比は増えますし、それらの摂取量は増えることでしょう。そうした時に、脂肪酸の質などを考えずに提供した場合には増えて欲しくないタイプの脂肪酸の摂取量まで増えてしまうことが予測されます。
飽和脂肪酸の過剰摂取により、血中脂質に悪影響を与える事や血管イベントに良くない影響を及ぼす傾向があるというのは、各種疫学調査からも明かな事実です。飽和脂肪酸摂取を増やしかねない食事を、血管の健康にリスクを抱える人々に推奨するというのはあまり望ましいモノではありません。
それを分かっていて敢えて提供するというのは、そのリスクを上回る利得が確実視される場合と謂う事になるでしょう。そうした利得があると謂える人の割合はそんなに多くないのでは?と、どらねこは感じているのね。なので、糖質制限はとても良い食事療法だよみたいな紹介で一般に広めるのはどうかと思っているのですね。
この項をまとめると、飽和脂肪酸の血管イベントへのリスク*2は明らかなのだから、それを無視或いは低めに見積もっての食事療法推奨は批判的に言及されてもしょうが無いよ? という事です。


■批判側も考えよう
しかしながら、従来的な一律的な低エネルギー食処方というのも同様の問題を孕んでいるように思います。糖尿病の恐ろしさには様々なものがありますが、その一つに透析導入の切っ掛けとして一番多い、糖尿病性腎症というのがあります。
腎臓の機能を低下させる要因に、血圧上昇による糸球体内圧上昇というのがあるのですけど、そこに一枚噛んでいるのが高血糖であり、高血糖状態では内圧調整のメカニズムが崩れて糸球体に負担をかけてしまうことで腎機能を傷害します。なので、高血糖状態改善というのも目標になります。
ところが、糖尿病になりやすい体質の人では、糖質摂取が普通の低エネルギー食でも血糖が高止まりになる人もいるので、そうした人は糖質エネルギー比60%ぐらいのバランス良さそうな食事でも、治療が必要な血糖値を示してしまう事があります。そうした人に、もっと体重を落とすように誘導したり、まだエネルギー制限がたりないと、さらなる低エネルギー食が処方されることがあります。
問題となる高血糖状態を改善するには糖質摂取量を控える事も選択肢の一つで有り、その時に飽和脂肪酸が高くなりすぎないようにとか、たんぱく質エネルギー比がおかしくならないようにする配慮が必要だということなのですが、それを考慮せず、糖質制限*3は危険だからと一律低エネルギー食推奨というのも片手落ちでしょう。
血糖を維持できるぐらいの低エネルギー食を続ける人の中には、不十分な食事により低栄養状態になってしまう人がおります。低栄養状態と謂うのは様々な病気を招きかねない危険な状態*4で、運動する事もままならなくなりかねません。糖尿病対策では本当に重要な「運動」という要素を奪ってしまうおそろしい状態です。
低栄養状態では筋肉のたんぱく質を分解しアミノ酸をつくり、そこから血糖など身体に必要なエネルギー源をつくりだす方向に身体は動き出します。低たんぱく食が重要な腎臓病であっても、必要最低限のたんぱく質栄養が必要で有るわけですが、そこまでの状態に至っていない人については運動療法を続けるためにもそれに上乗せしたエネルギーと良質なたんぱく質が必要になるのです。
この項の趣旨をまとめると、その人にとって望ましい状態をつくるために必要な援助というのはなんだろう? 一つの指標に拘るあまり、その他のリスクを見つめる目にバイアスが掛かっていないか?というような感じでしょうか。


■今の時点でアドバイスしていること
リアルで極端な事例に関わる事は少ないのですが、長い目で見て健康を保ちたい標準体型の人に糖尿病の食事療法についてどらねこがアドバイスをするとしたら、こんな感じでしょうか。

1.減塩食(3g/1000kcal程度)
2.体重を維持できる食事量
3.その食事量で血糖コントロールができる量*5まで糖質を控える(エネルギー比45%くらいまでが目安だができれば控えすぎない)
4.高食物繊維食
5.消化吸収のあまり良くない生野菜も毎食用意
6.たんぱく源はなるべく魚を選択し、高脂肪のものを選ぶ
7.肉は脂質の少ない部位を選ぶ
8.間食はGIの低い植物性食品推奨
9.糖質の多い主食は単品でたべない

これらは個々人にそのまま適用されるものではない事は謂うまでもありません。私個人としては、食事を楽しみ、今後の病気の進行を抑えるためにはインスリンを用いた治療についても、怖い気持ちにばかりとらわれず選択肢の一つになっても良いなぁと感じております。
めちゃくちゃ読みにくいエントリでしたがこんな感じ*6です。

*1:血糖上昇を気にして低栄養気味の人が出ている事の問題に向き合わず、それを解消する手立てを講じないまま、たんぱく質や総エネルギー摂取量の改善をするような意図の糖質管理食の考えを無視するようなの

*2:生化学的に考えればインスリン抵抗性のリスクファクターとなるわけで、切実な問題でしょう

*3:スーパー糖質制限食みたいなのを勧めても良い人というのはとても少ないと思いますけどね。薬物療法の相棒として、糖質摂取量を下げることありきじゃない、血糖をコントロールできる範囲の最大限の糖質を許容する管理食を推したいのだけれど

*4:低栄養は感染症のリスクファクターで健康な人では罹らないような病気にもなりやすいわけですが、糖尿病患者にはシックデイという体調不良時の血糖コントロール不全というものもあり、それを誘発させかねないのですね。それを考えると無視できないですよね

*5:下げてもコントロールできない場合は食事療法だけで対応の範囲を超えていると考えられる

*6:良いとこドリ目指して歩み寄れば良いのにみたいな気持ちなのよ