本当にこわい(?)アルコール摂取【前編】

どらねこはお酒が大好きです。好きと謂うか、大量に飲んだ翌日の朝「ううっ、気持ち悪い・・・今日は飲むのやめよう、少なくとも3日くらいは控えよう」なんて思っていたくせに、夜になると「体調も悪くないし少しくらいならいいよね?だってさ、こんなにおいしい○○があって飲まないなんてありえないよね?」なんていいわけをしながらぷしゅっと缶を開けてしまうぐらいアル中寸前なんです。今はなんとか休肝日をもうけておりますが、それもいつまで続くか危うい状態と謂えるでしょう。
このままではお酒の海の漂流者となってしまう危険を感じたどらねこは、アルコール*1ってこんなにこわいんだよ?と謂う記事を自分のために書くことにいたしました。と謂うわけで今回はアルコールと健康・栄養についての読み物*2をおおくりいたします。


■即効性の(?)害悪
まずはすぐに実感できるような悪影響から見ていこう。飲み過ぎるとすぐにトイレに行きたくなります。これは抗利尿ホルモンという尿量を調節するホルモンの分泌を妨げるもので、そのせいで飲み物を飲んでいるのにもかかわらず脱水状態になってしまうのです。このときに体内のミネラルバランスも崩れるので注意が必要です。そうして翌日はつらい二日酔いが待っている*3のです。また、アルコールはのどにも負担をかけますし、脱水などもあいまって睡眠中の呼吸を苦しくするでしょう。さらに胃を過剰に刺激することはムカツキにとどまらず嘔吐を繰り返すことで逆流性食道炎にもなる危険性を高めます。
他にも精神に与える影響も同様に懸念されます。酔っ払って人に絡んだり、取り返しのつかない暴言を吐いてしまったり*4と、アルコールの目に見える害悪は数え上げればきりがありません。


■じわじわくる害悪
アルコールの本当のおそろしさは二日酔いとか頻尿などではないでしょう。お酒を継続して飲むことで体に少しずつ変化が現れてきます。気がついたときにはこんな状態に陥っているのです。

ただ単に太ってしまうだけでなく、アルコールは少しずつ体の各部位に悪影響を及ぼしていきます。肝疾患や高血圧、脳の萎縮や発がんリスクなどなど。詳しいことは次回にそれぞれの項目で説明します。


■アルコールって太るの?
たまにアルコールはすぐに熱になってしまって体にたまらないので太らない!と謂う意見をきくことがあるのですが、これは「アルコールはエンプティーカロリー」と説明される事があるために生まれた誤解であるのかもしれません。実際にはアルコール摂取によっても体重が増加することが明らかとなっております。
しかし、どれぐらい体重増に影響を与えるかと謂う点では議論が残っているところです。1gのアルコールは体の中で7.1kcalの熱量を持つとされているのですが、実際に体で活用されるエネルギー量はそこまで多くないのでは?と考えられております。これについては次の項で述べようと思います。


■栄養素としてのアルコール
では、アルコールは体内でどのように利用されるのでしょうか?どらねこなりに解説をしてみましょう。
アルコールは飲むと速やかに胃や小腸から吸収されて体の隅々まで行き渡ります。血中濃度が高くなると体に害悪を及ぼしますので、アルコールは肝臓で分解されることになります。まずはじめにアルコール脱水素酵素(ADH)でアセトアルデヒドに酸化*5され、これがさらにアルデヒド脱水素酵素により酢酸に代謝されます。この酢酸が体内でエネルギー源として利用されるんですね。
このように体内のアルコールはほとんどが酢酸に分解され、体の組織として蓄積される事はほとんどありません。では、どうして蓄積されないのに太ってしまうのでしょうか?


■からだに脂肪がたまる
飲んだら分解されすぐにエネルギー源となるアルコールですが、あまり飲み過ぎると脂肪がつきやすくなる事が知られております。それはどうしてでしょうか?
アルコールが分解してできる酢酸は血流にのり末梢組織でのエネルギー源として利用されます。これらの組織は安静時には脂質分解しエネルギー源として利用しているのですが、この酢酸が代わりに使われるようになるため、体の脂肪分解は抑制されてその分を蓄える方向*6にかわってしまうのです。この時に同時に油たっぷりのおつまみを食べたらどうなるでしょうか?

ビール片手にポテチぱりぱり、ソーセージばくばくの恐ろしさが理解できることでしょう。


■飲み方でも違う
体重増にあたえる影響で議論が残ると前に書きましたが、それはどのような場合でしょうか?
少量から中等度くらいの飲酒では、アルコール摂取によって増えたエネルギー量に相当する分の体重増加がいろいろな調査で観察されております。ところが、大量飲酒者では摂取したエネルギー程には体重が増加しないケースもあるのです。それはどうしてでしょうか?
アルコールの熱量は7.1kcal/gですが、体内では摂取した25%分ほど代謝が亢進*7することが観察されます。これはお酒を飲んだあとにポッポと暖かくなる様子ですね。人間は通常時でも体温を36℃前後に保つ必要がありますが、その体熱の産生に糖質や脂肪酸がエネルギー源として使われております。お酒を飲んだときにはアルコールは積極的に熱を産生してくれますから、その分のエネルギー(糖質、脂質等)を節約できる事になります。そのときに同時に食事をしていれば、それらは主に体重増加に回される事になるでしょう。
では、大量飲酒者ではどうでしょうか?必要以上の代謝の亢進は望ましい体温維持に必要なエネルギー以上の発熱となるでしょうから、糖質、脂質の節約効果は一定以上に飲酒では見込めなくなるでしょう。つまり、不要な熱を捨てるようなイメージですね。また、過度の飲酒では消化器の機能を損ね、下痢を起こすことで、栄養素吸収を妨げたり、体の代謝機能を損なう事も考えられ、不健康な理由*8で体重減少する事もあるようです。


■今回のまとめ
アルコールは熱になってしまうから太らないと謂う主張はほんのちょっとあっているけれど、たいていの場合は体に脂肪のたまる原因になると考えて良いでしょう。アルコールはそのまんま主食の代わりにはなりませんので、通常の食事を摂ったうえで、少量たしなむと謂うのがアルコールによる肥満(脂肪肝的な)を防ぐ良い方法*9だと考えられるでしょう。


次回はアルコールと病気・栄養素欠乏を中心にお話をするよていです。

*1:この記事ではエタノールのことを指しております

*2:なので直接的な引用なしで個々の出典を示したりもしませんが、日本人の食事摂取基準2010、建帛社の最新栄養学第9版、あと生化学の教科書いくつかを参考にしてます。

*3:急性アルコール中毒になればしゃれになりません。気持ちよく酔っ払っている血中アルコール濃度と死んでしまうような濃度との間に大きな差が無いところがこわいところなのだ

*4:美味しんぼ富井副部長参照。どらねこはこの種の失敗は今のところ少ない

*5:習慣的にアルコールを飲む人は別のミクロゾームエタノール酸化系も働くようになるのでお酒をよく飲んでいると酔いにくくなると考えられます

*6:アルコール代謝により生じるNADHの増加は結果的に糖新生は抑制し、TCAサイクルも回りにくくなり脂肪酸合成も進むと考えられる。次回アルコールと低血糖で話すかも

*7:このあたりの話とリンクhttp://d.hatena.ne.jp/doramao/20110801/1312188679

*8:そのほか、アル中のような大量飲酒では食事が少なくなる傾向がある

*9:少量・適量で止められたら苦労しねーよ!と謂うのがアルコールの恐ろしさではある。無理モフ