減塩に効果はあるの?

自分用メモというか、食塩と健康について個人的に感じている事を書き散らかします。最近、読み手を意識しすぎる(自分のかってなんだけどね)事が多くて表現などに気をつけている事が多くて、ちょっとストレスたまりー、なんですよ。なので、今回の記事はそのあたりの発散をかねて、文体がぶれていたり、見方が偏っていたり、説明が丁寧じゃなかったり、乱暴な判断が随所にあると思いますので、長文を読むにあたりどうぞご注意下さい。

■食塩摂取量と高血圧は関係ないのか?
食塩摂取量が増えると血圧が高くなる、という話を疑う人はそんなに多くは無いと思う。まぁ、昔ながらの自然塩なら健康に悪い影響を与える筈がないとマクロビ関係者の方は昔から主張しているのだけど。それはともかく、研究者の中にも食塩と血圧との関係を疑う人はいるみたいで、その根拠として挙げられるのが、INTERSOLT*1研究であることが多いようだ。
これは全世界52地域、10079人を対象に行われた尿中ナトリウム排泄量を指標としてナトリウム摂取量と血圧との関係を見ようとした研究のこと。で、この結果自体はナトリウム摂取量と加齢による血圧上昇には相関が確認できるというものなんだけど、ナトリウム摂取量が非常に少ない(1日あたり3g未満)地域を除いたデータをみると、殆ど関連は無いんじゃないの?というのが疑いを持っているヒトの主張なワケ。

p323 fig1より

ナトリウム摂取量と年齢による血圧の上昇の関係

p324 fig3より

収縮期血圧とナトリウム摂取量の関係。これの非常に低いナトリウム摂取量の地域を除いた48地域のデータでは正相関は見られない?(aは性・年齢調整を行っていないものであることに注意かな)

血圧と塩分は関係ないよ、と主張する人が根拠にするINTERSALT研究は同時に、血圧と塩分摂取に関連有りというエビデンスとして広く用いられているのだからまた面白い。自分の主張に寄り添う解釈をヒトはしてしまいがちなのかな?どうなんだろね。
こんな形になったのは、塩分と血圧の関係は誰の目にも明らかなほどに大きいモノでは無かったと謂うのが原因なんじゃないかな、そんなふうにも思う。少なくともこの研究では示せなかったのだよね。

■本当に関係ないの?
塩分と血圧は関係ないという説明にはどれくらい信憑性があるのかしら?まず、どんなヒトが主張しているかを参考程度に眺めてみると、ネット上で情報発信しているのは、食塩業界の関係者らしき方が多いんですよね。ああー、そういう事か、と思ってしまうところなんですが、それだけで納得してしまうのはあまりに乱暴かなとも思う。
それだけで判断せず、高血圧患者に対して減塩指導を行った研究*2や高血圧者に対して行った臨床介入試験*3などではどのような結果がでているのかを見るのも一つの手だと思う。
前者では、1日あたり2.2gの減塩で2.5mmHgの降圧効果が、後者でも非介入群に比べて統計学的に有意な降圧作用が確認できている。だから、減塩には血圧を下げるもしくは、加齢による上昇を抑制する効果があるのは間違いないだろう、とはいえるでしょう。否定する方にしても寧ろ、それがどれぐらいの意味を持つの?というのが論点なんだろうね。

■予防的減塩の効果は?
既に高血圧であるヒトが減塩を行う意味はありそうだ、というのが前項で言及したことで、健康なヒトが予防的に減塩をするのには意味があるのか無いのか、だ。ここで意見が分かれると思う。健康なヒトを対象に減塩を実施することで、高血圧を予防できるというのは、高血圧予備軍がその中に含まれているからと考えられるからだ。
食塩摂取量が増えても血圧が上昇しないヒトは気にするだけ無駄だけど、中には食塩摂取量が血圧に影響を与えるヒトもいるわけで、その人が将来高血圧になるのを防ぐためには減塩は重要な役割を果たすと謂う事ね。
では、実際にそんなヒトの割合が全体のどれぐらいを占めているの?という事なんだけど、ハッキリとは分かっているわけではなく、全体の半分にも満たない・・・おそらく3割ほどかな、と考えられているみたい。それに意味があるのか無いのかは、実は立場や考え方によって違ってくると思うのね。公衆衛生的視点で見れば、全体の食塩摂取量を減らすことで、全体の血圧上昇をコレだけおさえられた、というのは大変重要な成果になるワケね。例えば、日本人の平均血圧が○○下がれば、循環器系疾患の死亡者数が10000人減る、といったような効果が期待できるわけで、なるべく推奨したい話になると思うよ。
ところが、毎日15gの食塩を食べていても同年代のヒトの平均的な血圧よりも低いような健康体のヒトがいたとすれば、そのヒトはおそらく血圧を理由に減塩を強いられる必然性はないわけです。じゃあ、そのようなヒトは減塩に協力的である必要はないのでしょうか?
このあたりは難しいところで、食塩感受性の有無を簡便に確認できる方法があるのか?全体から見てどれくらいの割合を占めているのかなどによっても正解はかわって来るんじゃあないかな。今の日本では高血圧の問題はやはり大きいし、食塩の感受性が有るか無いか分からないヒトが多いと思うから、全体として取り組む意義は大きいように思うのよね。だから、自分は関係しているかどうか分からないヒトでも、国民全体の利益を考えて協力するのは大事だと思うんだよね。
自分はまず、大丈夫だな、と思うヒトでも、そんなの気にしなくて良いよ、なんて周りに吹聴するような事は少なくともやめて欲しいなと、どらねこは思うのよね。

■血圧だけ考えればよいのか
自分は血圧心配ないから、減塩なんて関係ないよ?公衆衛生問題?しらないよ、というヒトはソレで良いのかという話。
食塩の過剰摂取は胃がんリスクを上昇させると謂う話しは昔からあるようで、研究も実際に為されているよね。そんな話に懐疑的な方も多いと思う。
こうした文脈で最近人気(?)なのが、ヘリコバクターピロリくんだ。年齢の高いヒトほど常在割合は高く、中高年では60%程に見られるようで、胃潰瘍胃がんの発生に大きく関与しているとのこと。工業化の進んだ国ほど常在している割合が低い事から、日本人の胃がんが多かったのは昔の名残で、塩分なんてそんなに関係ないかも?なんて意見もでてくるのかもしれません。
これについては、久山スタディ*4が一つの反論になりそうかな、という印象はある。
食塩摂取と胃がんの関連を明らかにするために、2476人の40代男女を14年間追跡調査した結果を解析した研究。食塩摂取量別に4グループに分類し、相対危険比を出している。ピロリ陽性単独で胃がんのリスクになるのは勿論のこと、同じピロリ陽性群でも食塩10g未満群に対し10g以上群の場合相対危険比は2.43となっている。ピロリ陽性者にとってはムシできないリスクファクターなのじゃないかな。
他にも1990年より二戸、横手、佐久、石川(沖縄)で1930−1949年生まれのヒトを対象にした11年コホート調査の結果*5や二戸(岩手)、横手(秋田)、佐久(長野)、中部(沖縄)、水戸(茨城)、長岡(新潟)、中央東(高知)、上五島(長崎)、宮古(沖縄)の保健所管内に居住するがん、循環器疾患既往のない約8万人を対象にした2004年まで追 跡したコホート調査*6などがある。後者では、塩分摂取量と循環器疾患に若干の正相関。漬物、塩蔵魚や塩蔵魚卵の摂取量が胃がんの相対危険度を高めているという結果が出ている。

■食塩量だけに囚われるのではなく
幾つか論文を眺めていて思ったのは、ただ単に食塩が多いか少ないかだけが問題じゃあないのかなぁという事。塩分摂取量の過多よりもどんな食べ物から塩分をとっているかの方が重要ではないか、ということ。
一つ前に示した論文では、塩蔵魚や塩蔵魚卵の摂取量と胃がんに関係が在ることが疑われているが、他にも似たような結果がでている研究*7があって面白い。30才以上の8035人を11年追跡調査したもので、胃がんによる死亡76人の状況から山菜の漬物や佃煮を高頻度に食べている事がリスクになっているとのこと。

次に示すのはどらねこの勝手な憶測ね。

・塩分総量よりも塩分濃度の高い食品に粘膜が触れることががん発生リスクを高めているのではないか?
・塩蔵魚類ではニトロソ化合物が生成するため、それ自体が発がん物質であることが影響している?

もう一つ、血圧に関してもカリウムの事を考えるとたべ方が大事になるんじゃないかな、という気がしている。
たとえば、漬物などの塩蔵品は塩漬操作の過程で、細胞内液を流出させるが、これにより主要な細胞内陽イオンであるカリウムが失われるのね。実はナトリウムの減量よりも十分なカリウム摂取の方が、降圧効果は大きいなんて話もあるぐらいで、カリウムを捨ててしまう食べ方に塩分を上乗せするのは宜しくないんじゃないかな、なんて思うのね。昔ながらの日本食は野菜類を生で食べる習慣が少ないこと。高塩分低カリウムの食事になりがちな日本食は血圧的にはちょっと心配な食べ方なんじゃないかな?

■おわりに
てきとーに書いてきましたが、なんとなく意図を汲んでもらえれば嬉しいッス。
家族に高血圧に悩むヒトが多いのならば、食塩摂取量を気にするのは大切な事でしょう。そうでないヒトも全体の事を考えれば、皆で減塩に取り組む意義が在ることをわかってくれるでしょう。全体なんてしったこっちゃないと思うヒトでも、厚生労働省あたりが減塩を訴える理由は理解してくれることでしょう。
また、高血圧が心配だからといってナトリウム総量ばかり気にしていては疎かになる事もあると思うし、一つの食べ方ばかり推奨するのは何処かに穴があいている可能性もあるのだと自覚して欲しいな、と思うんだよね。
とはいえ、この記事は各論文についてしっかりと掘り下げたモノじゃあないですし、分析も甘いことと思います。どらねこ以上に能力の高い栄養士さんは大勢いらっしゃると思いますので、是非、批判的に見ていただいて、反論というか、分かりやすく教えてくれると嬉しいです。

*1:Intersalt: an international study of electrolyte excretion and blood pressure. Results for 24 hour urinary sodium and potassium excretion. Intersalt Cooperative Research Group.BMJ. 1988 Jul 30;297(6644):319-28.

*2:Takahashi Y, Sasaki S, Okubo S, et al. Blood pressure change in a free-living population-based dietary modification study in Japan. J Hypertens 2006;24:451-8.

*3:Whelton PK, Appel LJ, Espeland MA, et al. Sodium reduction and weight loss in the treatment of hypertension in older persons: a randomized controlled trial of nonpharmacologic interventions in the elderly (TONE). TONE Collaborative Research Group.JAMA. 1998 Mar 18;279(11):839-46.

*4:Shikata K, Kiyohara Y, Kubo M, et al. A prospective study of dietary salt intake and gastric cancer incidence in a defined Japanese population: the Hisayama study. Int J Cancer. 2006 Jul 1;119(1):196-201.

*5:Tsugane S, Sasazuki S, Kobayashi M, et al. Salt and salted food intake and subsequent risk of gastric cancer among middle-aged Japanese men and women.British Journal of Cancer (2004) 90, 128–134.

*6:Takachi R, Inoue M, Shimazu T, et al. Consumption of sodium and salted foods in relation to cancer and cardiovascular disease: the Japan Public Health Center-based Prospective Study.Am J Clin Nutr. 2010 Feb;91(2):456-64.

*7:Kurosawa M, Kikuchi S, Xu J, et al. Highly salted food and mountain herbs elevate the risk for stomach cancer death in a rural area of Japan. J Gastroenterol Hepatol. 2006 Nov;21(11):1681-6.