マクロビオティックに関する論文を読んで(後編)

「もういいでしょ」という声も聞こえてきそうですが、前編からの続きです。このあと、アンケート調査の方法と、結果の考察に入っていきます。

■調査方法などを見ていく

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調査方法・調査結果
マクロビオティックの考えを生活に取り入れている方を対象に無記名、性別年齢無作為抽出で50名を目標としてアンケート調査を実施し、実際にマクロビオティックが心身の状態にどういった効果をもたらすのか、マクロビオティックの問題点などを、実践する方の生の声を通してマクロビオティックの実態を調査する。

おや、性別年齢無作為抽出って何だろう?

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調査方法と手順
アンケートは、インターネット上のソーシャルネットワーキングサイト『mixi』のマクロビオティックを実践している方の集まるコミュニティ(集まり)に入られている皆
さん、中崎義志晴さんの主催されているブログ『マクロビという考え方』と、マクロビオティックの料理教室「organic base」を主催する奥津爾さんのブログ『Base Life』でのア
ンケート実施の告知の掲載、マクロビオティックレストラン『Kushi Garden deli&cafe』でのアンケート実施など、様々なルートを通して実施した。

調査対象の集団はどれくらいの規模なのだろう?大きさによっては、ランダム抽出の意義が無いかも・・・。あと、アンケートの告知に答えてくれたかたということになれば、更に狭まってくるし、集団の属性も偏ってきそうだよね。どらねこの印象だと、マクロビを実施しているヒトの中でも、自分から情報発信をするなどの積極的な方の割合が高い集団に行ったアンケート調査だね。まぁ、それはソレで興味深いです。

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アンケート結果および考察
本アンケートの回答者の男女比率を示した。回答者は男性が全体の21%(18名)に対し、女性が78%(67名)であり、女性の割合が男性の4倍弱と多かった。このような結果から、健康や美容といった事柄に関心の高い女性に、健康食としてのマクロビオティックが大きく注目されていると考えて間違いはないだろう。
資料p1表1

50名目標で、85名のデータを解析(?)対象にしたの?えーと、どういう意味でしょう。最初に書いてあった無作為抽出はどうなったの?勉強不足のどらねこには理解できませんでした、スミマセン。まぁ、分からないことを考えてもしょうがないですものね。さて、回答者の男女比率が女性が約8割ですが、執筆者はこれを見ただけで「〜でマクロビオティックが大きく注目されている」と分析をされておりますが、間違いないと断言できる根拠がイマイチ見えてきません。執筆者には分かる事情があるのかも知れませんが、論文では其処に書かれている内容からその結論が導き出せる事を示さなければならないとどらねこは考えます。もう少しがんばりましょう。

■アンケート内容を見ていく

資料p1表3 マクロビオティックをはじめられたのはいくつの時からですか。

なんと、胎児のときから行っていたという方がいらっしゃいます。このヒトは平気なのかも知れませんが、厳格なマクロビ食であれば、なんらかの栄養素欠乏が起こっていても不思議はありません。

資料p2 表5 マクロビオティックを知り、始めたきっかけ

本屋さんをみると料理本コーナーや健康コーナーにマクロビ関連の本を必ずといって良いほど見かけますので、そうなんだろうなぁ、という気はいたします。雑誌の料理コーナーなどにはマクロビという言葉をさりげなく挿入したレシピが見られますし、単行本でも所謂カジュアル系のマクロビ料理本は単なる健康志向のお洒落料理にしか見えないし、実際に私の知り合いもそう思っていました。特にマクロビと意識しないで手に取るヒトが居ても不思議では無い感じです。私としては、『テレビ・新聞』が少ないというのはちょっとほっとしましたが、筆者はこんな感想を持ったみたいです。

p18
全く関係のない事かもしれないが、マクロビオティックを知るケースとして、書籍を通じて知ったという意見は多かったのに対して、テレビを通じて知ったという意見は、何かの「意図」があるかのように極端に少なかった。たったこれだけの事実で結論を出す事はできないが、業界同士に何らかの繋がりのようなものが存在すると考えると、このアンケート結果は非常に興味深いものである。

なんらかの「意図」ってなんだろう、陰謀論?たったこれだけの回答結果から論文に於いてこのような仄めかしを行う事のほうが個人的には興味深いモノがあります。

資料p3 表6



p18
やはり病気を治したいという思いからマクロビオティックを始める方が多くいらっしゃる傾向にあるが、反面で医者のすすめでマクロビオティックを始める方は皆無であった。この点では、東洋医学に近い考えのマクロビオティックが、西洋医療の現場においては効果が認められていないため、導入されていないものと考えられる。

医師の勧めで始めた方がここにはいらっしゃらなかった事にちょっと安心したどらねこでした。病気になった事が切っ掛けで、ソレまでの生活から大きく転換したい、という希望に合致してマクロビをはじめた・・・そんなヒトが多そうな印象です。執筆者は西洋医療の現場では効果が認められていないといってるけど、じゃあ、東洋医学の現場では効果が認められているのかしら?具合が悪いときには友人の薦めに従うよりも医師など医療に詳しい方のアドバイスに従った方が安全だと思いますけど。あと、筆者の謂う西洋医療こと標準医療の現場では、効果があると考えられる漢方薬は処方されていることも申し添えておきます。

次はマクロビを取り入れた食生活について伺っています。動物性食品については以下の通りです。アンケート回答者の属性がゆるふわマクロビで無い事が伺えます。

資料p4 表8

つづいて、甘味料についての意見です。

資料p5 表9



p19
白砂糖の摂取に関する回答をまとめたものである。「基本的には断っているが完全には難しい」が全体の45%と最も多く、「完全に断っている」は僅差の41%、「その他」13%という結果になった。マクロビオティックにおいて敬遠される食材に白砂糖が挙げられる。白砂糖は精製過程で、多くのミネラル分が失われ、人が口にして消化吸収する変わりに、カルシウムなどのミネラル分を人から奪う。それに対し黒砂糖は精製されておらず、消化の際、黒砂糖に含まれるミネラル分が消化を助ける事が知れている。また、一物全体の考えからも白砂糖はマクロビオティックの考えには則した食材とは言えないことから、マクロビオティックの実践者は避ける傾向にあるという。

マクロビでは良く主張される白砂糖は消化吸収時にカルシウムを奪うという言説を論文の筆者も採用しているようです。この主張は、細胞レベルの反応である糖質の代謝によって酸が生成する事を根拠にしており、その生成した酸(乳酸若しくはピルビン酸)がカルシウムを排出させるという理屈で、砂糖の害を説明します。どらねこはこの話を聞く度に不思議に思うのですよ、だってこのような主張を行うヒトタチって、現代医学や科学は全人的に見ないなんて謂うことが多いんですよ。前回も引用した部分を再掲しておきます。

p-7
物事を分断・分析していく現代科学に対する反省として「全体は部分の総和ではない」という事が言われるようになった。

生化学反応の部分をとりだし、砂糖の問題点を指摘するのは物事の分断や分析であるとどらねこは感じますけど、如何なモノなのでしょう。でも、体の中の事について興味を持つこと自体は悪くないと思います。ちょっと長くなりますが、少し私の考えを記しておきましょう。



1:黒砂糖の件
マクロビなどでは上白糖(白砂糖)のかわりに黒砂糖を勧められたりするようですが、黒砂糖に含まれる糖質の90%は上白糖と同じものです。食品標準成分表を見るとカルシウムが多いのは、製造過程で添加物として水酸化カルシウム消石灰)を加えられていることが影響しております。これはマクロビでは嫌う食品添加物ですよね。添加物を用いない黒砂糖を使っていると主張されるかも知れませんが、その場合のカルシウム濃度はどの程度なのでしょうか。色々と疑問が残ります。

2:砂糖はミネラル分を奪う
乳酸が発生して血液が産生に傾きそうになるのを調整するためにミネラルが消費されるという理屈自体はあり得る話です。高ピルビン酸血症や高乳酸血症などでは確かに体のカルシウムは排出されやすくなると思いますが、それらは病気が原因により起こるモノです。健康人が偏った食生活をおこなうぐらいで顕れるようなモノではないとおもいます。また、乳酸は糖質が代謝されるような嫌気的なエネルギー生成反応で出来上がりますが、これは運動などをすると筋肉ではそのような反応がおこり、乳酸が生成するワケなのですけど、運動するとカルシウム排泄が促進されるのでしょうか、よく分かりません。

3:いや、砂糖にはビタミンB1がないから悪い?
ビタミンB1が不足していると、確かにピルビン酸からアセチルCoAへの転換が滞りそうです。でも、食事バランスガイドなどで推奨されるような食事をしていれば、ビタミンB1の欠乏は起こらないと思うのですね。例えば豚肉には豊富なビタミンB1が存在しています。玄米を食べなくても、白米と豚肉で代謝をするに十分なビタミンB1が確保できるのですね。偏った食生活を主張するからそのような事も心配しなければならないわけです。ある程度バランスの良い食生活をしている方は心配する必要は無いはなしです。



まぁ、だいたいこんな感じでしょうか。○○一つを採り上げて、何が悪いコレが悪いという主張は全人的に見ているヒトの謂う事ではないとどらねこは感じております。

p21
マクロビオティックを始めてから病気や持病が改善された、または完治したかどうかをまとめて示したものである
回答者のうち約6割の方に体調の変化が見られるという結果になった。なお、この設問は回答者全員に答えてもらったために、初めから持病を持たない方などの多くは「いいえ」と回答しているために、実情とは違う結果になっているものと考えられる。そのため、図18ではQ4の回答で「病気・持病」をきっかけにマクロビオティックを始めた方に限定し示した。「改善が見られた」方が約6割、「変化が見られない・不明」が約4割という結果となり、病気や症状による違いや割合としては十分な結果ではないが、マクロビオティックがそういった面への効果がある可能性を感じさせるものとなった。また、アメリカなどではガンの治療目的でマクロビオティックを取り入れる方が多いという事であったが、今回のアンケート調査ではその実態を知り得る事が出来なかった。これらの事を考えると、マクロビオティックが病気に及ぼす影響は追跡調査や、臨床試験などの継続的な研究が必要と感じられる。

資料p9 表17-2

今現在、マクロビを肯定的に利用している方を対象としたアンケート調査であり、確かに実情とは違う結果になっているとは思いますが、それは筆者の想定とは違った意味でですが。効果を感じなかったヒトや病気の悪化のあった方はマクロビ生活をやめてしまった方で多いと考えられるからです。ところで、興味深いのは引用した表のにある改善がみられなかった病気の特徴です。自然な病気の経過では治癒することが稀であったり、放置すれば悪化するような病気については改善されたと報告した方が居ない(どらねこが表で強調した部分)ことです。マクロビを好意的に利用している方であってもそれらの病気は改善しないと謂うことを示唆しているでしょう。筆者は、今後追跡調査や臨床試験を・・・と述べておりますが、がんなどの難治性の病気に対する治療実績や効果を証明した研究*1が知られていないのであれば、がんの治療目的でマクロビオティックを勧める事自体がおかしい話だと思います。効果が証明されていないのに、病気に対して効果があるかの如く紹介するのは不誠実な態度です。深刻な病気を持っている方が、真に受けて実施し、手遅れになったなどという事が起こったら誰が責任をとるのでしょうか。とても危うい考えであるとどらねこは思います。

■まとめと今後
さて、前編から続き長々と引用してきましたが、最後にこのアンケートを元に筆者が行った考察を見て終わりにしたいと思います。

p24
マクロビオティックの問題点
・ 陰と陽の考え方を含めてマクロビオティックが概念的でわかりづらい、また科学的ではない
・ 科学的、医学的な証明が不十分
・ 宗教的
・ 周囲の理解を得にくい
マクロビオティックを実践する人間が一般食に対して排他的な傾向
マクロビオティックに食の「制限」があるという間違った捉え方をする人がいる
マクロビオティックの考えに則した食品が手に入りづらい

今後の必要な事
マクロビオティックへの正しい理解を深める
・ 医学的な証明の確立
・ 政府主導の政策転換
・ 外食、流通産業の発展によるマクロビオティックの一般化、低価格化
・ インターネット、講演会など草の根レベルでの啓蒙活動

マクロビオティックへの正しい理解は確かに深めて欲しいと思います。これについては筆者とどらねこの意見も一致しております。しかし、マクロビオティックの実態は根拠に基づかない理論を土台に都合の良い解釈を積み重ねたものであると考えます。それは前編と後編でどらねこが示した反論を見ていただければ納得して貰えると思います。
すなわち、今後に必要な事は、マクロビオティックへの正しい理解を深めて健康増進の為にマクロビオティックを利用しようと考えるヒトが現れないようにインターネットや講演会などで周知していく事であるとどらねこは考えます。

長文を最後まで読んでいただきありがとう御座いました。

*1:現時点ではこのような食事をしていればがんが治る、予防できると謂えるような特定の食事療法は無いと考えられます。此方も参考になります。疫学批評ブログさんhttp://blog.livedoor.jp/ytsubono/archives/cat_50028157.html