独法と明石要一氏のあきれたアンケート調査


前回の粗筋
外で友達と遊ぶ子ほど「高学歴・高収入に」 独法調査
あまりにアレなタイトルで話題になった朝日記事の元ネタを見たら、明石教授が指揮をとった調査であった。http://www.niye.go.jp/houkoku_srch/chosa_cts.php?insid=110
どらねこがなんで氏に胡散臭さを感じるのかという事を書き連ねたところで、お時間となった。



そんなわけで、今回は調査本体について読んだ感想等を書き散らかすわけなのだけれども、本体に言及する前に朝日の記事について少しふれてみたい。
朝日の記事より

http://www.asahi.com/national/update/0525/TKY201005250229.html
子ども時代に自然に触れたり、子ども同士で遊んだりした体験が豊かなほど学歴が高く、大人になってからの収入も多い――。独立行政法人国立青少年教育振興機構が、そんな調査結果を発表した。


タイトル及び引用箇所で大々的に扱っている内容について、当該調査の中間報告資料を見る限りでは、大きな扱いとはなっていない
当該調査の報道発表資料の表紙を見てみよう

子どもの頃の体験がその後の人生に影響しないわけが無く、何を当たり前のことを大きな文字でアピールしているのかその意図がさっぱり分からない。ま、それはそれとして・・・

朝日の記事で大きくアピールされている項目は、4つしめした結果のうち、その小項目に過ぎないのだ。これは記事を書いた側の問題と謂われても仕方が無いと思うのだけどどうなんだろうね。報道機関は内容をなるべく正確に伝えるように努力して欲しいな、イヤミじゃなくてホントにそう思ってる。
さて、そろそろ本題に入りますね。記事にも難癖をつけたけど、調査結果にはもっと謂いたいことが山ほど有るのだ。とても全部は無理だけど、大きく疑問を感じた部分を順番に突っ込んでみますね。因みに、今回は自己満足記事につき、空気を読まないでダラダラ好き勝手に言及していきますので、面倒くさい方は調査自体への疑問だけ読めば十分です。

■調査自体への疑問
疑問①:この調査では、子どもの頃の体験をカテゴリに分けた質問により確認し点数化しているが、同じ答えでも年代によってその答えの持つ意味は異なるような質問が散見される。よって、何かの要因を説明する変数としては不適切ではないか?

例)問3
 (4)夜空いっぱいに輝く星をゆっくり見たこと
 (5)湧き水や川の水を飲んだこと

(4)の満天の星は現在では都市在住者にとっては比較的贅沢な体験と考えられるが、60代の方にとっては夜中にちょっと表に出ればそう苦労なく体験できただろう。
(5)では、1960年代の水道普及率は50%に対し近年の普及率が約98%という実情と照らし合わせてみればよい。

同じように体験していたとしても、贅沢な行為と日常体験くらいの差があるのだ。この様な質問から体験が及ぼす影響を分析するのであれば、追跡調査し体験程度の違いがその後各群にどのような違いが生じたかを見ていかないと意味がないだろう。

疑問②:調査は青少年調査(郵送法による質問紙調査)及び成人調査(ウェブアンケート)で構成されている。
青少年調査の抽出は、都市規模と学校規模を層化した層化二段集落抽出法だから、「ふ〜ん」なんだけど、成人調査はウェブアンケートなんだ。ブロックの構成比などに配慮したなんてかいて有るんだけど、これって、実はマイボイスというリサーチコミュニティに参加している層から抽出したモノなんだよね。
と、思って見ていたら、報道発表資料のp4には注意書きが書いてあった。

ウェブアンケート調査の対象者はインターネットの利用者に限られていることから、現在20代から60代の全ての成人を代表する回答とは異なる可能性がある。そのため、以下の基礎集計結果を読む際は、本調査に限られた結果であるという点に留意する必要がある。


異なる可能性って、実際にそーとー異なっているんじゃあないの?ほら、コレをごらんよ。

報告 p19 Q4より

特に男性で顕著だと思うんだけど、大学進学率がとても高い集団であることが見受けられますね。日本人を代表する集団とは謂えそうもありません。これを分析して何が語れると謂うのでしょうか?さっぱり分かりません。この調査に限られた結果が何の役に立つの?このお金は何処から出てきたの?疑問がつきません。
検証終了でも良いかも知れませんが、しつこく続けます。

■解析に対する疑問
調査結果の概要を見てみよう。結果は4つの大項目で説明されているが、その一つ目は成人調査に基づいて、分析されたモノだ。
質問紙の各項目5つの設問の答えを得点化し、その高低で3つの群に分類し、他の項目との関連をクロス集計し、その関連性の有無等について、図1〜11で示している。
調査結果の概要p5 より

こんな感じね。
こういうクロス集計の場合、各年代によって違いがあるんじゃないの?年代を一緒にした集計じゃ妥当性に疑問がもたれるよね・・・そんなの調査している側も百も承知でしょう。ちゃんとやっているはずですよね。ホラごらんよ次のp6にはこんな注意書きが書かれている。

(図1〜3)について、ちゃんと年代別のクロス集計やって、傾向を確認しているんだね、うん。・・・ん?1〜3についてはやったのがわかるけど、(問4〜11)はやったの、やってないの?同様に行っているのなら、1〜11について行ったと記載するはず。手法としては難しいモノでないから、行っていないことは考えにくい。そこから導き出される答えは・・・同様の結果が得られなかった・・・ううん、推測に過ぎません。でも、(問4〜11)については、それぞれの年代について、同様の傾向が見られたとは書かれていない事は強調しておく。
なんで、こんなにこの部分に粘着したかというと、朝日の記事で強調されていた、『外で友達と遊ぶ子ほど高収入に』を示した部分は図9で示されているからなのだ。
各年代毎の傾向は一緒でない可能性があるということ。そして、今の日本では年齢層が高い方が高収入の傾向があり、昔の方が外遊びの機会が高いだろう事が予測される、つまり・・・
子どもの頃の体験の多寡と「現在の年収」との関係については、下記の図(p8図9)から何か述べることは出来ないと考えられるのだ。(少なくとも年代別に示すべき、それでも調査手法自体にもんだいあるけど)

■その他疑問点など
これで十分なのだけど、もう少し謂いたいことなどを書き連ねてみる。
質問の後半には、2つの意見のうちどちらが自分の意見に近いか問うものがあるのだが、その質問内容に大きな疑問がある。特に(2)と(5)だ。(質問紙p82より)

aとbの設問は対立するような概念ではない、というか言葉の言い換えに過ぎないようにみえるのは私だけでしょうか。
(3)については、どんな意図で作成した設問なのだろうか、という疑問がわいてくるよね。もし、『どんなこともあきらめずにがんばればうまくいく』と答えたヒトに高収入者の割合が高ければ、子どもには無理させてでも努力を強いるべし、なんて主張がされそうな気がするが、うがった見方すぎるだろうか。(いや、考えすぎだよね)
あと、最初にウェブアンケートだから各年代の代表に不適切と書いたけど、もし各年代の代表を抽出出来ていたとしてもそれでも問題があるのだ。だって、本人の記憶を調査したモノだものね。記憶はゆがめられる事も多いし、外に語られる場合には飾り立てられるモノだから。だって、『昔は悪かったものだ』なんていうオジサン結構居るでしょ。

■結論のようなもの
こういう調査ってとってもお金がかかるんだよね。専門家とか実務者の座談会を設けるときって、結構高額な報酬がでるのはあたりまえだし。下の下ランクのどらねこでも、拘束時間半日と文書校正で数万円もらったことあるぐらい。こんなお金がかかる調査研究は将来に役立つような妥当なモノじゃないとホントにもったいないよね。
教育問題を真剣に考えるクライアントがお金を出してこの調査を依頼していたとすれば、こんな報告に納得するとは思えない。素人が見ても納得できないような結果にお金を払いますか?
なめるな!と、いいたい。