助産の専門誌で堂々と玄米菜食が掲載されていました

「科学的な研究データはありませんが、これまでの経験から当院では野菜中心のお食事をすすめています」

助産師の専門雑誌である助産雑誌2010年1月号から開始された連載、助産院のごはん(1)*1の冒頭の文章だ。

魚を食べるなら、青魚よりも白身魚のほうが油分が少ないこと。刺身は代謝に時間がかかるので胃に負担がかかること。油や香辛料を使った料理は、乳腺が詰まりやすくなるので避けたいこと。糖分は体を冷やすだけではなく、乳汁が甘く、べたついてしまうので、調理に砂糖やみりんをつかわないこと。

松が丘助産院の助産師、宗さんは主催する「食の会」で注意をして欲しい食材とその理由が書かれたプリント(上記引用文)を渡しているそうだ。

どらねこはこの給食に見覚えがある。そう、玄米菜食マクロビ食だ。

助産師になる前から、母親として故・山西みな子助産師のところに通っていた経験が大いに影響しています。


NPO法人自然育児友の会は、山西みな子氏から母乳指導を受けた母親達が立ち上げたものだそうで、山西氏も生前顧問を務めていた。同会の顧問には真弓定夫小児科医も名を連ねており、その親交が伺えるところだ。

そんな自然育児及び母乳育児にこだわる宗さんも妊産婦に食事の大切さを伝える事は難しいらしく、試行錯誤の連続だったようだ。本文でもその苦労を次のように語っている。

野菜を食べようと食生活を見直した妊婦さんが貧血気味で、あらためて食事内容を聞くと『毎食キャベツとほうれん草だけ』というので驚きました。バランス良く食べることが大切なのに、栄養のある野菜なら毎食それだけでもいいと誤解をする人もいる。

良いこと言いますね、どらねこも同感です。丁度、当該助産院の食事を写真入りで掲載しておりましたので、バランス良い食事の見本を見せていただきましょう。

● ある日の昼食

参考までに栄養価を計算してみた
写真の縮尺は元のお箸の長さが20cmと推測して概算し、食材の分量を求めた。欄外の情報と、写真から使用食材とその割合を判断しているが、レシピがないのである程度の誤差はご容赦いただきたい。(概ねふつーの栄養士が計算するみたいにやったつもり)

1日の食事を3食にどれだけ配分するかは施設によって異なるけれど、通常朝を少なめにして、昼と夜に多めに割り振ることが多いので、昼食からは30%〜35%は確保したいところ。
昼食の割合を1日の推奨摂取量*2の30%と設定した場合、『ある日の昼食』はどの程度の充足率なのだろうか。レーダーチャートにしてみた。

産褥期に大切とされる、たんぱく質とエネルギー源だけでなく、必須脂肪酸の供給源として大切な脂質の充足率が壊滅的である。

バランス良く十分量食べることが母乳を提供する母体には大切なのに、玄米菜食なら科学的根拠が無くてもなぜか大丈夫と誤解する人がいるようだ。

食事摂取基準は国内外の学術論文を集め専門家のレビューを基に科学的根拠に基づいて策定されたものです。食事摂取基準はそのまま個人に摘要されるものではありませんが、万人に示すスタンダードとしては現時点で最も確からしいものであり、助産師の個人的経験則で否定されるものではありません。専門誌に堂々と掲載されるこの状況に大きな不安を抱かせるものです。

ハブハンさんのあぶすとらくつからのエントリ『そんなツモリはないのにニセ科学扱いされちゃう理由』より引用させていただきます。

 自分が信じているものにケチをつけられるのは、気分が悪いもの。でも、自分ひとりで信じているだけなら、ダレからも咎められないし、そもそもニセ科学でもありません。ニセ科学に昇格する可能性が出てくるのは、他人に広めようとしたとき。
 自分が信じているんだから、客観的にも正しいんだと思いたい。良いものをみんなに伝えたい。その気持ちも分かります。でも、他人に伝えるというのは、他人に影響を与えるというコト。そこでは、自分の気持ちよりも大切にしなきゃいけないものが、多分あります。


他者に広める場合には、科学の話をしていませんと断ったからといって、科学的根拠に基づくデータを蔑ろにすることを正当化できません。

おまけ
気がついた人もいるかも知れませんが、『ある日の昼食』は塩分がなぜか高いんですよね。実は、酵素玄米だからなんです。
酵素玄米というのはおそらく、長岡式酵素玄米のことでしょう。簡単に説明すると、玄米に小豆と塩を加えて、高圧で炊きあげた物を、たまにかき混ぜながら3日くらい保温状態で熟成させたものです。結構な量の塩がポイントのようなので、栄養価計算にも反映させました。おやつにおにぎりだと更に食塩アップダヨなぁ。
この酵素玄米というのは実はかなりのトンデモで、なぜだか塩を入れて高圧で炊くことにより、有機ゲルマニウムが発生してしまうという代物です。どなたかネタにしませんか?

*1:助産院のごはん(1)松が丘助産院」,医学書院,助産雑誌.64(1):66-69(2010)

*2:厚生労働省「日本人の食事摂取基準2010年版」