トランス脂肪酸とメディアからの情報

おまけ的な趣味のエントリです。解説記事ではなく「どらねこの考え」を述べていくものですのでご了承下さい。


アメリカはトランス脂肪酸禁止?
昨年の11月頃からトランス脂肪酸について危険性などについて検証する報道をみかける事が増えたように感じるのだけど、これはアメリカのFDAアメリカ食品医薬品局)が11月7日に発表した内容が関係しているのでしょうね。

FDA Targets Trans Fat in Processed Foods」
FDAは加工食品のトランス脂肪を標的とする)
http://www.fda.gov/ForConsumers/ConsumerUpdates/ucm372915.htm

これは一般に向けたアナウンスで、詳しい内容は上記のURLや食品安全情報ブログに邦訳*1も載っておりましたのでそちらを参考にしていただくとして、簡潔に要約をするとこんな感じじゃあないかな。

FDAの役割は食品の安全性を確保することなので、危険と考えられる食品は規制していかなければならない。

FDAとしてこれはもう安全ではないよ、という予備的な決定が部分水素添加油脂(マーガリンやショートニングなどが含まれる)に対して行われた。

・この予備的決定がそのまま採用されれて、水素添加油脂は安全ではないという事になればFDAの事前認可が必要な食品添加物となる。それを含む食品は未承認添加物を含むもので異物混入扱いとなり合法的に販売することはできない。

・食品企業が水素添加油脂を段階的に中止するためにどれぐらい時間が掛かるのか意見を求めてるために、60日間の期限でパブリックコメントを受け付けている。*2




■日本のメディアはどう反応した?

トランス脂肪酸、米で全面禁止へ 健康への悪影響理由に*3

↑は見出しが気になった記事。

中身よりも「タイトル」について気になったのは、これだけを見るとアメリカで全面禁止されているものが日本で野放しというのはけしからん、国は何をしているのだ、と受け取られてしまいそうに見えるから。では、他の新聞はどうなのでしょう?

トランス脂肪酸:米国で禁止の動き 日本では表示義務なし
http://mainichi.jp/select/news/20140117k0000m040025000c.html
毎日新聞 2014年01月16日 18時25分(最終更新 01月16日 23時18分)


こちらも似たようなタイトルですが「禁止の動き」という表現は少し穏やかかなとは思う。この記事では、危険性を心配する内容だけでなく、一律に危険と考えるばかりではいけないとする専門家の意見も掲載されており、何が問題かを考える姿勢もみられるので中身も紹介。

毎日記事より
「以前から脂肪の取り過ぎが問題だった欧米と違い、日本人は元々の摂取量が少ない。通常の食生活をしている限り健康への影響は小さいでしょう」。畝山さんはそう解説する。逆に「脂質はたんぱく質、炭水化物と並ぶ三大栄養素の一つでホルモンや細胞膜の材料にもなる。トランス脂肪酸を避けようと神経質になって脂質を極端に減らせば、かえって健康を損ないかねません」と心配する。


こうした意見を載せる一方、危険性について懸念を示す人の話も並べて掲載。

毎日記事より
 身近な食品のトランス脂肪酸量を05年に調べ、公表したNPO法人「食品と暮らしの安全基金」代表の小若順一さんは「企業が公表している含有量は実測値ではなく計算値かもしれず、正確かどうかは分からない。消費者の利益を考えるならば国が含有量の規制値を設定し、値を上回る商品は排除すべきです」と語る。

 「幼い頃からファストフードやコンビニエンスストアの商品を口にしてきた若者はトランス脂肪酸のリスクを蓄積しており、数十年後に被害が出るかもしれない。学校給食などでは規制すべきです」。環境や食の問題を考える運動に取り組み、東京都調布市で自然食品店「みさと屋」を営む藤川泰志さんは訴える。


このような両論を併記している記事は一見すると公平に見えるのだけど、これらの意見それぞれの信憑性は同じぐらいのものなのかは読者が判断することは難しいでしょう。
こうした情報の判断に専門性が求められるような話題について両論を併記し、読者の判断に任せるというだけで良いのかな。ある程度情報に重みづけをされた記事を読者に提供する事が新聞社に期待される部分だと個人的には思うのだけど、そうした声をあげる人が少ないのが現状で、だから変わらないのかもねとかも思う。

※ちなみに小若順一さんについてはこういう話もありますので、そもそも問題に対し、科学的アプローチをする人なのかレベルで疑問ですね・・・→http://blog.goo.ne.jp/wakilab/e/439d8114a0e5a646e2bcd4429589d4ea



■一般にはどのように伝わる?
ところで、前項で記事の「タイトル」にどらねこがやたらと拘っているなぁと思われた方もいると思うけど、それは「トランス脂肪酸」と「その危険性」について元々悪い印象を持っている人が多いと予想しているからなのね。
例えば、新谷弘実さんの著作「病気にならない生き方」はベストセラーになったけど、そのp98にて「マーガリンほど悪い油はない」としてトランス脂肪酸の問題点やマーガリンは完全なトランス脂肪酸になっているという趣旨の説明をしていたりするの。また、この同時期には週刊誌*4等でもトランス脂肪酸の害について話題となっていたため、健康問題に興味のある一般の人では「トランス脂肪酸は危険なものである」という空気がもうできあがっちゃっているように思うの。

そうした下地のある状況で「アメリカではついに規制される」というタイトルや、一見公平に見える両論併記は誤解を誤解のままに温存してしまうのではないかと懸念をもってしまうわけ。おそらく危険と考える人は「早く日本でも対策を!」と感じたでしょうし、なんとなく不安な人はその不安をより強くしたのではないかと思う。

食品に対して不安な情報がでたらここを見て判断すれば良いというような、信頼度の高いメディアやウェブサイトなどに誰でもアクセスできるような環境をつくっていくことが必要だろうと個人的には思うわけ。


■どこを見れば良い?
それじゃあ、どこをみたら良いのかなという事になるのだけど、一般向けの雑誌記事でもくわしく検証をしているものはありました。

日経トレンディネット
連載:医学博士 大西睦子のそれって本当? 食・医療・健康のナゾ
日本も都市部の女性は摂取量が多い!? 米国、その後のトランス脂肪酸
http://trendy.nikkeibp.co.jp/article/column/20140128/1054781/


著者の大西さんは著者プロフィールを見ると、東京女子医科大学卒で日本でのキャリアの後、ハーバード大学で食事や遺伝子と病気に関する基礎研究に従事し、現在もボストンで研究を続けている方のようだ。

詳しい内容に興味のある人はリンク先を参照頂くとして、トランス脂肪酸とはどのようなもので、どこに存在しているのか、海外での評価はどうであるのか、日本での摂取状況やここ最近の動きなどをキチンと追いかけた記事でありました。重要な情報は網羅しており、短時間で要点を掴むのにはいいなあと思いました。まあ、「製品ごとに表示の必要性を感じます。 」という大西さんですので、どらねことは結論は違いますけど。

ただ、この記事には気になった部分もあって、それは本題ではない後半部分です。引用しながら言及してみましょう。トランス脂肪酸だけではなく食べている脂質の内容にも目を向けようという文脈です。

記事より
では質のいい脂質って何でしょうか?
脂質は私たちにとって、細胞膜やホルモンを作るための材料となり、主要なエネルギー源として貯蓄され、とても重要な栄養素です。脂肪酸は脂質をつくっている成分で、その科学的構造から、飽和脂肪酸不飽和脂肪酸の2つに分類できます。

はい、とくに異論はないです。

記事より
飽和脂肪酸はバターやラードなど、肉類や乳製品の動物性脂肪に多く含まれていて、常温では固体で存在するため体の中でも固まりやすく、しかも中性脂肪コレステロールを増加させる作用があるため、血中に増えすぎると動脈硬化の原因となります。

身体の中で固まりやすいので動脈硬化の原因となると読めてしまうのですが、誤解を与えそうな表現ですね。つづいて、多価不飽和脂肪酸に対する解説があります。

記事より
一方、大豆油やコーン油など一般的な植物油に多く含まれるリノール酸を代表とするオメガ6系脂肪酸も、体に必須で悪玉コレステロールを減らしますが、半面、摂りすぎると善玉コレステロールも減少させてしまいます。
オメガ3系と6系の摂取バランスは「1:2」〜「1:4」程度が適切であると言われ、伝統的な日本人の食事ではこれが保たれていましたが、昨今の欧米型の食生活でオメガ6系の摂りすぎが問題になっています。

もしかしたら大西さんは脂質栄養学についてはあまり得意ではないのかも。

オメガ3系(n-3系)とオメガ6系(n-6系)脂肪酸の比率について、日本人が参考にできる栄養摂取量の基本である「日本人の食事摂取基準2010」では食事からの脂肪酸摂取の目安量としてエネルギー比で、オメガ3系(n-3系)を1%オメガ6系(n-6系)を5%としているのね。比率としては「1:5」*5であって、「1:2」という基準がどこからでてきたのかちょっと分からないのね。FAO/WHOの目標値でも、そんな数字にはなってませんし。*6



もう一つの誤解は、伝統的な日本人の食事ではこれが保たれていたという部分。これはいつの時代の日本の事なのでしょう?
日本国民が平均的に魚を多く食べるようになったのは冷蔵設備が普及し、道路整備が進み流通網ができあがった後の時代の事です。過去記事で用いた表を再掲するけど、明治や大正時代の魚類摂取量はけっこう少ないというのはおぼえておいて欲しいなぁ。



昔ながらの日本食=望ましいバランス食・・・という誤解が蔓延*7していると思うの。少なくとも昔の日本人が食べていたような食事では十分なた脂肪酸量を確保は難しいということね。

食事と健康の話というのは食品や栄養についての深い知識だけでなく、文化や社会構造、環境などなど様々な分野の知識が求められる正解の存在しない難しいものだと思うのね。なので、一般紙や雑誌から望ましい情報を選び取るというのは一般の人には相当厳しいんじゃないかと思う。
その中では、ちょっと専門っぽさがあるものの「FOOCOM.NET」はオススメできるかな。


いつも参考にするにはハードルが高いと思うので、気になるニュースがあって判断に困っているときに読んでみるというのは良いんじゃないかな。

他にもこれは良いよ!というものがあれば紹介下さいね。

*1:詳しい内容はhttp://d.hatena.ne.jp/uneyama/20131111#p13で要約を日本語で読むことができます

*2:その後2014年3月8日まで延長

*3:朝日新聞デジタル2013年11月8日10時09分記事見出しhttp://www.asahi.com/articles/TKY201311080009.html

*4:例えば「週刊朝日」2005年8月5日増大号の記事「マーガリンで心筋梗塞が増える!?」など

*5:食事摂取基準では比率だけでなく量で考えようという趣旨の説明も有り

*6:強引にみれば「1:4」と解釈できない事もないけど・・・

*7:少なくとも日常の食事ではない。昔ながらの素晴らしい日本食が欧米化で破壊されたと思い込んでいる人が一般の方だけでなく専門家にも多く見られるというのが現状。これは昔は良かった、近頃の若い者は・・・的な物と同根の心理なのかなと思う