朝ごはんの良さをカガクで証明した本は科学的なのか?

(この記事は以前運営していたブログどらねこ日誌に2009年07月01日掲載したものを加筆・修正したものです)
一応、食品生活科学に携わる身のどらねことしては、トンデモ食育が跋扈するの指を咥えてみているわけにはまいりません。確かに朝ごはん運動には懐疑的ですが、体質的に問題が無ければ積極的に朝食を食べてもらいたいなあ、と思っておりますし、朝に余裕を持てるような生活環境するべく政策面からの支援を期待したいところです。
でも、朝ごはんが健康に良いと喧伝するのであれば、科学的根拠が欲しいところですよね。そんな時、丁度良い本を見つけてしまいました。

『科学が証明する新朝食のすすめ』香川靖雄著 女子栄養大学出版部 2007年刊

さあ、この本をしっかり読んで『トンデモ理論に基づく食育や朝ごはん運動』をやっつけちゃうぞ、そう意気込んで読み始めたどらねこでしたが、『はじめに』を読んだ時点で早くも違和感を抱いてしまいました。読み進むにつれてその違和感がさらに膨らんでゆきます。少なくとも、掲載されているデータについて、どらねこの解釈と、筆者の解釈が大きく異なるのですね。まあ、一つの事象を見て同じ解釈にならないことは当然に起こりえるのですが、どうもすっきりしないのですね。特に違和感の大きな部分や疑問点を整理し、エントリーとしてみたいと思います。


■本書の構成
全6章構成となっており、1章で若者の生活の乱れを指摘し、2〜5章で、朝食を食べることの効果を紹介、そして6章では実際の食事例を示し実践を促します。では、早速序文を読んでみましょう。

p8より
はじめに

 中高生の皆さん、それからお母さんたち、先生方も元気にしていますか?今の日本には無気力で、いろいろなトラブルを起こす若者が増えています。たとえば不登校児は十二万人超にも増えています。
<中略>
 お母さんも「うちの子はダメよ」とあきらめないで、心を込めて朝食を作ってあげてください。「うちは共働きよ。パートで忙しいの」というお母さんたち、米国では一九七五年から朝食の摂れない子供達に学校朝食を供給する制度が始まり、学業成績や心身の発育に大きな成果を上げているのをご存じですか?
(以下略

無気力なのにいろいろなトラブルを起こす若者が増えているのでしょうか。それとも、二極分化していると主張されているのでしょうか。本文にも似たような言及が有りますので詳しくは後ほど触れたいと思います。
そして、朝食問題になると必ずでてくるお母さんへの呼びかけ、お父さんは何処に行ったのでしょうか。お母さんでなければならない必然性について科学的根拠は示されるのでしょうか*1。それでは本文に進みたいと思います。


■第1章−若者の生活はこんなに乱れています−

最近は子供の朝食欠食率が問題となっていて、それにはこんな理由があるのですよという流れの中の文章です。

p18より
時間がないのも、夜更かしして、朝寝坊になっているからです。この傾向は特に最近高まってきています。
また子供の数が大きく減って、兄弟姉妹も少ないので、いっしょに遊ぶ仲間が少なくなっています。子供の数が多かった過去では、子供達は肌で生存競争を感じて、朝食を食べないなどということは考えられなかったのです。

なかなかに大胆な仮説ですね。巻末には参考文献一覧が載っているのですが、これに関連する文献は示されておりませんでした。子供の数が多かった過去では、食生活自体が豊ではありませんでしたし、生活時間も大きく異なります。そちらの方が影響力は大きいような気がするのですが・・・。説得力を持たせるためには、兄弟姉妹数と朝食欠食率というようなデータの提示が必要であると思います。

次に筆者は若者の学力、学習意欲の低下を嘆きます。

p26より
今の日本の生徒達の中には、生活も乱れ、朝食も食べていないので、学校で中国の話を聞けばラーメンのこと、筋肉の授業を聞けば豚カツのことばかり考えている子どもがいるのかもしれません。それどころか、かつてはほとんどいなかった不登校児、学級崩壊、保健室登校、キレた少年たちの犯罪が増えるなど、多くの問題が出てきました。

今度は更に大胆な仮説です。でも、今の日本の生徒達よりも食事を十分に食べることが出来なかった時代の生徒のほうが食べ物の事ばかり考えていたような印象があるのですが、どうなのでしょう。そんなカワイイ問題だけでなく、事態はさらに深刻なのだと筆者は述べておりますが本当に犯罪は増えているのでしょうか?

不登校児や学級崩壊、保健室登校は確かに増加を統計から確認することができます。そして、肝心の原因に朝食欠食が関わっているのでしょうか。このような問題はたとえ相関はみられてもそれで因果を実証したことにはなりませんので注意が必要です。しかし、相関どころかその事実さえ怪しいのが『キレた少年たちの犯罪が増える』です。
実際のところはどうなのか、少年犯罪データベース様からデータを引用*2させていただきます。

【未成年の殺人犯検挙人数と少年人口(10〜19歳)10万人当りの比率】
まず、殺人についてですが、戦後のピークは昭和26年で、2.55でした。戦後まもなくなので、世の中が混乱していたという解釈も出来そうですが、その後昭和36年にもピークがあり、その時は2.19でした。さて、現在はどうなのかといいますと昭和36年をピークに減少が続き、最近はほぼ横ばいで平成18年には0.59と4分の1にまで低下しました。これでも少年犯罪が増えているといえるでしょうか。
え、殺人だけでは判断できない?では、少年刑法犯の主要罪名別検挙人員の人口比より、暴行と傷害について確認してみましょう。

暴行 
昭和39年 69.19
平成18年 15.18
傷害 
昭和36年 84.08
平成18年 53.76

如何でしょう。これでもキレた少年達の犯罪が増えているといえますか? もちろん、年によって増減はありますが、トレンドとしては増加と読むことは困難です。

また朝食を食べないことは非行の原因にもなると筆者は述べます。

p32より
「あんなにいい子だったのに、ドラッグで補導されたんですって。怖いわ〜っ」
「あの子は、遅刻するようになって、たばこをすって叱られてから、学校に来なくなったんだ」
今や日本の高校三年生の男子の二割強、女子の一割は、たばこをすっています。欧米では、大人でも喫煙者は二割台なのに、このように日本で広がったのは、昼間から眠い高校生が六割に増えて、その不快感を紛らわすためです。朝食欠食から喫煙に至るという調査結果は、スウェーデンの七千六百五人の若者で確かめられています(3章12節)。生活を直さずに、先生が注意したり、将来の健康を害すると教えても、禁煙するはずがありません。
何よりも怖いのは、生活のリズムの乱れによる不快感を覚醒剤で治そうとすることです。これが問題の薬物乱用です。

なんと、若者のタバコや薬物乱用は朝食を食べない事が大きく影響しているというのです。もし本当であれば、これは大変重要な指摘です。後の章での詳しい解説が待たれます。


■第2章−検証 朝食を摂ると成績があがります−
第2章では、研究結果や事例を紹介し、朝食と成績の関係を説明しております。
さて、肝心の内容はというと、外国の事例を紹介したもの、ある医科大学での朝食摂取群と非摂取群における成績の比較等を紹介しており、事例については参考になる部分もありました。けれどもそれは、前回1章から引用したものと同様、因果ではなく相関を示したものばかりで、実際目をひく部分はそれほどありませんでした。
余談ですが、朝食と脳の働きなどの関係については、その結びつきを示す論理に飛躍が多いモノをよく見かけます。参考→http://d.hatena.ne.jp/doramao/20100113/1263358380

さて、2章からは特に気になった解釈のみ引用してみます。

p42より
日本青少年研究所の調査では、日本の高校生は七時過ぎから七時半までに起床する朝寝坊なのに対して、米国、中国は早起きです。また日本では深夜十二時から一時の間に就寝する場合が最も多いのに対して、米国や中国の高校生は二時間も早く十時から十一時の間に就寝するのです。

さて、簡単に検証してみます。
次項には、元となった日本青少年研究所:高校生の学習意識と日常生活(2005)から、日本・米国・中国の高校生の就寝時間を表した図を提示しております。

なるほど、確かにグラフをみると日本人の就寝時間は30分ほど後ろにずれているようです。ふむふむ・・・あれっ、でも、朝寝坊な高校生を表すデータはどこなのでしょう。
幸い、ネット上に同じ調査の起床時間を表した図を見つけることができました。ちゃんとあるのですね、さてどれくらいねぼすけさんなのかな、みてあげましょう。


日本青少年研究所:高校生の学習意識と日常生活(2005)より

中国の高校生さん、早起きですねぇ。
おや、確かに各階級毎でみれば七時過ぎから七時半までに起床する割合が一番高いのですが、この図で見る限り、七時前に起床する人の割合は過半数を超えている模様です。このグラフから日本の高校生は七時過ぎから七時半までに起床する朝寝坊であると読み取って良いものでしょうか。どうやら私の解釈とは違う模様です。いやぁ〜カガクってホントウに難しいものなのですねぇ。
「え、でも日本人は確かに起床時間は遅いのは確かなのでしょう?ならそんなに目くじらをたてなくてもねぇ」そんな声も聞こえてきそうです。
そうかも知れません。ですが、どらねこはこんなデータも見たことがあるんです。


第1回子ども生活実態基本調査報告書より

随分違いますねぇ、調査によって大きな差があるのでしょうか?高校生は学校が遠い子が多いので、早起きする必要のある子が多いと記憶しておりました。日本人高校生は睡眠時間が少なめであることは確かなので、無理矢理朝寝坊さんに仕立て上げる必要があるのかなぁ、なんでこんなデータの引用・解釈をしたのでしょう。これでは疑り深いどらねこの事ですから他のデータも怪しく見えてしまうというものです。いやぁ勿体ないですねぇ。
睡眠時間が少ないと朝ごはんを食べる時間が十分に確保できませんよ。だから、「朝型社会に移行できる政策をじつげんしよ〜!」で良さそうなものですが・・・

p45より
 日本の小中学生は男女とも、自分で起きられる子は約三割しかいないのです。これは日本人の子どもの依存心の問題といわれます。
 日本人は幼児の時に母親の胸に抱かれて寝るので、困った事があれば泣いて母親に優しくしてもらいます。これに対して欧米人は幼児の時から別室で寝起きし、他人の指示のないところで強い自立心を育てます。

確かに欧米では、スポック博士の子育て理論からそのような風潮がもてはやされたようですが、その事で本当に自立心を高めたのでしょうか。また、独り寝は自立心を高めることが主目的なのでしょうか。実際は夫婦の時間を大切にしたい現れのような気もするのですよね。ところで、その後の研究では添い寝のメリットについてもいろいろと発表されているようです。
どらねこ個人的には、親に愛されている事を実感することで、自分を大切にする心、そして、人を大切に思う心が育ちやすいのだと思っております。


■第3章−朝食はどうして体に良いのでしょうか−
さて、ようやく第3章に突入します。この章では朝食の効果を個別に検証していくというスタイルなのですが、データの拡大解釈が随所に見られます。ここでも特に気になった部分のみ引用してみたいと思います。(余談ですが、読んでいて既視感に襲われることが度々ありました。)

食事をしないでいると糖分が不足して体に影響がありますよ、と筆者は主張します。

p94より
糖分の不足が続くと身体の抵抗力が弱まり、いろいろな病気に感染しやすくなります。体たんぱく質の取り崩しを減らすために、脂肪組織から「ケトン体」などを作りますが、これは酸性の強い物質ですから、体にいろいろな害を与えます。


確かにケトン体についてはその通りではあるのですが、これを朝食の有用性を証明する為に持ち出す必要があるのでしょうか、理解に苦しみます。なぜかというと、このような害を及ぼす状態になるのは、健康な人であれば数日以上何も食べない飢餓状態になった時だからです。普段の生活をしていても、ケトン体は筋肉のエネルギー源として重要な役割を果たしている物質です。この表現は色々と誤解を招きかねません。

p105より
9:朝食を摂らないとなぜキレるのでしょう
「うちの子は何を聞いても口をきいてくれない」と部屋にこもったり、暴力を振るったりする子が増えています。

またまた登場しました、『最近の子供はキレやすい』。では、キレるの定義は明確に有るのでしょうか、定義の無い概念を論じていてはカガク的とは言えないですよね。しかも、またまた若者の暴力行為が増えているとのお話。どうしてこんなに既視感に襲われるのだろうと思っていたら、巻末の参考文献には『大澤博:糖原性低血糖 ブレーン出版(1996)』とあるじゃあないですか。これではカガク的とはほど遠いはずです。
大澤博さんや低血糖でキレるのお話は是非、こちらhttp://d.hatena.ne.jp/doramao/20121212/1355308178を参照していただきたいと思います。

p117-118より
朝食を摂らないで生活の乱れが生じると、どうしても気分が優れないので、喫煙、さらに覚醒剤に頼ることになります。このことは、図3−13で喫煙者に朝食欠食者が多いことから分かります。

あれ、第1章において『生活リズムの乱れによる不快感を覚醒剤で治そうとすることです。これが問題の薬物乱用です。』と触れていた部分のデータは有りませんね。喫煙者に朝食欠食者が多いことを示しただけですねぇ。これで薬物乱用の原因は朝食未摂取である科学的証明になっているのでしょうか。
まず、この図ですが、喫煙と朝食欠食に相関が有ることを示したものであり、因果関係を説明するものでは無い事に注意してください。
日本の様々な調査でも、中高生の喫煙者には一般的に望ましくない食生活および生活習慣にある人が多い、ということは読み取ることができます。(わが国の中高生の喫煙行動に関する全国調査−2000年調査報告など)また、中学生では周囲の環境(友人、社会など)に影響される傾向を見ることができます。しかし、これらの要因は断面的なもので、因果関係を明らかにできるような研究デザインではありません。
相関をみるとしても、友人関係を切っ掛けに喫煙を始め、それと同時に生活習慣が乱れはじめ、朝食を摂らなくなったという解釈の方がどらねこ的には自然であるように思います。

『朝食未摂取→イライラする→タバコで誤魔化す→喫煙習慣→薬物乱用』

「ココまで繋げるのは相当に無理がありますよセンセイ!」などと考えていてふと思いつきました。

最近は朝食欠食率が増えているのだから、若年者の喫煙率は上昇しているに違い有りません。これを実証すれば少しは主張に説得力を持たせることが可能でしょう。

厚生労働省の最新たばこ情報*3より
 平成8,12,16年度の全国調査によると、男女とも学年が上がるにつれ喫煙経験者率、月喫煙者率(この30日に1度でも喫煙したもの=中高生の喫煙者と定義)、毎日喫煙者率はいずれも上昇しました。平成8年調査に比べ平成12年調査では、中学男子の喫煙経験率の低下が認められていましたが、女子の喫煙率、男子の常習的な喫煙率(月喫煙率、毎日喫煙率)は、あまり変化が認められませんでしたので、今後の動向を注視して見守っていましたが、平成16年調査において劇的な喫煙率の減少が認められました。


ガクっ! 「もろ、へってんじゃん」


どうやら朝食運動が始まる前から喫煙率は低下している模様です。

喫煙習慣や薬物乱用を防ぐためには、まずは朝食に注目するよりも、親が家庭内で喫煙しない事や禁煙に対する社会的な取り組みが大事なのではないでしょうか。どらねこはこちらの方がまだ科学的な考え方だと思うのですが、皆様はどのような感想を持ちましたでしょうか。


■第4章−朝食は体内リズムを助けます−
この章では、概日リズム、時計遺伝子(clock gene)などの専門的なオハナシが満載です。どらねこは難しい話を理解できる頭が無いのでそっちはスルーで、もうすこし簡単なところに注目してみました。簡単なところでつまずくのに、難しいことを理解できる筆者がどらねこには羨ましいところです。

p125より
学校を卒業して新しい職場に通勤するときに、生活を一新して、健康によい朝食を摂る習慣に切り替えるのが望ましいのです。
 しかし図4−3を見てください。二十歳以上の人に朝食欠食の割合がいちばん多いのですが、その習慣は、仕事についていない若いころから始まるのです。つまり、夜勤や残業などによってやむを得ず生活が乱れる場合は、一部にすぎません。

ええと・・・どこをどう見ても、この調査結果は朝食欠食が習慣化した時期を示したものにしかみえませんし、朝食欠食割合を示したものですらありません。
習慣化した時期に注目すれば、男性、女性とも20歳以降が約半数を占めている事が分かります。高校を卒業した頃からとあわせて考えれば、専門学校及び大学入学そして、高校、専門学校、大学を卒業し就職をした頃がこれに当てはまります。
仕事についていない若いころからからはじまってはいるが、就職後の環境変化などにより朝食欠食する人が増えると考える方が自然なように思います。
ここまでくるともはや『こじ○け』レベルでございます。


■第5章−朝食で防ぐ生活習慣病
今、日本で問題となっている生活習慣病。朝食を食べることでこんなにも予防効果があるのですよ、研究・調査結果を示し、その効果を検証するという内容です。

p163-164より
ブレスロー(L.Breslow,一九七二年)は、三十歳以上の男女七千人について長期間の調査をしました。その結果、以下の七項目の健康習慣の中で、実行している項目数が多いほど疾患の罹患率が少なく、寿命が長いことを見いだしました。
1 適正な睡眠時間
2 禁煙
3 適正体重の維持
4 過度の飲酒を避ける
5 定期的にかなり厳しい運動をする
6 朝食を毎日食べる
7 間食をしない
これらの七項目の中で六項目を守っている人は、四十五歳の時の平均余命が三十三歳もあるのに、三項目しか守っていない人は二十一歳の余命にすぎず、十二歳も平均余命が短縮するのです。

それぞれの寿命延伸への寄与割合はよく分かりませんが、印象としては『禁煙』や『過度の飲酒を避ける』の影響が大きそうな気がします。因みに、中高年の方ではやや太り気味の方が長生き傾向*4であるというコホート研究の結果がいくつかあります。タイトルに書かれたような事を謳うのであれば、朝食習慣の有無のみが異なる集団間で寿命を比較して欲しいものです。それが難しければタイトルを『喫煙習慣の有無などで寿命は十二年延びます』に変更したら良いのではないでしょうか。

p175-176より
朝食を抜けば、それだけやせられると考える人は多いようですが、心身の活動を低下させるだけなのです。そして身体の方では、エネルギー不足の危険を感じて、昼食、夕食のエネルギーを脂肪としてできるだけ貯えようとするのです。これは本当です。
実際に朝食と夕食を、同じ二○○○カロリーのみ摂取して試してみたのが図5−7です。五日間で毎日体重の変化がありますが、朝食を摂った場合は体重が少しずつ減っていくのに対して、同じ人が同量のエネルギーを夕食で摂ると、少しずつ太っていくのがわかります。

いや、解釈云々の前にすげぇ〜気になるところがあるのですけど・・・
真ん中の女性の異様な体重変動が気になってしょうがありません。朝食実験の時が68kg前後で、夕食実験の頃には57kgぐらいです。彼女に何があったのでしょうか?この実験のせいで病気になってしまったのだとすればかわいそうですねぇ。多くの方は気づいていると思いますが、一食で2000kcalの食事というのは尋常じゃあありませんよ。朝食に大盛りフルコースだされて、「さぁ、食え」なんて言われたら貴方はどう思いますか。
一応単純計算してみましょう。
余剰エネルギーや不足分が体重に与える影響は7kcalで1gと一般に言われております。この実験では、たった五日間に0.5〜1kgもの体重変動が見られます。
1000gの体重変動には7000kcalの過不足が考えられます。一日あたりで考えると、1400kcalにもなります。同じ人で同じエネルギー量なのにこんなにも差が出た事自体が驚きです。被験者BHさんの夕食時データをご覧下さい。五日間で1kgの増加がみられますよね。エネルギー出納だけで考えると、この間彼女は一日に600kcalしか消費していないと推測されるのです。これはお年寄りの基礎代謝量にも満たない数字です。彼女は食事以外は仮死状態であったのかも知れません。
・・・なんて、ちょっとひどいことをかいた後でなんですが、これだけ短期間で体重変動する場合に考えられるのは大抵、水分出納の問題や排便関連を疑います。
朝食に大量の食物を詰め込みすぎて下痢になってしまったのかも知れませんし、夕食にどか食いしたため便秘になってしまったのかも知れません。もちろん、本当のことはこの表だけではわかりませんが、これだけ特殊な状況から「朝食を抜くと太る原因になります」という答えを導くことはどらねこには出来ない芸当です。


■終わりに
食事は健康に確実に影響します。何も食べなければ生きていけない事からも明らかですし、特定のビタミンを欠乏した食事では体に変調を来すことからも明白な事です。また、食べ方も体に影響を与えます。今日はごはんだけ、明日はお肉だけというような食べ方では代謝に悪影響をあたえます。
朝食を食べる習慣は、子供のように生活活動が高く、一度に多く食べる事が難しい人にとってみれば大変に望ましいものであると考えられますし、大人であっても昼食までのエネルギー補給の事を考えれば多くの人にとって有用であるという事は想像に難くありません。また、生活にメリハリをつけるという面でも大事なことであると思います。
そんな大切な朝食習慣ですので、なるべく多くの方に実践してもらいたい。そのように考えることは自然な事で、おかしなところは全くありません。ところが、社会構造の変化などにより、望ましいと考えられる習慣から外れてしまう人が多くなってきました。どうしましょう。
食と健康にたずさわる者とすれば、当然自分が良いと考える食習慣を皆に実践してもらいたいところです。ではどうやって?
本書はムチと飴を使い分けながら、朝食習慣の勧めを説いております。
でも、みんなある程度の理解は既にあるとおもうんですね。本当は朝食を食べた方が健康に良いのだと分かっているのですが、分かっている事ができないとき、大抵は後ろめたい気持ちになるのですよね。そんな人を説得するにはちょっとぐらい甘いこと、厳しいことをいったくらいではビクともしません、さてどうしましょう。
すぐには効果は現れないでしょうが、その背後にある社会の諸問題を一つずつでも解決していく事が大切なのではないでしょうか。あれもこれも大切、自分たちの責任で実行しなさい・・・なんて押しつけられたらそのうちパンクしてしまうかも知れません。

紹介した本はタイトルで科学的根拠を謳っておりますが、過度の一般化、性急な一般化、前後即因果の誤謬、擬似相関、伝統論証(エントリーでは触れておりませんが)などの詭弁と言われても仕方のないような解釈が随所にみられます。これでは本当に朝食の健康効果を学びたく本書を手に取った人に誤った理解を植え付けてしまうとともに、巷に溢れるトンデモ食育理論に変なお墨付きを与えてしまいかねません。また、著者は栄養士養成施設にて栄養士教育を行う教育者という事もあり、そのような理由からこの本を採り上げて問題と考えられる点を記事にして批判いたしました。これは朝食の効果を否定するためのエントリーではございませんので、そこのところ誤解無きようお願い申し上げます。

*1:などとどらねこは煽るような事を書いておりますが、本文にはそのような根拠は書かれておりませんでしたので勿論言及はありません

*2:http://kangaeru.s59.xrea.com/G-Satujin.htm

*3:http://www.health-net.or.jp/tobacco/product/pd110000.html

*4:http://d.hatena.ne.jp/doramao/20110922/1316684766