生活習慣病は誰のせい?

生活習慣等の環境因子が病気の発症に比較的大きな影響を与える、がん、脳血管疾患、心疾患の3大疾病ならびに糖尿病、高血圧、脂質異常症などを「生活習慣病」と呼ぶようになり、15年ほど経ったでしょうか。この名称はずいぶんと早く世間に浸透したなぁ、という印象を持っております。

この名称の利点は、ただ単に加齢により発症するものではなく、生活習慣を改善により病気は予防できるものである、という認識を個々人が持つ事により、病気の蔓延予防が期待できるというものがあります。なので、名称が広まり予防について取り組む人が増えることは良いこととは思うのですが、気になる事がどらねこにはあります。


生活習慣病と病気の責任
世の中には「E電」のようにまるきり広まらないまま忘れ去られてしまうようなものもありますが、「生活習慣病」と謂う名前は、誰もが認識するようなものになりました。それぐらい受け入れられた背景には、「因果応報」的な、問題が発生するのには何か原因があるに違いない、と考えるような人間の持つ考え方のクセというか、信念のようなものが影響しているのような気がします。
例えば、どらねこも鬼ではありませんので、何も悪い事をしていない人が苦しい目に遭うのを見るのはとても辛いです。できればみたくありません。そうした事実を目にすると心に負担が生じます。そうした時、どらねこにはこんな気持ちがわき上がってきます。「きっとあの人にも落ち度があったに違いない・・・」と。
これは、性犯罪被害者に対して、「夜中に1人で歩いていたのも問題がある」とか、「露出の多い服装をしていたせいだ」というような本人にも落ち度があったとつい非難をしてしまう心情と同じ物です。優しい人(どらねこは優しくないですが)でも優しいからこそそう考えてしまうのだとすれば非常に難しい問題であると思います。
努力は必ず報われる物という考え方は、報われない場合には本人の努力が足りないからと謂う認識に通じております。こうした人間の当たり前に持つ考え方のクセは病気に対しても発揮されてもおかしくありません。病気になるのは本人にも原因があったに違いない。この信念があるため、「生活習慣病」と謂うネーミングが広く世間に受け入れられたんじゃ無いかな、どらねこはそう思います。


■生活習慣ばかりじゃない
生活習慣病というネーミングには予防を喚起するような良い面もありますが、患者の負担となるような悪い面もあると思います。それは、必ずしも生活習慣ばかりがそれらの病気の発症原因では無いことが関係しております。
生活習慣病の多くは、その発症原因に遺伝子の変異が影響していると考えられております。しかし、生活習慣病になりやすいとされる遺伝子の変異があるとしてもそれがあるからといって必ず病気になるというような一対一の関係にはありません。ある生活習慣病になりやすい遺伝子*1を持っているからといって、必ずしも病気になるわけでは無く、そこに環境要因が加わり病気の発症リスクが高くなるのです。
そして、この遺伝的要因と環境要因の発症へに関与する割合は、それぞれの生活習慣病によっても異なりますし、個人間でも異なります。さらに、その割合は明確なものではなく、今でも不明な点も多いのです。
世間一般に生活習慣病は本人の生活習慣のせいであるという認識が広まった場合に、病気を持つ当事者に対する認識はどうなるでしょうか。もし、そうした認識が強い場合には、生活習慣病であるというだけで、自分に落ち度があると認識し、治らないのは自分の努力が足りないのだと自分を責めてしまう事も考えられそうです。そして、環境要因には個人の生活習慣だけではなく、何かのストレスや薬の副作用、公害の影響なども含まれます。これも本人の努力ではどうしようもない事です。


■良い面を活かすためには
はじめの方で述べましたが、生活習慣である程度の予防ができるという事を知って貰う事は病気の蔓延を防ぐためには非常に大事な情報であると思います。そして、その分かりやすさも同様に大事です。しかし、それによる弊害があると分かっていて放置する事とはまた別問題です。予防という良い面を活かすためにも、必ずしも生活習慣ばかりではなく、寧ろ遺伝的影響が大きいのだという認識をもって頂く事が大切だと思うのです。そうした下地をつくり、生活習慣に気をつけつつも、病気になった場合でも後ろめたい気持ちを持たなくてもすむような共通理解の構築が大切だと思います。
これは、「悪い事をした人には罰があたる」、「努力は報われるもの」という受け入れやすい考え方と直観的に相容れない考えであるため、受け入れて貰うには時間が掛かるかも知れませんが、地道に伝えていく必要のある話でしょう。


■糖尿病でも
「努力は報われて欲しい」とはどらねこも思います。しかし、努力すればしただけ結果が帰ってくるわけではないのが、現実です。厳しい食事制限をし、低体重になっても血糖値が安定せず、さらなる食事制限を自分に課す糖尿病患者の事例は幾つか知られております。また、自分が糖尿病である事を他の人に伝えるのが恥ずかしいと感じている方もいらっしゃいます。術後のストレスなどを切っ掛けに糖尿病を発症したと考えられる方を知っておりますが、同様の悩みをもっておりました。
生活習慣病の多くはストレスも病気に悪影響を与えます。病気の方がこれ以上悪化しないためにもこうした誤解を少なくするよう、理解が広まって欲しいとどらねこは思います。

簡単なお話しではないですが、どらねこの考えを書いてみました。皆様はどう考えますか?

*1:たいていは単一ではなくて複数であり、その数や組み合わせによってもリスクは異なる