こんなに少なくてもイイのダヨ

ちょっと気分転換な感じで、高齢者の必要エネルギーについて書いてみます。

人間が生きていくためには、食べ物からエネルギーをとりだし、利用しなければなりませんが、その必要なエネルギーというのはヒトそれぞれです。同じヒトでも一日中寝ている場合に比べ、忙しく動いている日の方が断然多くのエネルギーが必要になります。あたりまえですね。
そのヒトが1日に消費するエネルギー量は二重標識水法というめんどくさくてお金のかかる方法*1を使えば、かなり正確に知ることができるのですが、全ての個人に対してその方法で調べると謂うのは現実的ではありません。簡潔でそれなりの精度で推測できる代替指標を利用するのが現実的なやり方でしょう。その一つが日本人の食事摂取基準に掲載されている『推定エネルギー必要量』という数値です。

■推定エネルギー必要量
厚生労働省が策定した日本人の食事摂取基準2010には推定エネルギー必要量の算出方法が記載されております。この推定エネルギー必要量を求めるためにはいくつか必要な情報があります。それは基礎代謝量と身体活動レベルと呼ばれるモノです。
まず、基礎代謝量と謂われるものがありまして、これは早朝空腹時に快適な室内において安らかに仰向けに横になった状態(目は覚めている)で測定されるものです。食事摂取基準ではこれを体重1kg あたりの代表値である基礎代謝基準値として示してあります。基礎代謝基準値×基準体重が基礎代謝量になります。

次に身体活動レベルと謂う身体活動量の指標があります。これは、上で書いた二重標識水法で測定したエネルギー消費量を前述した基礎代謝量で割ったモノです。

上記の二つの表を使いまして、推定エネルギー必要量を求めることができます。計算式は次の通りです。

さて、今回は高齢者のエネルギーについて書きますと宣言しましたので、食事摂取基準に沿って平均的な体格をした健康な70歳男性の推定エネルギー消費量を計算してみる事にします。

2176kcalというのは国民健康栄養調査の20歳以上男性の平均値を超えている値です。若い人の方がエネルギー必要量は多いはずなので、どちらかの数値がおかしい事になりますがさて、どちらが妥当でないのでしょうか?この場合は国民健康栄養調査の摂取エネルギー量が現実を反映していないと考える方が妥当だと考えられます。国民健康栄養調査は対象者が食べたものを記載する方法なので、どうしても誤差が現れてしまうのです。最近は太ることを悪者視する風潮がありますから、過小に申告してしまう傾向があるのが問題になっているのです・・・って、話がそれすぎましたね、ゴメンナサイ。

■70歳以上はみんな一緒なの?
日本人の食事摂取基準では各年代毎に必要と考えられる分量がそれぞれの栄養素毎に示されているのですが、どの栄養素についても、一番上の年代は70歳以上になっております。

70歳を大きく超えるひとの基準が示していないのは、同じであるからと謂う意味ではなくて、十分なエビデンスが集まっていないからと謂う消極的な意味合いなんですね。実際には基礎代謝の低下や身体活動レベルの低下も起こっていると考えてください。
また、高齢になればなるほど個人差が大きくなるようにも思います。例えば100歳を超える人を考えてみますと、自分で身の回りの事までできる人の割合はとても少ないと思いますが、これは出来ない人の方が普通なような気もするのです。90歳寝たきりの男性を例にちょっと計算をしてみましょう。

食事摂取基準に載っている数値だけを使ってしまいますと、この人の推定必要エネルギーは約1400kcalになってしまいます。果たして本当に必要なのでしょうか。
勿論、個人差はありますので、これぐらい必要とする人がいてもおかしくは無いのですが、これぐらいの食事を提供すると多くの場合食べきれないか、どんどん太り続けてしまうことでしょう。
寝たきり高齢者の身体活動の指数は1.1ぐらいが適当と考えた方が妥当です。

ところが、1000kcalぐらいかな、と思って食事管理をしていてもどんどん太っていってしまう人がおります。そこで食事量を800kcal程度に抑えると体重が安定するような場合があります。このような人は基礎代謝の低下が大きいのでしょうね。次のような式で基礎代謝基準値が推定できます。実際の現場では体重測定が大切だと謂うのにはこんな理由があるんですよ。

もう一つ大切なのは、エネルギー必要量が少なくても、その他のミネラルやビタミンなどは他の人と同じように必要な場合がよくありますので、エネルギーを減らすときに必要な栄養素を減らしてしまわないように注意が必要です。これは若い人も一緒ですね?
■赤ちゃん、子どもはすごい
ところで、食事摂取基準の表1を見ますと、一番上の1〜2歳では基礎代謝値は61.0(kcal/kg/体重/日)となっております。どらねこが90歳寝たきり男性で求めた推定値の約4倍です!
ためしに1歳児の推定エネルギー必要量を計算してみると・・・

身長80cmくらいの幼児と寝たきりの高齢者で同じくらいのエネルギー消費量というのはちょっとびっくりですね。