『TOSS・食育』でもお奨め!大沢博さんの著作を読んでみる

(この記事はどらねこ日誌2008年12月14日掲載分に加筆・修正したものです)

「砂糖って白い麻薬なのよねぇ」
低血糖症の原因らしいのよ、低血糖症になるとキレやすくなるんだって」


マクロビオティック愛好者の間ではよく砂糖の有害性について話題になります。最近では栄養療法を謳うクリニックでも反応性低血糖の原因であると砂糖を悪者視する主張を見かけます。
こうした砂糖有害論はTOSS食育の授業*1においてもよく事例として採り上げられており、TOSSサイトでは食育の参考文献として砂糖有害論を採り上げた本が紹介されております。*2
今回はその中でも大沢博さんによる砂糖を食べるとキレやすくなるという主張の本*3に注目しました。


■大沢博 著『その食事では悪くなる』三五館 刊 1999年

大沢博さんが食と心の乱れを研究するきっかけは、湯川秀樹博士の「創造性理論」を目にした事によるそうです。

p17 より
 その理論の基本概念は「同定」である。同定というのは、見かけの異なるものを同じと見なすことである。私の啄木研究は、啄木の大量の連作歌稿をまさに同定しようとしてきた研究である。すなわち、次々に創られたいろいろな歌の間に、何か共通のものが潜んでいるにちがいない、という発想で探究し続けた。
 一見、無関係と見える心の健康と食生活に関係があるのではないかという仮説を立てた背後にも、この''同定''という創造性理論があったからである。

※エントリの引用文中の赤字強調はどらねこによる

そうして著者は、次々と自分の説を支持するであろう事例を集め、それを羅列していきます。
これが本書の大部分を占めており、自説を支持する事例を集めることが仮説を検証、証明することだと考えている様子がうかがえます。どうやらこれが「同定」らしいです。
著者の仮説は「砂糖の摂りすぎにより低血糖症が発症する」、「精神異常の影には食生活が元になる低血糖症が潜んでいる」というもので、それを独自の「同定」によりこれは事実であると筆者は確信に至るまでがこの著書に記されています。

筆者にならい、どらねこもこの本がトンデモ本であることを「確信」しましたので、それがよく分かりそうな文章を引用させていただき、どらねこなりの「同定」作業を行うこととします。


■同定してみる

p49-50より
 第二はビタミンBの欠乏である。ビタミンB群は、特に神経の活動に関わるので、''神経ビタミン''といわれる。糖を分解してエネルギーにするときに消耗されるビタミンで、これが十分に含まれていない食べ物をたくさん摂ると、欠乏が促進される。ビタミンB1の欠乏だけでも、協調性を低下させ、道徳性を低下させるので、B1(チアミン)には''道徳ビタミン''というニックネームがつけられている。

どらねこは大学院にて食品健康科学を専攻していながらこのような事実を知りませんでした。不勉強さが恥ずかしくなります・・・。
どらねこの知識レベルでは、ビタミンB1と協調という言葉が関係するのはB1欠乏により協調運動障害をきたすことがあると謂う事ぐらいです。協調性や道徳性を低下させるとはびっくりです。ところで文献を調べてもこの事実は見つけ出すことができませんでした。どらねこの検索の能力は低いようです。

p75-76より
 登校拒否との関連で、はじめて血糖曲線を知ることができたのは、本人のではなく母親のであった。その母親は、疲れやすくてたまらないと訴えている人で、四六歳。娘は中学時代に登校拒否、虚弱児施設で生活し、予後良好と思われて養護学校を卒業、実業高校にトップの成績で入学した。自宅から通学するようになったが、まもなく登校拒否。遂に退学してしまった。娘はやがて、ある店に勤め、食事に気をつけながら元気に働き続けるようになった。しかし、母親はひどい疲れや筋肉のつっぱりを訴え、しかも食生活については、米飯をしっかり食べず甘いものをたくさん食べているというので、血糖検査を勧めてみた。盛岡医療生協の坂正毅医師に協力いただいた五時間検査で、最低値は四時間目に50、しかも絶食時から27も下がっていた。典型的な食原性の機能的低血糖症であろう。
<中略>
 似たような食生活をしていた娘も、不登校の頃は、おそらく同じ低血糖症だったと思われるが、検査での確認の機会は得られなかった。

登校拒否をしていた本人を検査していないのに母親の事例から低血糖症と判断するのも「創造性理論」と「同定」のなせる技なのでしょう。*4

このような「同定」は延々と続きます。

p135より
交通事故と食生活の関連性
 一九九一年、滋賀県名神高速道路で八台の玉突き事故があり、十九人の死傷者が出た。即死した運転手の解剖(検死?)を担当したのが、京都府医大の古村節男医師であった。体質的にお酒に弱く、ふだん酒を飲まなかった運転手の胃、血液、尿などからアルコールが検出された。アルコールの出所をたどったところ、それは意外にもこの人が食後に飲む習慣にしていたドリンク剤だった。しかし事故の原因は過労と結論づけられ、ドリンク剤のアルコールは灰色ということになったという。

<中略>
 私は、アルコールの影響もさることながら、ドリンク剤の糖によるインスリン過剰分泌、そして低血糖低血糖での意識低下というプロセスが起きたのかもしれない、と疑っている。

体質的にお酒の弱い人からアルコールが検出されているのに、更に関連がなさそうな糖が原因だと持ち出す強引さに脱帽です。怪奇現象は何でも宇宙人の仕業みたいなもの、と同じような臭いを感じます。

p139より
最近三〇歳代ですでに、セックスレスカップルが増えているといわれている。これもストレスと食生活が関係しているのではないか。ストレスについては生殖器官に血液が不十分ということで、食生活についてはセックスビタミンともいわれるビタミンEや、セックスミネラルといわれる亜鉛などが欠乏しているということで、関係しているのではないか。

あんぐり・・・

p148-149より
 この老人ホームの院長に聞くと、痴呆群には糖尿病の人はいないとのこと。とすると、痴呆群に糖代謝障害があるとすれば、低血糖症ではないだろうか。第四章でも解説したように、低血糖が長い間持続すれば、脳細胞の壊死が起きても不思議ではない。

ええと、著者は低血糖症は糖尿病の原因になると、p106ではおっしゃっていたのですが・・・、実は糖尿病とは関係ないの? どっちが本当なんでしょう。

p157-158より
 ある学生の七〇歳になる祖母のこと。ここ数年でめっきり老けてしまった。あまり体が丈夫ではなかったので、よく医者通いをしていた。医師から勧められて、炭酸飲料のオロナミンをのむようになった。家族もいいものと思いこんで、どんどん祖母に飲ませた。はじめ一本だったのが、すぐに朝と夕の二本になり、そのうち不眠に悩まされるようになり、飲まなくては眠れないといいだし、まるで睡眠薬のようになってしまった。
<中略>
 家族は重い病気にかかっていると思って、大きな病院に連れて行き、精密検査をしてもらった。しかし、結果は異常なし。頭痛や吐き気は原因不明。ひどい低体温に低血圧なので糖分を摂るように言われた。
低血糖について知識の無い家族は糖分イコール砂糖と考え、砂糖のたくさん入った甘いお菓子を与えた。
家族としては医者の言うとおりにしていたのに、祖母は突然倒れた。脳梗塞であった。

精密検査の結果が原因不明であり、医者も糖分を摂るようにと言っただけのようですが、どうして伝聞だけで低血糖と断言できるのでしょうか?まったく理解に苦しみます。

最後に、そんな筆者の食生活について紹介されております。さぞや健康的な食生活なのでしょう。

p217より
 穀物でも野菜でも今の農産物は以前と比べてビタミン・ミネラルが少ないと見なければならない。また自分の年齢を考えると、栄養吸収率が低下してきているのに、栄養素必要量は増えてくるということもあると思われる。
 そこで食事を摂った上に、補助食品も摂り続けている。体で確かめてはいろいろなものを摂っているので、ずいぶん種類が多くなった。ビタミン全種類、ミネラル全種類は摂れている。必須脂肪酸を摂れるボラージオイルを含む食品も摂っているし、脳の血液循環のためにイチョウ葉エキス、心臓の筋肉細胞を強めるための補酵素Q10なども摂っている。
 さらに半年前からは、核酸の重要性を学んだので、核酸が豊富な鮭白子エキスの食品も食べている。

どうもごちそうさまでした。サプリメントでお腹がいっぱいになりそうですね。


■読み終えて
内容はきわめてアレでしたが、なんだか文章を読む限りではセンセイのお人好しな人柄をどらねこは感じてしまいました。きっと砂糖と低血糖の関係を『確信』し、みんなに知らせなきゃ・・・と思ってしまったのでしょう。
純真な著者は、周りのネガティブな出来事が全て砂糖や食生活の乱れが原因という妄想にとりつかれてしまったのかもしれません。そうであれば、こういった善意の人が一番恐ろしいという事例のひとつと考える事ができるかも知れません。

この本を食育の授業で用いるときに先生方は「ビタミンE」と「亜鉛」の呼び方にはくれぐれも気をつけてください。

*1:例えばコレなどhttp://www.tos-land.net/teaching_plan/contents/1887

*2:旧TOSSサイトではhttp://www3.ocn.ne.jp/~chigiran/kireru.htmlhttp://www2.117.ne.jp/~shuyamag/shoku-sankoutop.htm

*3:氏のプロフィールや著作は此方にまとまっております→http://www.npo-jmsa.com/?eid=1164876

*4:因みに、5時間検査とその基準自体に文献の裏付けが無いらしい→http://d.hatena.ne.jp/NATROM/20090409