無用の問答(その3):がんといのちと代替療法

コレまでの記事はこちら
無用の問答(その1)
http://d.hatena.ne.jp/doramao/20110227/1298790723
無用の問答(その2):八方美人かダブスタ
http://d.hatena.ne.jp/doramao/20110424/1303632702

五木寛之帯津良一著健康問答を読んでの自己満足シリーズもついに3回目を迎えました。今回は引用文多めにして、彼の代替医療観を見ていこうと思います。

■Q31 手術、抗ガン剤、放射線の三大療法はすべきでないか。

p138-139より
五木 日本でも、免疫療法の理論をとなえる安保徹博士は、抗ガン剤、放射線、手術の三大療法はさけるべきといわれています。そのへんは、どうなのでしょうか。

帯津 安保さんは嫌うんですね、三大療法を。安保理論でいうと、ガンをはじめ、難病の原因は、すべて自律神経のなかの交感神経と、副交感神経のアンバランスで説明がつくんですね。つまり簡単にいうと、交感神経優位がつづくと、白血球のなかのリンパ球が少なくなり、顆粒球が増える。顆粒球が多くなると、活性酸素が体内に生まれて、それが病気の原因になる。だから、病気になったら、交感神経優位から、副交感神経優位の体にしなければならないと。

安保氏の主張についてはこちらのページを読めばオカシサがよく分かると思います。→http://cancer.jpn.org/index.cgi/%BC%AB%CE%A7%BF%C0%B7%D0%CC%C8%B1%D6%CE%C5%CB%A1

また、三大療法が用いられるのはガンとして認識されるまで進行している状態だと謂う事も忘れてはならない。ガンが出来やすくなるストレスフルな生活を改めても、出来たガン細胞を何とか出来ることはあまり期待できないからだ。三大療法を避けた場合にどのような経過を辿るのか、それを証明できもしないで、大きな事を述べるのは臨床家では無いにしろ、医師としてあまりに不誠実な態度であるようにどらねこは思います。

p139-140より
帯津 私は、基本的に、安保理論は正しいと思います。真理だと思うし、百年くらいすると、かなり安保理論が医療の中心にはいってくると思います。
 ただ、いまの段階で、安保さんがすすめる、爪のはえぎわに鍼を刺す刺絡や、爪もみだけで、ガンが全部治るというわけにはいかないですよ。多少は良くなっても。ただ患者さんを前にしたとき、武器はいっぱいあったほうが、われわれ臨床医としては、いいわけです。

おそらく、この本の読者で100年後の結果を見届けられる人はいないと思います。これならなんとでも書けるというものです。
それはさておき、安保氏の著作にはそれで良くなるみたいな事を書いてなかったっけ?彼の本では体験談や伝聞が多いようだけど・・・。その点もスルー?

p140-142より
五木 だけど患者さんとしたら、三大療法は避けるべきだというメッセージは強烈だし、ありがたいから、そちらの道に救いを求める人も、多いんじゃないですか。

帯津 ええ。あの方は非常に律儀な人で、著書の最後に新潟大学の研究室の電話番号が書いてあって、患者さんからの相談にも、きちんと応じているんですね。このあいだも、安保さんにすすめられたという埼玉県の人が、私の病院にやってきましてね。肺の小細胞ガンなんです。
 ある患者さんがいて、その患者さんは、ある小細胞ガンに対して、ある大きな病院で抗ガン剤をやっている最中なんだけど、その副作用でもうまいってしまったので、抗ガン剤をやめたいと思った。安保さんに電話したら、それは、やめなきゃだめだと。抗ガン剤なんかやめなさい、といわれたというんです。話しているうちに「なに、埼玉県。埼玉県なら帯津先生がいるじゃないか。帯津先生のところへ生きなさい」と。
 ただ、肺の小細胞ガンというのは、抗ガン剤たものすごく効くんですね。手術なんかやったらだめなので、まず抗ガン剤です。小細胞ガンはものすごく悪性なんですね。悪性ほど、こっちも切れ味のいい武器を使わなきゃいけないんですけれど……。

五木 それで、帯津さんのところへやってきたと。

帯津 ええ。私のところへくれば、抗ガン剤はやらないで治療してくれると思ったんですね。私は反対に「だめです。小細胞ガンなんだから、ちゃんとやってください。私のところへきてもしょうがないから、向こうで予定量を完遂してきてからきてください」といったんです。
<中略>
 安保さんの免疫療法は、まだ治療法として確立されていませんから。ただ、五百年もたてば、治療法として確立されるでしょうし、安保さんの考えで、すべていいと思うんですね。

今度は500年かいっ!!ホントは信用していない事がバレバレに見えるのだけど、それで仲良くできると謂うのはある種の才能ですよねぇ。某団体の荒唐無稽なカリスマよりも帯津氏のこの営業力が恐ろしいと思うんです。
ただ、ここで考えてしまうのは、相談者が埼玉県であったから帯津氏が紹介されたわけで、東北地方や関西地方在住だったらどうなっていたんだろうと謂う事。筆者は自分のお手柄事例として紹介しているけれど、ちょっと想像してみれば、別の代替療法家のところへ相談しろといわれた人もありそうです。苦しみを味わった人がいなければよいのですが・・・。
ガンに対して、有効な治療を施さない場合、どのような経過を辿るのかを十分に知っている帯津氏が出来る事は、安保氏に三大療法を忌避させるような言説は慎むべきである旨を伝える事だと思います。

■Q34 ガンの苦痛緩和にモルヒネは最良か

p150-151より
五木 ところで、ガンの苦痛に対して、ホメオパシーはどうなんでしょうか。

帯津 ガンに対するホメオパシーの効果には、大きく分けて四つのものがあります。
 ①ガン細胞に対する直接効果
 ②化学療法や放射線治療の、副作用を軽減する効果
 ③その人の本来的な歪みを是正する効果
 ④さまざまな症状を改善する効果
 ざっと以上ですが、それぞれの患者さんの状況に応じて、使い分けていくのです。当然、痛みに対しても有効です。ただし、この除痛作用は、西洋医学の鎮痛剤のような、痛覚の伝導路を遮断するものではなく、命のレベルにはたらきかけるわけですから、切れ味ということになると、モルヒネには劣ります。しかし、痛みというのは、その人の心の状態も深く関係していますので、ホメオパシーによって緩和されることは、いくらもあります。

またしてもホメオパシーを絶賛する帯津氏。でも、モルヒネの効果も否定しない帯津氏。

■Q35 ガンに対して、なんの治療もしないことは賢明か

p152-153より
五木 ガンというのは、発見されて放っておくと、どうなるんですか。

帯津 私のところは、手術が嫌で訪れるというガンの患者さんが多いんです。それじゃあ手術をしないで、次善の策でいきましょうと。
 ただ、次善の策のほうが、よっぽど大変なんです。食事に気をつけて、運動して、サプリメントも飲んで、漢方薬も服用してという感じでね。手術すれば、ある期間で解放されますでしょう。もちろん再発予防ということもありますが。次善の策のほうが大変なんですが、手術なんか嫌だという人は、一生懸命やりますよ。とくに、乳ガンの方が多いですね。

五木 手術が嫌だという人が、乳ガンの方に多いということは、患者さんは女性が多いわけですね。

帯津 ええ。がんばっていくと、五年くらいすぐたつんですよ。べつに、そんなに悪くならない。消えるというのは、よほど小さいものでもないと、消えません。だから五年たって、良かったねというんだけど、まだあるんですよ、ガンは。これも善し悪しなんです。

五木 なるほど。

帯津 胃ガンの方で、手術をしないで、だんだん悪くなってきて、もうここで手術に踏み切ろうといって手術をしますね。手術に踏み切らなかったその期間やっていたことは、無駄ではないんですけれど、ガンは進行していますから……。

五木 そこが問題です。

帯津 やっぱり、最初のときにやっておいたほうがいいですよね。でも、本人の生き方というものがありますから、これを中心に考えないといけないですね。

手術の大切さを理解している帯津氏。しかし、それと同じくらい患者の生き方も大切に考える帯津氏。何のために生き残るのか?その事を考える姿勢については理解できる部分ではあります。

■Q37 代替療法は、ほんとうにガンに効くのか

p161より
五木 ガン治療の代替療法は、それこそ星の数ほどあると思います。たとえば、飲尿療法などというのもあったんですが、あれはどうですか。効果はありますか。

帯津 あれも、うちの患者さんのあるパーセントの人は、いつもやっていますね。

五木 いまでも?

帯津 いまでも。私に聞きにくるんです。やってもいいでうかと。私は、あれはタダだから、いいじゃない、やってくださいよ、というんですけどね(笑)。

五木 たしかにタダだ(笑)。

なんでもござれの帯津医師の本領が発揮されております。

p164-165より
五木 現在、代替療法はどんなものがあるんですか。

帯津 大きく分けて、八つに分類できると思います。整理しますと、
①伝統医学(アーユルヴェーダ医学、中国医学など)
②独自の思想に基づくもの(ホメオパシー、シュタイナー医学など)
③手技療法(オステオパシーカイロプラクティック、指圧、鍼灸マッサージなど)
④心身相関療法(バイオフィードバック療法、自律訓練法、瞑想・イメージ療法、アロマテラピー音楽療法など)
④いわゆるエネルギー療法(機構、スピリチュアル・ヒーリングなど)
⑤食事・栄養療法(ゲルソン療法マクロビオティックサプリメント、断食療法など)
薬物療法丸山ワクチン、蓮見ワクチン、714Xなど)
⑦いわゆる免疫療法(リンパ球療法、養生免疫療法など)
そんなところですかね。

五木 そうか。たくさんあるんですね。そのメニュー、帯津さんの病院では、みんな用意されているんですか。

帯津 なるべくそうしたいと、努力しています。ガンと闘う武器は、ひとつでも多いほうがいいですから。まあ、代替療法のデパートですね、うちの病院は(笑)。

五木 そんなにたくさんあると、患者さんは目移りしちゃうんじゃないかな。

帯津 私は、おおいに目移りして、いろいろ試しなさいよといっているんです。一つに凝り固まって、それしか認めないというのは、良くないですね。のめりこんで盲信するんじゃなくて、自分の体の感覚を信じて、冷静に判断しなさいよ、ということなんです。

本当に効果を認めていて、向き不向きがあるのだとすれば、いろいろ試しましょうとは謂わないような気がするんですよね。ガンと闘う武器が多いほうが、というよりもガンに対するの代替医療を求めている人を集める道具は数が多いほど良いならよくわかります。自分の体の感覚を信じて冷静に判断云々は自己責任論と謂うよりも自己効力感重視なのかな?そんな気がしないでもないです。

■Q41 サプリメントは、ほんとうに有効か

p180-181より
帯津 私はもともと、サプリメントはいらないという主義です。ただ、ビタミンやミネラルを、サプリメントで補うということを推奨している方は、従来の野菜などのもっている成分が、最近低下している、それを補うと主張していますね。

五木 なるほど、失われているんですか。

帯津 きれいな、ピカピカの野菜だけれど、かなり低い。だから補うんだと。それはまた、それでいいと思うんです。ただ、ほんらいの食生活を工夫して、それで足りないところを補うという形でないとね。安易にサプリメントで済ますというのは、良くないと思います。

五木 たしかに、いまの野菜は、昔の三分の一くらいしか栄養素がないといわれれば、説得力があります。しかたなしに補うんだと。完全な有機栽培のものだけを、産地直送で全部揃えることは、実際の生活では不可能だから、それを補うためといわれれば、そうなのだけれど、なにか、エクスキューズになっているような気がします。

もし、本当にそのような事実があるのならば、帯津氏の主張は尤もなんだけど、ソースは美味しんぼでしょうか?それとも、農薬の害を訴えるどなたかの影響でしょうか?
現在の野菜が昔の野菜に比べて格段に栄養価が劣っている等という話は食品標準成分表の意義を理解していない方の誤解と、農薬に対する不信感から生まれたんじゃないかなぁ、そんな風に思います。参考→http://d.hatena.ne.jp/doramao/20101230/1293613743

p182-183より
五木 いろんなものがありますね。ロイヤルゼリーもそうだし、ウコンとか。

帯津 いやー、ありますね。

五木 ああいうものは、どの程度、効き目があるんでしょうか。

帯津 人によりますね。やっぱり、科学的根拠というか、エビデンスは乏しいんです。

五木 そうでしょうね。

帯津 まあ、薬ではないから、しようがない。その上の可能性を求めていくしかないけれど、その上というのは、たとえばプロポリスだったら、やっぱり自然界のスピリットがはいっていることでしょう。ハチのスピリットは、花のスピリットですね。

途中までちゃんとした話かと思ったら・・・。形や有効成分が入っていないモノがお好きなようです。ホメオパシーへの布石なのかもしれませんね。

p184-185より
帯津 そうですね。だから値段が適正なのと、二番目は、断定的ないい方をしないこと。治癒率九十五パーセントなんて、信じられない数字を平気でいう人もなかにはいますけど、こういうのは、頭から信用できません。

五木 なるほど。

帯津 わからない世界ですから。結構、断定的ないい方をする人が多いんですよ。

自分は違うんですメソッドですねわかります。

■Q42 ホメオパシーは究極の治療法か

p196より
医者の結論
ホメオパシーは、人間の霊魂に働きかける療法で、その人にピッタリ合えば、劇的に効果がある。しかし、なにもこれ一本やりでいく必要はない。

この問答だけ、他のに比べて多くのページを割いて力説しているんですよね。断定は良くないよと謂う帯津氏が劇的になんて書いてしまうほどにです。
ホメオパシーについてはうさぎ林檎さんに解説を求めるのが良いと思いますから、コメント欄にて参照するURLを示してくだされば嬉しいです。

以上で長々と続いた問答の紹介を終わりにします。
今回紹介したQ31、34、35が帯津氏の代替療法観を読み取るヒントになるんじゃないかな、と思いました。次回の解釈編ではその辺りに言及しようと思っております。