悩ましい栄養相談

昨日はフグ調理について思うところを書きましたが、今回は自分の話です。仕事の場合正論吐いて、ハイおしまい、とは行かないモノですね。

■講習会と栄養相談
どらねこは仕事に関連して高齢者への栄養相談や、地域に住む年配の方達向けの講習会などを行うこともあります。講習会はその場を盛り上げて、なんとなく勉強した気になってもらい、ある程度信頼を頂いて、最後にコレだけは伝えておきたいという事を念押しして終わる感じなのでそんなに悩む事はありません。そんなモノだ*1と思ってますのでね。そんなわけで、色々と悩ましいのは個人を対象とする栄養相談の方ですね。
この場合、高齢者と謂っても家で自活して、それなりにお話しを理解できる人を対象としています。深刻な悩みを持つ人からなんとなく不安を持っている人まで様々です。そうした方々とお話しをした経験から色々と思ったことをつらつらと書いてみようと思います。

■悩ましい栄養相談
どらねこは専門の訓練を積んできたわけではないので、お話しをするさいに心がけているような事は自己流だったりします。自分としては大切なんじゃないかなぁ、と思うのは相手が何を求めているのか、えーとニーズですね、それを常に把握することです。そんなの栄養相談なんだから、食生活や栄養状態についての悩みを解決して欲しいに決まっているじゃん!などと怒られてしまいそうですが、そういった当たり前の事じゃなくて、相談者さんが発する言葉一つ一つの背景みたいな感じでしょうか?相談は大抵初対面の事が多いので、相手がどのような人なのかを把握することは勿論、一つ一つの言葉も大切な情報なんですね。短い時間の相談ですから、相手のニーズを酌む事ができないと自分の伝えたいことを相手に届ける段階まで持っていくのも難しくなっちゃうんですよね。

■ニーズ
相談者は自分の悩みを解決して欲しい、とにかく話を聞いて欲しいと考えるのに対し、此方も相手の悩みを取り除きたい、その為に話を聞いて欲しいという気持ちになります。悩み解決については利害(?)が一致するのに対し、話を聞いて欲しいについては競合してしまうのですね。なので、どらねこは話を仕方なく(?)聞くのですが、この中からアドバイスを行う為に必要な情報を拾い出すように努力します。
えっ、色々話してもらって聞き出すのが大切なんじゃないの?と思うかも知れませんが、技量不足なのでしょうね中々相手が気持ちいいようにしゃべってもらった中から有益な情報を取り出すというのは難しいのですよ。なので、ピンポイントで聞きたいことを突きつけてしまいたい欲求と戦い続けます。
とにかく話を聞いてもらいたい相談者さんはただ単に此方が自分の話を聞いて欲しいという事で話をしているワケではないと考えます。相づちが欲しいのだったら、近所のおしゃべり友達と延々話していればよいのですし、ただ話すだけで満足だったら猫のミャウでも十分務まります。(一応)専門家相手に自分の話しをしたい(栄養相談は此方のおしつけじゃなくて、相手からの要望があった場合に行っているという状況があります)というのは特別な欲求があると考えて良いと思います。
どらねこが実際に接してきた方には、体調が優れないのに原因がはっきりわからなくて悩んでおられる方が多くいらっしゃいました。体調自体はそれほど悪くなくても、原因不明の体重減少など近くの診療所では解決されない問題の相談を受けることが多いです。原因がわかっているのだったら、わざわざどらねこなんかの話を聞こうとおもわないでしょうからね。そんな悩める高齢者の方々はどらねこに対し、このように話します。

「私は健康に気を遣っていて、しっかり運動して○○を飲んで、早く寝て・・・。しっかりやっているのに何が悪いのでしょうか?」

それは自然な衰えですよ、と心の中だけで呟くのですが、たいていの方は自分のしっかり度をアピールするんですね。

■専門家に求めること
自分は健康を考え努力しているのになんでこんな目に遇わなければならないの?理不尽な状況に一緒に怒ってくれ!そして、可愛そうな私に同情してくれ・・・などと思ったかどうかまではわかりませんけれど、自分の行っていることに間違いは無いよね?と、専門家からの承認をもらいたいという欲求があるんじゃないかなぁ、という気持ちがします。この欲求に対してきちんと向き合っていかないと、どらねこが必要とする情報までたどり着くことは難しくなります。自分は悪くないんだ!という事を認めてあげないと、その先に進まなくなっちゃうんですよね。そして、一緒に理不尽な病因(?)を探しに行くことになります。
などと簡単に書きましたが、これが結構難しいのですよね精神的に。忍耐を試される瞬間でもあると思っています。高齢者の方が健康に良いと思って実行していることにかなりのトンデモ健康法が混じっているからです。まぁ、だいたい想像はつくと思いますが、サプリメントの類は勿論、通販の健康器具やよく分からない体操や食事制限系まで様々です。本人は得意げに紹介しますので尚更アタマが痛いのです。健康に気を遣っている私を見て!状態なのですから。しかも、その自慢の健康法自体が健康を損なっている原因と考えられる時もあるからです。

■壊れ物を扱う
自慢の健康法(?)が体不調の原因となっていた場合、それをいきなり突きつけられた高齢者はどのような反応をするでしょうか。これは個人差があって、平気なヒトもそうでないヒトも居ることでしょうが、一か八か試してみるような事は怖くてできるわけもありません。本当に悩ましいところです。体には悪影響でも、本人の心の支えとなっているだろうからです。
そんな場合、どうしたら良いか?恐らく正解なんて無いと思うんですよね。でも、自分への相談に対しては出来る事はあると思うのです。例えば、その他に行っている健康法などがあるか聞き出して、たとえ問題がある方法でもマシであるなら少し目をつぶって、もう一つの健康法を褒めて原因と考えられる健康法を控えてもらうというのも一つの手だと思うのです。
普段は無意味で高価なサプリメント類などを批判するどらねこですが、高齢者がそのような商品を利用しているのを見ても、ホメはしますが、貶すことはまず行いません。日常生活に気を遣いながら健康を願うという姿勢にはとても共感できるからです。そのような気持ちを持っていなければ、こちらが何を謂っても実行してくれませんから。なので・・・

へぇ〜こんなの飲んで健康にきをつけているんですかぁ、ちゃんと気を遣って居るんですねぇ、でもコノ商品はもっと食生活が乱れている人には効果があるけど、貴方のようなちゃんと出来ている人にはちょっとお金が勿体ないかも・・・。半分に減らしても良いんじゃない?

この商品おいくらしたんですか?はぁ〜なるほど。色んなモノが入っているからこのお値段なんですねぇ、でもお話しを聞いたところ不足していそうなのはコレとコレだけだから、単品で補給できる此方の商品にしたらお安くすむんじゃないですか?


みたいな感じ。

本当はもっと本質的なアドバイスも可能なのだけど、今まで積み重ねてきた理解を再構成するような手間をかけて行動変容を促す必要は高齢者対象だとあまり無い、というかほぼ不必要な気がするのですよね。内心では嘘をつく事にいらつくこともあるのだけど、目的を考えると現状ではこんな説明をして軟着陸を目指す感じですね。

■終わりに
テレビや雑誌などの広告や健康特集のいい加減な情報・・・石ころにつまずく方は大勢いらっしゃいます。そして、そんな石ころを宝石のように大切に大切に扱う方もいらっしゃいます。インチキな石ころを心の拠り所にし、大切なお金を手放してしまうような状況を見て、私は胸を痛めます。誤解を招くような健康食品の広告や食品表示などがもたらす害悪はこんなところにも存在します。

*1:本当の講習会は・・・云々あるかもしれあませんが、娯楽の提供という側面が多いのです