生鮮食品へのアクセス

農林水産省農林水産政策研究所のページに食料品アクセスマップというものが掲載されております。これは「生鮮品販売店舗から距離が500m以上の人口割合」を統計データから推計したものですが、地図に色分けして示しており情報が視覚的に入ってくるため大まかなイメージを得るのに有用だと感じました。
このマップに興味を持ったのはどらねこの住んでいる地域の問題と重なっていたからです。どらねこの住む地域は地方の市街地なのですが、近年人口の減少が著しく、個人商店は次々と閉鎖し、郊外の大きな敷地に何でもそろうようなショッピングセンターが次々とできあがったりするような状況でした。そのため、今までは少し歩くだけで日常生活にこまらない食料品を手に入れる事ができる環境にあった方々が、遠出をしないと買い物ができないというケースが増えてきたと指摘もされていますし、実際に苦労話を聞くこともあります。

食料品アクセスマップはこちらから閲覧できます。→http://cse.primaff.affrc.go.jp/katsuyat/

推計方法
食料品アクセスマップの「生鮮品販売店舗から距離が500m以上の人口割合」は、平成17年国勢調査の「常住人口」、平成19年商業統計調査の生鮮品販売店舗数から推計したものです。対象とする生鮮品販売店舗には、商業統計調査の店舗分類のうち、食肉小売業、鮮魚小売業、野菜・果実小売業、百貨店、総合スーパー、食料品スーパーが含まれています。上記統計からは、2分の1地域メッシュごとに常住人口と生鮮品販売店舗数は把握できますが、そのメッシュ内にどのように分布しているかまでは把握できません。そのため、常住人口はメッシュ内に均等に分布していると仮定したうえで、生鮮品販売店舗がメッシュ内のあらゆる箇所に立地したケースを想定して、確率論的に「生鮮品販売店舗から距離が500m以上の人口割合」を推計しました。

※詳しい内容についてはhttp://www.maff.go.jp/primaff/koho/seika/project/pdf/access1-4-1.pdfで解説を読めます。



■ちょっと眺めてみた
では、実際にいくつか紹介してみようと思います。この記事で使用している図はすべて「農林水産政策研究所食料品アクセスマップ」からの引用です。
近くにお店が無い地域として思い浮かべるのは、やはり広大な大地の北海道です。北海道東部のアクセスマップがこれです。

ほとんどの地域にオレンジ色が広がっているのがわかりますね。アクセスの良い地域はごく一部のようです。
次に東京を見てみましょう。だいたい予想はつきますが・・・

想像以上でした。多くの地域で徒歩での生鮮食品購入が可能である事が分かります。

ところで、最初にお店の少なそうな印象のある地域という事で北海道を挙げましたが、都道府県毎に見ると、店舗までの距離が500m以上の人口割合が多い地域としては北海道はそれほどではなかったりします。店舗までの距離が500m以上の人口割合を比較すると島根県は食料品販売店舗で1位、生鮮食品販売店で2位と、お店へのアクセスが距離的には厳しい様子がうかがわれます。

もしかすると、居住地域があまり集中せずに、県全域にまんべんなく広がっていることも関係しているのかも知れませんね。

最後にどらねこの住む青森県です。
大きな空白地域(居住していない)があるのが印象的です。



■深刻な問題
はじめに書いたように、どらねこの住む地域でも今まで買い物をしていたお店がつぶれてしまい、わざわざ遠くまで買い物に・・・という状況をみかけるのですが、その事でどのような問題が生じているのかを少し考えてみたいと思います。勿論、不便や苦労が生じているわけですが、ただ単に面倒と謂うだけでなく、深刻な事態を引き起こしかねないケースもあると思うのですね。
よく指摘されるのが、大規模ショッピングセンターが出来て、地元の商店がつぶれてしまい遠くにあるショッピングセンターを利用せざるを得なくなった後、何らかの理由でショッピングセンターが撤退をするケースです。ほとんどの需要を満たしていた購買施設がなくなってしまう事になります。こうした大きな問題以外にも、アクセスが悪い事による社会問題が生じているように思います。
例えば、どらねこの住む地域では交通事故のニュースがあれば、「また高齢者じゃないの?」という会話が行われたりします。内容を聞いて、「あー、やっぱりばさまだぁ」「この前、自分も危ないところだったよ」と、やっぱりそうだったと続くことが多い(印象ですが)です。それだけ、町中を高齢者がヨタヨタと車道を歩いているのを見かけるのですね。また、原動機付き自転車に乗る高齢者の事故も良く聞きます。荷物をたくさん積んで危なっかしい運転をしている高齢者もよく見かけます。近頃は、高齢者の危険な運転なども問題になったりもしますが、こうした事故の背景に、生活必需品を購入するために、遠くの店まで買い物に行かなければならないと謂う事情も影響しているんだと思います。本当は車の運転に不安があるのだけど、車に乗らなければ生活が成り立たないとすれば、仕方なく運転を続ける事を選ぶと思います。
また、近場に店が無ければ買い物に行ったときにたくさん荷物を買っておこうと思うのはごく自然の事でしょう。それが重い荷物を持って歩いたり、大きな荷物を積んだ原付をフラフラ運転する理由なのだと思います。それらが危険を招くとしても必要に迫られて行っているわけですから、危ないから止めましょうといって解決する問題じゃないのですね。
最近では、スーパーマーケットによる宅配サービスなども行われているようですが、その窓口がインターネットであったりもするので高齢者がアクセスするためには壁があったりするようです。ヘルパーさんを頼むという選択肢もありますが、それほど身体に不自由が無かったり、すれば介護保険の適用外ですからお金が十分に無い人はやはり自分で買い物を、となるでしょう。
しかも、そうした問題を解決する為の人的資源も予算も地方には十分でなかったりするのです。しかも、そうした地域ほど高齢化が非常に進んでいたりするので更にやっかいだったりするのです。こうした問題を解決する策は簡単に見つかりそうもありません。


■バランスの良い食生活とはいうものの
このような背景を無視して、高齢者に対しバランスの良い食事をしましょうとか、生鮮食品を採り入れた食生活を心がけましょうという栄養指導をしても解決にはつながりません。相手がどうして偏った食事となっているのか、その背景にまで目を向ける必要もあるのですね。
今後ますます高齢社会が進み、地方の衰退が止まらなければ、買い物に行けない、健康な生活を送るための食品が手に入りにくいという高齢者はますます増える事でしょう。健康的な食事に対する知識をいくら頑張って普及したとしても、肝心の食べ物がなければ話になりません。
食と健康の問題を解決するためには、生理学や栄養学、調理学的な話しに留まらない幅広い分野の理解が必要なのだと、このマップを見ながらあらためて実感をしました。