オキシトシンで改善にヲモツタコト

点鼻オキシトシン薬で自閉症が改善−金沢大−というニュースを見て思ったこと及び素人の独り言です。

一つ引用 (YOMIURI ONLINEより)
女性ホルモン 自閉症治療に効果

金大の研究グループ点鼻の1症例確認
 金沢大学の「子どものこころの発達研究センター」などのグループが23日、一部の自閉症患者の治療に女性ホルモン「オキシトシン」の点鼻薬が効果があるとの研究成果を発表した。今回の研究で確認されたのは1症例だけだが、東田陽博・同センター長は「知能が低い自閉症での確認はめずらしい。臨床研究を進め、オキシトシン自閉症の治療薬として認可されることにつながれば」と話している。
<中略>
  研究グループは知的障害のある20歳代の男性自閉症患者が、患者の家族が個人輸入したオキシトシンを朝夕2回、鼻に点薬した結果に注目。話しかけても意思疎通が困難だった患者が、10か月投与した結果、目と目を合わせるようになったり、「はい」「いいえ」と返答するようになったという。研究成果は日本神経科学学会の機関誌で、近日中に公開される予定。

たった一例の症例報告であり、一つの参考にはなるがこれだけで何かを判断するというのは難しいだろうなぁ。予算がついて研究が進むというのであれば面白いとは思う。
普段のどらねこを知っているヒトから見たら意外かも知れないが、この研究自体はかなり面白いなぁ、と思った。色んな意味で。

オキシトシン
下垂体後葉から分泌されるペプチドホルモンです。
H-Cys-Tyr-Ile-Gln-Asn-Cys-Pro-Leu-Gly-NH2
こんな配列で、Cysがジスルフィド結合してるかたち。

血中濃度非妊娠時で5μU/ml 妊娠時は3〜200μU/ml とされている。

基本的には乳汁放出や陣痛時の子宮平滑筋収縮やプロスタグランジン合成などに関わっている。
そして、脳内に於いては神経伝達物質として働く事も知られているのだけど、どーぶつ実験などでは、性行動調節との関連性や社交性などに注目して観察が行われていたりするのね。

例えば、オキシトシン受容体が欠損した雄性マウスには攻撃性が見られた・・・で、脳内にオキシトシンを投与したら改善された、というような報告がなされていたりするようだ。

これだけなら、ふ〜ん、オキシトシンはペプチドホルモンだから、血液脳関門突破しないと思うし、ヒトでの点鼻試験なんてアテになるのかしら・・・で、終わるのだけど、ちょっと不思議な話があるのだね。

【膜たんぱく質CD38】

オキシトシンだけの話だったら興味をひかなかったのだけど、CD38の遺伝子をノックアウトしたマウスでもオキシトシン遺伝子ノックアウトと同じような効果が見られたそうな。
・これがノックアウトされていると血漿および脳脊髄液中のオキシトシン濃度は低下するみたい。しかし、視床下部および下垂体でのオキシトシン濃度は高くなる。(つまってるの?)
ノックアウトマウスに末梢からオキシトシンを補ってあげると、なぜだか脳脊髄液中のオキシトシン濃度も回復しちゃう。(血液脳関門通過しない筈なのに何で?)
・同時に行動も通常マウスのようにもどる。

(実際の処、専門外のどらねこにはさっぱり分からないのだけれども)ネズミさんとはいえ、末梢への注射で脳脊髄液中のオキシトシン濃度が上昇したわけだからこれは結構面白い。他のサプリメントなどでありがちな血液脳関門を通過できないから・・・という理路でのオキシトシン点鼻は無効性だよみたいな話への反論は可能ではあるよね。これは新しいと思う。

専門家の方は勿論こういった機構もご存知でしょうから、自閉症への有効性を一症例とはいえ確認した事に意義を見出したのでしょうね。

しかしながら、自閉症と診断された方の多くはCD38を発現させる遺伝子に異常があるわけでは無いだろうから、コレで根本解決というのはまずないだろうなぁ、と思うし、恩恵に預かる事のできるヒトはごく少数だと思う。でも、面白い研究だよねぇ、頑張って欲しい。

とはいうものの、オキシトシン点鼻薬輸入販売サイトでは4000円くらいの商品が殆ど品切れ状態になっていました。(4/27日現在)
新聞記者さんは、記事の書き方にもうちょっと配慮できないモノかな・・・そう思った。


(参考にした資料)
Larry J. Young. Regulating the Social Brain: A New Role for CD38. Neuron, Volume 54, Issue 3, 353-356, 3 May(2007)