ビタミンタップリ、血液サラサラ野菜のお話しをして下さい

【この物語はフィクションです。実際のどらねこは、取材を受けるような立派なモノではあろうはずもなく、休日にはキノコ採りか部屋の隅で体育座りをしているような存在です】

※関連エントリ:ビタミン信仰 



■ある日の電話
た〜ららら〜らら♪ららっらっらら〜らら♪←着メロ

どらねこ「はいもしもし」

「どらねこさんでしょうか」

「はい、そうですけど」

「モフテレビの猫島と申します、はじめまして。ウチの人気番組カイテキシャッキリ!をご存知でしょうか?」

「ええと、名前だけなら知ってますが」

猫島「カイテキシャッキリは食べ物で健康を維持しましょうという、食育や生活習慣病に焦点を当てた番組作りをしているのですが、今回はビタミン豊富な野菜の健康効果というのをテーマにしておりまして、どらねこさんのご意見を伺いたく、電話をさせて貰いました」

「なるほど、そうなんですか。因みにどんな話でしょうか?」

「ハイ、○○という野菜には、葉酸アントシアニンが豊富に含まれていて、健康に良いと話していただきたいんです。それと、栄養素を効果的に摂る事のできる調理法などを考えていただければ・・・と、思ってます」

「ちょっと申し訳ないのですが、○○という野菜に含まれているアントシアニンはべつだん健康に役立つとは思えないですし、この野菜は消化悪いから吸収が良いとは思えないのですけれど・・・他の野菜にされたら如何でしょう?」

「いや、もう番組の内容は9割がたできておりまして、今更別の内容に・・・というのは無理なのでして。専門家の説明を入れれば良い状態なのです」

「そうですか、申し訳ありませんが、他をあたって見てください」

カシャ!

■それからどしたの
(そういえば例の番組放送予定だなぁ、ちょっとつけてみるか)ぱちり

ハイ、そういうわけで○○は万能健康野菜なのですね。健康法にお詳しいオカダサダコ先生からもお話しをうかがいまいした。こちらをどうぞ!
オカダ「○○は日本古来から食べられてきた伝統野菜なのですね。身土不二の原則から考えても健康によいのは当然です。体に良い成分は皮にあります。○○も皮ごと丸ごと食べる事で、効果的に健康成分を補給できるのですね、コレを一物全体の原則といいます」


ぷちり

うぎゃ〜、何アレ?なんで身土不二?ってオカダ先生って何者?こんな事なら不本意ながらも自分が取材を受けた方が良かった?もしかして。あまりの酷さに憤慨したどらねこは次の機会には取材を受けようかな、などと考えたようです。

■しがらみ
ある日、それなりに有名な栄養学の先生と一緒に取材に応じることになりました。それほどおかしな内容も無く、取材は無事終了。その先生ともすこし仲良くなれました。それからはたまに行われる活動などを通じて少しずついろんな方とも仲良くなっていったみたいです。
別のある日、いつもお世話になっている先生から食育の広報活動をやるから手伝って欲しいといわれました。
えらい先生「どら君、この方が朝ご飯とアタマの働きを研究しているオウサワ先生だよ。食育の普及にはなんといってもインパクトが大切だからね。伝統のご飯パワーでIQアップ!の合い言葉は有名だよね」
オウサワ「ヨロシーク」
ど「あ、宜しくお願いします」
(あれ、あさごはんを食べてIQアップなんて信頼できるデータは有ったかしら?しかも、なんで伝統が関連して居るんだ?まぁ、国を挙げての食育運動だからさからえないよなぁ・・・)
どらねこは、疑問を抱きつつも、イベントをこなしました・・・
「あのぅ、えらい先生。ごはんでIQアップはちょっと言い過ぎなんじゃないでしょうか?」
えらい先生「まぁ、しょうがないでしょ食育は大切だから。だって子どものウチから朝食を食べないというのが問題だというのは分かるだろう。真っ向から正論を語っても改善できないのなら、ちょっと分かり易くて、効果を期待させる説明をする事で朝食に興味を持って貰えるなら、そっちの方が良いと思うよ。多少の拡大解釈があったとしても・・・ね」
「はぁ」
そうなんだよなぁ、仕方がないよなぁ、で何となく反論する機会を逸したどらねこさんは、ある時えらい先生の本にちょっと看過できないような表現を見つけました。以前のどらねこであればどんなに権威のある人の発言でも指摘する処ですが、すでに妥協を繰り返してきた事と、お世話になっている人の発言でしたので批判することなくそのまま放置してしまいました。
『目的は良いことなんだから、少々の逸脱があったって良いじゃない?科学で実証されていないものを非科学的だ、許さないという態度じゃ受け入れられないからしょうがないよね』
いつしかどらねこは、親しき人の発言については批判できなくなってしまいました。

■独白毒吐く
科学って何だろう?実証する事が科学なんだろうか?いや、そうではないよね。私は数学が苦手で、所謂文系とされる側だと思っているのだけど、科学は大好きなんだ。なんで好きなのだろう?それは、『この先を知りたい』『どうしてこうなるのだろう?』世の中には不思議な事がいっぱいあって、それがどうして起こるのだろう、というのを説明してくれるから科学が好きなんだ。ところが、その説明にウソがあったらどうなのだろう?役に立つからと言って、否定的に考えられている説明を持ってきたらどうなのだろう?
なんでそうなるの?の何でに答えない不誠実な態度*1だと思う。
物事を明らかにしたい、何でこうなるのか知りたい、そう思って始めた科学ではなかったの?それって楽しいことだからみんなに伝えたかったのじゃあないの?
私がニセ科学的理路を含む説明を嫌うのは、実害の問題だけでなく、こういった個人的動機に因るところが大きかったりします。


■極端な例
無いと思うが、こんな風に考える子どもがでてきたら堪えられない。
「○○君、離婚してお母さん働いているから朝ご飯つくって貰えないみたい。朝、学校に来てパン食べているものね、成績悪いのはご飯食べていないからだね」
「国際学力テストを見ると、ごはんを食べている国の成績はやっぱり良いよね、パン食の人は頭が悪いんだね」

日本人ならご飯を食べろみたいな言説には空気を読んでまで賛成したくない。
血液型性格判断も同じ。差別に結びつくことがあると知りながら、いやな気持ちのまま空気を読んで沈黙する事はないと思うのだ。某有名漫画家の昔の作品を読んでいると差別的表現が随所に書かれていて、びっくりさせられることがある。でも、そういう表現は今ではあんまり見られない、なんで無くなってきたのだろうか?外国の影響もあると思うし、いろいろな理由があるけど、誰かが地道に指摘し続けてきたからだと思うのよね。
そゆこと。

ニセ科学批判批判
正確さに拘り目くじらを立てすぎると却ってみんなに伝わりにくくなるよ。妥協も必要ですよ、と必要以上の妥協を促す方法がニセ科学批判批判の中では賛同を得られやすいものかな、と思った。

*1:正確性の欠けるアナロジーを以て説明する事によるメリットが有るとしても、教えられた不十分な知識をアップデートする機会が保証されていない状況では安易に用いらないほうが良いと思います。教育というのはカリキュラムによる保証がある程度期待できますね。