とある星の薬害問題


※本文中には茶化すような表現もでてきますので、そういったモノが嫌いな方は読まれないことをお勧めします

光る目と太い尾を持つ宇宙動物の住む星のオハナシです。高齢化が進んでいるとか温暖化だやれなんだといろいろ大変な事はあるものの、彼らはそれなりに平和な生活をおくっておりましたとさ。
資源に乏しい星に住む彼らは、もともと質素な暮らしをしていたのですが、隣の星の住人から、毒ガスやら核兵器などが環境にどのような影響を与えているのかを調査するという仕事を請け負うようになってからは、経済的にも潤い、大好物であるモンペチを腹一杯にたべる毎日になったそうな。
そんな彼らの平和な生活に、とある病気が襲いかかりました。
『眼光減弱症』
彼らの持つ光る目は明かりのない場所を照らすだけでなく、障害物を透視する能力を持っているのです。この能力を利用して毒ガス兵器の調査を行っているため、眼光減弱症の悪化により、眼が光らなくなる事は職を失いかねない深刻なものでした。
眼光減弱症の原因は何だ!科学動物庁の調査が始まりました。
その結果、眼光減弱症はモンペチの食べ過ぎにより発光酵素の産生機能が衰え、血中発光酵素濃度が低下し、眼光減弱症が発症する事が明らかになりました。原因が分かれば治療は簡単かと思いきや、眼光減弱症患者は毎年増加を続けていきました。なぜ原因が分かっているのに、解決出来ないのでしょうか。
実は、適度なモンペチは体に害にならないだけでなく、寧ろ毛艶を良くし、爪を鋭く保つ働きがあり、食べ過ぎなければ問題ないのです。分かっちゃいるけどやめられないのですね。更に、モンペチを食べ過ぎれば誰もが眼光減弱症を発症するわけでもなく、いくら食べても全くへーキな羨ましい動物もいたりするのです。どこかで聞いたこと有るような話ですね。
政府や医療機関ではモンペチの食べ過ぎに気をつけよう!と、キャンペーンおこなったりしたのだけど、年々眼光減弱症患者は増える一方。さてどうしたら・・・

悩める眼光減弱症患者に朗報!!経口発光酵素改善薬が実用化されました

飲むだけで、発光酵素の体内での産生を促し、血中発光酵素レベルを正常に戻す薬が開発されたのです。

血中発光酵素濃度の正常値は7.5〜8.5 mg/dLとされており、平均濃度4.5 mg/dLの集団に実施された試験では、以下のような成績をあげました。
ポンポコミン:経口発光酵素改善薬
モフモフ療法:モフモフ療法の気持ちよさで、モンペチ欲を抑制する療法
偽薬:見た目が一緒のにせ薬


薬の劇的な効果を目の当たりにした患者さん達は飛びつきました。猫も杓子もポンポコミン・・・
ところが、発売から数年経たある日のこと、一つの調査結果が発表されました。

Risk of cardiovascular events associated with ponpokomin

ポンポコミンを長期間服用する事により、心血管系の病気のリスクを高める危険性がある。また、ポンポコミンを長期間服用した患者の死亡率は、服用しなかった患者に比べて明らかに高くなっており、今後十分な調査が必要と考えられる。

どらねこ「長々と説明してきたけど、コレがボクの故郷でおこった薬害問題ダヨ」
モニョ子「こういった話は何処も一緒なのですね、どらねこさん参考になりました」
「学校の自由研究も大変だねー、ボクなんて学生時代は勉強した記憶なんてこれっぽっちもないからねー」
「それで、このアトはどうなったのですか」
「(スルーされたよ)ええと、製薬会社や政府は実験デザインが悪いとか、この調査だけじゃわからないとか言って、素早い対応はとらなかったんだ。で、その間にこの薬を飲んでいた動物が死亡!というニュースが大々的に報道されたりして、マスコミが市民を扇動しての大バッシング。で、この薬は販売中止に追い込まれたんだ」
「ふぅん。やっぱり裁判とかでもめたのですか?」
「うん、そう。当時、その薬を飲んでいた動物たちは関係ないと考えられる症状でも補償を求めたりしてね。あとこの調査結果が出る前に飲んでいた動物たちも国に責任求めたりしてね、まぁ所謂線引き問題にもなってるよ」
「防ぐ事は出来なかったのでしょうか?」
「う〜ん、色々な問題が絡み合っているからね〜、ソレと、当時の考え方からすればやむを得ない側面があったとも考えられるんだ、少し解説してみるね」

実証的医療というものが、当時はそれほど認知されていませんでした。当時の流行はその薬にはどんな薬効があるのかというのを優先していました。先ほどの例で説明すると、血中酵素の低下を改善するというのが目的となっていたのですね。それと、直接診断に携わる医師動物も実証的医療というものに興味を持つ割合が少なく、検査結果ばかりに目がいっていたところもあるんですね。だから、気づくのが遅れがちになったというのはあるかも知れません。また、「先生、最近目の調子が良いんですよ、見てください、ホラこんなにギラギラ!」なんて、喜んでいる方に危険だからやめましょうね、なんて切り出しにくいという事もあったかも知れません。アトになって見れば何とでも謂えるのですが、実際に被害にあった方も多いので、伝え方は本当に難しいのだと思います。
しかし、今ではその考え方は変わってきていて、長い目で見たとき、その薬を飲む事で、飲まない場合よりも健康でいられるのか?病気の進展自体を予防できるのか?など、そういった面を重視した臨床試験が行われるようになってきました。過去を教訓に今後同じ事が繰り返されないように・・・というものですね。

「そんな歴史があったのですね・・・。この薬害問題は現在も後をひいているのでしょうか」
「うん、個人的に一番問題だなぁ、と思うのが信頼を損ねた事だと思っているよ。マスコミの過剰なあおりのおかげで、製薬会社が政府に働きかけて隠蔽を図ったとか、政府はこの報告を無視して毒をばらまき続けたとか・・・このせいで一時期、薬を毛嫌いする動物が爆発的に増えた時期があったんだ、今でもそういう動物は少なからずいるねぇ」
「予防接種有害論をおもいだしますね」
「そうなんだ。自然が一番、昔ながらの生活でネコ免疫力を高めて病気を予防しましょう、なんて言ってる連中が結構ウケていて、もう、いやんなっちゃうわヨ」
「(キモっ)やっかいなのですね。どんな団体があるんですか?」
「最近流行なのは、『同猫相哀れむ』の原理を利用した、『褒めゴロシー』ですね。褒めの波動で癒してデトックスらしいです。化学物質は褒めの波動を乱すので健康に良くないとかなんとかいってる連中ですね。ことある毎にこの薬害問題を振り翳して勢力を伸ばしてきました」
「なんだか、他人事じゃないですね・・・。ところで、眼光減弱症はその後どうなったのですか」

薬害問題の後も眼光減弱症は増え続けました。生活スタイルを一変させるというのは中々困難なのですね。ポンポコミンの製造は中止されましたが、現在では心血管に害を与えない、第3世代の薬剤、ネオポンポコミンが開発されました。比較的安全なこの薬ですが、過去の薬害問題の影響からか医師の薦めに応じず、病気を悪化させてしまう動物がいるのが現状です。

「実証的医療というのは大切な考え方なのですね。まず、効果があるのか無いのか、キチンと分析して、それだけでなく予後もしっかり見て、総合的に判断して・・・私たちが受けている通常医療って素晴らしいモノなのですね」
「同感ダヨ。分野によっては遅れているところもあるみたいだけど、コレだけ安価に提供されているなんて、ホント奇跡的だと思うくらい」
「あの〜、少し思ったのですが、薬害問題や化学物質の問題を殊更採り上げるの側のヒトって、自分たちでは何にも証明してないんですよね」
「えっ、どういう事ですか?」
「だって、薬害問題を表面化させたのは、それこそ今でいうEBM*1ですよね。その結果に則とって、薬や予防接種の危険性を指摘するなんてずるくないですか?」
「嗚呼、なるほど。EBMなんて当てにならないなんて謂ってる連中が、EBMに論拠して批判するなんて歪ですねぇ」
「どらねこさんの故郷ではEBMの認知度はどのくらいなのですか」
「コトバは知っているけど、その中身は・・・という動物がやっぱり多いですね。ボクも詳しいところまでは分からないし・・・。でも、確実に広まっては来ているよ。医療従事者が論文を取り寄せて読むことがアタリマエになってきているから、怪しいなーと、思った治療法については、ちゃんとリスクを患者さんに説明するようになったんだ、で、選んで貰う訳ね」
「なるほど・・・、それはいいですね。でも、患者さんもちゃんとした知識が無いと、キチンと選択出来ないかも知れませんね」
「うん、そうなんだ。だから、今の課題は一般の方にEBMの考え方や体についての知識をモットモット知って貰うことなんだよね。EBMの大切さを理解してもらえれば、トンデモな健康法のおかしさを分かって頂けると考えているんだ」
EBMの大切さを知ることが、トンデモ健康法から身を守る最高のワクチンなのですね」

−おまけ−
「ところで、どらねこさんは地球のトンデモ情報を調査されているのですよね?毒ガスや核兵器の調査は行わないのですか」
「え、あれはその、ええと・・・」
「もしかして、眼光減弱症だとか・・・」
「エヘン!眼はギラギラばっちしダヨ」
(きっと毒ガスや核兵器の調査はエリートの仕事なのね)
「ん、何か言った?」

*1:エビデンスベーストメディシンのこと。オススメ→http://mag.gto.ac.jp/cat8/cat11/ebm1.html