検証!ビタミンC療法−その3(追記あり)


前回までの粗筋
自称南千住研究所所長のポニョ子は妹の友達の悩みを解決すべく、高濃度ビタミンC点滴療法の調査の協力を求め部下(?)であるどらねこの家を訪れた。検証をすすめていく3人であったが・・・

モニョ子「どらねこさん、こんな論文を紹介しているサイトがありました。如何でしょうか?」

Pharmacologic doses of ascorbate act as a prooxidant and decrease growth of aggressive tumor xenografts in mice.
Chen Q, Espey MG, Sun AY, Pooput C, Kirk KL, Krishna MC, Khosh DB, Drisko J, Levine M.Proc Natl Acad Sci U S A. 2008 Aug 12;105(32):11105-9. Epub 2008 Aug 4.

pdfは此処から→http://www.pnas.org/content/105/32/11105.full.pdf

どらねこ「はじめに背景と要約が書いてありますね。大事なトコを簡単に纏めるとこんな感じかなぁ」



Ascorbic acid is an essential nutrient commonly regarded as an antioxidant.In this study, we showed that ascorbate at pharmacologic concentrations was a prooxidant, generating hydrogenperoxide-dependent cytotoxicity toward a variety of cancer cells in vitro without adversely affecting normal cells. To test this action in vivo, normal oral tight control was bypassed by parenteral ascorbate administration.Real-time microdialysis sampling in mice bearing glioblastoma xenografts showed that a single pharmacologic dose of ascorbate produced sustained ascorbate radical and hydrogen peroxide formation selectively within interstitial fluids of tumors but not in blood.Moreover, a regimen of daily pharmacologic ascorbate treatment significantly decreased growth rates of ovarian (P < 0.005), pancreatic (P < 0.05), and glioblastoma (P < 0.001) tumors established in mice. Similar pharmacologic concentrations were readily achieved in humans given ascorbate intravenously.These data suggest that ascorbate as a prodrug may have benefits in cancers with poor prognosis and limited therapeutic options.


この研究では、薬理学的濃度においてビタミンCが過酸化水素を発生する酸化促進剤として様々ながんに対しin vitro で細胞毒性を示す一方正常細胞には悪影響を与え無いことをあきらかにした。神経芽細胞異種移植をしたマウスを使って生体内でこの反応が起こるかどうか調べたら、ガン細胞の間質にアスコルビン酸ラジカルと過酸化水素を生成していることを確認した、その時、血液中には見出されなかった。さらに、毎日アスコルビン酸を同じく投与したマウスでは移植した腫瘍・・・卵巣(P<0.005)、膵臓(P<0.05)、膠芽腫(P<0.001)の成長率を著しく減少させましたよ。
人間では静脈注入でアスコルビン酸塩を与える場合に同様の薬理学的濃度を達成できる。
以上のデータより、アスコルビン酸塩が予後不良若しくは治療の選択肢が限られたがん患者にプロドラックとしての利益をもたらすかもしれない。

ポニョ子「辿々しくて読みにくい文章ね、まぁどらちゃんの実力からすれば上出来かしら?で、結局何が分かるのヨ、この論文で。ねぇモニョ子、あれ、モニョ子?」
モニョ子「あ・・・ゴメンなさい・・・熟読してしまいました。お姉さん何かいいましたか?」
どらねこ(ホントに姉妹なのだろうか・・・)
ポニョ子「アンタ分かるの?この横文字。おねーちゃんに教えなさい!早く早く」
モニョ子「実験のことなど分からないことだらけですけど、マウスをつかった実験でも先ほどの細胞実験と同じ効果を確認できたという事が読み取れました。特におかしな部分は無かったように見えました」
どらねこ「うん、うん。ボクもそう思うよ」
ポニョ子「で、だからどーだっていうのヨ。結論結論!!は〜や〜く〜」
モニョ子「誤解しているかも知れませんが、細胞実験の結果が実際に生物の体の中で再現できたという事ですね。しかも、高濃度のビタミンCでがん細胞の中に過酸化水素というものを発生させる事が確認できたのですね」
ポニョ子「って事は・・・人間にも同じように点滴することで、過酸化水素を発生させがんをやっつける事が可能なのね!」
どらねこ「そう簡単にはいかないよ。マウスの実験の結果がそのまま当てはまる事の方が少ないんだ。勿論可能性は0ではないけどね。それより、この論文に反論するような論文も有るんだよ」
ポニョ子「そんな論文があるの?勿体ぶらずに早く出せばいいじゃない、こののろまねこ!」
モニョ子「私も興味があります」
どらねこ「何だかなぁ、もう!え〜と、待ってね・・・」

Antitumor activity of Hypsizigus marmoreus. I. Antitumor activity of extracts and polysaccharides.
Ikekawa T, Saitoh H, Feng W, Zhang H, Li L, Matsuzawa T.Chem Pharm Bull (Tokyo). 1992 Jul;40(7):1954-7.

pdfは此処から→http://cancerres.aacrjournals.org/cgi/reprint/68/19/8031

ポニョ子「ハイ、どんな内容なのか、簡単に説明して」
どらねこ「はいはい・・・すごく大まかにいうとこんな感じ」

酸化型のビタミンCで前処理をした腫瘍細胞に抗がん剤を添加した場合、何も処理をしない場合に比べて、薬の効果が下がってしまったという内容だね。マウスに経口投与した場合でも、同じように抗がん剤の効果を弱めてしまう結果になった・・・
この結果から、抗がん剤治療中はビタミンCサプリメントはやめた方がよいかも知れない。


論文8034 Figure 3より

どらねこ「これは、ドキソルビシンという抗がん剤を使用した実験の結果だね。抗がん剤単独よりも、ビタミンCを添加した場合に腫瘍細胞の増加が大きいことが写真からもわかるよね」
ポニョ子「一目瞭然!やっぱりビタミンC療法は効果がないのネ。フフーン♪アタシの睨んだと・お・り」
モニョ子「お姉さん、論文に使用しているビタミンCなのですが、此処気になりませんか?」
ポニョ子「あ、ソレよ、それ、私もすっごく気になる!」
どらねこ(いや、もういいや自分一人じゃ突っ込む気力も残ってない・・・ミツドンさん、何処いっちゃったの?)
モニョ子「・・・どらねこ・・さん?聞いてますか」
どらねこ「きいてますよ〜、ちゃんと、もうばっちり」
モニョ子「論文の要約をみてください。何でこの実験では、還元型のビタミンCを使っているのでしょうか?それと、投与量が少なめですし、経口投与ですよね?」

The therapeutic efficacy of the widely used antineoplastic drugs doxorubicin, cisplatin, vincristine, methotrexate, and imatinib were compared in leukemia (K562) and lymphoma (RL) cell lines with and without pretreatment with dehydroascorbic acid, the commonly transported form of vitamin C.

どらねこ「鋭いなぁ、てぬ○もでき・・・いや、確かにそうだよね。うん、考えてみよう・・・」
ポニョ子「普通のビタミンCだと思うとおりの結果が出なかったんじゃないの?」
どらねこ「もしかしたらそうかも知れないですね。って今のポニョ子さん?えと、冗談はさておき、いろんな理由が考えられるけど、この論文を読んで次の事が思いつきます」
抗がん剤治療中にビタミンCサプリメントを摂取する場合には、効果を弱めてしまう可能性が示唆された
■経口摂取の結果であり、ビタミンC点滴療法を検証したものではない
■デヒドロアスコルビン酸(酸化型)を使用しており、アスコルビン酸(還元型)を使用した場合に必ずしも当てはまるとはいえない

モニョ子「先ほどの高濃度ビタミンC療法の動物実験が否定されるわけではないのですね」
どらねこ「うん、この実験では否定するのは難しいと思うよねぇ。でも、抗がん剤と併用する実験というのは意義があると思うよ。先ほどの高濃度ビタミンC注入の動物実験抗がん剤を併用した結果を見てみたいなぁ、う〜ん、でもどうなんだろ・・・」
ポニョ子「もったいぶった割にはハッキリしないのね、ダメじゃん」
モニョ子「お姉さん、本当のことを・・・あ」
どらねこ「くそ〜、言いたい放題じゃないか!何この姉妹?もうやだぁ、助けて・・・」
モニョ子「冗談です!(キパ)どらねこさん、やっぱり現時点では不確実な事ばかりなのですね。効果がちゃんと確認できていない治療法に高額な治療費と点滴で時間が奪われることには懐疑的になった方が良いと仰りたかったのですね」
どらねこ「ぐすっ、うん、そうだよ。モニョ子さんって実はドS?もう泣きそうだよ・・・最後に一つだけいわせて。さっきのマウスに高濃度ビタミンCが効いたという論文のココを読んでみて、実験手法のところダヨ」

When tumor volume reached 25–50 mm3, treatment commenced with ascorbate (4 g per kilogram of body weight) by i.p. injection.

モニョ子i.p.injectionって何ですか?」
どらねこ腹腔内注射のこと。つまり、がん細胞を抑制する実験では、マウスに点滴でビタミンCを入れていないのね。実は、抗腫瘍成分をマウスの腹腔内注射して増殖抑制できたという論文*1はいっぱいあるんだよ、しかも増殖抑制どころかもっと強い作用がキノコ抽出成分で確認されている。でも、キノコでがん治療は実用化されていないよね」
モニョ子「どらねこさん、きのこ*2好きなんですね、私も好きですよ。勿論きのこの事です」
ポニョ子「効果あってもたいしたこと無いみたいだし、人間のビタミンC療法って腹腔内注射する事なんてないでしょ?結局どっちの論文も中途半端じゃない!アタシの貴重な時間を返しておやりよ、エルバッキー
どらねこ「コラコラ、それだけ実験って難しいの!でも、こんな基礎研究が積み重ねられて、少ない可能性の中から有望な薬や治療法が生まれてきたんだよ」
ポニョ子「そろそろ纏めましょ!読者も飽きてきているから」
モニョ子「じゃあ、3人でまとめましょう」

【まとめ】
高濃度のビタミンCにより、がん細胞でフリーラジカルが発生して、正常細胞を傷つけることなく、がん細胞増殖抑制活性を示したのは、とても素晴らしい発見だと思います。でも、その事が人間の治療効果を証明するものではありません。日本に於いて、実際に補完代替医療として高濃度ビタミンC点滴療法が提供される場合には、抗がん剤治療と併用して行う事が想定されますが、紹介している動物実験はビタミンCの単独投与ですので、その面でも不安が残ります。抗がん剤とビタミンCサプリメント併用では危険があるかも知れないという論文を紹介しましたが、投与しているのは酸化型のビタミンCであり、反証とまでは謂えなさそうです。今後の検証が待たれます。これは個人的印象ですが、高濃度ビタミンC点滴を行った後には徐々に血中ビタミンC濃度が低下していくと思います。サプリメントを飲んだときと同じような状態になる事もあるでしょう。この時、抗がん剤となんらかの反応を起こす可能性を否定できるのでしょうか。今回紹介した抗がん剤を併用した実験結果が気になるところです。
月数万円の治療費と、点滴に費やす時間は、実際に現れるかどうか不明な効果と釣り合うものなのでしょうか?


【どらねことポニョモニョの結論】
現時点では高濃度ビタミンC点滴療法の効果を実証した論文は存在しない

モニョ子「素人の私たちでも此処まで調べることが出来ました。専門のお医者さんであれば、この論文ではどこまで説明できるのかちゃんとわかっていらっしゃると思います。今回調べてみて感じたのは、元の資料を拡大解釈して説明しているような記述がいろいろなところで見つかったことです。患者さんは必死に治療法を探しています。書いてある情報を信じて、です。
代替医療全てを否定しませんが、真剣な患者さんには誠実な態度で向き合って欲しい、そう思いました」

長い文章にお付き合いいただきありがとう御座いました。この3回で書いた内容はあくまで個人的見解です。このエントリで行ったように懐疑的目で読んでいただければ嬉しいです。



【追記】
2015年に「The Oncologist」に高濃度ビタミンC療法による抗がん作用、QOL改善作用についてのシステマティックレビューが掲載されておりました。3回のシリーズの結語として、今後の報告を待ちたいとしておりましたが、エビデンスレベルとしては最高に位置する報告がでました。

Jacobs C, Hutton B, Ng T, Shorr R, Clemons M. Is there a role for oral or intravenous ascorbate (vitamin C) in treating patients with cancer? A systematic review. Oncologist. 2015 Feb;20(2):210-23.

696の報告を対象に、5つのRCT、12の第1相/2相の臨床試験結果を含む34論文を解析したものです。そして、抗がん効果があるという証拠は見つけらられず、勧められるものではない、という結論です。

証拠が見つけられなかっただけで、効果がないわけではない、という反論もできそうですが、点滴療法など侵襲性の問題や経済的な影響もあるにもかかわらず、実際に確認出来た効果は今のところ「無い」というのはお話になりません。効果をほのめかせるような根拠がないと現状ではいえるわけです。
「効果がないと思いますが、他にもやっている人はいます。有害な副反応もあるかも知れないしお金もかかります」ここまで正直に話して受けたい人がいれば止められない、というところでしょうか。

 がんなどの進行性の病気では、患者の時間のつかいかたや経済的な問題というのはとても重要なものです。本人のことを心配する周辺の方についても、見込みがなさそうな治療について、誤った情報に基づいて期待をさせてしまうようなことがないよう、知識をアップデートして頂ければと思います。

*1:Antitumor activity of Hypsizigus marmoreus. I. Antitumor activity of extracts and polysaccharides.Ikekawa T, Saitoh H, Feng W, Zhang H, Li L, Matsuzawa T.Chem Pharm Bull (Tokyo). 1992 Jul;40(7):1954-7.Sarcomaという腫瘍細胞に対する効果を見るため、ネズミさんにブナシメジの熱水抽出物を腹腔内投与した結果、100 mg/kg 投与。ラット6匹中6例で完全退縮

*2:余談だが、どらねこも培地にマイクログラムオーダー添加で腫瘍細胞を死滅させるレベルの成分をキノコから抽出したこともある