和食(?)の持続可能性

今回は雑談レベルで、最近考えている事を気分に任せて書いてみようと思います。


■和食は優れている(?)
最近ではユネスコ無形文化遺産に登録されたなんてニュースも聞きましたが、食育では「和食」というものは栄養バランスに優れた健康食であると語られたりします。昔ながらの日本食というのは欠点も多いものでしたが、戦後の流通網の整備と冷蔵技術の発達により、季節を問わずに魚を入手できる環境ができてからの日本の食事はなかなかに良いものである*1とどらねこも思います。
魚を採り入れた食事というのは栄養学的にも良いもので、和食の良さというのは魚の良さであるといっても過言ではないかもしれません。
魚の良さにも色々ありますが、良質のたんぱく質源であるだけでなく、不足しがちなn-3系の脂肪酸の有力な摂取源になることでしょう。人間が生きていく上では脂質は重要な栄養素ですが、牛肉などでは飽和脂肪酸の割合が多くなりすぎる傾向があり、魚を採り入れることでその問題点を軽減したり、循環器系疾患のリスクを低減できることが期待されます。


■どうなる和食
そんな魚を採り入れた食文化である和食ですが、現状はけっこうピンチなんじゃないかなと、どらねこは心配しております。やっぱり食の欧米化のせいで・・・いえいえ、そんな話ではありません。
日本人の食事と栄養を語る上では最も大切な物である食事摂取基準の最新版には次の様な記述が掲載されます。


「日本人の食事摂取基準(2015年版)策定検討会」報告書 p119より
世界的な魚資源の不足により、将来、α-リノレン酸の摂取が重要になる可能性がある。
http://www.mhlw.go.jp/bunya/kenkou/syokuji_kijyun.html



α-リノレン酸もn-3系の脂肪酸で、これは植物から摂る事ができるものです。現状の日本では魚から摂る事を前提に考えているn-3系脂肪酸だけれど、将来はどうなるか分からないと、資源について言及するような本ではない筈の食事摂取基準に書かれているのです。これって相当深刻だと考えませんか?


■うなぎとか
報道をきくと、今年はシラスウナギ漁が前年に比べて豊漁みたいです。しかしながら、それは空前の不漁であった昨年に比べての話で、10年以上前の水準には全然及ばないようです。
今後の事を考えるのであれば、せっかくシラスウナギが増えてきているのなら、これをチャンスにと捕獲しないで、資源を温存し親世代を増やそうという方向に進まなければならないはずでしょう。
こうした動きに進まなそうなのは、やはり「共有地の悲劇」的なものが漁業には起こりやすいという事なのだと思います。数が少なくなりつつある誰のものでもない資源だったら先に獲らないと自分が損してしまうという心理に陥りやすいものですから。それを実証するようにカツオの不漁が起こってますし、獲らなくても良いような大きさの魚が店頭に安い値段で並んでいる事を見かける事が多くなっております。


■大切な文化なら
和食は日本の大切な文化である。食育でもユネスコの件でも政府は積極的に和食の素晴らしさをアナウンスしてきました。本当に素晴らしい文化であり、後世に残そうというのなら、それを担う大切な「魚」をも後世に残す努力をするべきでしょう。
「魚」という資源は政府が漁獲制限を行わなければならないぐらい非常に危うい状況であるとどらねこは思います。
他省庁管轄の食事摂取基準でも心配されるレベルなのですから、農林水産省には是非とも資源を維持できるような規制を含めた対策を行って欲しいなぁと、どらねこは思います。また、食育分野についても、資源管理の大切さについても優先的に伝えていくべきでしょう。和食推奨が単なる過去を賛美のスローガンでなければすぐに取り組まなければならない問題でしょう。

*1:様々な欠点はあるというのは過去の食育カテゴリの記事でいくつか指摘してます

素晴らしすぎる日常食べる食品の健康効果

どうもお久しぶりです。更新をずっとサボっていたどらねこです。
最近というか、ずいぶん前から昼頃にテレビをつければ健康食品紹介番組のオンパレードなわけでうんざりしてます。みんな健康になりたいんですよねぇ〜、いやそんなのあたりまえですか。
なにやら深海鮫のナントカ、○○ベリーの奇跡の効果とかもうお腹いっぱいなんですが、特定の食品を食べると健康になれるならホント嬉しいですよね。
ところで、そんな珍しそうな食品や高価なものじゃないとよさげな有用成分ってとれないものなのかしら。日常食べている食品に良い成分がたんまりと含まれていたらそれにこした事はないですものね。
そんなわけで、適当にみつくろった食品から無理矢理なんとなく良さそうに見えるような成分をほじくり出して健康に良さそうな作用をこじつけてみました。


■野菜類

こんな風にならべるともっともらしいよね。


■果物など

さすが自然由来食品。みてるだけで健康になりそうな気がしてきますね。


■動物性食品

動物性食品にもこんな素晴らしい成分があるんだー(棒)


■次回
日常食べている天然由来食品にはこんなに健康効果のある成分が含まれているんですね。次回は、日常食べている天然由来食品に含まれている毒性のある成分をお送りします。トマトに含まれる毒性アルカロイドのトマチンをはじめ、健康に良さそうなあの食品にも実は・・・驚愕の事実が盛りだくさんです。楽しみに待っていて下さいね。(ウソです)



○○が含まれているというだけで健康に良さそうとか考える事がバカらしいと思って頂けたら幸いですにゃ〜

増税前の買い物で気をつけたいこと

どうもお久しぶりです。そろそろ記事を更新しないとなぁと思っているのですがどうも筆が進みません。そこで消費税増税が話題になってますので、ネタ記事を書いてみました。


■混んでる
先週まではたいしたことがなかったように思うのですが、ここ数日、ショッピングセンターなどではホント駆け込み需要って感じでカートいっぱいに商品を乗せているお客さんを見かけるようになりました。レジもなんか混み合っているように感じます。
こうした時期に買い物をすると「あの人も駆け込み購入の人ね」みたいに見られてるような感じがして「ちがうも〜ん」オーラを出したくなるんですがそんな些細な事どうでも良いですし、駆け込み購入をする人の気持ちもわからないでもありません。だって同じ物を同じ金額で買えなくなるというのはなんとなく損した気持ちになりますものね。


■奪い合い
何を買うのかが明確でないお客様の購買意欲が高まっている・・・しかもこの状況は3月31日までの期限付き、ともなれば是非ウチの店で買って下さいこんなにお得ですよ〜という宣伝合戦が始まります。このような需要期ですから値引きをしなくても売れるんじゃないかと思われそうですが、4月1日以降の売り上げがガクンと減りそうなのは予想できますから、どの店も目玉商品を用意してウチで買って下さいとお客様にアピールすることでしょう。この需要を当て込んでの大量仕入れがそっくり残ってしまった状況というのは目も当てられないですからね。


■じゃあお買い得?
そうなると「この時期の買い物はお買い得なの?と考えてしまいそうですが、それだけではお店は儲かりません。そこでお買い得商品目当てに来て頂いたお客様に他の商品を購入してもらう必要があります。
「同じ物が数日後には3%消費税分上乗せされた金」額になるのなら今買ってしまおうと思って買い物に来ている人達ですから、普段の買い物の時に比べて、手を伸ばして貰うためのハードルは下がっていることでしょう。目玉商品を売りにお客様に来て頂いて、儲けの出る商品も沢山購入して頂き、全体としてお店が潤えば良いわけです。
いつつ買うか判らないようなものでも折角だからとか、こんな混んでいるレジに並ぶのだからついでに・・・と手を伸ばしてくれればしめたものです。どらが商売人だったらこの商機にそんなお客様の気持ちを見過ごすわけがありません。


■5つの心得
そうしたお店側の作戦に打ち勝ち(?)上手に買い物をするためには、そうした折角だからという気持ちを抑え込んで、合理的に買い物をするのが良いのかも知れません。
そこで「後悔しないためにこう買いたい!どらねこ5つの心得」をつくってみました。



1.日用必需品の目玉商品だけ狙え

つかうあてのない商品は買わないと決めておきましょう。チラシの商品は勿論、陳列棚の奥へと誘導する目的の特売商品は見逃さずに買いましょう。




2.こどもは連れて行かない

たいていの子どもは欲望に忠実です。店の欲望刺激戦略に抗うことは困難ですから連れていかない方が良いでしょう。




3.よくチラシで目玉商品になるものは買わない

消費税の増税といっても3%です。2割引3割引セールで買う方が断然お得ですから我慢したほうが正解の事が多いでしょう。




4.ついでだからと思ってはイケナイ

思っちゃダメ思っちゃダメ思っちゃダメと3回唱えてから買い物へ出かけましょう。




5.迷ったら買わない

迷ったものは今必要なモノじゃありません。

以上を心に決めて、買い物へいってこようと思いますモフモフ。

トランス脂肪酸とメディアからの情報

おまけ的な趣味のエントリです。解説記事ではなく「どらねこの考え」を述べていくものですのでご了承下さい。


アメリカはトランス脂肪酸禁止?
昨年の11月頃からトランス脂肪酸について危険性などについて検証する報道をみかける事が増えたように感じるのだけど、これはアメリカのFDAアメリカ食品医薬品局)が11月7日に発表した内容が関係しているのでしょうね。

FDA Targets Trans Fat in Processed Foods」
FDAは加工食品のトランス脂肪を標的とする)
http://www.fda.gov/ForConsumers/ConsumerUpdates/ucm372915.htm

これは一般に向けたアナウンスで、詳しい内容は上記のURLや食品安全情報ブログに邦訳*1も載っておりましたのでそちらを参考にしていただくとして、簡潔に要約をするとこんな感じじゃあないかな。

FDAの役割は食品の安全性を確保することなので、危険と考えられる食品は規制していかなければならない。

FDAとしてこれはもう安全ではないよ、という予備的な決定が部分水素添加油脂(マーガリンやショートニングなどが含まれる)に対して行われた。

・この予備的決定がそのまま採用されれて、水素添加油脂は安全ではないという事になればFDAの事前認可が必要な食品添加物となる。それを含む食品は未承認添加物を含むもので異物混入扱いとなり合法的に販売することはできない。

・食品企業が水素添加油脂を段階的に中止するためにどれぐらい時間が掛かるのか意見を求めてるために、60日間の期限でパブリックコメントを受け付けている。*2




■日本のメディアはどう反応した?

トランス脂肪酸、米で全面禁止へ 健康への悪影響理由に*3

↑は見出しが気になった記事。

中身よりも「タイトル」について気になったのは、これだけを見るとアメリカで全面禁止されているものが日本で野放しというのはけしからん、国は何をしているのだ、と受け取られてしまいそうに見えるから。では、他の新聞はどうなのでしょう?

トランス脂肪酸:米国で禁止の動き 日本では表示義務なし
http://mainichi.jp/select/news/20140117k0000m040025000c.html
毎日新聞 2014年01月16日 18時25分(最終更新 01月16日 23時18分)


こちらも似たようなタイトルですが「禁止の動き」という表現は少し穏やかかなとは思う。この記事では、危険性を心配する内容だけでなく、一律に危険と考えるばかりではいけないとする専門家の意見も掲載されており、何が問題かを考える姿勢もみられるので中身も紹介。

毎日記事より
「以前から脂肪の取り過ぎが問題だった欧米と違い、日本人は元々の摂取量が少ない。通常の食生活をしている限り健康への影響は小さいでしょう」。畝山さんはそう解説する。逆に「脂質はたんぱく質、炭水化物と並ぶ三大栄養素の一つでホルモンや細胞膜の材料にもなる。トランス脂肪酸を避けようと神経質になって脂質を極端に減らせば、かえって健康を損ないかねません」と心配する。


こうした意見を載せる一方、危険性について懸念を示す人の話も並べて掲載。

毎日記事より
 身近な食品のトランス脂肪酸量を05年に調べ、公表したNPO法人「食品と暮らしの安全基金」代表の小若順一さんは「企業が公表している含有量は実測値ではなく計算値かもしれず、正確かどうかは分からない。消費者の利益を考えるならば国が含有量の規制値を設定し、値を上回る商品は排除すべきです」と語る。

 「幼い頃からファストフードやコンビニエンスストアの商品を口にしてきた若者はトランス脂肪酸のリスクを蓄積しており、数十年後に被害が出るかもしれない。学校給食などでは規制すべきです」。環境や食の問題を考える運動に取り組み、東京都調布市で自然食品店「みさと屋」を営む藤川泰志さんは訴える。


このような両論を併記している記事は一見すると公平に見えるのだけど、これらの意見それぞれの信憑性は同じぐらいのものなのかは読者が判断することは難しいでしょう。
こうした情報の判断に専門性が求められるような話題について両論を併記し、読者の判断に任せるというだけで良いのかな。ある程度情報に重みづけをされた記事を読者に提供する事が新聞社に期待される部分だと個人的には思うのだけど、そうした声をあげる人が少ないのが現状で、だから変わらないのかもねとかも思う。

※ちなみに小若順一さんについてはこういう話もありますので、そもそも問題に対し、科学的アプローチをする人なのかレベルで疑問ですね・・・→http://blog.goo.ne.jp/wakilab/e/439d8114a0e5a646e2bcd4429589d4ea



■一般にはどのように伝わる?
ところで、前項で記事の「タイトル」にどらねこがやたらと拘っているなぁと思われた方もいると思うけど、それは「トランス脂肪酸」と「その危険性」について元々悪い印象を持っている人が多いと予想しているからなのね。
例えば、新谷弘実さんの著作「病気にならない生き方」はベストセラーになったけど、そのp98にて「マーガリンほど悪い油はない」としてトランス脂肪酸の問題点やマーガリンは完全なトランス脂肪酸になっているという趣旨の説明をしていたりするの。また、この同時期には週刊誌*4等でもトランス脂肪酸の害について話題となっていたため、健康問題に興味のある一般の人では「トランス脂肪酸は危険なものである」という空気がもうできあがっちゃっているように思うの。

そうした下地のある状況で「アメリカではついに規制される」というタイトルや、一見公平に見える両論併記は誤解を誤解のままに温存してしまうのではないかと懸念をもってしまうわけ。おそらく危険と考える人は「早く日本でも対策を!」と感じたでしょうし、なんとなく不安な人はその不安をより強くしたのではないかと思う。

食品に対して不安な情報がでたらここを見て判断すれば良いというような、信頼度の高いメディアやウェブサイトなどに誰でもアクセスできるような環境をつくっていくことが必要だろうと個人的には思うわけ。


■どこを見れば良い?
それじゃあ、どこをみたら良いのかなという事になるのだけど、一般向けの雑誌記事でもくわしく検証をしているものはありました。

日経トレンディネット
連載:医学博士 大西睦子のそれって本当? 食・医療・健康のナゾ
日本も都市部の女性は摂取量が多い!? 米国、その後のトランス脂肪酸
http://trendy.nikkeibp.co.jp/article/column/20140128/1054781/


著者の大西さんは著者プロフィールを見ると、東京女子医科大学卒で日本でのキャリアの後、ハーバード大学で食事や遺伝子と病気に関する基礎研究に従事し、現在もボストンで研究を続けている方のようだ。

詳しい内容に興味のある人はリンク先を参照頂くとして、トランス脂肪酸とはどのようなもので、どこに存在しているのか、海外での評価はどうであるのか、日本での摂取状況やここ最近の動きなどをキチンと追いかけた記事でありました。重要な情報は網羅しており、短時間で要点を掴むのにはいいなあと思いました。まあ、「製品ごとに表示の必要性を感じます。 」という大西さんですので、どらねことは結論は違いますけど。

ただ、この記事には気になった部分もあって、それは本題ではない後半部分です。引用しながら言及してみましょう。トランス脂肪酸だけではなく食べている脂質の内容にも目を向けようという文脈です。

記事より
では質のいい脂質って何でしょうか?
脂質は私たちにとって、細胞膜やホルモンを作るための材料となり、主要なエネルギー源として貯蓄され、とても重要な栄養素です。脂肪酸は脂質をつくっている成分で、その科学的構造から、飽和脂肪酸不飽和脂肪酸の2つに分類できます。

はい、とくに異論はないです。

記事より
飽和脂肪酸はバターやラードなど、肉類や乳製品の動物性脂肪に多く含まれていて、常温では固体で存在するため体の中でも固まりやすく、しかも中性脂肪コレステロールを増加させる作用があるため、血中に増えすぎると動脈硬化の原因となります。

身体の中で固まりやすいので動脈硬化の原因となると読めてしまうのですが、誤解を与えそうな表現ですね。つづいて、多価不飽和脂肪酸に対する解説があります。

記事より
一方、大豆油やコーン油など一般的な植物油に多く含まれるリノール酸を代表とするオメガ6系脂肪酸も、体に必須で悪玉コレステロールを減らしますが、半面、摂りすぎると善玉コレステロールも減少させてしまいます。
オメガ3系と6系の摂取バランスは「1:2」〜「1:4」程度が適切であると言われ、伝統的な日本人の食事ではこれが保たれていましたが、昨今の欧米型の食生活でオメガ6系の摂りすぎが問題になっています。

もしかしたら大西さんは脂質栄養学についてはあまり得意ではないのかも。

オメガ3系(n-3系)とオメガ6系(n-6系)脂肪酸の比率について、日本人が参考にできる栄養摂取量の基本である「日本人の食事摂取基準2010」では食事からの脂肪酸摂取の目安量としてエネルギー比で、オメガ3系(n-3系)を1%オメガ6系(n-6系)を5%としているのね。比率としては「1:5」*5であって、「1:2」という基準がどこからでてきたのかちょっと分からないのね。FAO/WHOの目標値でも、そんな数字にはなってませんし。*6



もう一つの誤解は、伝統的な日本人の食事ではこれが保たれていたという部分。これはいつの時代の日本の事なのでしょう?
日本国民が平均的に魚を多く食べるようになったのは冷蔵設備が普及し、道路整備が進み流通網ができあがった後の時代の事です。過去記事で用いた表を再掲するけど、明治や大正時代の魚類摂取量はけっこう少ないというのはおぼえておいて欲しいなぁ。



昔ながらの日本食=望ましいバランス食・・・という誤解が蔓延*7していると思うの。少なくとも昔の日本人が食べていたような食事では十分なた脂肪酸量を確保は難しいということね。

食事と健康の話というのは食品や栄養についての深い知識だけでなく、文化や社会構造、環境などなど様々な分野の知識が求められる正解の存在しない難しいものだと思うのね。なので、一般紙や雑誌から望ましい情報を選び取るというのは一般の人には相当厳しいんじゃないかと思う。
その中では、ちょっと専門っぽさがあるものの「FOOCOM.NET」はオススメできるかな。


いつも参考にするにはハードルが高いと思うので、気になるニュースがあって判断に困っているときに読んでみるというのは良いんじゃないかな。

他にもこれは良いよ!というものがあれば紹介下さいね。

*1:詳しい内容はhttp://d.hatena.ne.jp/uneyama/20131111#p13で要約を日本語で読むことができます

*2:その後2014年3月8日まで延長

*3:朝日新聞デジタル2013年11月8日10時09分記事見出しhttp://www.asahi.com/articles/TKY201311080009.html

*4:例えば「週刊朝日」2005年8月5日増大号の記事「マーガリンで心筋梗塞が増える!?」など

*5:食事摂取基準では比率だけでなく量で考えようという趣旨の説明も有り

*6:強引にみれば「1:4」と解釈できない事もないけど・・・

*7:少なくとも日常の食事ではない。昔ながらの素晴らしい日本食が欧米化で破壊されたと思い込んでいる人が一般の方だけでなく専門家にも多く見られるというのが現状。これは昔は良かった、近頃の若い者は・・・的な物と同根の心理なのかなと思う

トランス脂肪酸ってどれぐらい危険なの(解釈編)

トランス脂肪酸ってどれぐらい危険なの(準備編)
http://d.hatena.ne.jp/doramao/20140204/1391505566
トランス脂肪酸ってどれぐらい危険なの(データ検証編)
http://d.hatena.ne.jp/doramao/20140210/1392010030

ここまではトランス脂肪酸とはどんなものなのか、どんな危険性があるのかなど説明をしてきました。これら情報が皆様の判断に役立てばと思っております。
今回は、検証編のおわりに書いた「企業には食品中のトランス脂肪酸含量を下げる努力を続けて貰いつつ、規制や食品表示の義務化は不要」と、どらねこがどうして考えるようになったのかを述べてみたいと思います。
なお、今回の記事は色々と細かい話をこねくり回しており、読みにくい点も多いと思いますので「まとめ」を最初に書いておこうと思います。


トランス脂肪酸への見解まとめ

その1:トランス脂肪酸はエネルギー比1%未満にしましょうという基準自体が集団対象の目標なので、日本の平均値がそれを下回っているのならリスクは大きくなさそうである。



その2:FAO/WHOの基準で考えると食塩摂取量が論外なぐらい高いのが日本の特徴。こっちを優先課題にもっと取り組むことが大事では?



その3:現在のトランス脂肪酸摂取量は調査したときよりも少なくなっていると予想される。企業努力でマーガリンなどのトランス脂肪酸量は大きく減っている。(ただし、飽和脂肪酸量は増加傾向)



その4:食品表示の義務化にはコストが掛かるし、中小企業への負担が大きい。コストをかけてまで減らすほどメリットは大きくなさそうだ。



その5:日本人の摂取量についてのさらなる調査が必要であり、日本人対象の健康への影響についての知見が不足しているのが現状である。現状の摂取レベルから考えれば、基礎となるデータが集まってから判断しても遅くない問題だろう。



その6:トランス脂肪酸ばかりみてはダメ、飽和脂肪酸量も気にしましょうね。

以上の理由により「企業には食品中のトランス脂肪酸含量を下げる努力を続けて貰いつつ、規制や食品表示の義務化は不要」と考えます。
それでは、細かい話をしていこうと思います。


■FAO/WHOの摂取基準を考える

日本人のトランス脂肪酸摂取量を調べた調査ではWHO/FAOが示している栄養素摂取量の目標値以下である事は前回示しましたが「日本人の摂取量はWHO/FAOの示した基準値を超えていないから問題ないのではないか?」という意見と「個人レベルで見ると超えている人はいるから、平均だけで判断してはだめだ」という二つの解釈を見る事ができます。
後者の意見も確かにもっともだ、と思わなくもないです。事実、日本人を対象にした食事記録を元に摂取量を推定した論文*1では、トランス脂肪酸摂取量が総エネルギーの1%を超えていた人が女性では24.4%と無視できない水準であったという結果がでております。この論文のポイントは16日間分の食事を調査したものである、というところです。油脂の摂取量はその日によって大きくバラツキがあるという特徴があります。ようするに、毎日脂っこい物をたべる人はそんなにいないので、1日だけの調査では日常的に摂取量が多いのかどうかを判断することは難しい*2ということです。その点この論文はそうした面にも配慮している調査計画であり信頼性が高いといえるでしょう。
あれ、そうなると日本人も気をつける必要がある・・・という事になりそうですが、一つ注意して欲しい部分があります。表にもありますが、エネルギーの1%未満というのは厭くまで「集団における目標値」です。集団においての目標値を集団では下回っているわけですから、集団への対策を急がなければならない、という理由としては弱いと考えられます。
ただし、この部分には一つ気をつけなければならない点がありまして、WHO/FAOでは、2008年に行われた合同専門家会合*3において、今後はこの基準が摂取が高い人の事も考慮して見直す必要はありうる、という見解を示しています。新しい基準がしめされた場合にそれを参考にするというのは妥当だと思いますので、その時に考えれば良いのではないでしょうか。


■FAO/WHOの基準は参考にすべきなの?
さて、ちゃぶだい返しをするわけではないのですが、そもそもこのFAO/WHOの栄養素摂取量の目標値を日本が参考にする必要はあるのでしょうか。というのも、日本には日本独自の食事摂取基準があり、世界全体の集団とは違った特徴を持つ日本人集団に適した基準をつくっているはずだからです。
事実、日本人の食事摂取基準にはこのFAO/WHOの目標値から大きく外れた項目が存在します。



日本人の食事摂取基準では2015年までに達成したい目標量として男性9.0g /日未満、女性7.5 g/日未満であるとしており、それぞれFAO/WHOの基準を大きく上回るものです。
この食塩摂取量は高血圧に関係しますが、高血圧はトランス脂肪酸とおなじく冠動脈疾患のリスクファクターの一つで、摂取量のとても多い国である日本ではトランス脂肪酸の問題よりも優先順位の高いものであると見なせるでしょう。
よそ様の基準は基準として日本では日本の事情を考慮した基準を考えれば良いわけで、ケースバイケースで考えていくのが妥当だと思います。トランス脂肪酸は1%未満厳守すべきだと強硬に述べるのなら食塩摂取量やその他項目も一律守ろうといわなければ不公平*4なわけで、そんな話にはしないで個別の項目ごとに妥当性を探っていく事が大事であるとどらねこは考えます。


■現在のトランス脂肪酸摂取量は?
妥当性を考える場合にまず考えたいのが、日本人はどれぐらいトランス脂肪酸を摂っているかの最近の動向です。
トランス脂肪酸摂取量が総エネルギーの1%を超えていた人が女性では24.4%と無視できない水準であった事を明らかにした論文は2010年のものですが、食事調査が実施されたのは2002年および2003年の事であり、当時流通していた食品に含まれていたトランス脂肪酸量を元に、食事中のトランス脂肪酸量が計算されたものという事になります。
ほんの数年のことなのでそんなに影響はないでしょ? と、思ってしまいそうですが、トランス脂肪酸は危険であると世間の話題になった事もあり、メーカーがその減量に取り組んだ結果、食品中に含まれるトランス脂肪酸の量は数年間で大きな違いが生じているようです。

※表は2012年3月食品安全委員会 「新開発食品評価書 食品に含まれるトランス脂肪酸」p17より抜粋した物。

2006年と2010年では同一サンプルを用いているのは半数を超える程度ありますが、現状店頭で購入できるマーガリン類のトランス脂肪酸量は大きく改善されていることがうかがえます。
トランス脂肪酸規制や表示についての議論の前提となる事の多い日本人の推定摂取量を示す資料は、当時のトランス脂肪酸の含量で計算しており、現在の摂取量はそれらよりも少ない事が予想されます。
もし、4年間で硬化油使用商品のトランス脂肪酸量が本当に半分近くになっていたとすれば、気にしなければならないほど過剰摂取をしている人というのは単純計算ではあるものの大きくへっている*5事が予測されます。


■コストの問題
もし、既にトランス脂肪酸摂取量が十分に減っているとすれば、成分表示を義務化したり使用量を規制したりする事に意味がある(もちろん、前提である十分に減っている事を示すのは欠かせません)のでしょうか。
トランス脂肪酸を気にしなければならない人が無視できないほどに多いのならばコストをかけてまで実施する意義がありますが、さほど多くないのであれば、そのためにリソースを割いてまで対策を行うというメリットがイマイチ感じられないのです。
食品メーカーには規模の小さいところも多いですが、完全に義務化となれば表示のためのコスト増により中小企業では商品の製造自体の継続が困難になる事も予想*6されます。また、企業のコストは製品の値段に転嫁されることになりますが、その上昇分を支払うのは国民です。それに見合った効果が疑問視されていても商品価格が上がるというのはどうなのでしょうか?
ようするに誰得状態なの?と、どらねこには思えるのです。


■日本人対象の研究は不十分
日本人の食事と健康の問題を論じる場合には、そこには根拠が求められると思います。
日本人にとって適切な栄養摂取は・・・という場合に参照されるのが「日本人の食事摂取基準2010年版」ですが、基準の根拠となっているのは世界中から集められた学術論文です。改訂毎に参照される参考文献数は増えており、2010年版では合計1244にも及んでおります。そのうち学術論文は1098と全体の88%を占めているのですが、日本人を対象とした291と全体の27%に留まります。
日本人の栄養摂取基準なのでなるべくなら日本人を対象とした文献を主体にしたいところなのですが、参考にできるレベルの十分な報告は不足しているというのが現状ではあります。もちろん、諸外国の報告も同じ人間を対象にしているものですからとても有用なのですが、ライフスタイルの違いや食事構成の違いなども結果に関わってきますので同様の報告であれば日本人対象の文献が望ましいのはいうまでもありません。
さて、トランス脂肪酸についてですが、文献の対象国(主にアメリカ)と日本ではその摂取量に大きな違いがあります。さらに、脂質全体で見ても大きくことなりますし、冠動脈疾患のリスクファクターとして挙げられる喫煙や食塩摂取量、肥満者の割合なども大きく異なり、そのまま参考にはできないものであると考えられます。
日本人を対象としたトランス脂肪酸と健康リスクを明らかにした論文はみあたらないのが現状です。今後トランス脂肪酸摂取量の多い日本人を対象とした介入研究が行われれば明らかになってくるのかも知れません。今後もトランス脂肪酸摂取量に注意しつつ、健康との関係についても知見を集めていくことが大切であると考えます。


■減らせるのなら減らして欲しい
とはいえ、食用油に含まれるトランス脂肪酸はなくてはならないものではなくて、硬化油をつくる際の副生成物であるという点が食塩の問題とは違うところです。別に食べて特別美味しいわけでもなく、栄養学的にもこれを摂る必要は全くないと考えられるものですから、減らす取り組みは続けて欲しいと思います。
企業においては、食用油や油脂製品中のトランス脂肪酸を減らす取り組みを引き続きして欲しいと思いますし、これについてはノウハウも企業間で共有していただいて欲しいなぁと思ったりします。現時点でも商品毎にトランス脂肪酸含有量に大きな違いがありますが、安価を謳った商品ばかりにトランス脂肪酸量が多い、という状況ができてしまうのが心配だからです。
トランス脂肪酸対策のコストはここにつぎ込むことで現状日本の問題は概ね解決できるのではないか、というのがどらねこの見解です。


■ところが別の問題も
さて、ここまではトランス脂肪酸のリスクおよび減量について述べてきましたが、それだけに気をとられるとこんな落とし穴もありそうです。
マーガリンやショートニングなどは滑らかで使いやすい固さが商品の魅力なのですが、あの物性を持たせるために硬化油を用いているといってよいでしょう。この性質にトランス脂肪酸も関わっておりまして、トランス脂肪酸を減らそうとすると、どうしても飽和脂肪酸含量の高いマーガリンやショートニングができあがってしまいます。同じく食品安全委員会の表5を抜粋したものを参照してみます。



業務用ショートニングではトランス脂肪酸の量が平均で13.1gから0.59gへと大幅に減っておりますが、飽和脂肪酸の量は23.9gから45.4gへと増えていることに注目です。検証編でも論じましたが、飽和脂肪酸自体にもLDLの増加という問題が存在します。硬化油のトランス脂肪酸ばかりに注目していてはこうした問題も見逃してしまいがちなので注意が必要でしょう。
では、マーガリンがダメならバターを使えば良いじゃない、と思いますが、バターは元々マーガリンよりも飽和脂肪酸の多い食品ですし、天然由来とはいえトランス脂肪酸を含む食品です。
マーガリンかバターであるかを気にするよりも、それらの食品摂取量が多すぎないか、という視点を持つ事も大切です。

一つの油にばかり注目するよりもそれぞれの油を適度なバランスになるように摂る事が重要である


という事を強調してこのシリーズ本編を終わりにしたいと思います。長い文章におつきあいいただきまして有り難う御座いました。

*1:Yamada M, Sasaki S, Murakami K, Takahashi Y, Okubo H, Hirota N, Notsu A, Todoriki H, Miura A, Fukui M, Date C. Estimation of trans fatty acid intake in Japanese adults using 16-day diet records based on a food composition database developed for the Japanese population.J Epidemiol. 2010;20(2):119-27. Epub 2009 Dec 26.

*2:国民健康栄養調査の結果を解析して、トランス脂肪酸摂取量がオーバーしている人の割合が多い云々をするのはあまり妥当性がないということでもある

*3:http://www.who.int/nutrition/topics/FFA_summary_rec_conclusion.pdf

*4:トランス脂肪酸の基準を大事にする人は食塩摂取量の基準を甘くすることを許容するな、とか、食塩基準が甘いのだからトランス脂肪酸についても甘くしろみたいな話では無いです、念のため

*5:Yamadaら2010の調査はトランス脂肪酸含有量未測定食品への配慮もしている論文であり、この点は他の報告よりも正確性が高いと考えられるため、単純に判断して良いかはまた別問題

*6:http://www.caa.go.jp/foods/pdf/120511sankou.pdfより。栄養成分表示が義務化された場合の製造原価の増加率は、大企業に比べて中小企業の方が大きくなると示されている。

トランス脂肪酸ってどれぐらい危険なの(データ検証編)

※前回の記事
トランス脂肪酸ってどれぐらい危険なの(準備編)
http://d.hatena.ne.jp/doramao/20140204/1391505566

(準備編)に続く二回目は、トランス脂肪酸を摂取する事で身体にどんな影響が心配されるのか、その危険性はどれぐらいのものなのかについて資料を示しながら検証してみようと思います。


■ちょっと硬化油の歴史
液体の油に水素添加をすることで常温で固体の食用油をつくる技術は、19世紀末に発見された金属触媒を利用した水素添加という化学反応を応用したもので、ドイツの化学者ノルマンが植物油に水素添加をすることで硬化油をつくる技術を開発した事が始まりと考えられております。1960年代には安価なバターやラードなど動物由来脂肪の代替食品として急速に広まるようになります。この状況に変化があらわれたのは1990年代に入ってからのことです。
1990年代になるとマーガリンやショートニングなどの硬化油に含まれるトランス脂肪酸の健康影響を示唆する論文が発表されるようになりました。この後、トランス脂肪酸には心血管疾患や血液中の脂質に悪影響がありそうだという研究が次々と報告されます。それまではバターよりも健康に良さそうというイメージを持つ人もいたこともあり、これは大変だと日本でも健康問題に興味のある人たちの間で話題になりました。


■どんな危険性があるの?
前回も説明しましたが、トランス脂肪酸を多量に摂取すると血中の「LDL濃度」が高くなり、「HDL濃度」を低下させてしまうという特徴があります。LDLやHDLというのは「リポたんぱく質」呼ばれるものの一つで、簡単に説明すると、そのままでは水に混ざらない中性脂肪コレステロールなどの油を血液中に溶け込んで運ぶ事のできる形にしたものです。リポたんぱく質中性脂肪、リン脂質、コレステロールたんぱく質などから成り立ち、その成分の違いと大きさにより何種類にもわけられております。
ここではLDLは全身の必要な場所にコレステロールを運ぶ役割を、HDLには全身から余分なコレステロールを引き抜き肝臓に戻す役割がある、と簡単におぼえておくと良いでしょう。どちらの役割も大切なものなのですが、そのバランスが崩れたときには身体にも悪い影響が現れる事が知られております。
一般に飽和脂肪酸の多い食事をすると血中のLDL濃度は高くなり、HDLも少しだけ下げるとされておりますが、トランス脂肪酸の場合には飽和脂肪酸と同様にLDLを高くするだけでなく、飽和脂肪酸よりも大きくHDL濃度を低下させます。
このことは1990年代に行われた飽和脂肪酸を多く含む食事とトランス脂肪酸を多く含む食事がどれぐらい血中のLDLとHDLの比(HDL/LDL)に影響を与えるのかという臨床研究の結果を集めて分析した論文*1により明らかになりました。
飽和脂肪酸と同量のトランス脂肪酸を摂った場合にはLDL/HDL比の上昇させる程度は飽和脂肪酸に比べると2倍程度高いという結果がでたのです。


論文fig.1より(●がトランス脂肪酸の多い食事、■が飽和脂肪酸の多い食事を表す)


この部分はわかりにくいですのでどらねこなりに解説すると、トランス脂肪酸の摂取量をエネルギー摂取量あたり2%ほど増やしたときの身体への影響は飽和脂肪酸の摂取量で4%上昇させたときと同程度であるという感じでしょうか。
栄養学分野では脂質の身体への悪影響は色々検証されてきましたが、トランス脂肪酸はこれまで悪者扱いされてきた飽和脂肪酸よりも危険であると認識されるようになったわけです。

こうした血中脂質への悪影響だけでなく、循環器系疾患の危険性を高めるとされる疫学調査の結果*2もあります。これは34〜59歳の看護師を対象に行われた、食事内容と冠動脈心疾患の関係を調べた研究で、1980年の調査開始から1994年まで14年間まで追跡調査した結果です。
下の図は、トランス脂肪酸摂取量で5群に、不飽和脂肪酸摂取量で4群に、それを組み合わせて合計20の群に分割し、冠動脈疾患のリスクを比較したものです。トランス脂肪酸摂取が最も多く、不飽和脂肪酸が最も少ない摂取量の群の相対危険を1.0としたときに他の群はどれぐらいなのか*3をみることができます。


看護師追跡論文Fig 1.より


トランス脂肪酸を多く含む食事をしている群ほど冠動脈心疾患のリスクが高い傾向があることがわかりますね。また、不飽和脂肪酸摂取量が多いとその危険性を低くすることが示唆されておりますので、個人の努力でリスクを減らせる余地はあるともいえそうです。
しかしながら、こうした調査ではトランス脂肪酸摂取量の多い人たちに運動量が少ない人が多いというような、別の冠動脈心疾患のリスクファクターを取り除くことはできないという限界もありますのでどれぐらいの危険性なのかまではこの論文ではいえないでしょう。

トランス脂肪酸の過剰摂取の問題は他に、体内の炎症反応を促進したり、インスリン抵抗性や血管内皮細胞の機能障害など肥満や飽和脂肪酸の過剰摂取と同じような身体への悪影響が指摘されております。とはいえ、飽和脂肪酸にはなくトランス脂肪酸だけに特徴的な危険性があるのかどうかはハッキリしていない、というのが現状なのだろうと思います。



■どれぐらいにおさえれば良いの?
摂りすぎればLDLを増やし、心血管疾患のリスクを高めるトランス脂肪酸ですが、現在日本では規制はされておりません。私たちはどの程度気をつけたら良いのでしょうか?
国際的な食事摂取基準としては、WHO/FAOが公表している集団における栄養摂取量の目標値*4とその範囲が参考になります。

エネルギー摂取量の1%未満に抑えましょう*5という基準が示されているようです。では、この基準に対し、日本や諸外国の摂取量はどの程度なのでしょうか。食品安全委員会トランス脂肪酸ファクトシート*6を参照してみます。



なるほど、規制に動いているアメリカではWHO/FAOの示した1%どころか2%以上という高い摂取量であり、早急な対策が求められるのかもしれません。それに比べると日本は一応基準以内にあるようですが、食習慣が乱れた人では大きく基準を超える人が出てくる事も予想されどう判断したら良いものか・・・という状況なのでしょう。


■分かれる意見
こうした報告やアメリカの対策などを受け、トランス脂肪酸対策はどうあるべきなのか様々な立場から意見がやり取りされております。消費者庁では食品表示制度のあり方にからめ栄養成分表示検討会にてトランス脂肪酸の表示について議論されております。http://www.caa.go.jp/foods/index9.html#m01http://www.caa.go.jp/foods/index5.html、また現在は表示義務等はありませんが、トランス脂肪酸の情報開示に関する指針*7として事業者が表示する場合のあり方についても示されております。
トランス脂肪酸のリスクについては、今回の記事で検証した内容はある程度合意ができているものだと思います。しかし、日本はどうしたら良いの?という部分では、「人工だから危険」という感情的なものを除いても意見が大きく分かれているようにも見えます。
「規制すべし」という意見もありますし、「表示の義務化が必要」というものや、トランス脂肪酸のリスクについて啓発を」というような規制は不要という意見なども見られます。食べものと健康という分野には正しい食べ方や規制のあり方というものはありませんので、議論を続けて良さそうな落としどころを見つけていくものだろうとは思います。



■次回(解釈編)へ
ここまではトランス脂肪酸はどういうものなのか、考えられる健康への影響はどのようものなのかについてなるべく個人の意見を少なめに書いてきたつもりです。結論から先に書いてしまうと元々反対意見であった人に読んで貰いにくくなると考えたからです。
前回から記事を読んでくださった皆様はどんな感想を持ちましたでしょうか? トランス脂肪酸に対する当初の印象や認識が変わった方がもしいらっしゃるとすればとても嬉しく思います。
というわけで、どらねこは「企業には食品中のトランス脂肪酸含量を下げる努力を続けて貰いつつ、規制や食品表示の義務化は不要」という意見である事を表明します。
次回は(解釈編→http://d.hatena.ne.jp/doramao/20140214/1392360521)では(検証編)で示した資料*8などを見て、なぜそのような意見となったのかを書いてみようと思います。

*1:Trans fatty acids and coronary heart disease. Ascherio A, Katan MB, Zock PL, Stampfer MJ, Willett WC. N Engl J Med. 1999 Jun 24;340(25):1994-8.

*2:Hu FB, Stampfer MJ, Manson JE, Rimm E, Colditz GA, Rosner BA, Hennekens CH, Willett WC. Dietary fat intake and the risk of coronary heart disease in women. N Engl J Med. 1997 Nov 20;337(21):1491-9.

*3:1.0より大きければリスクが高く、1.0よりも小さければリスクは低いということです

*4:表はこちらを参考に作成→http://www.who.int/nutrition/topics/5_population_nutrient/en/index.html#diet5.1

*5:集団の平均を1%未満にという指針であり、それを超える個々人についても検討する必要があるというものなので、今後の検討で変更される可能性はある

*6:http://www.fsc.go.jp/sonota/54kai-factsheets-trans.pdf

*7:http://www.caa.go.jp/foods/index5.html

*8:リンク先含む

トランス脂肪酸ってどれぐらい危険なの(準備編)

トランス脂肪酸という「アブラ」が身体に良くないんだって、アメリカでは規制の動きがあるらしいよ。そのような話をネット上でもちらほら見かけます。トランス脂肪酸食品表示が検討されていることもニュースになっているように一般の方にもこの話題に注目している人も多い事でしょう。
このトランス脂肪酸の「何が危険なの? 加工食品の表示に明記したり規制は必要なの?」という記事を書こうと思ったのですが、そもそもトランス脂肪酸とはどういうものなのか、また、日本の現状についてもある程度把握しておかなければ理解は深まらないだろうなぁと感じました。さらに、脂質全般に対する誤解もまだまだ多そうです。そんなわけで今回は「準備編」として抑えておきたい部分を書いてみようと思います。なお、読み物としての流れ重視の記事としたいため、細かい部分や正確なところは参考として記す文献を当たっていただければと思います。


トランス脂肪酸って?
なんだか得体の知れない怖い物体というイメージをもっている方もいるかも知れませんが、日常摂取する油脂の主成分である脂肪酸の一種です。脂肪酸と聞くとピンと来ない人でも、健康にいいと噂のDHAなんかも脂肪酸だよ、というとわかりやすいかも知れません。
日常私たちが食べる油脂の多くは中性脂肪と呼ばれるものですが、これは浣腸液や保湿剤としても知られている*1グリセリンという物質に脂肪酸が3つくっついた形をしています。この3つくっつく脂肪酸の種類によって中性脂肪の性質も変化します。
私たちの身体も食物として入ってくる脂肪酸の種類や量により様々な影響を受けるのですが、そのバランスが偏りすぎると健康にも影響を与えます。脂肪酸の種類は大まかにわけると飽和脂肪酸不飽和脂肪酸の二つに分けられ、さらに不飽和脂肪酸は二重結合の数とその結合の仕方などで細かく分けることができます。
今回のテーマであるトランス脂肪酸不飽和脂肪酸に含まれます。


■なにが違うの
さて、それぞれの脂肪酸によってどんな性質の違いがあるのでしょう? このあたりは難しいのでわからない部分は「ふ〜ん」と流してもらっても良いのですが、ある程度説明しておこうと思います。
まず、飽和脂肪酸ですが、常温で固体の油がありますがそうした油に多く含まれています。植物油に少なく動物性脂肪に多いと憶えておけばOKです。何が飽和しているのかというと、脂肪酸の長い炭素(C)の鎖部分にそれぞれ水素がくっついている(飽和)というような意味合いです。このような結合は安定で空気中の酸素とも反応しずらく、酸化されにくいという特徴があります。

次に不飽和脂肪酸ですが、この炭素の鎖部分に二重結合(-CH=CH-)を持つものをいいます。この二重結合のある部分は比較的酸化されやすいという特徴があります。二重結合の数の違いで、二重結合が一つを一価不飽和脂肪酸、それ以上のものを多価不飽和脂肪酸と呼んで分類しています。先ほど少し名前を挙げたDHAですが、ドコサヘキサエン酸*2と読みまして、これは構造もあらわしております。「ドコサ」というのはあんたがたどこさみたいな意味ではなく、22を表す接頭語で、脂肪酸に含まれる炭素数を意味します。ヘキサは6を意味しており二重結合(エン)が6個である事をしめしております。
じゃあトランス脂肪酸って何よ?という話ですが、不飽和脂肪酸の二重結合の結合の仕方がちょこっと違うものであると考えて下さい。

C」は炭素「H」は水素を表しますが、水素のつき方がシス型(多くの脂肪酸がこちら)とトランス型で違う*3事がわかりますね。この違いにより折れ曲がり方がかわり、脂肪酸の物理的な性質も変化します。


トランス脂肪酸の特徴
さて、上の項目にある図を見て貰いたいのですが、トランス脂肪酸の結合では炭素のつながりがまっすぐになっていることがわかります。シス型ではこの場所で大きく折れ曲がりまして、二重結合が多いほど折れ曲がりは大きくなります。この形の違いがトランス脂肪酸の特徴で、同じ組成のシス型の脂肪酸に比べて融点が高く(高い温度じゃないと固体から液体にならない)なります。これは飽和脂肪酸が固まりやすいのと同じメカニズムです。
炭素の鎖がまっすぐなものは沢山集まった時にも整然と並びやすく、分子同士の密度もせまくなるため分子間力でくっつきやすくなりますが、折れ曲がった構造のシス型不飽和脂肪酸ではその丸まった形ゆえに分子間力が働きにくく融点は低くなり、DHAの融点などは−44℃でないと固体にする事も困難なほどです。


トランス脂肪酸はどこからやってくるの
では、トランス脂肪酸はどんな食品に含まれているのでしょうか。今問題視されているトランス脂肪酸は硬化油と呼ばれるマーガリンやショートニングなどの加工油脂に比較的多く含まれております。
また、天然にも存在し、日常食べる食品では牛肉、牛乳など反芻動物由来食品にも含まれております。どうして反芻動物なのといいますと、胃に棲まわせているバクテリアにより消化吸収を助けて貰う動物ではその分解過程でトランス脂肪酸が作られ、それを消化吸収される事で身体の構成成分になるからなんですね。
さて、加工油のトランス脂肪酸はどこからやってくるのかというと、水素添加という処理を行う時に副生成物として発生します。ポイントは副生成物というところです。
水素添加というものは不安定な不飽和脂肪酸に水素添加により飽和脂肪酸を作り出す操作です。これにより酸化されにくく、常温で固まりやすい加工油を作り出すことができます。液体の原料油からバターのような性質を持つマーガリンをつくりだす事ができるんですね。この時に本当はいらないトランス脂肪酸もできてしまうんですね。加工業者からすればトランス脂肪酸自体は不必要な副生成物という感じ*4なのだろうと思います。


■何が問題か
ここまでは出てきませんでしたが、トランス脂肪酸の何が問題だというのでしょうか。天然の油じゃないからキケンというような感情的な問題ではありません。実は、トランス脂肪酸を摂りすぎると、LDL(いわゆる悪玉コレステロール)の濃度を高くしHDL(いわゆる善玉コレステロール)の濃度を低くしてしまい、その影響もあり心血管疾患のリスクを高くしてしまう事が多くの疫学調査から明らかになっているんですね。同じ量の飽和脂肪酸に比べても心疾患リスク上昇の割合が大きく、これは大変だ対策をしないと、という感じなのです。
しかし、ここで忘れて貰ってはいけないのが「どのような食品成分も有害になりうる」という考え方です。そうですね、どれぐらい食べると問題なのか、摂取頻度はどれほどなのか、日本人はどれぐらい食べているのか、リスクはあるといっても許容できないほどに大きいのか、という視点で考えなければなりません。
莫大な費用をかけて対策したけれど効果はちょびっとというのでは多くのリソースを割いてまで取り組む意義はないかも知れません。反対に、費用対効果が高いのならば優先的に取り組みたいところです。


次回以降は日本の現状や誤解されている点、データの解釈についてなど書いていこうと思います。モフモフ

※第2回(検証編)はこちら→http://d.hatena.ne.jp/doramao/20140210/1392010030
 第3回(解釈編)http://d.hatena.ne.jp/doramao/20140214/1392360521

*1:例え微妙?

*2:ドコサヘキサエノイックアシッド

*3:共役二重結合というのもあるのだけどそれはトランス脂肪酸と呼ばれない

*4:なので現在の製品は昔のものよりもトランス脂肪酸割合の少ない商品が増えてきております