とぎ汁で予防に個人的に思うこと

どらねこは福島原子力発電所事故に関する情報などはツイッターはてなブックマークなどを利用して収集する事が多いのですが、情報を眺めていて色々と気になることが沢山あります。其処は有用な情報からそうでないものまで、まさに玉石混淆の状態です。有用な情報とそうでない情報をより分けることは慣れないと難しいことと思います。
じゃあ、アナタは得意なのか?と謂われると、うう〜ん・・・と、言葉を濁してしまうのですが、一応食品と健康に関わる研究のまねっこをしていた事もありますので、その分野についてはお役に立てることがあるかも知れません。最近ちょこっと話題になっている、放射線の害を食品で予防という話題について、どらねこがどのように受け取り、どう考え、評価をしたのかを読み物として書いてみようと思います。表題についてだけ興味がある人は、3段落目から読みすすめてくださいね。

■効果はあるの?
味噌で放射線対策、ペクチンを食べよう、米のとぎ汁で乳酸菌液をつくりましょう。・・・そのような行為を奨めるヒトが現れるようになった切っ掛けは放射線による体への影響を心配する人々に応える為であったのだと思います。今回の事故以前から発酵食品は放射能放射性物質による人体への影響)に効く、などと謂う話しは出ていたようですが、各地で放射性同位体が検出されるようになった事などから、不安が後押しする形で、大きく広まったようです。
放射線対策として発酵食品は有効なのか?その答えは今のところハッキリしていないと、どらねこは考えます。
「えっ?だって味噌は放射線による障害を予防する効果があるって研究成果も出ていたよ」
そんな風に思う方もいらっしゃるかも知れません。でも、ちょっとまって下さい。研究成果となんでもかんでも一括りにしてしまうのはちょっと乱暴なんですね。研究といってもその中身は、細胞を使うようなほんとの基礎的な研究から、大規模な疫学調査や臨床実験など種類も様々なんですよ。そして、出てきたデータの信頼性は研究内容によって大きく違うんですね。『○○という食品成分に△△病改善効果がある』と謂うような強い主張を行う場合には、それ相応の根拠となるような研究成果が必要になります。じゃあ、その為にはどんなデータが求められるのでしょうか?すこし大雑把な説明ですが、まず人間を対象とした研究である事が求められます。動物では体の構造や寿命も違いますし、生活環境も人間と大きく離れておりますので、動物実験の結果を人に当てはめて効果があるとはいえないのですね。これは意外と知られていなかったりします。動物実験など基礎的な研究で有望なものについて、人間を対象にした研究で効果を確かめていくというのが通常の流れと考えてください。根拠は?と、尋ねて動物実験の結果が示された場合には、あやふやな根拠しかないと考えてしまっても良いでしょう。
また、人間を対象としている場合でも、それだけで信用できるわけではないので、注意が必要です。同じ人間対象であっても、個人の体験談は根拠として認められるものではありません。疫学調査臨床試験などでその効果は検証されるのです。
発酵食品にそのような効果は本当にあるのかどうか、その確かなところは分かりません。もしかするとあるのかも知れませんが、どらねこが調べた限り、現時点ではそれを裏付けるような強い証拠は何もありませんでした。それだけ期待が高まっているのであれば、既に誰かしらデータをとって検証を行った事でしょう。それでも、明確な効果を謳った論文が見つからないと謂うことは、少なくとも、簡単に検出できるような明確な効果は期待できないな、そんな風に考えられるんですね。
でも、「もしかしたら効くかも知れないじゃない、だったらやってみるだけの価値はあるんじゃないの?」そんな風に思う方もいるかも知れません。何もしないで放射線による影響を心配しているのは苦痛に感じる・・・そんな気持ちは確かに分かります。不安なときには何かをしたくなるのは別にオカシナ事じゃあないと思いますから。でも、期待できる効果よりも行うことのリスクが大きそうだったらやめておいた方が良いと思いませんか?

■危険性の低いモノ高いモノ
不安に駆られて発酵食品を求めてしまう・・・、その中でも比較的心配の無いものからやめておいた方が良いモノまで様々だと思います。例えば、乳酸発酵食品が良いと聞いて、毎日の食事にヨーグルトを採り入れようと考えたとします。これはどうなんでしょうか。このケースでも問題の無い場合とそうでない場合が色々とあると思います。
問題がなさそうなケースを考えてみます。それまでは乳製品をあまり食べる機会がなかった人が、動機はともかく、毎日の食生活に採り入れていたら、意外とオイシイかも?と、ヨーグルトを食べる切っ掛けに成った場合です。日本人はカルシウム摂取量が少ないことが指摘されてますから、長い目でみたら健康に良い影響を与えるかも知れません。禍(?)転じて・・・でしょうか。逆に良くなさそうなケースも考えられます。沢山食べれば食べるほど放射線防護効果が高いと思って、食べすぎてしまう・・・、どんな食べ物でもそればっかりを多量に食べるのは良いことではありませんからね。例えば、放射性物質を吸着し、体から出しやすくなる成分があったとしても、放射性物質だけを選んで外に出すわけでないので注意が必要です。大事なミネラルも一緒に出してしまえば、栄養素欠乏症に成ってしまうかも知れないからです。他にも、害は少なくても財布の中身を大きく減らしてしまうような製品は家計に大きなダメージを与えかねませんので、手を出さない方が無難でしょう。心配で心配で何もしないといられない・・・そんな場合は食事に一品、発酵食品を増やすぐらいで我慢してもらいたいところです。
まぁ、日常の食習慣がある食べ物で防ごう、についてはちょっとした心配はあるものの、それほど大きな不安は無いのですが、あまり食習慣の無いものや、特定の成分を抽出したモノや、自分でつくろうと謂うものは出来ればやめておいて欲しいと思います。何かしないと気が済まないのであれば、出来るだけデメリットの少ないモノを試して欲しいな、せめてそうしてほしいです。そんなどらねこですが、せめてこれはやめて欲しいな、と思っているものがあります。それは米のとぎ汁乳酸菌液を家庭でつくるお話しに関連します。

■こんな事も心配です
ネット上には、『米のとぎ汁乳酸菌液』の作り方が親切丁寧に掲載されているページを見つけることができます。そうして、紹介している方は効果を謳い、家庭で作成することを推奨しております。このような行為に対して、専門家からの家庭で培養するのは危険である、やめた方がよいという意見が記事になっておりました。すると、提唱する側からは、そんな危険は無いと再反論が行われておりました。果たしてどちらを信じたら良いのでしょう?
効果が有るのか無いのか、その辺りの話は他の方にお任せするとして、こんな心配もあるんじゃないかな?という事を書いてみようと思います。

何が培養されているか分からない:
特定の細菌を培養する為には、まず、使用する器具の滅菌をしなければなりません。また、培養条件を整え、培養されたものが目的の細菌であるのかを判別する装置を用いて確かめる事なども行います。
さて、こんな事を書くと、家庭でも漬物など発酵食品をつくっているけれど、ちゃんと出来ているんじゃないの?と疑問があるかも知れません。でも、それとコレとは話が違うんですね。発酵食品の場合はまず、試行錯誤で培養条件が確立していると考えられることがまず一点、次が大事なのですが、嗜好品として用いられる場合と、特定の効果を期待して用いられる場合の違いです。
○○菌が△△に良い、というのであれば、培養の結果○○菌がちゃんと培養できていなければならないのですが、確認する術が無いと本当に培養できているか分からないのです。だから、家庭で培養した場合、手間も暇もかけてつくりあげたとぎ汁液に、目的の菌がいるかどうか全く保証が無いんですね。もし、野生の酵母や細菌ならなんでも放射線対策になると反論があるならば、それは強弁以外の何者でもないでしょう。

キチンと手技は守られる保証はあるか:
出来上がった発酵液は甘酸っぱい臭いをしております・・・さて、これで完成と、飲んでみたけど果たして効果があるのかしら、それを検証するのは難しいことでしょう。試しにつくった発酵液を分析したら、別の細菌が発酵していた、とか、放射性物質を減らす働きとか、ラジカル消去活性などの効能は確認できなかった、そう反論したらどうなるでしょう。どらねこが提唱者だったとしたら、次のように再反論を行うでしょう。『ちゃんとした作り方をしましたか?作り方が悪いんです、と』
それだけならまだ良いのですが、一般の方がつくった場合に失敗をして、変なモノが出来上がり、体になんらかの悪影響があったとしましょう。その場合でも、同様に言い逃れが可能なんです。作り方が悪かったんです・・・、と。発酵は一つ一つの操作がとても重要です。ちょっとした違いで別のモノが出来てしまう事は稀でありません。私は書いてあるとおりにつくりましたよ!そう主張してもそれを証明する手だてはまずありません。

成功と失敗の判断:
とぎ汁発酵の成功か失敗の判断は、できあがりの臭いや外見で判断すると書かれております。この判断を素人が正確にできるモノなのでしょうか?臭いの感じ方には個人差があります。五感を駆使して判定する方法を官能検査といいますが、精度の高い判定を行う為には訓練が必要です。培養の可否を判断するのは非常に重要な問題です。それを誰でも可能であるかのような、簡便な説明一つでOKとするのは不誠実な対応であるとどらねこは思います。

食中毒の危険性:
これはよく指摘されますが、示されている培養条件を考えると、真っ先に懸念されるような問題ではないと思います。もちろん、危険性は無いわけじゃないのですが。酸っぱく発酵が進んでいた場合、食中毒の原因となる細菌が繁殖している可能性は低いだろうと思います。但し、よく分からない細菌なりが繁殖していて、お腹を壊す、なんて事は起こりそうです。

■一番心配なのは・・・
心配な点を幾つか書いてきましたが、培養の成功や失敗などよりも心配しているのは、実はその用法だったりします。なので、ここまで読んできて尚、やってみたいと思う方でも、せめてコレだけは守って欲しいというどらねこのお願いです。以下の事には十分に注意して下さい。

環境に噴霧しないで欲しい:
飲むことは全くお奨めしませんが、健康な成人であればそれほど大きな危険はなさそうに見えます。しかし、空調のフィルターや室内などに発酵液を噴霧することは別の危険が考えられるため、行わないようにして欲しいと思います。
それは、カビの問題です。発酵中にカビも同時に培養・・・という事じゃなくて、撒いて渇いた後にはカビの栄養源が残るからです。カビはちょっとやそっとの酸性はものともしません。乾燥にも比較的強いので、噴霧した部分はカビが繁殖しやすいと考えられます。空調のフィルターでカビが繁殖・・・なんとなく危険だと思いませんか。カビ毒があるから危険だ、というだけでなく、カビを吸い込むことによるアナフィラキシーが心配になるのです。子供のためを思って、発酵液を噴霧した結果、アレルギーを持つ子供が繁殖したカビを吸い込んでアナフィラキシーショックなんて目も当てられません。また、ダニアレルギーを持つヒトについても、カビはダニ繁殖の大きな切っ掛けになります。その事は覚えておいてください。

粘膜に噴霧しないで欲しい:
成功した発酵液には病原性を持つ細菌は繁殖していないのかも知れません。しかし、繁殖していない成功した発酵液であっても粘膜には噴霧しないで欲しいと思います。
眼球や傷口は表皮のバリアーに覆われていない極めて弱い部分です。そのような部分には刺激の強いモノが接触すると炎症などをおこすことが考えられます。とぎ汁発酵液は乳酸がつくられて酸性になっていると思われますが、酸自体が強い刺激になるのです。基本的に、殺菌作用を持つ物質は同じく粘膜も傷つけると覚えておいて良いと思います。傷ついた粘膜は、普段よりも感染に対し、弱くなります。そこに別の経路で病原性を持つ細菌などが付着した場合に感染するリスクが高くなる事が懸念されます。発酵液に病原菌がいるかいないかの問題じゃないんですね。
もう一つ、眼球を傷つければ、視力低下と謂うことも起こりうるでしょう。体に吹きかけるのはやめて欲しいと思いますが、粘膜に吹きかけることは絶対にやめてください。

■おわりに
「とぎ汁乳酸菌が良いんだってよ、やってみない?」そんな善意の伝言ゲームの結果、思っても見ない被害が見えないところで起こっていたらイヤじゃないですか?伝言ゲームは正確に伝わらないことが多いのは何となく分かると思います。自分は噴霧しないから大丈夫・・・でも、お奨めした人にちゃんと伝わるかしら?
効果が不確かな対処法、でもリスクは確実に存在する。なら、善意であっても広めてしまうのはなんか良くないかも・・・、どらねこの記事を読んで、そんな風に思いとどまってくださる方を期待して、この記事を終わりにしたいと思います。長文失礼しました。