食中毒に思う事(前編)

とらねこ日誌は一応、食と健康に関するブログです。肉の生食による食中毒死亡事件が話題となっておりますので、当ブログでもこの件について取り上げてみようと思います。
さて、どんな内容にしましょうか。食と安全に関しては食の安全情報ブログにて十分に情報が示されておりますので、安心して脱線しようと思います。

■食と健康
食についてはともかく、健康についての定義はなかなか難しいものです。体が元気なだけでは無く、精神的にも健全な状態だったり、社会的な立場なども入り込んできます。個人の価値判断も入ってくるから、自分は健康だと言い張っているヒトに対して、いやアンタは健康では無いと言い放つヒトがいたとしたら、逆に言い放った側のヒトが精神的に健康じゃあないかも知れません。例えば、健康な美食至上主義者が極上のユッケを目の前にして、食中毒をおそれ手を出さないとしたらそれは果たして健康*1でしょうか?
どらねこは、食と安全では無く、食と健康について考える側のネコです。キケンの程度を理解した個人が自分の責任により極少ない程度のリスクを背負って美食に走ることはどちらかと謂えば肯定的に捉えているからです。勿論、今回の牛肉生食中毒事件を引きおこした業界やそれを取り巻く環境には全く許容できるモノでは無いと考えております。

■アレを見て食べたくなった
今までに何度か書きましたが、どらねこは美味しんぼ信者でした。山岡士郎海原雄山の謂う事は全て本当だと思っていたぐらいの信者でした。本を彩る美食を見て、あー一度は食べてみたいモノだなぁ・・・と涎を垂らしたものです。そして、その内の幾つかは実際に口に致しました。美味しんぼ18巻で紹介されていたアレも勿論たべました。赤身に限る・・・その時はそんな風に思ったモノです。


美味しんぼ18巻p39より

生で食べるのに脂身云々は海原雄山の思い込みだが、素晴らしく旨そうである。このように紹介されて食べたくなるのもまたある意味健康と謂えそうです。


美味しんぼ18巻p43より

対して山岡は馬肉を使ったタルタルステーキを紹介する。これもまた旨そうですね。


美味しんぼ18巻p45より

続いて馬刺しを供する山岡。この時、審査員に馬主である藤馬氏が居た為に怒りを買い東西新聞側の負けとなってしまいました。

■今にして考えれば
さて、もてなしの心を考えれば馬を愛する客人に馬刺しを提供するのは論外でありましょう。しかし、現在の視点でこの物語をみてみると違った答えが導き出されます。一人の審査員の心証よりも多くの審査員に健康被害を与えかねない牛肉の生食を薦めた海原氏の負けとなってもおかしくありません。
しかしながら、当時はその事を予測できたでしょうか?この話が単行本となったのは1989年のことです。雑誌に掲載された時期はおそらくその1年ほど前のことでしょう。当時は腸管出血性大腸菌の認知度はとても低く、牛肉の生食リスクが今ほど危険視されておりませんでした。腸管出血性大腸菌が知られるようになったのは1990年の10月に浦和市内で起こった死亡者2名を含む200人以上の集団感染が発生して以降の事です。(因みに、この事件では牛肉が原因で起こったものではありません)しかし、一般への認知はさほど進みません。
腸管出血性大腸菌と牛肉の関係を多くの日本人が知るようになったのはそのずっと後の事ではないでしょうか。どらねこもその中の一人であり、美味しんぼで紹介されたことで生の獣肉は美味しさに目覚め、美味しい肉を提供するお店で生肉がメニューにあれば頼むようになりました。
こうして、危険性が広く認知されない時期に美味しんぼだけでなく、肉の生食をテーマにした魅力的な情報発信が色々な場所で為され、徐々に飲食店での生肉メニューが広まっていったのでは無いかと思います。

(後編に続く)
次回は、病原性大腸菌など食中毒のオハナシと、再発を防ぐ事と規制について自分なりの考えを纏めてみたいと思います。

*1:海原雄山は生の牛肉の危険性を理解していなかっただけと考える。後に山岡が生の鮭を供した際には寄生虫症を考えないのかっ!!と烈火の如く怒り狂っている。ダブスタの可能性も否定しきれないが・・・