風評被害が深刻な場面でこそ食育の出番じゃないの?

一部農作物から食品衛生法の暫定基準値を超える放射性物質が検出された事を受けて、3月21日に対象となる県の農畜産物について、出荷制限の指示が行われました。その内容は基準値を超えていない農産物も含まれているモノでした。この処置は、基準を超えた、若しくはそのおそれのある食品が市場に流通させない事で、安心して消費者に購入して頂けるように、という意図であると考えられます。

■消費者は安心して購入しているか
暫定基準値を超える野菜があったとはいえ、全ての野菜で超えているわけでもなく、ハウス栽培のモノであれば放射性物質の付着はより少ないと考えられます。更に、基準値を超えて付着している野菜を食べたとしても、すぐさま健康に影響が出るようなものでもありません。
要するに、国は十分な処置を講じたわけですから、消費者がお店で野菜などを購入するときに改めて注意する必要はないと謂う事ですね。ところが、それで一安心、とはならないようで、街中の風景にもその不安が表れているように見えます。
例えば、どらねこ家の近所にあるスーパーでは、ほうれん草コーナーに『福島産ではないハウス栽培物のほうれん草です』書かれたポップがつけられておりました。もう一つは偶然かも知れませんが、いつもは見かける福島近辺産の野菜は売り場から姿を消しておりました。別のお店ではそのような事はありませんでしたので、販売者の方針によっても違うのでしょうね。別の地域の方にも聞いてみたところ、近所の農家が販売する野菜にハウス栽培を強調しているのを見たと教えてくれました。また、地域によってはほうれん草自体が店頭から姿を消してしまい、売られていても産地の強調表示がされていたと謂う事です。茨城の方から教えて貰った話では、野菜が売れないのでダメになっちゃうからということで、農家の方がタダで譲ったというものもありました。今までと同じように売られているにしても、普段の半額以下であったりと、品質には問題が無い農産物の本来の価値から考えると不当な評価が市場で下されているとみられます。
ある程度の風評による影響はあるのは予想が出来るところですが、万全を期した出荷停止処置を行っているのですから、対象と為らない農産物についてはもう少し冷静に対応して貰いたいなぁ、どらねこは思ってしまいます。

■消費者はどこまで不安に思っているのだろう
ここまで書いてきてふと思いました。本当に消費者はそこまで危険だと思っているのでしょうか。なんとなくの不安はあるにせよ、みんながみんな買い控える程なんでしょうか。
販売者側の対応を幾つか例示しましたが、どれも消費者が求めているから自分たちはこのような対応をしているのです、というような意思表示をしているように見えます。本当に消費者はこのような対応を求めているのでしょうか。お店側の気持ちも分からないではありません。原子力発電所近隣からの野菜を仕入れたとして、それが全く売れなければまるっきり損をかぶってしまうのですから、慎重になるのはおかしくはありません。ですが、店側のそのような態度が消費者に必要以上の不安を与えている可能性もあると思うのです。
本当は消費者に購買意識があるとしても、店頭に並ばないと買うことだって出来ませんよね。

■適正な安全性を周知するのは誰だ
食べ物が健康に与える影響を教育する・・・それこそ食育本来の役割であるとどらねこは思います。これまでは、国産食材(特にお米)の売り込みばかりにチカラを注いで来たような食育ですが、今こそそのチカラを発揮する時だと思うのです。国産農作物が安全、安心であることをアピールをさんざんやって来たじゃあないですか。
というワケで、農林水産省の食育ページなどの活動をのぞいてみました。
・・・
うーん、農林水産省の食育コーナーには該当する情報は掲載されておりません(3/29現在)。こんな時だからこそ真っ先に農林水産省の食育ページで風評被害をもたらすような大げさな情報にカウンターとなるアナウンスをして欲しいんですけどね、どらねこの調べた範囲では見つけられませんでした。でもそこからリンクされている『マジごはん計画のブログ』ではちょこっと言及してました。今後どのような情報が発信されるのか期待したいところです。

公的な食育ページにはカウンター情報が見つけられなかったのですが、食育プロデュース委員会のページには冷静な対応を求める記事が挙がっておりました。

食品や水道水から「放射性物質」 その1
上記の記事を書いたライターさんはこの他、野菜の出荷制限についての記事も書いていて、現状がどのようなものであるのか冷静に根拠を示し読者に安心して貰える情報提供に努めているように見えます。個人が個人の責任で書いている記事を載せているものですので、玉石混淆のページとは思いますがこの方の署名記事は信頼できそうだなぁとどらねこは思いました。
これぞ、食育の役割だと私は思います。

■見直せるか農林水産省の食育
前の段落で、ちょっぴりイヤミな事を書いたどらねこですが、それは今まで農林水産省が行ってきた国産農作物の推進がイメージ主導の安全安心にあった事が仇と為っていると考えるからです。
国レベルではともかく、現場レベルでは安全安心な国産食材を使用しましょう。顔の見える安心な地元食材を使った給食を!みたいなイメージ主導の食育を推し進めてきたわけです。つまり、イメージ優先で購買意欲を煽ってきたわけです。なんとなく中国産の野菜は怖い、船で運ばれる農産物にポストハーベスト農薬云々と・・・。やたらと有機栽培など自然であることをウリにしてきた筈なのに、今ではハウス栽培であることを全面に出しているような状況なのです。何となく国産を選ぶように仕向けてきた政策を行ってきたのだから、何となく危険な印象のある農作物を買い控えると謂う行動に対しては、説得力のある説明が出来なくて不思議は無いのですね。
今回の件はイメージ優先の政策を行ってきたツケとも謂えるのではないでしょうか?つまり、本当に食の安全を理解して貰えるような食育を行って来ていれば、もう少し冷静な対応を多くの方が出来ていた可能性があるのでは?という事です。勿論、これは可能性の話なのですが・・・
とにかく、今回の件を良い反省材料として、本当の食育って何だろう?農林水産省にとって考える切っ掛けになって欲しいなぁ、と生意気にも思うのでした。

■自分たちに何が出来るのか
とはいえ、自分たちにもまだまだ出来る事はあると思うんです。具体的に何ができるのか?ちょっと考えてみたいと思います。
まず、流通業にたずさわる方が、消費者が嫌うから○○産の野菜を仕入れないんだよ、みたいな差別のアウトソーシング的発言をされないよう、お店になどに対し、どの産地でも流通OKな野菜なら買うからね、というアピールをするのもありでしょう。どらねこは福島県産の大根も買う気満々ですよ。
自分はともかく、小さな子供がいるからわかっているんだけど・・・そんな方もいるでしょう。そんな方でも、その不安をよその人に漏らさないという重要な仕事があるんですよ。なかには、余所のヒトから聞いた話にとっても影響をうけたり気になったりする方がいるんです。そんな方を必要以上に不安にさせないのもとっても大切な事なんです。だから、不安な気持ちがあっても、その点についてはちょっと我慢して、自分だけに留めておいて欲しいんですね。
事態が落ち着いたら、もう一度みんなが喜んでくれるような美味しい野菜をつくるぞー、生産者がそんな気持ちになれるよう、こんな時だから私たちは応援する必要があると思うんです。保証金とかそう謂うんじゃなくて、もう一度つくる気になってくれるように、そんな支援をみんなで考えて欲しいな、どらねこはそう思うのです。