食べないのに太っちゃう体質なのよぉー

今日はちょっと、栄養疫学っぽいおはなし。

登場人物紹介
ぽにょ子:最近というか、ここしばらく腹回りが気になる妙齢の女性。口癖は、「息を吸うだけで太っちゃう体質なの」
ぽも夫:ぽにょ子に振り回されてばかりの友人。面従腹背がモットー

■太らないで腹一杯食べられる体が欲しい
ぽにょ子:あ、ぽも夫!私の分もお弁当買ってきて頂戴。う〜ん、そうねぇ、ボリュームはあるけどカロリー控えめなかんじでお願いね。200kcal ぐらいのカツカレー大盛りとか。
ぽも夫:ポニョ子さん、それはちょっと・・・。(そんなのあり得るかよ、ロウ細工でもくってろボケがぁ)
ぽにょ子:あによ、冗談に決まってるでしょ。なんかテキトーに買ってきてよ、太らなそうなヤツを。
ぽも夫:コンニャク麺とか、冷や奴みたいな感じで良いかなぁ。
ぽにょ子:それじゃお腹にたまらないでしょ。もぅ、乙女心を理解してない典型ね。じゃあいいわ、ヘルシーにおろしそばを買ってきてよ。それと、デザートにズコットとカッサータよろしく。お菓子は別腹っていうしだいじょぶだから。
ぽも夫:はぁ、わかったよ。(って、別腹意味違うし。別次元の腹という意味なら分かるが)
ぽにょ子:最近は食事控えているのに、体重が一向に減らないのよねぇ。食べなくても太る体質なのよ、アタシ。どうにかならないものかしら・・・。
ぽも夫:それは悩ましいですね。(そんなヤツおるかい、アンタはただの食べすぎだ。食べなくても太るなんていってるヒトはどーせ陰に隠れてバクバク食っているに違いないね)



ちょっと極端な遣り取りでしたが、太りやすい体質とそうでない体質の人が居るというのは聞いたことがあると思います。何も食べないのに太ってしまうという事は流石にありませんが、確かに少ない食料でまかなえる燃費の良いヒトと、大量の食べ物を必要とする燃費の悪いヒトがいるようです。では、実際のところどれぐらいの違いがあるのでしょうか。

運動量や体格が大きく違えば、消費するエネルギー量が大違いというのは当たり前ですけど、同じような体格のヒトが同じような生活スタイルのヒトではどれぐらいの違いがあるものなのでしょう。1つの研究論文*1を参考にちょこっと考えてみたいと思います。
■二重標識水法を用いたエネルギー消費量測定
二重標識水法というのは、特別な標識をした水を被験者に飲んでもらい、6時間後と14日後に尿を採取し標識された水の濃度を測るだけで、自由な生活をしているヒトのエネルギー消費量を測定する事ができるものです。日常生活でのエネルギー測定を現時点で最も正確に調べることが出来る測定法です。紹介する論文には以下のような属性を持つヒトを対象としてエネルギー消費量が計測されました。

被験者は22〜28歳の、特に運動を習慣的に行っていない健康*2な男子大学院生10名とした。被験者のフィジカルデータは身長(cm) 170.9±3.5 体重(kg) 64.4±4.4 で、極端な体格の方は含まれていなそうです。

結果
基礎代謝量:1786±181 (kcal/日)
エネルギー消費量:2910±524 (kcal/日)

この得られた平均基礎代謝量と標準偏差を用い、分布が正規分布をとると仮定した場合の図を作成してみました。

点線内の部分を見てください。これは、だいたい95%ぐらいのヒトが基礎代謝量1409〜2148kcalの範囲に居るという事を表していると読み取れるものです。見方をを変えると、約2.3%程のヒトが1409kcal未満で、同じく約2.3%のヒトが2148kcal 以上の基礎代謝であるとも考えられます。
エネルギー消費量は基礎代謝量×身体活動レベルで計算されますので、この人達が日本人の平均的な身体活動レベルである1.75程度の活動をした場合を考えてみます。すると、その幅は2465〜3759 kcalとなり、実に1000kcalを大きく超えるような差があることが分かります。
つまり、同じような体格のヒトで同じような生活を送っていたとしても、必要とするエネルギーの幅は実に大きいという事を表しています。(実際、他の調査でも同じような標準偏差が確認されております)
例えば、あるグループのエネルギー消費量の平均が2500kclぐらいだったとしても、2000kcalしか必要としないヒトも居れば、3000kcalでも不足するヒトがでてしまうかもしれません。
そんなわけで、教科書に載っているような式に当てはめて計算したエネルギー消費量をちゃんと守った食事を食べていても、あるヒトは痩せてしまったり、またあるヒトは太ってしまう事があるかも知れないのですね。

要するに、日常、そのヒトが本当に必要とするエネルギー量は食べてみないと分からないのですね。
ぽにょ子さんはもしかしたら、基礎代謝量が低くて少ない食事でも太りやすい体質なのかも知れません。しかしここで忘れてはいけないことはどれぐらい食べたのかを正確に測る事は実はとっても難しいということです。本人に記入させるタイプの食事調査では太りすぎを気にするヒトほど過小評価して申告する傾向があると云われております。
ぽにょ子さんが本当に食べていないのに太る体質なのかどうかは、ぽにょ子さんを24時間カメラで追い回す必要があるのかも知れません。

■終わりに
エネルギー消費量だけについてお話ししましたが、その他の栄養素についても必要とする量の個人差はとても大きい事が知られております。極端な食事療法でも元気で健康な食生活を送っているヒトも確かにいるようですが、もしかするとその方は正規分布表では端っこの方に位置する例外的な存在なのかも知れません。
自分に適しているからと謂って、それだけでヒトに奨めるような事は危険な事なのですよ、というお話しでした。(えっ?)

*1:海老根直之ら 『二重標識水法を用いた簡易エネルギー消費量推定法の評価−生活時間調査法,心拍数法,加速度計法について−』体力科学(2002)51,151-164

*2:病気に罹っていないという意味と思われ・・・不謹慎でしたスミマセン