専門家と素人のあいだに

ならなしとり 「福岡伸一の幻想を破壊してみた

上記は福岡伸一が新聞媒体で述べた見解などから伺える、生物多様性や生き物間の関係性についての見方に対し、ならなしとり管理人である、梨さんが疑問を呈された記事だ。

その福岡伸一氏の主張は、生物は自分の分際をわきまえて、無用な争いを避けている。自分の食べ物を限定して、他の種の領域を侵さないよう、共存できるようにしている。それこそが生物多様性を支える基本原理だ。と、謂うような趣旨のものだ。

どらねこの進化とか生物多様性についての理解はおこちゃまレベルであるが、管理人の梨さんの見解に異論は無い。というか、同調する。じゃあ、なんでとらねこ日誌で採り上げたの?という事になるのだけど、上手く言葉に出来ない。
なんか、こうモヤモヤ感があって、それを放っておけなかったから。正確ではないけど、このことは誰に伝えたいものなのか、という事が関連している。誤解を解くための文章は誤解をされた方に向けて発せられる事が通常だからである。誤解を与える文章よりも、誤解を解消する文章を作る事の方が遙かに難しい作業なのだ。

実は、当該エントリのアップされた2月19日と同じ日に、ツイッターにてid,muimiことむいみさんと遣り取りした内容とも通じるものがあり、余計とは思いつつも考えを纏めたく、首を突っ込んだもの。


関連資料↓
http://www.ffcci.jp/information/img/kaiho_4-1-3.pdf
ヤマザキパンはなぜカビないか」論に見る一般人に対する騙し行為」長村 洋一(鈴鹿医療科学大学

※※※以下はツイッター上での『むいみ』さんとの遣り取りを時系列に並べたもの※※※

muimi: うわあ。「ヤマザキパンはなぜ〜」のブクマがすごく伸びててびっくりした。手放しでオススメできる文章ではなかったのだけど(←酷い)知ってもらいたいことがたくさん書いてあったのでたくさんの人に読んでもらえて自分のことのように嬉しい。

doramao: @muimi どの辺をリリースしたく無かったのか、後学の為教えてくだされば嬉しいです。


muimi: @doramao 山パンですね?具体的にどこってのは、後でいいますね。最初に読んだときに、ちょっと擁護側に偏ってるかなというか、擁護のための論展開があるように見受けられたのですね。そこまで言えるか?みたいな。

muimi: @doramao 全体を一回読んで若干違和感を抱いた程度で、具体的にどこだろ?と探してなかったのでこれから探してみますです。趣旨については賛成ですし、間違ったことを言ってるとは思ってません。もしかしたら個人的な好みの問題かもしれず。

doramao: やるやらないを別にすれば、いろんなメーカーの未開封の商品を集めて、菌類の検出を試みるのが方法論として真っ当だと思うのだけど。じゃあ、他のメーカは汚いのかよっ!ってつっこみたくなる気はする。

doramao: つまり、多数の工場を持つメーカーの一つの工場から抽出したパンを並べてカビの実験を行ったとしても、そこから導き出される結果から言える事は限られていると謂うことですね。

doramao: よーするに、背景と目的以外は全く妥当性の無いもので、その時点で棄却できる論なのだと認識しているわけです。
(元の山崎パンのパンは黴びないのは〜という話のこと)

doramao: 各工場からn=4くらい無作為に抽出し、発カビ実験を行う。それをメーカー間で比較し、なんらかの差が示唆されたのなら、検証実験に入る・・・という感じだろうか?

doramao: 妥当性を欠いた主張を指摘する側も、余所のメーカーは汚いと、ある程度妥当でも確証無く暗に臭わす事はちょっと褒められない態度かなぁ、と思いました。それは大学教授だからだけど

muimi: そういえば以前に日持ちのするパンがあったので買って食べてみたらパッサパサだったことを思い出した。

muimi: 私は食パンはもっちもち派なので、確かヤマザキのパンもあんまり好きくなかった気がする。

muimi: 臭素酸カリウムの、IARCでの評価はGroup2Bなのですね。

muimi: 山パンの、ようやく2回目読了。1回で理解できない私、頭悪い。どら(いや、むちゃくちゃあたまいいとおもうんすけど)

muimi: @doramao 『以上、今回の調査結果から、臭素酸カリウムが入っていたとしても0.5ppb以下でカビの生えないパンは、逆にすぐにカビの生えるパンに比較してはるかに安全なパンと結論付けることができる。』という結論はなんだかおや?と思いました。

muimi: @doramao その意味が最初はわからなかったのですが、具体的に「カビの生えた食品のリスク」について書いてないからかも。確かにカビ毒は危険なものもあるし、カビは目に見えなくても菌糸は深かったりするんだけど。だって臭素酸カリウムのリスクの話は数値も交えてすごく具体的じゃない?

doramao: @muimi 私は所謂立派なニセ科学批判者ではないので、感情がまずやってくるんですね。自分もこの文章読んで、なんだかなー、みたいに思ったので、それは反感からくるものなのか、どうなのか知りたかったからです。

doramao: @muimi 山崎の件、私の違和感とは違う箇所でしたね。参考になりました。

muimi: @doramao 違いましたね。たぶんその非対称性の違和感と、カビ毒の説明がそれだけじゃその結論は導けんだろー、と。もちろん「私たち」はカビに汚染された食品のリスクが高いという前提を知っているので普通に読めるのですけど。

muimi: @doramao そうなのですが、たとえばあの説明では臭素酸カリウムの説明は数値や資料を示してるので、釣り合いを取るためには同じような説明をした方が良いんじゃないかな、と思います。

doramao: @muimi ふと、思ったのですが、カビ毒の害を如何に説明されても、天然物は安心なんだと誤った理解をしているヒトには全く通用しませんね。

muimi: @doramao うーん。そうですねえ。たとえば検疫ではねられてるのを見ると未承認の農薬以外にも、カビ毒汚染で基準値オーバーなんてのも結構あったりするのですが、まあ見ないですよねw

muimi: どのような説明をしたら通じるか…うーん。

doramao: @muimi あ〜、なるほどです。後、これは暴論なのですが、発生したカビの種類を同定しないのもフェアに見えないカモです。あり得ないと思いますが、全て青カビだったらそれ自体は危険じゃありませんものね。発がん性を主張できません。それは本の著者および、批判者双方に当てはまりますが。

muimi: @doramao それは私も思いました!「カビは見えなくても結構増えてるよー」「うんうん確かに。で?」みたいな。無害なカビだったら多少多く食べちゃっても問題ないんじゃね?と。「カビに汚染された食品のリスク」とはなんぞやという前提知識みたいのがあるとすっきり読めるのですが。

muimi: でも、そういうところを目をつぶってでも(というかそんな重箱の隅を突っつくのは私ぐらいなのです)良いことは書いてあるので、たくさんの人に読まれて嬉しいなあと思います。

※※※ここまで※※※

どらねこも同感です。この反論の文章に書かれている内容を参考に、相手の特性を理解した上で理解の進むように説明するヒトが居れば尚良いのですね。(ohira_y様にも色々と教えて頂きました。有り難うございます。)


遣り取りの終盤にも出てきたが、専門家にとっては自明の前提条件となる知識があるが、それは一般の方に共有されていないモノが多い。当たり前といってしまえば当たり前なのだが、駆け出しの頃は見えていた理解の差異が、長く専門に従事していると曖昧になってしまう。
「えっ、それじょ〜しきじゃないの?」
みたいな感じだ。
ある程度知識が共有されたもの同士が読んで違和感を持たない論説を、一般の方には受け入れられないと謂う事態は、言葉や内容の難しさの他に、日常用いる用語と区別の難しい専門用語と専門家の想定する一般的な認識というモノの乖離が関係して居るのではないか?そう思うわけ。
専門家にとっては、「あれっ?」と違和感を抱く理論を一般の方が正しい説や面白い説として受け入れるものには、専門用語に一般の方が普段使用する言葉に近い意味を持たせて(そう認識するよう仕向けて)説明されているものが多いのではないか、そう思ったわけ。
そんな一般的でない理解を招く言説に対し、専門家サイドが否定の見解を一般に公表するときには、そこを抑えていないと受け入れられ難いのではないだろうか。

少し繰り返しになるが、専門用語や説明の難しい現象を不特定多数人に理解してもらうためには、多くの方が共有している理解や概念を用いて説明する事が所謂わかりやすい説明なんだと思う。専門家であったりよっぽど興味のある人以外は、言葉の定義をきちんと理解した上で、科学啓蒙書や科学読み物を腰を据えて読んだりしないだろうからだ。
科学啓蒙書に於いて誤りがあったとして、その誤りが日常の感覚から外れていないからこそ招いたものであったとすれば、その誤解を解く事は本当に容易ではないと思う。理解を進めるための有用な武器を封じる若しくは、使用を制限されてしまうからである。
つまり、余程なトンデモ言説でない限り、カーリングの先行ぐらい不利な状況なんじゃないだろうか。

福岡伸一の幻想を破壊してみたより引用
これは蝶と食草の関係についてもあてはまります。植物側は葉を食べられたら生きていけないので葉に毒物を持って葉を食べるやつらを排除しようとします。それに対し食べる側の蝶もその毒物を解毒するような酵素を進化させて対応します。そして植物もさらに防御を多様化、強化して、それに応じて蝶も対抗していって・・・という流れになります。これを「軍拡競争」といいます。この結果、蝶は自分の食草しか食べられないスペシャリストになりました。
このように蝶の場合は特定の解毒に特化したが故に汎用性を持っていません。自分の食草以外のものは植物の毒によって食べられない。無理に食べたら最悪死にます。たとえ死ななくても成長が阻害されたりしますので、同種内での競争に勝って子孫を残すのに不利です。
福岡氏の場合は栄養だけに着目して植物の防御戦略についてまったく考察していません。だから、ああいう分を守っているとか素人丸出しのことが言えるわけです。進化は慈善事業じゃないですよ?


この梨さんによる素晴らしい反論も、赤字で示した部分に見られる非専門家のどらねこが見ても理解しやすい表現には、植物や生物が意志を持って進化したかのような、目的的なニュアンスを抱きかねない表現にも見えるのだ。
かといって、この部分を完全に排除して書かれた文章は誤解を解きたい相手には届かないというジレンマが待っている。

専門家によるある程度確からしい情報や知見を理解した方達が、誤解を解きたい相手の特性を理解した上で理解の進むように説明する・・・そんな方々が増えていくように・・・これが、所謂ニセ科学を批判して居る方達の運動そのものなのだ。と、どらねこは思っている。回りくどいけど、苦労するのは理解する側じゃないからまだ現実的だと思う。あと、ツイッターにもそういった面の可能性があると思うんだよね。

例によって見当違いだったり、周回遅れだったりするかもしれないが、どらねこの頭の整理でした。