どらイモより基礎科学

※この物語はフィクションですが、実在のどらねこの経験を元に作成されているような気がします。

■記者発表の様子
どらねこ家では夕食中、テレビはニュース番組を映し出しておりました。その内容は家鴨大学における研究成果を記者発表するというモノでした。家鴨大学はどらねこの住む街のとなりの市内にあるコク立大学です。

-記者発表の様子-
家鴨地方土良町の特産物『どらイモ*1 *2 』に『もふウイルス』予防効果!
家鴨大学の磨臼研究室はどらイモに含まれる抗もふウイルス物質を高い活性を保ったまま分離する技術を開発しました。
家鴨大学と共同研究を行った食品加工業者では、この分離手法を用いた有効成分の大量生産技術を開発し、どらイモ抽出物を使用した健康を指向した食品の販売をはじめました。県もゆるキャラどらイモんを作成し、県外に向けた売り込みに向けて万全の体制を整えております。
家鴨大学の猫髷学長は「当地方の伝統食材で、つい先日花からも流行性認知症予防に効果が見出されたどらイモから、抗もふウイルス活性を含む物質を高活性のまま抽出する技を確立できたことは大きな成果だ。今後は臨床検査も行っていきたいにゃ」と語り、今後は、医薬品開発に向けても研究を進める方針であることをしめしました。

そして、テレビ画面には大学関係者の後ろにはどらイモ関連商品がずらり。中にはメーカーブランドに『もふノン』の名前も・・・

−研究の概要から−
どらイモという食品から分離したDP-6という物質を培養細胞に添加したところ、もふウイルスによる細胞変性効果を抑制できる事を発見。この度、どらイモからDP-6を高活性のまま抽出する方法を開発、有効成分の粉末化に成功した。今後は培養細胞だけでなく、動物を用いた投与実験を実施していく。

培養細胞を用いた実験でいくら強力な効果があっても、それを実際にヒトが飲んだ場合に効果を発揮するかどうか保証はありません。というより、細胞レベルで効く成分はいっぱいあるのだけど、そのうちごく僅かだけが、実際に人間にとっても有効な薬として認められると考えた方がよいのです。
『人間に対して臨床試験を行い、そこで有効性が示唆された』場合と、『培養細胞で増殖を抑制した』場合とでは天と地ほどの差があると考えて良いでしょう。

研究者であれば、そんな事百も承知です。薬事法では食品に対して健康効果を謳ってはならない事になっています。
あくまで大学関係者は『どらイモ』抽出物『DP-6』から『抗もふウイルス活性』を見出し、今後この成分について研究を進めていきますというプレス発表を行っているにすぎない。そういう建前になっている。
しかし、これって視聴者の目にはどう映るんだろう?
大学関係者が報告する後ろに、どうみてもソレと関連する商品がずらーっと並んでいたら効果を期待してしまうのは自然な流れなんじゃないだろうか?関係なかったらなんの為に並べているというの?直接効くとは思わないけど、もしかしたら・・・というヒトは多いかも知れない。
どうしてこんな事をしてしまうのだろう?大学関係者は視聴者がどのように受け取るか、そんな事も分からないの?

■基礎的研究にお金を
研究というのは予算が無いと出来ません。予算をとってきてナンボというような話しもあります。
不況の影響による教育関連予算の削減もありますが、直ぐに効果が現れない基礎的研究に対する予算が厳しく削減される流れがあるようです。そのような状況下でも研究を進めるために研究者はスポンサーを探します。
スポンサーは直接的な利益が期待できなければ設備の提供したり出資したりはしないでしょう。つまり、紐付きの予算という事になります。研究の方向性はどうしても公的なものから特定集団の利益よりのものとなってしまう可能性が高くなります。研究者達は今までと同じ内容の研究を続けているつもりでも、研究成果の発表の段階ではどうしても出資者の利益を損なわない方向に偏った発言をしてしまう可能性が高くなるとどらねこは考えます。
同じ研究成果が得られた場合でも研究者が公的な研究費で大学自前の施設のみを用いていたとすれば、おそらくプレス発表の場には商品が並ぶことは無かったでしょう。

ところで、この話って誰が損するの?という疑問もありそうです。目に見えるような損は無いかも知れない。でも、研究というのは中立性が大切だと思うのだよね。何か事件が起こったときとか、問題が無いと主張する研究者が関係者と利害関係にあった場合を考えてみる。そうするとその主張がしっかりしたモノであっても、なんだか疑わしく感じてしまわないか。「そんな御用学者の謂う事なんて信じられない」、「業者からお金をもらっている学者が都合の良いデータをでっち上げたんだ」、と。
中立性が大切と考えられる研究者が所謂健康食品会社の宣伝に一役買っているという実例が放送で流れているわけだから陰謀論が出てきたときにキッパリ反論できなくなっちゃうかも知れない。それが心配なのです。
また、産学官*3のお墨付きでこんな宣伝をやっているような現状は、薬理作用を臭わすような悪徳商法にも毅然とした態度でのぞめなくなるのではないか・・・なんていう心配もしてしまうのです。

■おわりに
基礎研究を果樹栽培に例えれば、すぐにおいしい果実を収穫できないかも知れないけど、良い土壌を育成し、太い幹を育てる大切なもの。ここを疎かにしてはいけないと思うのです。
基礎研究や教育関連分野にもっと予算を!上手い言葉に出来ないけれど、少しでも多くの方に理解してもらいたいなぁ、そう思ってこんなエントリ書いてみました。(あまり明確な結論無くてスミマセン)

*1:どらイモhttp://d.hatena.ne.jp/doramao/20090803/1249288350

*2:どらいもふたたびhttp://d.hatena.ne.jp/doramao/20100224/1267011517

*3:産学官連携そのものを批判する意図のエントリではございません