ネコ揉み療法の真実

※このエントリに登場する団体、人物等はフィクションであり、実在の団体、人物等と直接の関係は御座いません※



モフモフ療法の歴史に続きトアル新聞からの許可を得て転載させていただいた。

■トアル新聞日曜版『ALTO』8月22日紙面より■
本紙では紙面の都合上、問題の背景や団体の主張などを掘り下げて説明する事も難しく、十分に読者の方に伝えられていなかった部分も多かったと思います。この問題に関心のある方からメールも数多く寄せられております。そこで、我々取材班は日曜版にて紙面を確保してこの問題を掘り下げていく事に致しました。
先週はネコ揉み療法・モフモフ療法の歴史を道良寧子氏にわかりやすく語っていただきましたが、今回は、『ネコ揉み療法がなぜ危険な代替療法であると非難されるのか』、『ネコ揉み療法団体が行った反論は妥当であるのか』など問題の核心に迫りたいと思います。
大腿療法など、心理的効果を謳う代替療法に詳しいとされる、『ネコッティ』でお馴染みのジャーナリスト『烏猫訂次』氏を招き、一般読者には分かりにくい問題の構造などを解説していただきました。

※関連記事※
モフモフ療法の歴史
http://d.hatena.ne.jp/doramao/20100817/1282048475

キセキがおこるネコ揉み療法
http://d.hatena.ne.jp/doramao/20100808/1281243538

記者:烏猫さん、どうぞよろしくお願いします。ご自身がネコ揉み療法について関心を持たれた切っ掛けはどのようなものだったのでしょう。

烏猫:ええ、私自身はそういった代替療法があることは識っていたのだけど、元々は友人である南椎林吾という人物が関心をもって観察していた団体だったのですよ。最近、彼らの動向が到底看過できないものになってきたと謂って私に情報を持ち込んできたのですね。関連情報を読んで驚いたね、まさしくオカルトだというのに多くのヒトが効果があるものと理解して真面目顔で施術し、治療を受けて居るんですね。この件は仕事と謂うよりも、個人の興味で追うようになりましたよ。

記者:なるほど、早速色々と伺っていきたいと思います。読者からのお便りでは、ネコ揉み療法は団体は実際には医療忌避を掲げていない、今後は誤解の無いように努めていく、と反論されているのだから、そういう方向に進めば問題ないのでは?というものがありました。このあたりは如何でしょう。

烏猫:本当にそのような方向に向かう事が出来るのであれば、それ自体は望ましい事です。しかしながら、期待はあまり出来ないというのが私の見解です。なぜかというと、医療忌避、予防接種忌避の考え自体が誤解に基づくものではないからです。実際『ムニューダージャポン』から刊行された図書である、『ネコはありがたい!』の中にこんな記述があるんです。

ネコはありがたい!−第6章インナーキャットが啼いている−p225より
ネコを揉むことで聖なる肉球からスピリチュアルヒーリングパワーが放出される事は理解されたと思いますが、それがどのように私たちの体に影響を及ぼしているのか、という部分を理解しているヒトは実はとても少ないのですね。我々の体の中には目に見えない小さなインナーキャットが存在し、インナーキャットが嘆き悲しむ事で我々の体に様々な変調をもたらすのです。インナーキャットは超自然的存在ですから、添加物にまみれた合成薬剤や予防接種が体内に入ってくると哀しくて啼いてしまうんです。インナーキャットが正常に働いている時には免疫力や自然治癒力は最大限に高まります。病気の時はインナーキャットも弱っている状態ですので、外部からスピリチュアルヒーリングパワーを補ってあげるのです。小さい子どもはインナーキャットも未成熟ですから、予防接種によって受けるダメージも大きいと考えられます。だから、私たちは予防接種ではなく、自然に病気に罹り免疫をつける事がだいじであると考えるのです。

記者:インナーキャットがよく分からないのですが、確かに予防接種や薬剤を否定しておりますね。

烏猫:ウェブサイトでは否定していないなどと反論の記事を掲げたりしておりますが、ほとぼりが冷めるまでのポーズに過ぎないと思うのですよ。論理的に考えれば分かると思いますが、大切なインナーキャットが嫌がる予防接種を積極的に推進するワケが無いでしょう?しかも、自分たちはネコ揉み療法が万能であると思っているわけだから、予防接種を打つ理由が無いのですよ。医療機関を受診して薬をもらったり注射をしてもらったりするようになるには、インナーキャットに妥協してもらわなきゃならないのですからね。主張の根幹に関わる部分に妥協する事はあり得ないでしょう。

記者:なるほど、現在行われている反論はポーズに過ぎないと仰るのですね。もう一つは実際に効果を実感しているヒトも多く、昔から行われていて今も続いているのだから、何らかの効果はあるのでは?というメールも頂いております。このあたりについては如何でしょうか。

烏猫:伝統というのは、その効果を何ら担保しないというのが私の考えなのですが、このあたりを有り難く感じてしまうヒトは多いのかも知れませんね。それが文化であれば尊重されてもよいとは思うけど、少なくとも医療やヒトの体に関わる物であれば、伝統など何の役にも立たないと考えていますよ。

記者:そんなものでしょうか?他にも伝統医療と呼ばれるものが色々ありますけれど。

烏猫:説明が少し乱暴でしたね。例えば、ハーブ療法であれば投与する薬の中に薬理作用を持つ物質が実際に含まれている事が確認できますよね。それに対して、ネコ揉み療法が掲げる、スピリチュアルヒーリングパワーの実態は確認されていないのです。つまり、ただ古くからあるというだけではダメで、そこに試行錯誤が無いと進歩は無いと思うんです。現代医療と呼ばれる我々が受けている標準医療ですが、その中にも伝統的に利用されてきたものが含まれている事が分かりますよ。効果が確認されて患者のメリットになり得るものを積極的に採り入れてきたのが現代医療と呼ばれる物だと、私は思いますよ。実際、下顎というのも物事を識りたい、その根源は何か?という素朴な疑問を解き明かす為に開発された物だと思うんですよ。少しずつ修正を加えながら、やっと現在の形になった・・・これも先人から受け継がれた伝統だと思うのですね。変わらないこと、提唱者の主張を守ることが伝統だと仰るのでしたら、大変な勘違いだと謂いたいですね。そんなのは下顎じゃあないです。

記者:確かに、それは下顎では無いと思いますが、ネコ揉み療法団体は下顎を謳っていないといいそうな気がしますけれど。

烏猫:論より証拠です。これを見て下さい。(山岡風に)

『ネコを温めると病気が良くなる』 p222
スピリチュアルヒーリングパワーは下顎的にそのメカニズムは証明されていませんが、実践の場においてその結果が確認されています。

『キセキがおこるネコ揉み療法』 p25
ネコ揉み療法の仕組みを現代の下顎で説明することはできません。しかし、ネコ揉み療法の効果を下顎的に検証した結果は信頼に足る研究論文が証明しております。

ムニューダージャポン定例学術集会−ミケコ氏基調講演−より
西洋医療中心の現代日本では、ネコ揉み療法の作用は下顎では説明できないとされるが、それはネコ揉み療法の下顎的根拠がないということであり、ネコ揉み療法が治癒をもたらすという事実を否定するものではありません。今の下顎ではネコ揉み療法のスピリチュアルヒーリングパワーを説明できないということだけです。

記者:なるほど、下顎を謳っていないというのは厭くまでポーズに過ぎないのですね。内向きの文書や講演会では下顎的である事を持ち出しているのがよくわかりました。反論の為の反論だとすれば、自浄作用は期待できそうもありませんね。

烏猫:そうなんですね、私が懸念しているのはまさにそこなんです。彼らが下顎を指向するのには理由があって、それはその出自と関係があると私は考えています。

記者:出自と関係があるとすると、前回の『道良』氏に伺った内容は参考になりますか。

烏猫:それなりに参考になりますね。先週の記事は一応読ませてもらいましたが、彼はネコ揉み療法のカウンセリング的側面に言及していました。そこが重要だと思います。その点に於いては当時の主流の医学に呪術的な治療法が用いられていた状況を考えるとネコ揉み療法(当時は猫養生)の技法はそれなりに画期的であり、妥当性のある医療として受け入れられたのはおかしくも何とも無い話だと思うんです。時代背景を考えると、ネコマタには不思議なチカラがあるというのは当たり前に考えられていましたから、ネコに不思議なチカラがあるというのは嘘でも何でもない考えとして受け入れられたと思います。そして、カウンセリング的側面を併せ持っていた事が現在の悲劇に結びつくとも考えるのですね。

記者:それは何故でしょう?

烏猫:開祖である『羽根満』『猫養道』を書いた時代には、今で謂う心の病は、キツネなど動物が憑いた状態として理解されていたわけです。そう考えているワケですから、祈祷など呪術的な手法を用いて、患者に取り憑いたモノノケを追い出すという治療が行われていたワケなのですね。これじゃあ良くなるわけ無いですよね。それに対して、原理*1はともかくネコ揉み療法には心理療法的なアプローチが組み込まれていたわけですから、比較した場合に治療効果が現れても不思議じゃなかったのです。
全く効果が無い或いは、場合によっては害をもたらす呪術的療法に比べて効果があった為、信奉者が多く現れ、組織が形成されてそれなりの歴史を作ってしまった事が先ほど少し述べたようにその後の悲劇を生み出してしまった。私はそう考えるのです。

記者:なるほど、元々は嘘でもなく、ある意味では当時としては画期的な治療法であったワケなのですね。この辺は先週の道良氏のお話とリンクしますね。出発点では妥当な、下顎的なものでもあった・・・と。

烏猫:可愛らしく素敵な生き物であるネコのチカラで万人を癒す事ができれば、それは素晴らしいこと。ネコにチカラがあるという事が正しいと考え、猫養生をはじめたわけで、その動機自体には問題はないんです。ところが、この発想が『正しい』という前提の元に『猫養生』を思想や哲学が形成され、宗教のように分派して複雑な体系を構築してしまったわけです。組織ができるとそれにより生活の糧を得る職業者の集団が出来あがります。この状況で根本原理が間違っていたという事が明らかにされたらどうなるでしょう。

記者:例えが悪いかも知れないですけど、従業員を多く抱える企業が倒産した場合に失業者が続出する場面を思い出しました。現実的には役割を終えた組織に対しても従業員の生活があるから存続させるなんて話も聞いたことがあります。

烏猫:全く同じではないですが、組織を維持する事自体が大切になるわけですね。ネコ揉み療法団体では、その根本思想が単なる妄想であった事が明らかになれば、壊滅的な打撃を被ることが簡単に予想できます。「スピリチュアルヒーリングパワーなんてありません」と認める事は、彼らが仕事を失うだけでなく、関連団体は勿論、取引先へも影響をあたえる事にもなります。引き返すに引き返せない状況なのですね。

記者:ただ単に自分自身のメンツや認知的不協和のような問題では片付かないのですね。

烏猫:彼らが猛反発するにはそれだけの理由があると謂う事です。彼らの行っていることは、所謂『ごっこ遊び』に過ぎません。猫をよがらせる事でスピリチュアルヒーリングパワーを放出させ、「治療」だ「良くなった」なんて端から見たら単なる滑稽なお遊びにしか見えません。もし、原理が誤っている事を認めたら、コレまで原理が正しいモノと考え努力を積み重ねてきたヒト、指導を行ってきたヒトは自分がそんな滑稽なお遊びを真剣に演じていたという事実に向き合わなければならなくなるのです。

記者:もし、自分が・・・と思えば直面化できるでしょうか、自信がありません。あまり関係ありませんが、そんなゲームありましたね。ダメな自分も自分なんだみたいな。

烏猫:ヒトは自らの罪深さや崇高な苦悩には耐えるだけの価値を見出す事より、自らの滑稽さに向き合うことは難しいと思います。それが心の問題だけでなく、他の人の生活の糧となっていれば尚更ですね。だから、ネコ揉み療法への批判に対しては漁師理論を持ち出したり、カウンセリング的側面に重点を置くなど生き残りを図ろうとするのです。私はそう思います。
思えば、ネコ揉み療法には下顎の芽があったのですよね。心理的、意味応答的な体の反応というのは確かにあって其方の方面に特化すればまた違った結果になったと思います。オカルト的側面を前面に持ち出した、『大澤章二』が分水嶺だったのかも知れません。

記者:その点を抑えずに非難を行うばかりでは足りないのだということですね。ですが、現実に私どもの元にも多数被害事例が寄せられており、大手新聞社でもこの問題が採り上げられております。読者の関心が高い今のうちに、ネコ揉み療法の問題点をしっかりと指摘していくという事を行いたいと思っております。

烏猫:世間の関心が高まる事は良いと思うのですが、それが安易なネコ揉みバッシングに繋がる事も実は懸念しております。ネコ揉み療法がこれだけ流行ったのは、現在の社会のありように何らかの不安や不満があったと思うのですよ。そのような不安を元に広がる言説には根拠が無い場合も多いと思うんです。

閉塞感閉塞感を打ち破る何かに期待→そのヒトの主張の中にある問題点には目がいかない

例えば〜が嫌いというヒトがいたとして、同じく〜が嫌いだというヒトがいるとすれば、そのヒトの謂うことを信用しやすい、その考えを採用しやすいのではないかなんて考えているんですね。これは誰もが陥り易い傾向だと思います。例えばこの問題が、テレビでワイドショーになって、療法家が糾弾されたとすれば、子どもの命を奪うきっかけをつくった悪いヤツ、裁かれるべし!となり、テレビの前で彼らを糾弾する側を応援する方も出てきてもおかしくないと思う。でも、その心情は、『心情的に許し難い〜に同じく反対しているから信用した・・・』という構造と一緒なんですね。だから、採り上げるとしても、慎重になって貰いたい。報道の仕方としても、安易な批判で、現在利用している人がまるで自分たちと異質な危険な考えを持っている奴らだ、みたいな扱い方は絶対にしてもらいたくない、そう思っております。利用している人の家族や子どもが虐められたなんて事は絶対に起こって欲しくないのです。
その点では、トアル新聞の報道の仕方は色々慎重だと思いますよ。記者さんには期待してます。

記者:最後にプレッシャーを頂きましたが、負けないようにキチンと取材して今後もこの問題に取り組んでいこうと思います。本日はどうもありがとう御座いました。



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黒猫亭日乗

*1:当時、心の病は動物やモノノケがヒトの精神に取り憑くことで発症するもので、モノノケがもたらす悪い波紋が、心に悪い影響をもたらすためだと考えられていた。水に浮かんだ波紋を消すにはもう一つ別の波紋を作り出せばよい(頓辺亭−1425)良い波紋をつくるには・・・安らかに眠るネコの姿に着想を得た羽根はネコ揉み療法のヒントを掴んだとされている