【「安全な食べもの」ってなんだろう?放射線と食品のリスクを考える】書評のようなもの編

年明け2回目の記事は【「安全な食べもの」ってなんだろう?放射線と食品のリスクを考える 畝山智香子著 日本評論社刊】と謂う書籍の書評を書かせていただきます。(記事にでてくる引用部分はすべて本書からのものです)著者のブログでもリンク先で告知されております。
その前に断り書きをいたしますと、どらねこは以下のように写真の主*1からサインを頂いておりますので、まったく中立ではありません。そのへんを割り引いて読んでいただければ幸いです。

■どんな本?
3月に発生した原子力発電所事故が起こった後、日常口にする食べ物や飲み物の放射性物質のリスクについて興味を持つ方が増えたことと思います。しかし、食のリスクについては単純に「安全な食べ物」と「危険な食べ物」のように分けて論じることのできるものではありません。ではどうやって考えたらよいのでしょう?本書には食品の持つリスクに対する考え方や評価の仕方を理解するために必要な知識がある比較的誤解を招きにくい形で提示されております。
と、ここで注意が必要なのは誤解を招きにくい形で提示をするために、わかりやすさについてある程度犠牲にしているところが結構あるとおもうんですね。たとえば『ねこでもわかる!放射線と食品のリスク完全独習』みたいなタイトルの専門知識の全くない初心者を対象としたような書籍と違って、これは読み手をあるていど選ぶ本だと思うんですね。
今まで食べ物の安全性について意識したことはなかったけど・・・と謂うような方よりも、食品のリスクコミュニケーションや安全性について一般の方に説明する仕事に就いているような方*2に読んでもらいたいような本だと思います。


■どうしてそう思ったのか
そう思った理由の一つはどらねこもちょっと難しいと思ったからでもあるのですが、本文にこんな記述があったからなんですね。

p39より
科学の世界で使う用語には、一見日常用語のようでありながら定義があって使い分けられているものがあるので注意が必要です。明らかに専門用語であることがわかる意味不明の単語よりも、一般の人が知っていると思い込んでしまいがちな用語の方が実は理解が難しかったりすることがあるのです。意味を理解していない、あるいは誤解していることに気がつかなければそれ以上調べたり尋ねたりしようとはしません。科学を「やさしいことば」で説明すると、実はまったく理解できていないのに理解した気になってしまうことでかえってコミュニケーションがうまくいかなくなることがあり、難しい問題です。

このような理由から著者は本文中の専門用語を誰にでもわかるような日常語に翻訳せずにそのまま使用することを選びます。前提知識のあまり無い方だとそれだけで先を読み進む意欲がそがれてしまうかもしれません。もちろん、そんな方でもじっくりと読み進めれば著者の謂わんとしている事は伝わるような配慮がなされておりますので大丈夫なのですが、「あ〜難しいからやめとこう」そんな気持ちにさせてしまう可能性は高いかもしれません。それでも、誤解を誤解であると双方が気がつかないままに情報が広まってしまう事って実はとっても恐ろしいことだとおもうのですよ。
これに似たような事ついて、どらねこは【専門家と素人のあいだに】と謂う記事で言及したことがありました。
ある程度専門的な知識を共有した人どうしが読んでも違和感を持たないような論説でもそのまま一般の方に語られた場合に、本来の意味とずいぶんと違った中身のものとして受け入れられてしまうような事態になることもあるとおもうんですね。それとは逆に専門家にとっては「あれっ?」と違和感を抱く主流とは謂えないような説などが一般の方には正しい説や面白い説として受け入れている事ってあるとおもうんです。そのような中には一見専門用語を使っているようで一般の方が普段使用する言葉に近い意味を持たせて(そう認識するよう仕向けて)説明されているものを見たことが複数あるからです。
そのような主流とは謂えない言説も広まったあとでは否定情報で訂正することはとても難しいと思うんですね。また、何が誤解を招いた主因なのかを知らないままでは有効な対策をとる事もできないでしょう。


■じゃあどうすればいい?
畝山氏のこの著作はハードルがやや高くて、不安を持って情報を探している一般の方が難なく読み取れるような本ではないようにおもいます。それでも本書にはそう謂った方が必要とするような情報がたくさん書かれております。誤解をなるべく少なく一般の方にもココに書かれているような知識を伝えたいと思うのならば、一対一もしくは数人ぐらいを対象に、相手の理解の状況を見ながら対話をする必要がでてくると思うんですね。(興味や属性の近い人対象ならもう少し人数が多くても大丈夫かもしれませんが。)
どらねこが食品のリスクについて一般の方と遣り取りする機会のある方に読んで欲しいと書いたのはそんな理由なのですね。食に関わる職種の方が全国各地のリスクコミュニケーションの現場で本書の内容をなるべく多くの方に伝えて欲しいな、そんな感想を持ちました。(勿論、予備知識の無い方にも読んで貰いたいとは思いますが、難しさだけでなく独特のニュアンスが伝わりにくい可能性があるように思いますので注意が必要だと思います。)


【書評のようなもの編】おわり→本を読んでおもつたこと編につづきます。興味のある方はどうぞ。

*1:写真はイメージです。サインに敬称がないのはどらねこからの要望です。

*2:食品とは関係がなくとも、生物系の知識がそれなりにある方が食品のリスクの勘どころを学ぶのにもよい本だとも思う。