便秘のはなし

食べたものは身体の中に入るとどうなるのかしら? 多くの方がそんな素朴な疑問を幼少期に持った事と思います。どらねこも例外ではなく、色とりどりの食べものなのに、おしりから出るときは同じように茶色くなる*1のはなんでだろうなんて考えたものでした。
その頃は食べた物がそのままつぶされて排泄*2されるようなイメージを持っていましたので、便のほとんどが水と腸内細菌で、残りは消化管から剥がれ落ちた細胞や食物繊維であると聞いた時には「ほへぇ〜」というような気持ちになったものです。
というわけで今回は便のお話しですが、日頃の関わりや試行錯誤、お勉強したことや雑感などちょっとゆるめ*3の内容でお送りしたいと思います。


■食べものと便秘
どらねこは食と健康に関わる職業についておりますので、何か便秘に良く効く食べものってないの? とよく聞かれます。流石どらねこ、と思われたいので「○○が効くぜ」と格好良く即座に返答してあげたいのですが、今までの経験上、どうしても歯切れの悪い答えになってしまいます。
「う〜ん、食物繊維が豊富な食事*4をすると改善する人もいるけど、体質もあるので・・・、あと水はどんどん飲んでおいたほうがよいかなぁ」
相手は○○を食べる(飲む)だけで便秘解消、みたいな答えを期待していたのでしょうから、明らかにガッカリ顔になってしまいます。ですが、万人に効く簡単な解決策など知りませんのでしょうがありません。


■ホント人それぞれ
何を仰るどらねこさん、ボクはキノコでブリブリだぜ、なんて人も居る事でしょう。
確かにキノコさんは食物繊維も豊富でして、食べた次の日にはどこに入っていたのよ?みたいな状況も経験したこともあります。そうなのですが、それで便秘が改善するかというと必ずしもそうなるとは限らないのです。
しつこいですが、どらねこはキノコが本当に大好きでして、美味しいきのこを採るために山に入るようなヤツでして、今までに食べたきのこは50種類は優に超えていると思います。最近は美味しいきのこを選んで食べるようになりましたが、キノコシーズンにはほぼ毎日キノコを食べますし、大好物のキノコが手に入ったときには「オマエおかしいんじゃないの?」と思われるほど*5食べる事もあり、普通に考えれば便秘知らずになるはずなのですが、そう上手くいかないのですね。
基本的には便量も増え、排便回数も増えるのですが、ふとした弾みで出なくなることもあるのです。その原因は分からないのですが、同じキノコばかり食べているとなんだか消化が良くなるような傾向があり、それも関係しているのかも知れません。もう一つは、タイミングを逃すと、何を食べていてもそれを切っ掛けに便秘になってしまう事がある、という事でしょうか。
便秘の原因は食事だけではありません。その他の原因があるのに、食事を改善すれば出るだろうというのは乱暴な考えなのかも知れません。


■ローテーション
ところで、同じキノコばかり食べると消化が良くなる気がすると書きましたが、コレは食事で改善したい便秘にとって重要なヒントなんじゃないかなとどらねこは感じております。
便を観察していると、そのシーズン最初に食べたキノコはなんだか消化が悪く、原型を留めているのに対し、同じキノコを何度も食べていると、後の方ではキノコの分解がずいぶんと進んでいるように感じるのです。これは、キノコに含まれる難消化性多糖類(食物繊維と呼ばれるヤツ)の分解を得意とする腸内細菌が最初のエサで活発になり、数を増やしたことが関係しているんじゃないかと思います。
ここで食物繊維の働きをおさらいしておきましょう。食物繊維の腸内での働きは大きく分類すると次の4つになるでしょうか。

1.大腸内での便の通過時間短縮
2.便量の増加
3.排便頻度の増加
4.腸内細菌による発酵の資材

一つの食物繊維がこれら4つの働きを全て同じように持ち合わせているわけではなく、食物繊維の種類によりその性質は異なる事が知られております。小麦ふすまや果物、植物を増やした食事では大腸内通過時間を短くする傾向があることが知られていますが、他の食物繊維源をとった場合にはあまり見られないという事もあります。発酵のされやすさも同じように便に影響をあたえ、発酵されにくいタイプの食物繊維は未消化物による便量の増加効果が高く、発酵されやすいタイプは増加効果はやや低くなります。
また、発酵しやすいタイプのものは、腸内細菌のエサとなる事で、腸内細菌が増える事による便の増加や、腸内細菌が作り出した短鎖脂肪酸が腸の栄養源として働く事や、便の臭いなどにも影響を与えます。
色々とグダグダ述べましたが、要するに同じ食物繊維ばかり摂っていると、腸内で発酵しやすくなって効果が変わってしまう・・・なんてことがあるのかなぁと思ったわけです。
どらねこの経験上ですが、便秘対策で食物繊維を増やす食事をする場合、特定の食物繊維や食品を摂り続けるのでは無く、種類をかえながら提供するのがうまい方策*6なんじゃないかなと考えます。多様な食品を食べるって事はとっても有用な考えなんですねぇ。


■水分
便の重量の多くを担う物質で忘れてはならないのが水です。便秘でありがちなコロコロ便には水が少ないですから、水が大切なのは直観的に理解できるでしょう。特に高齢者では必要な水分量を確保できていない事が多いので、便秘予防や脱水症状予防をかねて飲み物をなるべく飲んで頂けるようにアプローチをします。
そんなわけで、普段の仕事では食事の他に、水分を十分摂れるよう色々アプローチしましょうとうるさくしゃべったりするのですが、それで解決とはいきません。これは不足が便秘の原因になるという事で、沢山飲めばそれで便秘が改善という簡単な話ではないからです。水分摂取量が少ないことが原因の便秘ではそれで改善*7されることもあります。
便が硬いから水が足りない、便が軟らかいから水の飲み過ぎだみたいな単純な理由であれば対応は簡単なのですが、一概にそうとは言い切れないのがまた難しいところです。
まず、便のできかたを水分に注目して考えてみますと、食べものや飲み物に含まれる水が口の中で唾液とまぜあわせになり、消化管に入り、消化管では胃液や膵液、胆汁、腸液などが次々に分泌され、1日に9リットルから10数リットルもの水が小腸を流れ、それが小腸で大多数が吸収され、最後に大腸であらかた吸収され、便としてお外に出ることになります。
食べもの由来の水より身体から分泌される水の方が多い事を考えれば、ちょっと水を飲み過ぎたからすぐに下痢になる・・・という事態にならないのも判るような気がします。また、水分吸収は大腸よりも小腸が主役というのは知っておいて欲しいところです。
小腸で多くの水が吸収されたとはいえ、大腸に流れてくるときの便は水のような状態です。この便が丁度良い固さと形になるため*8には大腸内をほどよい速度で通過することが大切です。基本的に便の移動が遅いと固い便になり、移動が早ければ柔らかい便になります。


■下剤を考える
この知識を踏まえて大腸刺激性の下剤を考えてみると、主に蠕動運動を促し大腸通過時間を短くする事で働く薬ですので、そのメカニズムを考えれば、便秘なのに、出るときは緩い便であるという人には効果がないのだろうと推測ができます。
軟らかい便がでているのに、さらに下剤を追加して水様便が・・・というのを高齢者医療や介護の現場でみることがありますが、不適切な下剤の運用が関係しているという事もあるようです。有用な薬も使い方を間違えれば効果を十分に発揮できないという事なんですね。
こうした事態を引き起こしてしまう理由の一つに、大腸内を大便が通過する時間には個人差がある、という事が関係しているのでしょうね。半日くらいで大腸内を通過してしまう人もいれば、二日ほどかけるような人もいるため、他の人にくらべてなかなか出ないから便秘なのだろうと判断してしまい、薬を・・・と対応をしてしまうこともあるのでしょう。その人にとっての正常を把握するのがこういうところでも大事になります。
また、腹筋が弱くなり腹圧をかけられなかったり、便座に腰掛けることが困難であったり、感覚の低下、出口付近だけ固くなっているような状態での直腸に便がたまっているのに出せないような状況でも直腸刺激性の下剤は効果は期待しにくいという事も覚えておけよと、この前オイシャサンが講演会で力説しておりました。
下剤は適切に使って頂き、気持ちの良い排便をしてもらいたいところです。


■どうやって気持ちよく出すか
どらねこが気持ちよく排便する、してもらうために実施していることやこれも良いだろうと思うことを最後にまとめてみようと思います。もちろん、個人差もありますし、書いているどらねこ自身もたまに便秘になるので、参考程度に考えて下さい。

【普段から】


・でたいと思ったら迷わず出す
(直腸のところで固い便がいすわって栓をしてしまうような便秘を防ぐため。学校のトイレでうんこしたいのに恥ずかしいから・・・というような悪い文化は駆逐しよう。ウンコ行きたいという発言は素晴らしいとなでなでするぐらいの勢い)
・食物繊維豊富な食事を中心に量をしっかり食べる
(朝はシリアルを食べるとか、色々なキノコを食べる、海藻もほどほどに食べるなど色々な食物繊維をとれる食べものを普段から組み合わせて食べる事も大事でしょう)
・水はこまめに十分に
(便の水分が最初から少なければ便秘になりやすいでしょう。脱水症状予防にも大事なのでわすれないようにね)
・生活リズムを整えよう
(うんこもリズムが大事で、崩れると毎日出ていた時間にでなくなるなんて事があります。うんこのためにリズムを整えたいところです)
・腹筋を鍛える
(押し出せ)

【便秘になったら】


・運動・ストレッチ・リラックス
(腸は精神状態とも連動するといいますので、まずはストレスを取り除くこともかねて運動を・・・)
・食物繊維の豊富な食品を選んで食べる
(普段の食事に+してみましょう。グアガム配合の補助食品などもつかっても良いかも知れません。ゼリーなんかもあるよ)
・下剤を使用
(下剤をして出てきた便がはじめが硬く、後が柔らかかった場合にはそれ以上飲む事には慎重になりましょう)
・出た後は固くならないように良い便をつくろう
(1回出たらチャンスです。固い便がまたふさいでしまわないように、食物繊維が豊富な食事と運動とこまめにトイレに入る事で、柔らかいウンコが続くようにこれまで書いたような工夫をここぞとばかりに行いましょう)
・受診
(それでもダメな場合には別の原因も考えられますし、医療的処置が必要なケースもありますので専門の医療機関を受診すると良いでしょう)


どらねこのこれまでの経験では、一度リズムを崩すと立て直すのは難しいというケースが多いです。なので、調子よく出している時にしっかりと便秘予防に取り組むことが大事であると思います。
他にも皆様のオススメの方法など有りましたらコメント欄で紹介いただければと思います。

*1:コーンの黄色は鮮烈ですが

*2:呼気も排泄物であるという話はさらに驚きですね〜

*3:便秘のはなしなのに・・・、という冗談はさておき、医療を語るという大それたものでは無いですよ〜という意味あい

*4:食物繊維で便秘解消というのはそれなりに効果があるという研究はあるものの、質の高い研究は少ないようだ。グアガムの便量、便性改善作用について述べた論文→Takahashi H, Wako N, Okubo T, Ishihara N, Yamanaka J, Yamamoto T. Influence of partially hydrolyzed guar gum on constipation in women. J Nutr Sci Vitaminol (Tokyo). 1994 Jun;40(3):251-9.これは便秘女性15名にグアガム酵素分解物を11g/日で3週間与え、統制期間との比較を見たものなので、エビデンスレベルは高くない。グアガムは腸内発酵性、粘度上昇効果の高いガラクトマンナンを主成分とする食物繊維

*5:こういう食べ方は良くありません。真似しないで下さい

*6:便秘対策としてはです。腸内細菌叢への影響も有り、どの細菌がどのように健康に資しているのかはまだまだ不明なので健康全般に対してはよくわかりません

*7:したように見える

*8:炎症を起こしているなど病気が理由で無い場合