母乳育児を考える−ふぃっしゅさんのコメントより−その5(最終回)


その1 http://d.hatena.ne.jp/doramao/20130514/1368517708
その2 http://d.hatena.ne.jp/doramao/20130522/1369198874
その3 http://d.hatena.ne.jp/doramao/20130607/1370574687
その4 http://d.hatena.ne.jp/doramao/20130614/1371190743



■9.赤ちゃんが「泣く」ということ
今回は、赤ちゃんの「泣く」ことについて考えてみたいと思います。赤ちゃんが「泣く」と、母乳が足りていないと多くの母親は感じてしまいます。本当に赤ちゃんは、「お腹がすいた」と「泣いて」いるのでしょうか?
最初に、日本語では赤ちゃんが「泣く」と表現しますが、表現自体が違うように感じます。専門用語では「啼泣(ていきゅう)」ですが、この「啼」には「つぎつぎと伝えてなく」という意味があるようです。「泣」には「涙を流して泣く」意味合いが強いと思います。新生児は、たまに早期から涙をぽちっと出す赤ちゃんもいますが、通常涙を流しては泣きません。どちらかといえば、「伝えてなく(あえてひらがなで)」が一番近いように、最近思います。
一番最初のなき声は産声ですが、これは肺胞内の水分を排出して自分で肺呼吸する第一歩です。子宮内で発生練習をするわけでもないのに、ちゃんと声を出すことができることがすごいと感動します。平均して出生後2時間ぐらいは覚醒期で、赤ちゃんは眠らないのですが、産声のあと、しばらくないてもそのあとは静かに起きている赤ちゃんが多いです。じーっと世の中を観察しているように。
「赤ちゃんってもっとおぎゃおぎゃと泣くものと思っていた」と驚かれる方が多いですね。
その後数時間ぐらい深い眠りに入り、目が覚めると、?及び?あたりで書いたように、うんちとの戦いが始まります。退院までの数日の間でも、赤ちゃんのなき方、なき声はどんどん変化していきます。赤ちゃんはなにを「伝えたい」のだろうと考えた時に、大きくふたつあるように思います。
ひとつは「体の中での危険や不安を伝える」こと、もうひとつは私が勝手に呼んでいるのですが「置き去り防止センサー」が作動する時です。出生後しばらくしてから激しくなく時には、激しく腸蠕動が起きることを知らせようとしているようです。通訳すると、「かなり危険だよ。こっちにアンテナを向けていてね。できれば縦に抱っこしてくれると、ゲボッとしなくて済むよ」という感じです。
?でも書いたように、どんなに激しくないていても、数分以内でピタッととまります。?及び?で書いたように、母乳便に変わるまで、この激しいなき声は続きます。生後2〜3日目になると、激しいなき声は少なくなり、なき声のトーンも3段階ぐらいのバリエーションが出てきます。「マックスまで呼ばなくても大丈夫」と言う感じです。腸が動くことは、新生児にとっては「危険」であり、周囲に知らせることで安全であるということかもしれません。
また胎内から出て、全てが人生初体験のことばかりですから、「大丈夫なの?」と呼んでいることも多いと思います。服を着せられることも、オムツをつけられることも、おしりを拭かれることも、赤ちゃんにとっては「身の危険」として周囲に知らせなければいけないのでしょう。何度か体験していくうちに、「これは大丈夫らしい」と、なかなくなってきます。
もうひとつの「置き去り防止センサー」のなき方ですが、特に出生当日からしばらくの間、赤ちゃんは、眠っているようでも周囲に人の気配がなくなるとなき始めることをしばしば体験します。あるいは抱っこしてあやしているのに、あやしながら別のことをし始めると眠っていたと思ったのにぐずぐずしたり。じっとみていてあげると、安心したようにぐずぐずがなくなります。目を閉じていても、視線を感じているかのようです。寝付かせるのにあやしながら携帯でメールをしていたら、赤ちゃんがじっと見ていたなんていう体験をした方も多いのではないかと思います。通訳すると「お母さん、ちゃんと眠るまで私のほうにアンテナを向けていてね」かな。
赤ちゃんは、24時間いつでも誰かに見守られてこそ安全に生きていくことができるので、周囲の人のアンテナを向かせるように呼んでいるのではないかと思えるのです。

おっぱいや眠いと言う時は、どちらかというとふにゃーという穏やかな声ですね。
この赤ちゃんの呼び声を間違った通訳をするから、何でも原因が「母乳」や「母親の努力」にされてしまうのではないかと思います。


■9.を読んでどらねこの感想
いつもありがとう御座います。
そうそう、と思うことや初耳!という情報などワクワク(?)しながら読ませていただきました。
業務の独占というか、自分の守備範囲を広げたいというのは、どの業種でもありますよね。私たち栄養士であれば、保健指導の中に含まれる栄養指導は保健師の方との奪い合い・・・
それがどのような効果を持つのか、それは相手にとって必要な事なのか、そういった検証無く行われている作業がいろいろ有るのかも知れません。寝付かせるのにあやしながら

携帯でメールをしていたら、赤ちゃんがじっと見ていたなんていう体験をした方も多いのではないかと思います。

このエピソード、猫と暮らしていると似たような事を経験しますよね。テレビを見ながら撫でていると、「かぷっ」と噛みついたり、抗議の声を挙げますよね。
あ、だからふぃっしゅさんは猫と赤ちゃんの言葉が分かるのかしら?






■10.赤ちゃんの眠りと行動
赤ちゃんが眠らないと「母乳不足」にされてしまいやすいですが、本当にそうだろうかという疑問です。
妊娠中のお母さんたちがよく「夜眠れない」と言います。だいたい夕方から夜中、時には朝方まで胎児が活発に動いている時間があり、日中は反対に胎動が少なく胎児が眠っている時間が続きます。
なぜそれがわかるかといえば、胎児心拍と子宮収縮をモニターするいわゆる分娩監視装置のデーターからです。
通常妊婦健診には日中行きますが、胎動自覚も少なくモニター上でも胎児心拍の変動が少ないスリーピングパターンが続くことが多いですね。
切迫早産などで入院中の方や分娩待機で入院されている方は、夜間もモニターを見る機会がありますが、たいがい夕方から夜中1時か2時ごろまで胎児が起きている活発なパターンが続き、たまに10分とか20分という短いスリーピングパターンが入ります。朝方3時4時ごろに一旦、長いスリーピングパターンがつづいて、胎児が深い眠りに入っている様子がわかります。
出生後〜1カ月ごろの赤ちゃんの多くが、胎児と同じような時間帯に活発のように思います。
面会時間のあたりまで深く眠っていた赤ちゃんたちが、お母さんの夕食の頃から一斉に泣き始め、「今食べようと思っていたのに、ご飯になるといつも泣く」と思ったお母さんはたくさんいらっしゃることでしょう。
夜の授乳は、「30分飲ませて、2〜3時間は眠る」ということはほとんどなく、30分から1時間毎ぐらいの間隔で授乳が続き、よくぐずったり浅い眠りの時間帯です。ミルクを足しても1時間ぐらいで起きます。
夕方からずっとぐずっていた赤ちゃんも、不思議と夜中の2時ごろを境に突然深い眠りに入ることが多いです。ミルクを足さなくても、あやしているだけで大丈夫です。朝方からまた10時ごろまで、しばらく活発な時間が続き、日中は少し飲んだだけでも深い眠りに入ります。
「浅い眠り」と「深い眠り」の違いはといえば、夕方から夜間は周囲に人の気配がなくなるとすぐにぐずぐずと呼び声を出したり、眠っているようでも時々薄眼をあけて周囲に人がいるか確認しているようなしぐさがあります。以前書いた「置き去り防止センサー」がいつも作動している感じですね。
深い眠りの時には、周囲に人がいなくなっても全然起きません。また新生児でも、日中に5〜6時間ぐらい眠ることがあります。
眠りの深さに関係する要因は何かと考えた時、やはり腸蠕動が活発かどうかに関係があるのではないかと思います。胎児の時期には夜中に代謝が活発に行われ成長し、新生児期も同じ時間帯に代謝が活発で、日中は一休みの時間帯ではないかと。
新生児期の授乳は、「一気に飲む」ことよりも腸蠕動を待ちながらの時間が長いのではないかと思っています。
くちゅくちゅ浅い吸い方をしたり、おっぱいをくわえたまま「眠っている」わけではなく、くわえながら「おなかの動きを待っている」のではないかと思います。「うまく飲めない」のではなく「うまく、根気強くおなかが動くのを待っている」ことが多いので、手を出さずに待ってみるのが良いのでは、ということを以前書きました。
もちろん、退院までの胎外への適応期には本当に眠りがちな赤ちゃんかどうか気をつけることは大事です。
赤ちゃん、特に新生児期は、「お腹が満たされて眠る」のではなく、「お腹が動き終わると、ストンと深い眠りになる」のではないかと思います。大人に例えると、下痢をしそうな夜には、何度かお腹が痛いけれどトイレに行ってもでないし、寝ようと思っても寝れないし・・・そのうちに、「あ、いい感じ」とトイレが済んで眠れるようになる、というところではないかと思います。
赤ちゃんが眠らずにぐずぐずしていると、「おっぱいが足りないのでは」「飲ませ方が悪いのではないか」と不安になったり、マッサージに行ってみたりしやすいのですが、待ってあげれば大丈夫・・・ということだと思います。



■10.を読んでどらねこの感想
胎児の日内リズム(?)は初めて知りました。
息子も夜寝ない子でほとほと手を焼いておりましたが、そんな体の事情があるのなら、しょうがないですね。原因がわからないから不安になるのですから、多くのお母さんにそのことを伝えてあげたいと思いました。


ふぃっしゅさんの母乳話シリーズですが、今回で一区切りとなります。
とらねこ日誌のコメント欄に面白いお話を寄稿していただく事があれば、ご紹介したいと思います。
ご愛読ありがとう御座いました。ふぃっしゅさん、ありがとう御座いました。