母乳育児を考える−ふぃっしゅさんのコメントより−その3



その1 http://d.hatena.ne.jp/doramao/20130514/1368517708
その2 http://d.hatena.ne.jp/doramao/20130522/1369198874



■5.胎便から移行便、腸内細菌叢について
今日は、胎便から、移行便といって母乳やミルクを消化した便が混じり始めるあたりの、赤ちゃんの変化について書かせてください。
母胎内にいる間は、胎児というのは無菌状態にいるわけなので、当然腸内細菌もありません。出生時に産道で、あるいは母親に抱かれたりおっぱいを吸うことで世の中の常在菌を取り入れながら、腸内細菌を作り出していきます。帝王切開で産道を通過しなかった場合にも、事情で分娩後しばらく母親と接することができなくても、菌を取り込んでいくので、その差はあまりないようにも見えます。(このあたりのエビデンスは不明)
生後1〜2日ぐらいで、ミルクを消化した便が混じり始めたり、母乳だけの場合には一見胎便と同じようでも水っぽいうんちに変化していきます。性状の変化だけでなく、このあたりからうんちににおいが出始めます。ミルクが多いとやや臭い大腸菌優位の臭いで、母乳が主体だと甘酸っぱいような、なかには「炊き立てのご飯のような」においが少し出始めます。
胎便を何回が出すまでは、目が覚めて泣き始めてもなかなかおっぱいを吸おうとはしない赤ちゃんが多いのですが、この移行便になる頃では、目が覚めてすぐに泣きながらもすぐにおっぱいに吸い付くことが多くなってきます。でも、深く吸おうとはせず、舌先でくちゅくちゅしている感じが多く、しばらくすると「ペッ」と吐き出して激しく泣き始めたり、あるいはそのまま眠ってしまう事もあります。たいがい、この時点で「おっぱいの吸い方がへた」「おっぱいが吸いにくいのでは」「すぐ眠ってしまうので、しっかり起こして飲ませて」と、助産師があれやこれやと手を出してしまうところです。 でも、ほとんどの赤ちゃんが同じようなことをするので、何か必然性があるのではないかと思います。

※ここからは、私の観察に基づく個人的な考えです。
それまで目が覚めると大きな腸蠕動を待つ間泣いていた赤ちゃんが、「ここは泣かずに、くちゅくちゅしていればいいのだ」と我慢できるようになってきたこと。乳輪を深く巻き込むと、乳管洞という母乳を出すつぼのようなところを刺激するので母乳が出てきてしまいますが、この腸蠕動を待つ間はたくさん飲みたいわけではないので、わざと浅くくちゅくちゅしているのではないかと思います。それまで苦痛だった腸蠕動を待つ間の不快感も忘れられるし、少し吸う刺激で腸がぐっと動くのではないかと。
腸を動かすためには、「胃結腸反射」という機序があります。胃の中に何かが入ると、腸蠕動を起こします。大人も朝目がさめると、何か飲んだり食べたりすると便意が出てきますよね。赤ちゃんも、それを待っているのが、このくちゅくちゅなのだとおもいます。この浅い吸い方を何度か繰り返して、あるところまで腸が動くと、ウンチがでたりおならが出て、そのあと赤ちゃんは急に深く乳輪まで吸い付いて「グビグビ」と母乳を湧き上がらせる飲み方がでます。ここに至るまで、1時間も2時間もかけることがあります。ですから、助産師はあまり手を出さずに、待ってあげる方が良いのではないかと、最近思うのです。決して、赤ちゃんはおっぱいをうまく吸えていないのではなく、何かをちゃんと待ちながら調節しているのだと思います。
この移行便に変わるあたりも、赤ちゃんはよく泣きぐずります。
胎便でうんちを上手に出せるようになったと思ったら、今度は、「飲んだ物を消化してうんちにする」という初めての課題が新たに与えられるわけです。相当、腸の動きも変化して、不快でしょうし、不安だと思います、あかちゃんにしたら・・・。また、腸内細菌叢がどんどん形成されているのですから、体内の変化というのは相当なものだと思います。
「泣いている」=「お腹が空いた」「母乳を飲ませる」だけではない、劇的な変化が起きているために泣いて知らせているのではないかと。



■5.を読んでのどらねこの感想
ふぃっしゅさん、「へ〜、ふ〜ん」と唸りながら読ませていただきました。
息子が生まれたばかりの頃を思い出そうとしましたが、便の性状が頭に浮かんできた位です。
母乳の吸わせ方についても、ふぃっしゅさんの謂うような
>あまり手を出さずに、待ってあげる方が良いのではないか
そのようなアドバイスは受けたことは無いですね。妻も吸いが悪いといって、あれこれ試していたように記憶しております。そんなこんなやっているウチに成長してグビグビ吸えるようになるのを見て、試行錯誤の成果と混同している部分もあるのかも知れませんね。






■6.移行便から母乳便へ
今日は、移行便から母乳便への変化について、書かせてください。
生後2日〜3日頃にかけて、赤ちゃんがとても激しく泣く日があります。やや甲高い叫ぶような泣き方で、額に冷や汗をかきながら泣く時間が半日ぐらいあります。
しょっちゅう、腸がきゅるきゅる鳴っています。おっぱいもミルクも、ちょっとくわえてはプイッと吐き出し、泣きます。お母さんも途方にくれて、抱っこして廊下をいったりきたり。
そのうちに、それまでの胎便や移行便のようにねっとりしたウンチから水っぽい母乳便が出始めます。このうんちが出た後から、赤ちゃんの飲み方も泣き方も変化します。

それまで目が覚めるても、くちゅくちゅしてお腹の動きを待っているような吸い方だったのが、母乳便に変わると目が覚めるとすぐに乳輪まで深く吸い付いて、ぐびぐびと母乳を湧き上がらせるのみ方になります。
また、それまでは少し飲んだところで胃結腸反射による腸蠕動が起きるまで吸うのを止めてうとうと眠ったり、あるいはぐずったりしていたのが、飲みながら吸い付きながら、ウンチまでできるようになります。
また、生まれてから腸蠕動のたびにけっこう泣いていた赤ちゃんたちがあまり泣かなくなり、あるいは激しい泣き方が少なくなります。何かを乗り越えて、成長したことを感じる変化です。
また、お母さんのおっぱいも、赤ちゃんのウンチが母乳便になるころから急に分泌量が増えてきます。

※ここからは、観察に基づく個人的な考えです。
出生後からこの母乳便へ変化するまで、吸い付き方や泣き方が変化するのは、腸蠕動や腸内細菌叢との関係が大きいのではないかと思います。
少し吸うことで胃結腸反射によって腸蠕動を起こすことを体験・学習し、その腸蠕動を繰り返すことで、消化したものを便にし、肛門へ送り出すことができるようになります。
胃結腸反射や腸蠕動に慣れてくると、おっぱいを吸ったまま腸蠕動に絶えられるようになり、集中して吸う時間が増えてきますが、まだたくさんは飲まないようにします。
腸内細菌叢が形成され、いろいろな複雑な消化機能ができてくると、母乳を多く飲むことができるようになります。ただし、母乳便に変わるあたりは腸蠕動がかなり活発で、赤ちゃんにしてみれば不快で大きな試練ではないかと思います。
この母乳便へ変わると、赤ちゃんたちは飲むことも集中するようになりますし、飲んだ物をウンチにして出すことにも相当慣れたようでぐずらなくなり、「飲み方がへた」と言われていた赤ちゃんたちもよく吸い付くようになります。本当は「へた」ではなかったのだと思いますけどね。

この母乳便になるまでは、基本的には「生理的体重減少期」ですから胎内でもらった水分や皮下脂肪などの貯金を使いながら、うんちの練習をし、飲んだ物を消化し、排泄する練習の時期です。
消化したあと、「吸収し」「体重にする」段階ではないということではないでしょうか。
この「生理的体重減少」の意味も、けっこう周産期関係の本ではさらっとしかふれていません。
生理的体重減少について、もっと考察や議論が深まれば、新生児に本当に必要な栄養や水分についてや体重についてももっと違った見方になるのではないかと思います。

私はいつもお母さん達に、「赤ちゃんのうんちの状態と臭いの変化に注目してみてね。ウンチが変わると、泣き方も吸い付き方も変わるから大丈夫。」と話しています。



■6.を読んでのどらねこの感想
「生理的体重減少」は次の段階に移行するための準備期間ではないか、ということですね。
なるほど、腸内細菌叢も十分でない状態では、消化吸収を積極的に行うには様々な課題がありそうですし、母乳中のIgAの分泌量と合わせて考えれば、腸の運動能力と適切な細菌叢の形成に必要最低限の初乳・・・という事が推測できますね。
小さく生まれた子でも無菌室で適切な処理をしたミルクを与えられる環境が整えられたのは栄養の面でもとても重要な事なのだろうという感想を持ちました。


次回は7,8を紹介します。