母乳育児を考える−ふぃっしゅさんのコメントより−

 当ブログの出産育児カテゴリの記事『母乳への圧力その2』へ、助産師であるふぃっしゅさんが投稿して下さったコメントを再構成した記事です。全10項目を毎回2項目ずつ、5回に分けて掲載いたします。
尚、コメント欄からの転載、再構成ですので、ふぃっしゅさんの原文と異なる表現もありますのでどうぞご了承下さいませ。


■母乳育児推奨に於ける不安な点
先ず、こちらのデータを見ていただきたい。

『平成17年度乳幼児栄養調査結果の概要』栄養方法と子供の出生状況より


母乳育児を特に推進している病院として、「赤ちゃんにやさしい病院」というものがある。
この病院はBFH(Baby Friendly Hospital)」とも呼ばれ、WHOが掲げる「母乳育児成功のための10カ条」を実践している産科施設に認定される。
詳しいことは書かないが、かなり厳しい認定基準をクリアしないと認定されないものだ。
この認定を受けた施設は謂うまでもなく、母乳育児支援に積極的に取り組んでいるのだが、先程引用したデータと比べてどれくらい完全母乳率が異なるのか気になるところだ。
『母乳育児推進に向けた取組』という資料によるとBFH認定施設の母乳栄養率は開業産婦人科で退院時90-98%、1カ月健診時は85-95%であり、病院施設で退院時85-90%、1カ月検診時は70-80%だとされ、出発点は同じぐらいだが、施設の関わり方で母乳継続に大きな影響を与えることが示唆される。

低出生体重児及び、体重が少なめな子に現れやすい低血糖症状も無視できない問題であると思う。乳児の低血糖は脳に障害を与えるのではないかという指摘が存在する。母乳育児に拘る余り、乳児に必要な栄養摂取が疎かになるという懸念があるのだ。
母乳栄養を推進する病院では、低血糖症状が現れたとき、人工栄養を行わず、砂糖水しか与えないという事例を聞いたことがある。自分の立ち位置に拘泥するあまり、本来求められる赤ちゃんへの優しさが疎かになっては居ないだろうか?素人の的外れな心配であれば良いのだが・・・

−ここからふぃっしゅさんのコメントの再編集です−


■1.「混合」栄養とは何か

いつも思うのですが、「混合」の定義は何なのだろうと。手元の周産期関係の本を探してみても、明確な定義をみつけることができないのです。

1回でも、1滴(というのは大げさですが)でもミルクを足したら混合になるのですよね、きっと統計上では。
私が新生児訪問をしている記録では、1〜2ヶ月の方の約6〜7割りが母乳のみで、それ以外の方は混合ですが、混合といっても1日に1〜2回足す程度という方が多いです。毎回足している人になると、全体の2割ぐらいでしょうか。

統計をとることは必要なので、分類しなければいけないことになるのでしょうが、実際の生活上はミルクをたまに使う程度なら「ほぼ母乳」という感覚だと思います。でも「母乳」「混合」という枠組みができてしまっているので、お母さん達もミルクを少し使っただけでも「私は混合でした」と、申し訳なさそうな言い方になるのです。

いつもこの「母乳」「混合」という表現、なんとかならないかと思っています。

次に統計をとる時期ですが、「退院時」「1ヶ月健診時」というのが多いですが、この時期を比較して意味があるのかなという疑問です。
入院中の児というのは、まだ胎外生活への適応の時期なのでまだ少し吸っただけでも眠ることが多いので、けっこう直母だけで落ち着いているのではないかと思います。退院してから、生後1〜2週間ぐらいから体重がぐんぐん増える時期に入ってくるので、よくぐずり、しょっちゅうおっぱい吸ったり、眠らなかったり・・・の時期になるのですね。
ですから、ここで「足りない」と思ったり、疲れたお母さんのためにミルクを足しているこがほとんどです。ですから1ヶ月健診時には「混合」率があがります。
ここを過ぎると1〜2ヶ月頃に赤ちゃんも体重の増えも落ち着き、母乳を一気に飲んで、飲んだ後もお腹の動きを待つためにくちゅくちゅと吸っている時間も減るので、それまで足していたミルクもいらなくなってきます。「2ヶ月頃まではミルクを足していたけれど、それ以降は赤ちゃんがミルクを受け付けなくなった」という場合がけっこうあります。「1ヶ月健診時」での率が下がっても、母乳の授乳ができていないという単純な評価をしてはいけないと思います。

以上は初産婦さんの一般的な経過です。経産婦さんになると母乳の出方が違います。退院までには初産の時の2〜3か月目からのスタートと言う感じで出るので、赤ちゃんも一気に飲んで間もよく眠ってくれます。またお母さんもあかちゃんの泣き声や世話にも慣れているので、赤ちゃんも良く眠ってくれることが多いのでミルクが不要なことが多いですね。ただ、上の子の世話に時間をとられるので、ミルクを足す場合もあると思います。
初産と二人目以降の方を比べても「混合」の意味も違ってくきます。
私は助産師として直接授乳がうまくいくように、できるかぎりのサポートをしていきたいと思っています。ただし「母乳をどれだけあげたか(完全か混合か)とか、どれだけ長くあげたかということを他人と比較する必要もないし、いろいろ悩みながら試行錯誤したプロセスが大事」と、お母さん達に話しています。
お母さんがどんなに母乳で!と思っても、赤ちゃんが最初ミルクを必要としている時もあります。最初、細々とおっぱいをあげほとんどミルクの状態だったのに、離乳食の頃からは離乳食とおっぱいで、結局卒乳は2歳ごろだったり。反対に、最初からおっぱいだけで、「1歳頃まで飲ませたい」と思っていたのに、赤ちゃんの方が早数ヶ月でおっぱいにさようならをしていく場合もあります。
親の思う通りには行かないものなのです。

病院勤務だけで、1ヶ月ぐらいまでの母子しかフォローしていないと、なかなかいろいろな状況が見えてこないと思います。
新生児訪問をしていると、いろいろな病院・産院のやり方がみえます。あかちゃんにやさしい病院など母乳指導の徹底した病院で出産した方は、確かに退院後もほとんどミルクを足していないこともありますが、NTROM先生のところに書いたように、ミルクを足すことに敗北感と言うか抵抗を持ちやすいと感じています。
入院中、赤ちゃんを預かってミルクを足していた産院で出産した人も、1ヶ月ぐらいまで時々ミルクを使っていてもその後はほぼ母乳になっていく場合が多いです。
結局、WHOの十か条なんて徹底しなくても大丈夫なのですよ。
「あかちゃんにやさしい病院」式に授乳した病院と、ミルクを足しながらの病院で、本当にどれだけ大きな差があるか明確ではないのではないでしょうか?また、最初ミルクを足したからと言って「母乳が出なくなる」と脅かす必要もないと思っています。


■1.を読んでどらねこの感想
どらねこは1ヵ月健診後も同じような経緯を辿っていくものと何となく考えておりました。統計から判断できる事と出来ない事が有るのは常識ですので、実際の業務に携わっている方からの意見をいただいて初めて気がつくことが出来ました。

−ふぃしゅさん−
お母さん達もミルクを少し使っただけでも「私は混合でした」と、申し訳なさそうな言い方になるのです。


この「申し訳なさそう」が、大きな問題であるとどらねこは思います。赤ちゃんのためか、母親のためかというような話ではなく、親の心の問題は赤ちゃんの幸せと不可分であるとどらねこは思うからです。






■2.低血糖について
通常、出生直後から2〜3日の生理的体重減少期には、母体からもらった皮下脂肪や水分を使いながら胎外生活への適応をはかっていきます。そのためのストックが少ない低出生体重児と、反対に代謝量が多くまた母親の糖尿病などが疑われる4000g以上の赤ちゃんは、出生後に一時的に低血糖を起こしやすくなります。成人と違って新生児の低血糖はほとんど症状はありません。足底からの少量の血液で血糖チェックをして早期発見するようにしています。
ただし、全身状態もよく、活気もあり、分娩時に仮死状態や感染などのリスクがない場合には、血糖値が低めの場合にもすぐに治療を開始するのではなく、早めに糖水の授乳を開始します。この場合、授乳開始の何度かは糖水だけで、ミルクではありません。以下のような、積極的に治療に進む必要がなければ2〜3回糖水で次にミルクにしていくか、血糖が安定していれば通常通り母乳だけになっていくと思います。
初期嘔吐が強く哺乳不可が続く場合や、時間の経過にともなって血糖値が低くなる場合、前述したリスクのある場合にはその時点で持続静脈注射を開始します。この場合、低血糖になる原因疾患がいろいろあるのでその検索と、低血糖・脱水から全身状態が悪化しないようにするためです。
低血糖から痙攣を起こした場合には、脳障害の後遺症も懸念されますが、血糖チェックレベルで「低め」の場合には、まだ心配はないと思います。
kiklogでも話題になった、「母子同室で低血糖、痙攣を起こした例」に関しては、おそらく生後日数2〜3日目以降ですのでまた状況は全く異なります。



■2.を読んでのどらねこの感想
完全母乳に拘るあまり母乳以外を口にさせず、低血糖症を引き起こしかねないのでは、という話を受けてのふぃっしゅさんのコメントです。完全母乳が目的なのではなくて、赤ちゃんの健やかな成長が目的だという事を忘れてはならないですね。


次回は「3.新生児の行動や表現と関わり方」、「4.胎便と腸蠕動について[出生当日〜1日] 」を掲載します。